小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『名探偵のいけにえ』白井智之

2022年09月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
カルト教団「人民教会」は迷走の挙げ句に集団自殺を遂げた。
教団の闇を暴くために潜入した名探偵は、奇蹟を信じる人々と対峙する。名探偵の推理は奇蹟に勝てるのか?


~感想~
これはすごい。(※プロットにややネタバレ注意)

よく似たタイトルの「名探偵のはらわた」と同様の趣向で、実在の「人民寺院事件」の経緯をなぞりつつ、そこに多重解決と特殊設定ミステリ、狂人の論理etcetcをぶち込んだとんでもない作品である。
これまでSF界隈でも注目されるぶっ飛んだ設定や、他の追随を許さないグロテスクな要素を活かしたグロトリックをグロ伏線からグロ推理で解いてきた作者だが、今回はSFもグロも控えめ。だが異形の論理は健在で、奇蹟を信じる人々にそれぞれの立場からの論理でそれぞれの解決を試みる。
この完成度がとんでもなく高く、どれもミステリ長編の真相にふさわしい論理のキレと伏線を完備しながら、その視点の変化に伴い明確に否定もされてしまうのだ。同じ手掛かりと同じ伏線を用いながら、全く別のいくつもの真相を導き出す超絶技巧である。
伏線はトリックと推理と物語のために無数に張り巡らされ、無駄な描写が1つも無いとすら言えるすさまじさで、最後まで伏せられていたあることも、残された謎と伏線をまとめて回収する手際の良さで、あまりにすごすぎてちょっと笑ってしまったほど。
SF・グロ控えめで広く読者を受け入れ、綺羅星の如く有名作家が集まった9月出版と条件は全てクリアされ、本ミス1位はまず間違いないのではなかろうか。


22.9.29
評価:★★★★★ 10
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ミステリ感想-『源助悪漢十手』岡田秀文

2022年09月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
源助は十手を預かる身分ながら、巨体と頭脳と立場を活かして他人の弱味を見つけてはゆすり・たかりを働くため誰からも恐れられていた。


~感想~
作者は後に「伊藤博文邸の怪事件」から始まる月輪龍太郎シリーズで本格ミステリ界を沸かせるが、その4年前に文庫書き下ろしで刊行されていたのが本作。もともと日本ミステリー文学大賞で新人賞を射止めている作者だが、読んで驚くのがガチガチの本格ミステリで、しかも非常に粒揃いなこと。
源助はタイトル通りの悪漢(※「わる」と読む)ながら名探偵さながらの推理力と、名探偵ならではの強運の持ち主で、難事件をするすると解き明かしたり阻止しつつ、他人の弱味を見つけてはそれに付け込み私腹を肥やす。

冒頭の「山谷堀女殺し」が傑出しており、設定やキャラの説明に筆を費やしつつ語られる事件が恐ろしくよくできた本格ミステリで、年間ベスト級の代物。
続く「井筒屋呪いの画」と「猿屋町うっかり夫婦」がこの探偵ならではの決着で、ただのミステリではこうはならない一筋縄では行かない展開がこの後も待ち受ける。
「下谷町神隠し三人娘」がバカミス的トリックで、強烈な新キャラで牽引しつつ愉快な人間消失トリックを見せるのだが、読み返すとぬけぬけと真相そのものがずばり書かれているのが見事。
「元吉町の浮かび首」はパターンを破る語り口からとんでもないオチで締め、ラスト2編も本作ならではの物語を描きつつきっちりミステリとして仕上げられている。
作者がまだ無名で、書き下ろしの時代小説でなければもっと話題になっていたはずの「珠玉の」と冠して良い短編集であり、時代物が読めるミステリファンには騙されたと思って試して欲しい。


22.9.27
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『紅き虚空の下で』高橋由太

2022年09月21日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじ~
オカルトマニアの少女が絞殺され首を斬られる。異次元の生物レインボーロッドの僕は、彼女と待ち合わせしていた息子が死の穢れに捕まってしまい、元妻で紅き虚空の疾風使いの異名を取るリサに相談する…紅き虚空の下で
新婚旅行で訪れた蛙男島は蛙男と蜥蜴女が暮らす秘密結社に支配されており、夫婦は生贄にされてしまい…蛙男島の蜥蜴女
誘拐された少年は兵隊を名乗る男と奇妙な同居生活を始める…兵隊カラス
落頭民とは頭を鎌で刈り自由に飛ばすことのできる種族である…落頭民


