小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

マンガ感想-『Q.E.D. 証明終了 1』加藤元浩

2009年03月31日 | マンガ感想
「ミネルヴァの梟」★★★ 6
デビュー作ならではの詰め込みすぎ・やりすぎ感がすばらしい。誰にも解けないようなダイイング・メッセージといい、この作者はミステリを解っていると一作で感じさせてくれる。


「銀の瞳」★★★★☆ 9
傑作。「金田一君」や「探偵学園Q」は全巻読んでいるが、ミステリマンガでここまで感心したのは初めて。
食い違う証言と、なぜ食い違うのかを丹念に読み解く論理、意外な結末とどんでん返しに、すべてが「●●●●」へと収斂する展開。


~どうでもいい話~
ドラマ化された際にペースメーカー協会だかなんだかが「静電気で心臓は止まらない。差別を助長している」と抗議したそうだが、この作品は10年前のものであり、当時はまだ携帯電話も普及し始めた頃で、「携帯を使いすぎると電波が脳を溶かすかも」といった与太話がまことしやかに語られていたのだから、批判の的がずれている。
だいたい現在でさえ電車やバスの優先席では携帯の電源を切るように求められ、携帯の電波でペースメーカーが止まるかもと言われているのに、なぜ静電気で止まってはいけないのだろうか。
コメント

映画(DVD)感想―『ホットファズ 俺たちスーパーポリスメン!』

2009年03月28日 | 映画感想

~あらすじ~
あまりにも優秀すぎるがゆえに同僚たちの反感を買い、のどかな田舎町サンドフォードに左遷されたニコラス・エンジェル。
殺人事件は20年間も起こらず、毎年のように表彰される平和な町で正義感をもてあまし、相棒のダニーは警察映画オタクのダメ警官で、すっかり途方に暮れるニコラス。
だが、悲劇的な事件が起きたとき、彼はふと疑念を抱く。この町は、実は少しものどかでも牧歌的でもないのではと……。


~感想~
どこから褒めればいいんだこの映画は。

全編にわたって張りめぐらされた伏線と、それを残らず回収する神がかり的な手腕。
空回りする堅物デカでコメディ映画としてきっちり笑わせ、まさに「静から動」と言うべき展開でアクション映画として満足させる物語。
並の映画なら解決編に持ってくるだろう過不足ないサスペンスと、「邑ホラー」としての不穏な空気。
それらが驚異的な完成度でまとめられ、120分間まったく飽きさせないのだから恐ろしい。
なんといっても伏線大好き人間にはたまらない、伏線じゃないものまで伏線として次々と回収していく様にはほぼイキかけた。
アクション、コメディ、パロディ、サスペンス、そしてバディ・ムービーとありとあらゆるジャンルを内包した、まさに完璧な映画である。
水野晴郎が生涯最期に見た映画が「ホットファズ」だったことは、映画の神様からの贈り物だったのかもしれない。

それにしてもこれだけの大傑作が署名活動でやっとこさ劇場公開にこぎつけ、DVD化にあたっては足を引っ張るとしか思えない副題を付けられるのだから日本はどうかしている。


評価:★★★★★ 10
コメント

映画(DVD)感想―『スピードレーサー』

2009年03月27日 | 映画感想

~あらすじ~
往年の日本アニメ「マッハGoGoGo」を「マトリックス」シリーズのウォシャウスキー兄弟が実写映画化。
父の設計した"マッハ5"を愛車に天性のハンドルさばきでライバルたちを圧倒するスピード・レーサー。彼は、レース中に命を落とした兄、レックスの遺志を継ぐべくレーストラックを疾走していた。そんなある日、大手メーカーから好条件のオファーが舞い込む。


~感想~
アニメ「マッハGoGoGo」の実写化ではなく、実写のアニメ化といったほうが正しい、極彩色に埋め尽くされた画面やディフォルメされた描写は、もう特撮とかCGとかそんな次元ではない。
さすがは「マトリックス」以来の監督作品だけあり、アイデアと技術の詰め込みっぷりはこれを本当に「マッハGoGoGo」に使ってもったいなくないのかと言いたくなるほど。ハリウッドによるアニメ原作映画としては史上屈指と言える娯楽大作である。
ウォシャウスキー兄弟には「ドラゴンボール・レヴォリューション」のスタッフに説教してもらわなくては。


