小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『本格ミステリ07』

2007年05月28日 | ミステリ感想
~収録作品~
熊王ジャック ――柳広司
裁判員法廷二〇〇九 ――芦辺拓
願かけて ――泡坂妻夫
未来へ踏み出す足 ――石持浅海
想夫恋 ――北村薫
福家警部補の災難 ――大倉崇裕
忠臣蔵の密室 ――田中啓文
紳士ならざる者の心理学 ――柄刀一
心あたりのある者は ――米澤穂信


~感想~
またもや作品数が減り、質もがくんと落ちてしまった。
傑作が見当たらない。良作も少ない。それなのに中編ばりの分量の作品が多く疲弊してしまう。
個人的なことを言えば、北村薫・柄刀一との相性の悪さを再認識。2人の良さが一向に解らないどころか、悪い面を再認識してしまった。
MVPは『九マイルは遠すぎる』を再現させた米澤穂信に進呈したい。
それにしても本当に昨年ってこの程度の作品しかなかったのかなあ……。

07.5.28
評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『痙攣的 モンド氏の逆説』鳥飼否宇

2007年05月27日 | ミステリ感想
~収録作品~
廃墟と青空
闇の舞踏会
神の鞭
電子美学
人間解体


~感想~
むっちゃくちゃな作品である。
冒頭の一編からして連作短編として成立するのか心配になるような破壊的な結末を迎え、驚く間もなくその後も次々と定石をぶち壊していく。
しかし本格ミステリとしての要素は(本書の中盤までは)硬質で、巧みな論理や特異な動機などで楽しませてくれる。ラスト2編でなにもかも破壊し尽くされてしまうため、それを許容できれば、本書を楽しめることだろう。
前衛芸術さながらに、新たなる地平を求めるあまりとんでもない方向へ暴走してしまったような彼岸のミステリ。バカミステリと呼ぶには惜しいデタラメさは一見の価値ありです。


07.5.26
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『人柱はミイラと出会う』石持浅海

2007年05月26日 | ミステリ感想
~収録作品~
人柱はミイラと出会う
黒衣は議場から消える
お歯黒は独身に似合わない
厄年は怪我に注意
鷹は大空に舞う
ミョウガは心に効くクスリ
参勤交代は知事の務め


~感想~
山口雅也『日本殺人事件』と同じことをやろうとして力の差を露呈してしまったような。
せっかく突飛な設定を用意しておきながら、物語としての面白さが突き抜けなかった。ミステリとしても見え見えの伏線や設定を活かしていないトリックなど物足りない。
作者らしい論理や論議はふんだんにあるが、作者らしくない発想の飛躍が多く、結末に一足飛びに着いてしまう面も。
初の取り組み(?)となる恋愛要素がまた実にぎごちない。笑いにも論理にも針は振れず半端な作品になってしまった。


07.5.26
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『陰の季節』横山秀夫

2007年05月19日 | ミステリ感想
~収録作品~
陰の季節
地の声
黒い線



~感想~
刑事小説と本格ミステリ、そして人間ドラマの極上の融合を見せてくれる。
刑事小説の結構でここまで意外なミステリらしい決着を用意できるとは、革命的ですらある。
白眉は心理・背景・展開・結末と一分の隙もない『地の声』。年度を代表しうる大傑作である。


07.5.19
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『六とん3』蘇部健一

2007年05月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
アホバカミステリあらため、トホホなミステリ『トホミス』として生まれ変わった(?)あの六とんシリーズ(?)第三弾!!

~感想~
いやー酷い。本当に酷い。そして素晴らしい。これでこそ六とん。これでこそ蘇部健一。読者の期待に完璧に応えてくれた。
誤解を恐れずに言うならば、六とんファンは酷い作品を求めている。「次はどんな酷いの書いてくれるんだろう」とわくわくして、つい新刊で買ってしまうのだ。その期待を蘇部健一は決して裏切らない。ざっと各編を紹介しよう。

『もうひとつの証言』
開幕を飾る一編は作者いわく読めば「小さくため息をついて、本をそっと棚にもどすことになる」逸品。
ところが個人的には面白かった。正確にはこれだけが面白かった。

『アリバイの死角』・『×××殺人事件』・『死ぬ』
この3編は順に述べると、マ●コ・チ●コ・ウ●コの話である。小学生か!