~感想~
作者は宝島社このミス大賞から時代小説でデビューしたが、アマチュア時代にはホラー小説大賞で最終候補に残ったり「新・本格推理」で二階堂黎人に激賞されたりとホラー・ミステリも書いていた。それらが一堂に介したのが本作である。

冒頭の表題作からして強烈。UMAスカイフィッシュをモデルにした特殊能力てんこもりの異次元生物が探偵役を務めるというブッチギリの特殊設定ミステリで、真相こそ見抜きやすいもののそこに至るまでの展開が十分に面白い。

続く「蛙男島の蜥蜴女」が白眉で、いたってノリの軽い語り手が軽快にツッコミつつこれも特殊設定だらけの島での密室殺人を解き明かすのだが、狂人の論理をはじめとした稚気に富んだ仕掛けがふんだんに凝らされ、完璧なオチまで一気に駆け抜ける。これ一作だけでも読む価値がある。

「兵隊カラス」は誘拐された少年のサバイバルからヒッチコックを経てサイコで落とすサスペンスで、手掛かりが後出しのため厳密にはミステリではないが、ミステリ的などんでん返しも楽しめるだろう。

ラストのホラー小説大賞最終候補の「落頭民」がもうむちゃくちゃで、前半こそ「蛙男島の蜥蜴女」で見せた笑いのセンスを発揮し不条理コントのような黒い笑いが描かれるが、中盤からは幻想小説さながらに混沌としていき、多くの読者をふるい落とす。だが見たことない物語は好きな人は好きだろう。

それにしてもミステリ・サスペンス・ホラー(?)とバラエティ豊かでしかも質が高いが、作者の本分は時代小説や捕物帖にあるのが驚かされる。書き下ろしは「兵隊カラス」だけだったが、プロになってからのミステリ・ホラーもまた書いて欲しいものだ。


22.9.21
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『妄想女刑事』鳥飼否宇

2022年09月17日 | ミステリ感想
~あらすじ~
警視庁捜査一課の女刑事・宮藤希美には所構わず妄想に入り浸る奇癖があった。
その妄想は推理力にも発揮されるが当たり外れも大きく…。


~感想~
バカミスの伝道師らしいひねくれた連作短編集。
事件も「電車内で次々と見つかるバラバラ死体」や「ナース服姿で車に轢かれた観光客の男」といったひねくれたものも多いが、内容はもっとひねくれねじくれている。
宮藤希美の妄想をもとにした突飛な推理や、ちゃんとした描写は無いが最低限張られている伏線で成り立つ事件は実のところ存外まとも。
事件や推理外のある要素がものすごくひねくれており、作中で希美も自らメタ的に言及しだすようなバカミス的仕掛けで、読了後には誰かと語り合いたくなってしまう。しかも5話目でその趣向がやや崩れるのが意味不明で、きちんとしている方が綺麗に落ちるのに、なぜ崩してしまったのか? 作者のひねくれ具合を表しているのだろうか。
最後に明かされるある真相こそ見え見えながら、ただ創作のハードルを上げただけのような謎すぎる横溝正史の有名作品の要素縛りなどなど、考えついても誰も書かない、いやそもそも考えつかない突拍子もない変な作品だった。


22.9.17
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『水族館の殺人』青崎有吾

2022年09月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
水族館の営業中に起こった凄惨な殺人事件。館内には至る所にカメラがあり、容疑者は水族館関係者の11人に絞られるが、その11人全員にアリバイがあった。
捜査に行き詰まった警察は再びあの駄目人間にして天才・裏染天馬に助っ人を頼む。