評価:★★★★ 8
コメント

映画(DVD)感想―『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』

2009年03月26日 | 映画感想

~あらすじ~
ハリー・ポッターシリーズ第5弾。
ホグワーツ魔法学校の5年生に進級したハリーは、ヴォルデモート卿の復活に深い懸念を示していた。そんな中、魔法省は直属の女教師を学校全体の監視役として送り込んでくる。一方、ヴォルデモートは仲間を集め、ハリーたちを陥れようと暗躍し……。


~感想~
シリーズ最駄作。
メインストーリーの収拾にかかったようで、これまでの魅力だった魔法学園のわくわくする日常ドラマが皆無。
ファンタジーあふれる行事や授業もろくに描かれず、前半1時間にいたってはひたすら「はぶられるハリー」と「イヤキャラなピンクハウス婆あが大暴れ」という胸がむかつくだけの展開。
ヴォルデモートとの戦いは着実に進むが脇を固めるストーリーが甘く、いてもいなくても変わらないアジアンヒロイン、反省しないピンク婆あ、タイトルにしか登場しない不死鳥の騎士団、半人半獣になぶり殺しにされるピンク婆あ、肉体改造で得たマッチョさを感じさせるハリーの肩幅、前作で道がついてしまったように続く人死にと、まったく子供向けではない有様。
2011年までにあと3作出すそうだが、さすがに無茶じゃないかなあ……。


評価:★☆ 3
コメント

DVD感想―『ミスト』

2009年03月24日 | 映画感想

~あらすじ~
田舎町を襲った激しい嵐の翌日、デヴィッドは湖の向こう岸に発生した異様に深い霧に懸念を抱きながらも息子とともにスーパーマーケットへ買い出しに出かけた。
その濃い霧はやがてマーケットに迫り、ついには町全体を飲み込むように覆っていく。


~感想~
こ れ は 酷 い。
といっても映画として酷いのではなく、結末が容赦なく酷すぎる。
「酷い」と書いて「むごい」と読むのが正しく、それまではいたってシンプルな、未知のモンスターに襲われるパニック・ムービーとして展開してきたストーリーが、ラスト5分で映画史に残るような最凶に後味の悪い結末を迎え、ダウナーな気分に陥ること請け合い。
なんでも原作とは全く違う結末だが、原作者のキングは「俺もこのラストにすればよかったぜ!」と残念がっていたそうな。
本当に恐ろしく、歴史上で無数の悲劇を生んできたのは、未知の暴力や暴走した宗教ではなく、判断力のないヒーローなのだなあ。


評価:★★★ 6
コメント

DVD感想―『ベオウルフ 呪われし勇者』

2009年03月23日 | 映画感想

~あらすじ~
古代デンマーク。戦士ベオウルフは、王命によって、人々を襲い続ける呪われし巨人グレンデルの討伐に立ち上がる。
激戦の末、グレンデルを見事に打ち負すが、その冷酷で妖艶な母の魅惑に引き込まれ……。


~感想~
全編CGで描かれた大作。なのだが「CGもここまで来たか!」と驚くよりも「これがCGの限界だよなあ」と眉をひそめたくなる場面のほうが多い。
見どころは前半、なぜか全裸で戦うベオウルフの股間を巧みに隠す「オースチン・パワーズ」なカメラワークが無駄に力が入っていて、スタッフはどこまで真剣なのかと頭を抱えて悩みながらもバカ楽しい。
そこを除けば極めてまっとうなヒロイック・ファンタジーなので、「アニメか実写でもよかったのでは?」という疑念は最後までつきまとうものの、普通に観られる映画ではある。


評価:★★☆ 5
コメント

DVD感想―『クローバーフィールド』

2009年03月17日 | 映画感想

~あらすじ~
日本に転勤するロブのために開かれたサプライズ・パーティーのさなか、突如としてニューヨークを何者かが襲う。
友人のハッドが偶然手にしていたカメラだけが、未曾有の事態を克明に映し出していた……。


