小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『花嫁のさけび』泡坂妻夫

2002年09月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
映画スター・北岡早馬との結婚で伊津子は幸せの絶頂にあった。
しかし彼女を迎え入れた北岡家の人々は、早馬の先妻・貴緒のことが忘れられず、最愛の夫もその例外ではなかった。謎の自殺を遂げたという貴緒の面影が色濃く残る邸で、やがて悲劇の幕が切って落とされる。


~感想~
大仕掛けは大仕掛けすぎて、舞台裏を黙々と眺めさせられているよう。
トリックはてんでひねりがなく、意外性に乏しい。筆致はさすがの冴えなのだが……。


02.9.30
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『沈黙の函』鮎川哲也

2002年09月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
落水周吉と茨木辰二は、掘り出し物の中古品も商うレコード店を共同経営している。
仕入れ担当の落水は、函館の製菓会社副社長宅で珍しい初期の蝋管レコードを見つけた。
蝋管レコードには古い手紙がついていたが解読不能、なにが吹き込まれているのかわからなかった。
引き取りのため再度出向いた落水は、函館駅からレコードを発送したまま行方不明に。
無事上野駅に到着した梱包をほどいてみると、中には落水の生首が。

文春 5位


~感想~
とにかく読みやすい文体。見習いたい見習わせたい筆力。
トリックは小粒だが、丁寧な造りに感服。いい仕事してます。


02.9.29
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『真っ暗な夜明け』氷川透

2002年09月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
推理小説家志望の氷川透は久々にバンド仲間と再会した。
が、散会後に外で別れたはずのリーダーが地下鉄の駅構内で撲殺された。
現場は人の出入りなしの閉鎖空間。容疑者はメンバー全員。非情の論理が導き出す真相は。

第15回メフィスト賞


~感想~
読了後3日もすれば細部を忘却の彼方へ押し去られそうな、総論理細工。実際忘れたし。
だのにフェアプレイ味や論理の面白さ、キレは感じられず、パズラーのていをなしていない。
例によって(失敬)島田荘司の激賞ぶりほどの、文章力も冴えも魅力も感じない。
特に文章は、東大文学部のくせにと言うべきか、らしいと言うべきか、とにかく読みづらい。
第一印象はまさに若書き。血の通っていない人物。白々しい描写。
結局のところ「ルナシーは演歌」の一文しか心に残らなかった。


02.9.28
評価:★ 2
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ミステリ感想-『月長石の魔犬』秋月涼介

2002年09月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
右眼に藍玉のような淡い水色、左眼に紫水晶のような濃い紫色の瞳をもつ石細工屋店主・風桜青紫と、彼を慕う女子大生・鴇冬静流。先生に殺されたいという願う17歳の霧島悠璃。境界線を彷徨う人々と、頭部を切断され犬の首を縫い付けられた屍体。異常と正常。欲望と退屈。絶望と救い。(裏表紙より抜粋)

第20回メフィスト賞


~感想~
(毒吐き&ややネタバレ→)論外以外の何者でもない。稚拙な筆力。浅薄な言動。ありえない警察機構。すこしも解決しない事件。そもそもトリックが存在したのか? いったいなにを論評すればよいのやら。見るべきところは辰巳四郎氏の職人技巧のみ。それさえ落選者ともども気の毒に思えてならない。将来性を見越して受賞させたのだろうが……はてさて。


02.9.27
評価:問題外
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ミステリ感想-『法月綸太郎の功績』法月綸太郎

2002年09月26日 | ミステリ感想
~収録作品~
イコールYの悲劇
中国蝸牛の謎
都市伝説パズル
ABCD包囲網
縊心伝心

日本推理作家協会賞 ――都市伝説パズル、本格ミステリ大賞 候補、本ミス2位


~感想~
『イコールYの悲劇』
二転三転の展開や終局の逆転といい、ダイイング・メッセージ物としては出色のでき。

『中国蝸牛の謎』
どうして(ネタバレ→)「下から上」とわざわざルビを振っているのか意味不明。

『都市伝説パズル』
ず抜けた完成度でよくできている。だが自身が認めるとおり、意外性には欠ける。自然、印象の薄い感は否めないか。

『ABCD包囲網』
かつてありそうで、やはりかつてないプロットが映える。

『縊心伝心』
細工、構成、結末、意外な手がかり、誤導、伏線。全てが見事な結実。


~総括~
かつてなく印象が明るい。小気味のよいジョークまでちらほら。ふっきれたのかw
それはともかく、いかにも氏らしい丁寧な造りで編まれた、中編ミステリにおける完成度を極限まで突き詰めたような逸品ぞろい。腰をすえてとっくりとご賞味あれ。