『生涯最良の日』・『瞳の中の殺人者』・『栄光へのステップ』
この3編は一口で言うと「世にも奇妙な物語」である。映像作品なら楽しめるのかもしれないが、文にしてみるとものすごく真相が解りやすい。なんにも意外性のない物語が楽しめます。

『殺ったのはだれだ!?』・『嘘と真実』
ちょっと毛色が違うのがこちらの2編。前者は出来の悪いメタミステリ(?)、後者は皮肉を利かせた「世に奇も」風作品である。

『秘めた想い』・『赤い糸』
前作からつづくタイムマシン物。後味の悪い最悪の結末かハッピーエンドかの2択なのだが、最後にこの2編を並べたおかげで「またこのネタかよ」と食傷ぎみになれます。

あとがきでは自虐的に各編を振り返りつつ「世にも奇妙な物語ベスト40」を発表してしまうやりたい放題ぶり。さらに酷さを増した著者近影も見逃すな!
絶対にひとにオススメはできないけれど、堪能できました。次作も絶対買うね。


07.5.12
評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『銃とチョコレート』乙一

2007年05月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
少年リンツの住む国では、怪盗ゴディバと探偵ロイズが子供たちのヒーローだった。
ある日リンツは、父の形見の聖書の中から古びた地図を見つけだす。地図が怪盗ゴディバ事件の鍵をにぎるものだと確信したリンツは、探偵ロイズに知らせるべく手紙を出したが……。


~感想~
敗因は期待しすぎたことだろう。
絶賛していない書評サイトがないというくらい、各方面で絶賛の嵐を巻き起こしている今作、実に良質ではあるが、良質なジュヴナイルの域を出なかった。
子供にトラウマでも与えそうな探偵の豹変や裏切りの連続など、物語として大人の鑑賞に余裕で堪える、深読みさせる物語なのはたしかだが、手放しで褒められる傑作とまでは思えなかった。ミステリよりも冒険・成長に主眼がおかれ、どんでん返しや意外な真相は皆無。なにより冒険も成長もミステリも心理も、分量不足のせいでなにもかも中途半端になってしまったのが残念。登場人物は魅力的だが、そこに深みを描けるほどの分量が――決して作者の力量が足りないわけではなく――絶望的に足りなかったのだろう。ミステリーランドという制約を離れ、のびのびと描きたいだけ描いていれば、文句なしの傑作に仕上がっただろう、なんとも惜しい作品に思えてならない。


07.5.8
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『首無の如き祟るもの』三津田信三

2007年05月06日 | ミステリ感想
~あらすじ~
奥多摩に代々続く秘守家の「婚舎の集い」。23歳になった当主の長男・長寿郎が、3人の花嫁候補のなかからひとりを選ぶ儀式である。
その儀式の最中、候補のひとりが首無し死体で発見された。犯人は現場から消えた長寿郎なのか? 一族の跡目争いもからんで混乱が続くなか、そこへ第二、第三の犠牲者がいずれも首無し死体で見つかる。
古くより伝わる淡首様の祟りなのか、それとも十年前に井戸に打ち棄てられて死んでいた長寿郎の双子の妹の怨念なのか――。


~感想~
シリーズ第三弾は現時点での最高傑作。今後「首切り殺人トリック」の金字塔・象徴として永劫に語られるだろう歴史的作品である。
ミステリ史における意義はともかくとして、本格ミステリとしても最高の結実を見せている。煩雑な事情聴取は表や幕間にまとめてしまい、事件と物語だけを追える構成も心憎い。
いつもながらに怪談さながらの怪異が連発し、事態が進行するほどに状況は錯綜していき、終盤では前作『凶鳥の如き忌むもの』ばりに不可解な点が列挙され、しかもその謎が「たったひとつの事実」によって全て砕かれるというのだからたまらない。
真相はどんでん返しを連発し、とんでもない真相が次から次へと明かされめまいを起こす寸前。最後はとどめとばかりに怪異に取り込まれ――。個人的には完璧と思われる着地には感動すら覚えた。
これぞミステリこれぞド本格、2007年の本格ミステリベスト1は早くも今作で決定か?


07.5.6
評価:★★★★★ 10
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