~感想~
ハンディカメラ撮影によるドキュメンタリー形式といえば「ブレアウィッチプロジェクト」を思い出すが、魔女を怪獣に置き換え数百倍の予算をつぎ込んだのが今作である。
事前情報をほとんど流さず、首を切断された自由の女神の映像だけがシンボルのように公開され、いったいどういう映画なのか興味をひきつけ、まずは企画の勝利。
ハンディカメラの持ち味を活かし、見えそで見えない迫り来る脅威、しかし必要な描写は的確に映し出す腕もお見事。
ハリウッドの常識をかなぐり捨てたラストに、伏線も解決も真相も投げっぱなしの趣向は、鑑賞後にいろいろ語りたくなり、なんとか真相を探ろうとするサイトを渡り歩くのが楽しくてしかたない。
監督は日本の怪獣人気に驚き「アメリカにも怪獣文化を!」と考えたそうだが、ゴジラやガメラのような愛嬌のかけらもないHAKAISYA(でいいのか名前は)は確実に流行らないと思うが、新たな怪獣映画として一石を投じたのは間違いない。
冒頭20分ほどの退屈なホームパーティと、字幕を読んでるだけで酔いそうなカメラ回しにめげることなくお試しあれ。


評価:★★★★ 8
コメント

ミステリ感想-『黒い家』貴志祐介

2009年03月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
若槻慎二は、生命保険会社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。
ある日、顧客の家に呼び出され、子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出し……。
第4回日本ホラー小説大賞受賞作。


~感想~
うわーつまんねー。

ホラー小説大賞と聞けば納得だが、このミス2位・文春4位と聞くとまったく納得できない。なんせミステリとして「すごい」要素が皆無なのだ。
いわゆるどんでん返しがただの一つもなく、物語に転換が起きるのも中盤で、以降はサイコホラーにシフトを移し、ラストにいたっては「俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ」と打ち切りマンガさながらな結末。
保険業界というなじみのない世界は興味深く、ホラーとしての雰囲気も抜群なのだが、いかんせんミステリとして弱すぎる――というかぜんぜんミステリじゃない。
こういうのがハードボイルドと肩を並べて「ミステリでござい」と行進して、周りの書店員様(笑)に「よっミステリ屋!」とはやし立てられても、「いやあなたホラーですから。ホラーとして傑作なんだからこっちに来ないでおとなしくしててください」と言いたくなってしまう。

いろいろくさしたがミステリじゃないことを念頭に置けば面白い作品だとは付け加えておこう。


09.2.28
評価:★★☆ 5
コメント

ミステリ感想-『ゆきなだれ』泡坂妻夫

2009年03月15日 | ミステリ感想
~収録作品~
ゆきなだれ
厚化粧
迷路の出口
雛の弔い
闘柑
アトリエの情事
同行者
鳴神


~感想~
久し振りの春だから、暖かすぎたんだよ。二十年も解けずに積もっていた雪が、そのためになだれを起こしてしまったんだ。

追悼泡坂妻夫。

純文学真っ青の筆力、情感は言うまでもないとして、どの短編にも発想の逆転や意外性を忍ばせているのがさすが。泡坂妻夫がミステリを選んでくれたことを感謝したくなる。
手持ちの泡坂積ん読本を一気に片付けてしまおうかと思ったが、「ゆきなだれ」を読んでそれももったいなくなってしまった。
読むたびに心に残っていく作品ばかりで、読み終えてタイトルを見返すだけで場面がよみがえってくる。ゆっくりと折にふれて読み進めていこうと思う。


09.2.8
評価:★★★ 6
コメント

ミステリ感想-『犬はどこだ』米澤穂信

2009年03月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
開いたばかりの探偵事務所に舞い込んだ依頼は、失踪人捜しと古文書の解読。調査の過程で、このふたつはなぜか微妙にクロスして──犬捜し専門(希望)25歳の私立探偵、最初の事件。


~感想~
米澤穂信が正面から探偵を描いた作品。
軽妙な描写と魅力あふれるキャラはさすがラノベ出身。軽妙なパートを本当に軽妙に描ける作家はそうはいない。
一見なんのつながりもない二つの依頼が微妙に交錯し、たがいがたがいの伏線として機能し始め、期待通りにつながっていく終盤までの盛り上げ方が見事。
……が、結末がちょっといただけない。導かれた真相は面白いのに、着地した地点がそれはちょっとと戸惑うところ。このあたり傑作になりそこねた「インシテミル」と同じ、ベタを嫌った(?)余計なねじれを感じてしまう。だがこのねじれこそが、作者の魅力ともとれるのだから始末に悪い。
ともあれどうやらシリーズ化するようなので、次回が楽しみである。


09.2.18
評価:★★★☆ 7
コメント