2013年本ミス2位、本格ミステリ大賞候補

~感想~
デビュー作にして本ミス5位にランクインした前作「体育館の殺人」をも上回る本ミス2位に輝いた第二作目。
このシリーズは驚くべきことに現在までに刊行された全4作がベストテン入りしている。
順位だけではなく内容も確実に前作からパワーアップしており、起こる事件はまたも1件、しかも固有名詞ではない一般名詞のごくありふれた水族館を舞台にしているのだからますますとんでもない。
捜査に駆り出された裏染天馬は瞬く間に11人のアリバイを破るが、しかしそこから悪戦苦闘し、いわゆるスクラップ&ビルドを繰り返し少しずつ真相に迫る。
その過程で推理のヒントめいたことをいちいち口に出してくれるのも相変わらずで、読者は天馬の推理が今どのへんにまで達しているか理解できるほど。これが文庫版で追加された「読者への挑戦状」におけるヒントにもなっており、挑戦に応じる好事家には天馬の推理を追う格好の手掛かりとなるだろう。
肝心の推理パートは今回もじっくりページと時間を取り丹念に進められ、前作のアレのようにある一つの手掛かりをしゃぶり尽くす勢いで論理を展開する。
さらにエピローグではこれまた前作のようにただでは終わらず、もう一つの真相を暴くとともにとどめの一撃に心憎い言葉まで放ってくれる。
前作で膨らんだ期待に最高の形で答えるとともに、「平成のエラリイ・クイーン」という大上段すぎる異名もあながち嘘ではないとすら感じさせる、素晴らしい第二作である。


22.9.13
評価:★★★★ 8
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今週のキン肉マン #393 地に降りた挑戦者!!

2022年09月12日 | 今週のキン肉マン
・ランペイジさんにブーイングするなよ!
・ある意味で被害者だぞ! 誰も殺してないんだぞ!
・ロビン初手目潰しwww
・現実時間で数年ぶりの復帰戦でラフファイトww
・お前このためだけにそのマント羽織ってきただろ!!
・ロビンの復帰戦にみんながワクワクしてる中「初手目潰し一択!」してたこの男よ
・テリーも同じことやったけどその時は脚壊してたからね
・ランペイジさんちょっと迷った末に笑っとこうと選択
・笑っとけ笑っとけ
・ランペイジさんクソギミックをさっさと消化してくれる好采配
・強力チームの大半を葬ったクソギミックを余裕でかわすロビンもナイス
・お前を品行方正だと思ってるのはお前だけだよ
・ゆでも自分を品行方正だと思ってる異常者とお前をちゃんと認識している
・「挑戦者だからラフファイトもする!」
・お前はディフェンディングチャンピオンの立場でスグル相手にそれをやってただろ!
・あの時の超人ロケットからの角突き刺しを再現してるからゆでもわかってて言わせてる
・ランペイジさんもロビンもたった1話で息切れww
・このテンションでずっと続きそうだ
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今週のキン肉マン #392 激動の予感!!

2022年09月05日 | 今週のキン肉マン
・ネジ超人ww
・ネメシスがたまに垣間見せるキン肉族らしいところ好き
・無量大数軍に入っていたスクリュー・キッド
・無量大数軍には強キャラのイメージがあるが人材不足を感じる
・ケンダマン予想通りのナレ死www
・チェーン切られたくらいじゃ死なないけど帰ってきてないからな…
・ケンダマンは首チョンパされてるのにスクリュー・キッドはDV彼氏のパンチくらいで済まされてるの理不尽
・腰入ってなさすぎだろパンチ
・見逃してくれた?
・そしてこれを野望のからくり屋敷に投稿したの誰だよ
・1いいねすら付いてないツイートだぞ
・未知の敵は単体?
・オメガ編の冒頭でザ・マンの竹刀を壊したヤツといまだに予想されてるけど、あれはザ・マンを憎んでたオメガの民だろ
・温かいオイルのスープww
・スクリュー・キッドの本当の好物はワニの蒲焼きらしい
・ピークア・ブーがいないからスープ作らされるのはネメシスと指摘されてて笑った
・次シリーズの準備が着々と進む
・そして次はロビンマスク!!
・相手はランペイジマン!!
・ランペイジマン相手にまた振り回されるのか…
・ランペイジマンさん王位争奪編を見ていたと判明
・見ていたうえでレオパルドンその他と戦わされたしそれを黙ってたの…?
・それを言い出すとビッグボディは瞬殺されてたから戦えなくなってしまうから…
・強力の神が見込んだビッグボディと戦いたいと言ってたから強力の神と仲良いんだろうなランペイジさん
・王位争奪編のロビンはマンモスマンと引き分けもすごいがマリポーサを倒してるのがすごい
・マリポーサと戦う前に負けた時点でスグルは資格なしでもおかしくなかったが、ロビンが倒したため許された面もある
・王の力は王を倒せるほど優秀な家臣を持つことでもあるから
・ランペイジさん超人大好きだった
・王位争奪編見てなかったらレオパルドン倒した時点で裁定下しててもおかしくなかったね…
・でもロビンはロビンである意味で期待を裏切ると思うぞ
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ミステリ感想-『体育館の殺人』青崎有吾

