小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『極限推理コロシアム』矢野龍王

2005年11月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
2つの館に強制的に集められた7人の「プレイヤー」たちに「主催者」は命じる。
「今から起きる殺人事件の犯人を当てよ」
2つの館で起きる事件を、相手の館よりも早く、解決しなければならないのだ。
不正解の代償は死あるのみ!過酷な推理コロシアムの扉が開く!


~感想~
筆力ゼロ・構成力ゼロの頭の悪いミステリが荒野を駆け抜ける!
極限を感じさせないだらついた緊張感、推理を感じさせないプロット&トリック。
駆け引きも考察も薄く、のんべんだらりとした展開は手に汗握らせない。
ラストも衝撃的。なんと「主催者はなぜこんなことをさせるのか?」が全く明かされない(つーか考えられてない)のだ!
これぞまさしく典型的なメフィスト賞・負の遺産。
なんも考えなしに頭からっぽで読めるお気楽ミステリです。


評価:☆ 1
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ミステリ感想-『冷たい校舎の時は止まる』辻村深月

2005年11月21日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ある雪の日、学校に閉じ込められた8人。
閉ざされた扉、時が止まった校舎。
そんななか彼らは2ヶ月前に起きた学園祭での飛び降り自殺を思い出す。
しかし8人は死んだ級友の名前が思い出せない。
あの日、飛び降りたのは誰!?


~感想~
断言しよう。この作品はいずれ、ドラマか映画かマンガか、別の媒体でも描かれるだろう。
それが幸か不幸かは別として。
「あの頃は良かったなあ」と高校時代にいい思い出が皆無の僕にさえ思わせる青春模様。
細かに描かれるひとりひとりの人物像。
緊張感を持続させる謎と推理、そして恐怖。降り止まぬ雪が願うのは贖罪か、それとも復讐か?
物語・人物造型・謎・解決・真相・トリックとすべてが一級品。
かの『ハサミ男』をも越えるメフィスト賞史上最高傑作。
ひさびさの10点!


評価:★★★★★ 10
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ミステリ感想-『猫丸先輩の空論』倉知淳

2005年11月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
年齢不詳職業不定の猫丸先輩が、日常を本格推理する!
イラストレーターの家のベランダに毎朝決まって置かれるペットボトル、
交通事故現場に集結させられたタクシー、
密室状態のテントの中で割れ、散乱していた7個のスイカ……
などなど不可解で理不尽な謎が、猫丸先輩によって“解釈”される!

~収録作品~
水のそとの何か
とむらい自動車
子ねこを救え
な、なつのこ
魚か肉か食い物
夜の猫丸


~感想~
正直、期待はずれだった。
悪くはないのだが、あまりにも前作が良すぎたので、対比で評価が下がってしまう。
『子ねこを救え』などは顕著な例で、設定だけでネタが割れてしまっている。
とはいえ伏線の鮮やかな『水のそとの何か』・『とむらい自動車』など、キレのある作品もちらほら。
これでもうすこし、捨てキャラに魅力があれば……。


評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『桜さがし』柴田よしき

2005年11月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
中学時代から十年来の仲間である歌義、陽介、綾、まり恵の四人と、作家として京都郊外の山奥に独居する恩師・浅間寺との心の交流。出会いと別れ、すれ違う恋、そして事件。四人に訪れる人生の岐路。古都の移ろいゆく季節のなか描かれる、せつない青春群像。

~収録作品~
一夜だけ
桜さがし
夏の鬼
片思いの猫
梅香の記憶
翔べない鳥
思い出の時効
金色の花びら


~感想~
ミステリ第一主義の僕だが、この作品に限っては、ミステリ味が蛇足に思える。
物語の展開上、事件が起こる必要性があると思えないのだ。
青春群像にまぎれこんだ、数々の血なまぐさい事件。事件のほとんどが殺人がらみで無駄に重いのも難点。
トリックはトリックで、「こんな植物がある」「こんな動物がいる」というだけで、ひねりが足りない。
物語自体も一話目の『一夜だけ』からして、ちょっと展開が唐突すぎる気も。
決してつまらなくはないし、読後感もいいのですが……。
ミステリとして見なければいいのだが、ミステリ味があまりにちらつきすぎているきらいがある。


評価:★★☆ 5
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ラノベ感想-『ネコソギラジカル 下 青色サヴァンと戯言遣い』西尾維新