02.9.26
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『マレー鉄道の謎』有栖川有栖

2002年09月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
マレー半島を訪れた有栖川有栖と火村英生を待ち受ける「目張り密室」殺人事件!
外部へと通じるあらゆる隙間をテープで封印されたトレーラーハウス内の死体。
この「完璧な密室」の謎を火村の推理は見事切り伏せられるのか?


~感想~
……なぜこんなにも面白くないのだろう?
下手な詩情。ハンパな思索。稚拙な誤導。余分な暗号。(そもそも暗号か?)魅力薄の人物。大山鳴動して鼠一匹のトリック。
あからさまで思わせぶりな不審・誤導・注意・ミスディレクションはどれもこれもおおげさなだけで、たいした裏もなく、煩雑なだけ。手がかりにもならない伏線は無駄。
計画はずさんで、隠された過去にもひねりはなし。終局に至っては、ただ後味が悪いだけ。
……これが、年度代表作?


02.9.25
評価:★ 2
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ミステリ感想-『火刑都市』島田荘司

2002年09月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
雑居ビルで男の焼死体が発見された。
自殺とも他殺ともつかぬ中、彼のアパートから婚約書の痕跡が消えていたことを突き止める。
残されていたのは「寒子」と書かれた紙きれ。
しかし、苦心の末に会った女には完全なアリバイがあった。失意もさめぬうちに、第2の事件が起こる。
文春5位


~感想~
解説にも断言されているとおり、あからさまな社会派ミステリ。
ゆえに、後手後手に回る鈍い捜査には焦れる。ちと長すぎか。


02.9.24
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『夜は千の鈴を鳴らす』島田荘司

2002年09月23日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「ナチが見える!」そう叫んで寝台特急の中で死んだ女社長。
吉敷の捜査により事件の背後に恐るべき犯罪の構図が浮かび上がる。
しかし、犯人と思われる人物には鉄壁のアリバイが。はたして「ナチ」の正体とは?


~感想~
細工・描写・展開・奇想……さすがさすがの熟練技法。
珍しく(ネタバレ→)叙述トリックまで用い、しかも手法は鉄道ものと見せかけて……これまた傑作!


02.9.23
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『塔の断章』乾くるみ

2002年09月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
天空を目指し屹立する尖塔から女は墜落していた。
『機械の森』という小説のゲーム化のために集まった八人。
彼らが洋館で過ごした問題の一夜。彼女を突き落としたのは誰か。
真相はジグソーパズルのようにちりばめられ……。


~感想~
意外や意外の直球勝負(氏にしては)。
よく練られているが、厳しく言えば氏にこんな路線は求めていない。
幻視封印にぜいたくな不満。いや、よくできているんだけど。


02.9.22
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『匣の中』乾くるみ

2002年09月21日 | ミステリ感想
~あらすじ~
探偵小説愛好家グループの中心人物・伍黄零無が奇妙な言葉を残して密室から消えた。
メンバーの仁行寺馬美が書く小説通りに、仲間たちも次々と密室で殺される。
死者を愚弄するような装飾と暗号。めくるめく推理また推理。
すべてを裏切って全宇宙を揺るがす真相とは。


~感想~
竹本健治著『匣の中の失楽』に捧げられたオマージュ作品。
メタでありメタでない。アンチでありアンチでない。オマージュでありオマージュでない。
そもそもミステリでありミステリでない……なんだこれは。
おぼろにたゆとう異形のモノ。あの『匣の中の失楽』さえもある面では上回るだろう。
読了後、めまいを覚えるようなこの幻惑感。幻と現の間に浮かぶ光景を、幻視者は静かにすくい上げた。


02.9.21
評価:★★★★ 8
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