2022年09月04日 | ミステリ感想
~あらすじ~
風ヶ丘高校の体育館で殺人事件が発生。現場は密室状況で、ただ一人犯行が可能と目された卓球部部長を救うため袴田柚乃は、校内で暮らしているという変人にして天才の二次元オタク裏染天馬に救いを求める。

2012年鮎川哲也賞、本ミス5位

~感想~
デビュー作ながら本ミス5位にランクインしただけはある、簡潔にして明快な論理が冴える佳作。
重度のオタクの裏染天馬が端々で発する元ネタの把握すらできないほど広汎に渡るオタク発言を除けば、描写も推理も難解なところが少しもなく、1つの手掛かりをしゃぶり尽くすように検討し様々な事実を導き出す、論理の楽しさをじっくり味わえる。
それに加えて読者への挑戦状まで添え、ヒントまで与えるフェアプレイぶりで、しかも文庫版では指摘された瑕疵を丹念に改善してきたサービス精神も見せ、作者の後の活躍を早くも予感させる。

細かいあらを探せば、密室の脱出方法がヒントを出しすぎ(描写しすぎ)でこれしかないところに落ち着いたり、序盤で袴田刑事が妹にやたら戦々恐々しているのが何かの伏線かと思うほど不自然だったが(妹を守るために両親を殺したがそれを告げず絶縁されている兄の反応だったぞあれ)重箱の隅をつつくような粗探しに過ぎない。
論理好き、本格ミステリ好きなら迷わず読むべき面白い一冊だった。


22.9.2
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『自薦ショート・ミステリー2』日本推理作家協会 編

2022年09月03日 | ミステリ感想
~感想~
ミステリーと銘打っているが「真夏の夜のミステリー」と同じ意味合いで、SFやファンタジーやホラーがちらほら混ざっているのはご愛嬌。
だが本格ミステリファンには見過ごせないことにあの依井貴裕の短編「奇跡」が収録されている。他作品より全然長い20ページで全くショートショートではないのに。
肝心の内容は依井作品に期待する硬質な謎が丹念なロジックで解かれつつ浪漫(死語)を残す傑作で、これ一作だけでもファンには読む価値あり。
他にも斎藤肇「足し算できない殺人事件」は起こっていることはオーソドックスな雪の山荘の事件なのに、全く意味がわからない展開が描かれる渾身のバカミスで、新津きよみ「ホーム・パーティー」もショートショートの文量でキレッキレの本格ミステリを見せてくれた。
この三作だけでも機会があればちょっと読んで欲しいと思う。


22.8.30
評価:★★☆ 5
コメント (2)

ミステリ感想-『殺意の構図』深木章子

2022年09月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
義父の放火殺人で逮捕された男は頑なに犯行を否定するが、あやふやなアリバイの主張に終始する。
だが第二の事件が起こるや一転して強固なアリバイを明かし、無罪を勝ち取った。
関係者らはそれぞれの視点から犯人と事件の構図を考える。

2014年このミス18位、本ミス9位

~感想~
デビュー作から続く私立探偵・榊原聡シリーズ三作目。前二作のネタバレはないのでシリーズ物であることさえ念頭にあれば、本作から読んでもさほど問題ない。
タイトルの通りに弁護士、妻の妹、弁護士の友人の妻らのそれぞれの視点から見た「殺意の構図」が語られ、それが一定の説得力を持つ。だが終盤まで登場しない榊原が彼らの証言をまとめ上げ、真実の「殺意の構図」を導き出し、複雑に絡み合った事件を丹念に解きほぐしてみせる。
すさまじく緻密な物語だがわかりづらいところは一切なく、全ての謎は余すところなく解かれるが、それだけでも十分すごいのに本番は推理が終わった後。この物語の本当の構図が明かされ、読者は唖然とし思わず膝を打つだろう。
この物語から組み上げられるプロットで最も効果的な形を作り上げた、巧緻にして細密な傑作本格ミステリである。


22.8.28
評価:★★★★ 8
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