2005年11月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ネタバレ防止のため無し


~感想~
上・中・下巻、ポケット辞書並みの厚み・値段のはてにたどりついたのは。
ただ物語を終わらせるだけの話。
ただ物語を終わらせただけの話。
ここにはただ、それだけしかない。他にはなんにもない。
展開はとにかく陳腐。打ち切りマンガさながらのストーリーで退屈きわまりない。
シリーズを通しての謎はほとんどが解かれずに放置され、ミステリバカをうならせたトリックもプロットもなんにもない。
ただのファンタジィくずれ。
ただの純文学もどき。
期待の大きさに反比例して、失望と怒りは深い。
維新は果たされることなく、終焉を迎えた。
新時代の夜明けは遠い。

(以下ネタバレ&毒吐き)
あえて言おう。「ネコソギラジカル」は打ち切りマンガであると。

1:ハッピーエンドでめでたしめでたし

驚くべきことに「ネコソギラジカル下(以下 下巻)」では一人の死者も出ませんでした。
そう、まるで末期の幽遊白書のように。作者が敵役に思い入れしすぎた――のかどうか、とにかく人死にが出ませんでした。
いわゆる「死にフラグ」の立っていたはずの、狐さん・玖渚・深標姉妹・るれろetcetc…みんなみんな無事です。
狐さんにいたっては「俺を殺しても第二第三の俺が現れる」とどこかで聞いたようなセリフまで吐いています。
ぜんぜん文脈は違いますが、なぜか前述の幽遊白書の「俺たちはもう疲れたんだよ。お前らはまた新しい敵を見つけて闘い続けるがいい」を思い出しました。飽きたのか維新。

そして訪れる、くっだらないハッピーエンド。あまりにもそのまんまの結末。
ハッピーエンドは大好きですが、維新にはそんな当たり前のことをして欲しくなかった。
読み終えたとき、末尾にあの一文がないことに驚きました。ほら、舞城王太郎のアレ。
「おめえら全員これからどんどん酷い目に遭うんやぞ!!」ってヤツ。(「暗闇の中で子供」より抜粋)
なんと言いますかね。こんなに平和的な解決では、上・中巻で亡くなられた方々が気の毒です。明らかに死に損です。
あの流れはなんだったんだという有様です。

2:みんななかよし

驚くべきことに「下巻」では最終的に、みんななかよしになってしまいました。
たとえばいーちゃんと狐さん。いーちゃんと深標姉妹。哀川潤と想影真心にいたっては戦いの末に友情が芽生え
「へへっ……お前つええな」「お前こそ……」なベッタベタの間柄になってしまいました。
夕陽の下、河原で一生殴り合ってやがれ。
いーちゃんと狐さんはあいかわらずトムとジェリーさながらに争ってるそうですし……はぁ。

3:謎はすべて解けなかった

驚くべきことに維新は作中で哀川潤にこんなセリフを言わせています。
「張っていた伏線はあらかた回収したんじゃねえの?」このセリフには心底腹が立ちました。
思いつくだけでも、いーちゃんの本名は? いーちゃんの妹はなにをされたの? いーちゃんは玖渚になにをしたの? いーちゃんは真心になにをしたの? どうして真心は生きているの? 玖渚直はどうしていーちゃんと友を引き合わせたの? 占い師の占いはなぜ外れたの? イリアさんはどうして哀川さんと呼ぶの? どうして七奈波は魔女と呼ばれているの? サイコロジカルで言っていた鈴無さんの素性ってなんなの? 狐さんと零崎の縁はなんだったの? 結局「世界の終わり」ってなんだったの?
ぜーんぶ放置されましたとさ。

4:表紙で壮絶なネタバレ

驚くべきことに肝心要のオチが、表紙であからさまに明かされています。
特に裏表紙。そのまんまラストの情景じゃないですか。あれを見てなんとなくオチに想像がついた方も多いことでしょう。
そういえば登場人物紹介にこれまでの(べつに改めてからみもしない)キャラが総ざらえしてあるのも、打ち切りマンガ最終回の表紙を思い出させます。
これでシリーズが終わったあたりも「西尾維新先生の次回作にご期待ください」って感じですね。

「クビキリサイクル」のそうそうたるデビュー以来、マニアをうならせライトノベルファンを引き寄せた作品の数々。
ミステリ界に新風を吹き込み、維新を起こした戯言シリーズ。しかしその結末は――。
とりあえずこれだけは言っておきたい。
血迷っても続編だけは書くなよ。
できれば外伝も辞めてほしいが。



