小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『アルキメデスは手を汚さない』小峰元

2011年04月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「アルキメデス」という不可解な言葉を遺して美雪は死んだ。さらにクラスメイトが教室で毒殺未遂に倒れ、行方不明者も出て、学内は騒然とする。
70年代の学園を舞台に、若者の友情と反抗を描く伝説の青春ミステリー。
73年江戸川乱歩賞受賞作。


~感想~
あーこれは駄目だ。世間一般では良作なのだろうが、個人的には大嫌いな要素が多すぎて、小説として肌が合わなくても、ミステリとしてどうかという観点からでさえ正当な評価が下せなかった。

何が嫌いかといえば、まずはひねたガキが多すぎること。70年代の作品ながら現代から見てもむかつくガキぞろいで、終始腹が立ってしかたなかった。悪漢小説と言えば聞こえはいいが、未熟なだけの悪童小説に過ぎない。
それよりもっと個人的な嫌悪を催すのは、無駄に(性的な意味で)下品な描写、セリフの多いことで、3ページに一回くらいのペースで何かといえばセックスセックスと叫ぶお前らは官能小説か。
僕は自他ともに認めるフェミニストであると予防線を張ってから言うが、小説・マンガを問わず女性作家は、男がドン引きするような下ネタを平然と放り込んでくることが多々あるが、今作も「作者は女だっけ?」と思うことがしばしば。
平山夢明や舞城王太郎なら世界観がぶっ壊れてるから、どんなどぎついネタを持ってこられても大丈夫だが、今作のような普通の世界に(両者に比べればかわいいくらいソフトな表現なのだが)シモを混ぜられると見るに堪えない。このあたり、感覚と嗜好の問題なので、一般層からすれば「この程度で何言ってんの?」と不審がられるかも知れないが、とにかく僕の趣味には合わなかったのだ。

逆に言えば、ここまで嫌悪感を誘うのは作者の術中にはまっているとも言えるので、凡百の作品ではないことは確か。
乱歩賞史上に残る大ヒットを記録したそうなので、合う人には合うんじゃないでしょうか。


11.4.26
評価:☆ 1
コメント (1)

ミステリ感想-『天使の傷痕』西村京太郎

2011年04月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
武蔵野の雑木林でデート中の男女の前に現れ、息を引き取った男。彼は死の間際「テン」という言葉を遺した。
目撃者で記者の田島は男の周辺を洗うが、事件の裏には意外な真相が隠されていた。
第11回江戸川乱歩賞受賞作。


~感想~
いまでは「時刻表をどうこうすれば犯行が可能だった」というだけのトラベルミステリを量産する作家に成り下がってしまったが、話によると初期の西村京太郎は様々な作風をあやつる器用な作家だったという。
このデビュー作も時刻表をどうこうしない社会派な一冊であり、警察がボンクラなことやダイイングメッセージがどう考えても不自然なことを除けば(その二つがかなり酷いのだが)普通によくできた作品であり、なにより社会派な問題を浮き彫りにしただけで満足する作品が多い中、きちんと(観念的には過ぎるが)解決策を提示して終わるのは好印象。
伏線も質より量で勝負しているような豊富さで、伏線大好き人間としてはまずまず満足。最近の乱歩賞よりはよっぽど良かった。


11.4.14
評価:★★ 4
コメント

ミステリ感想-『写本室の迷宮』後藤均

2011年04月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
大学教授にして推理作家の富井に託されたのは、欧州で著名な画家・星野が遺した手記だった。
終戦直後のドイツ。星野は迷い込んだ城館で催される推理ゲームに参加したが、現実に殺人事件が起きる。推理合戦の果てに到達した驚愕の解答とは?
さらに手記には大いなる秘密が隠されているといい……。
第12回鮎川哲也賞受賞作。


~感想~
本格ミステリのデビュー作は往々にして、その作者の著作中で最も力が入っていることが多い。
プロになれるか否かがかかっているのだから当然なのだが、その熱意が豪華さの演出や質の向上につながる(例:匣の中の失楽)一方で、空回りすることもままある。
特に失敗するのがいろいろな知識を詰め込みすぎることで、今作もとにかく知ってることを片っ端からぎゅうぎゅう詰めにした感で、大半の読者にとってはどうでもいい話、伏線、趣向が目白押し。
だがそんなことよりも今作の最大の特徴は、作中作を二つ挟んだ三重の入れ子構造という凝った構成……でもなく、最後の最後に明かされる「ここまででプロローグでした」という事実である。
なんと今作で語られたのは、続編「グーテンベルクの黄昏」のプロローグに過ぎないのだ。二つの作中作の謎が解かれてようやくスタートラインに立ち、さんざん煽られたあげくに「つづきは続編で!」とブツ切りなんて、こんなこと恩田陸でもしないぞ。
また三年後に続編は出たものの、文庫落ちはしないわ絶版(?)だわで入手困難であり、今作がブツ切りであるという難点は、解消されるどころかますます悪化している。なんだかなあ。

※そういえば島田荘司御大が全く同じ「ここまではプロローグに過ぎなかった」をかました挙句、10年が経とうとする今も続編が出ていないことに気づいた。あれはどうなったの!?


11.4.13
評価:★☆ 3
コメント

ミステリ感想-『一応の推定』広川純

2011年04月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
駅で死んだ老人は事故死だったのか、それとも愛しい孫娘のための覚悟の自殺だったのか。
定年間近のベテラン保険調査員・村越の執念の調査行が、二転三転の末にたどり着いた真実とは?
06年第13回松本清張賞受賞作。


~感想~
そういえば松本清張賞の長編を読むのはこれが初めてで、松本清張の作品自体も読んだことがないのだが、僕の貧困な想像に基づいた松本清張作品のイメージそのままであった。
社会派な題材を軸に据えながら、具体的な解決策を示すでもなく、問題提起されただけなのはしかたないとして、何もかも予想通りの展開で最初から最後まで流れるのはネック。
抑えた筆致は読みやすく、人物造形も類型的ではありながら丁寧に描かれているものの、平坦なストーリー展開とあいまって地味な印象を受けてしまうのも惜しいところ。
保険調査会社の内情は興味を引くものの、その他にはいわゆるフックとなる(あるいは作品独自のものとして売りになる)部分が一つもなく、そのあたりは昨今の江戸川乱歩賞と似たり寄ったり。新人賞は乱歩賞に近づいていくのだろうか。
決して退屈な作品ではないものの、取り立ててひとに薦められるものではないだろう。


11.4.8
評価:★★☆ 5
コメント