小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『奇面館の殺人』綾辻行人

2012年01月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
奇面館の主人・影山逸史に招かれた6人の男たち。館に伝わる奇妙な仮面で全員が“顔”を隠し、季節外れの吹雪で館が孤立したとき、“奇面の間”に転がった凄惨な死体はなにを語る?
前代未聞の異様な状況下、名探偵・鹿谷門実が推理を展開する。


~感想~
↓プロットにややネタバレ注意↓

待望の館シリーズ第九弾。2500枚超の「暗黒館の殺人」、まさかのジュヴナイル「びっくり館の殺人」と近年は迷走気味のシリーズだが、今回は800枚とすっきり短めにまとめてきた。
仮面の館、仮面の主人、仮面の来客、吹雪の山荘、首切り殺人とガチガチの本格ガジェット目白押しながら、作中で探偵が指摘するように「意匠性の欠如」した雰囲気が漂う。
館シリーズといえばアレ系トリックだが、今回のアレは物語の本筋には絡むものの、事件の真相にはほとんど関与せず、しかもエピローグで裏事情が語られて、楽屋オチめいた空気が立ち込める。
「十角館」~「暗黒館」まで(びっくり館は恥ずかしながら全く筋を覚えていないので除く)物語とアレががっちり絡み合い、独特の知的興奮を味わえるのが館シリーズと思っていたのに、どうにも今回は薄味。
薄いのはアレだけではなく、おそらくメインのトリックとなるだろう切断の理由もそうで、たしかに言われてみれば単純明快な、まさに盲点に入っていた納得の理由なのだが、あまりに単純すぎて拍子抜けしてしまったのも事実。
言ってしまえばアレは作者から読者へのサービス程度の存在意義しかなく、言葉遊びと幻想風味まで加わり、これは「やりすぎていない倉阪鬼一郎」ではなかろうかと思えてしまう。

とはいえ、こちらが勝手に館シリーズの最新作だからと期待しすぎ、盛り上がりすぎていたのもいけないだろう。
本格ミステリ界に金字塔を打ち立てた館シリーズとしてはすこし食い足りない。しかし普通のミステリとしては十分に及第点以上が与えられる。
なにはともあれ久々に本格らしい本格が読めて楽しかった。


12.1.9
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『いわゆる天使の文化祭』似鳥鶏

2012年01月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
文化祭目前のある日、生徒たちが登校すると、目つきの悪いピンクのペンギンとも天使ともつかないイラストが描かれた貼り紙が目に飛び込んできた。
別館中に貼られた、部活にちなんだ様々な怡好の“天使”を不思議に思いつつも、手の込んだ悪戯かと気を抜いていると……。


~感想~
個人的にプッシュしている新鋭のシリーズ第四弾。今度は長編。
巻を重ねるごとにトリック・描写ともに順調に腕を上げている印象だが、今回もまずリーダビリティは抜群。
先輩・後輩取り揃えたギャルゲー並のモテっぷりの、ワトスン役としては(推理能力以外の部分で)破格のスペックを誇る葉山くんを軸に、レギュラーキャラと濃すぎる新キャラが入り乱れて会話するだけでも満足。
というか草食系・巻き込まれ型・窮地に場慣れ・妹よりも小柄・男の娘、と葉山くんは完全にヒロインの役どころを喰ってしまっていると思うんだ。

それはともかく密室トリックはなんてことない強度だが、各所にちらばめられた、微妙に噛み合わない違和感の正体が、思いも寄らないところから降って湧くトリックによって解かれる点は秀逸。
弱めの密室トリックも、物語の全体像の縮図(超ネタバレ→密室トリックも物語全体に仕掛けられた叙述トリックも、時系列と視点をずらすことで成立している)となっているのが面白い。
(トリックについてさらにネタバレ→特に天使のポスターの署名(一度目の事件で現れた模倣犯に対する留意)に関する叙述トリックには唸った。叙述トリックの使い方として、これは新機軸ではなかろうか)

終わってみれば、長編としてはやや短い分量にきっちりと収まり、無駄な描写の一つとてない端正な青春ミステリに仕上がっている。
もうそれだけで作品として成立しそうな、熱のこもったあとがきももちろん見どころ。
似鳥鶏、いよいよ今年こそブレイクなるか。


11.12.25
評価:★★★★ 8
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