評価:問題外
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ミステリ(?)感想―『熊の場所』舞城王太郎

2005年11月06日 | ミステリ感想
~感想~
「熊の場所」
三島由紀夫賞候補作。
すげー面白かった。表題「熊の場所」という言葉は、読者の心に長く残ることだろう。
ただひとつ残念なのは「白い玉」。なんだあれ。なんであんなものを物語に入れてしまったのか、作者の胸中が全く理解できない。
すべてを論理の中に取り込もうとするミステリへの反逆? 幻想への迎合? 単なる思いつき?
舞城ならば、あれ以外の現実的な方法で、物語を無理なく進められる。
あえてあんなものを出し、わざわざ現実性を薄くしたのは不可解。
まあそれはともかく面白かった。

「バット男」
筋だけ見ればどうということのない、ありきたりの話だがこれまた面白かった。
しかし神の話はいただけない。舞城ならではの匂いが感じられず、ちょいと宗教をかじった人間には当たり前の論理に終わってしまっている。
そもそもあの話自体、物語に唐突に組み込まれ、必然性が感じられないままオチにつながってしまい、しぜんオチまでもがそれまでの流れと切り離され、整合性を失ってしまった感が強い。
終盤のミステリ味も必要だったのだろうか。
疑問は多いが、とりあえず面白かった。
「バットおとこ」と読むべきか「バット●ン」と読むべきか、それだけが問題だ。

「ピコーン!」
日本推理作家協会賞候補作。
駄作。終わってますな日本推理作家協会賞。
3編の中で明らかに最も格下、最も考えなしに描かれたこれを、よりによって候補に選ぶとは……。
浮きに浮きまくったミステリ細工。その工夫のカケラもない「見立て」なんて言葉をやすやすと使われたくない酷いトリック。
村上春樹や松本人志の引用でまるまる2ページを埋められては、手すさびで描いたんじゃない? と思わざるをえない。


~総括~
いちいち文句はつけてみたが、終わってみれば「ひさびさに舞城を読んだなあ」と思える、いかにも氏らしい短編3つ。
これまでの講談社出版の、とっつきにくい奈津川サーガ・九十九十九・世界は密室よりもはるかに薄く読みやすく、舞城ビギナーに薦めやすい一作。
舞城王太郎はこんな作家です。


評価:★★★ 6
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ミステリ感想―『天啓の殺意』中町信

2005年11月05日 | ミステリ感想
~感想~
二大巨頭とうたわれる綾辻行人・折原一ほどの知名度はないが、知る人ぞ知る叙述トリックの名手(らしい)中町信。
こちらの「嵐の館」様で絶賛されていたので衝動買いしてみたのですが――。
いやあ面白かった。これぞ叙述トリック! というものを堪能させてもらいました。
罠があると解って、眉につばをこまめに補給しながら読んだものの、あっさり引っかかり大満足です。
伏線はあまりにもあからさまに終始、目の前に転がっていたというのに……。
読了後、床に寝そべり「どーして気づかなかったんだー」とばたばた床を踏み鳴らせる見事な叙述っぷりでした。
ええ、実際にはそんな乙女チックな行動はしてませんよ。してませんってば。
平易な文体で、一気読みも楽にできる本書。
スカッとだまされたい方にはイチオシです。


評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『完全犯罪に猫は何匹必要か?』東川篤哉

2005年11月01日 | ミステリ感想
~あらすじ~
『招き寿司』チェーン社長・豪徳寺豊蔵が探偵・鵜飼杜夫に愛猫の捜索を依頼した。
その直後、豊蔵は自宅のビニールハウスで殺害されてしまう。なぜか現場には巨大招き猫が。
さらにそこでは十年前に迷宮入りした殺人事件も起きていた。事件の鍵を握るのは……猫?


~感想~
ユーモアミステリの新鋭から、本格ミステリの寵児へと変貌を遂げつつある氏の、第三作目。

まず、軽妙で読みやすい文体に好感。
ギャグの合間に物語が進展していき、気がつけば謎と事件が提示されている。
トリックは大仕掛けではなく、作風に見合った(?)手作り感あふれる(?)ほのぼの系(?)。
そのイメージも、トリックがもたらす効果もたいへん解りやすい。
軽そうな外見に反し、隅々までよく練られた良質のミステリ。
気軽に読めて満足感も高い、良作でした。


評価:★★★☆ 7
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