小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『赫い月照』谺健二

2008年02月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
かつて神戸で女子中学生3人を立て続けに殺害し、うち1人の首を切断するという凄惨な少年犯罪があった。
振子占い師の雪御所圭子は、兄によるこの犯行への思いを胸に秘めて生きていた。
年を経て、神戸市須磨区で、あの児童連続殺傷事件が。
そして、またも須磨区で連続猟奇殺人が起きる……。


~感想~
最悪の結末しか待ち構えていないと肌で感じるような、張りつめた空気が全編に漂う。ゆえに読み進めるのはある意味苦痛ですらある。言いかえれば苦痛に感じられるほど、感情移入させるその手腕は実に見事。
細工としてはどれもこれも小粒なトリックで、これだけの大長編を支えるにはあまりにも脆弱。だがそれらすべてが寄り集まって作り上げた世界は、実に異様でいながら実にリアル。いままで読んだ本のなかでも最高峰の狂気を感じさせる作中作や、架空が現実を侵していく展開は、苦痛を乗り越えて読者を引きつける。
いまさらながら気づかされたのは、これまでは震災を、本作では少年Aの事件を主題にしたが、作者がそれらを通して描くのは、雪御所圭子という人物の一代記であるということ。この一作を単体で読むよりも(こんな大長編にしょっぱなに取りかかる人はまずいないだろうが)ぜひシリーズを通して順番に読んでほしい。


08.2.25
評価:★★★ 6
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映画感想―『DEATH NOTE the Last name』

2008年02月23日 | 映画感想

~あらすじ~
デスノートをめぐって繰り広げられる2人の天才、月とLの頭脳戦がつづくなか、2冊目のノートが現れる。
救世主“キラ”として凶悪犯を次々と粛清していく月。一方、一連の“キラ事件”を捜査するためインターポールから送り込まれた天才Lがキラを追いつめていく。
そんな中、月は「キラ逮捕への協力」と称して、自ら捜査本部に乗り込むのだったが・・・・・・。


~感想~
最新作『L change the world』で派手にネタバレされているので今さらだが、予備知識なしで観るべき傑作。
原作の「ここで終わってればよかったのに」というところで見事に終わらせてくれた。あれだけの人気マンガを大胆にアレンジした英断に拍手。公開してすぐに観た人がうらやましい。もうこっちが原作でいいんじゃね?
原作ファンは必見。こういう映画化もあっていい。


評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『エコール・ド・パリ殺人事件』深水黎一郎

2008年02月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
モディリアーニやスーチンら、悲劇的な生涯を送ったエコール・ド・パリの画家たちに魅了された、有名画廊の社長が密室で殺される。
事件の鍵は被害者の書いた美術書の中に?


~感想~
デビュー作「ウルチモ・トルッコ」では禁断の「読者=犯人」ネタに挑み、全体を緻密な構成と確かな筆さばきで包み、一発ネタらしからぬ丁寧なつくりを見せてくれたが、今作ではその構成力がさらに増した。
トリックにしろプロットにしろ、長所はとりたてて挙げるところはないが、伏線の回収技術だけで秀作に仕上げているのが見所。
まさに伏線回収の鬼というべき徹底ぶりで、全体に張りめぐらされた細い糸をするすると巻き取っていく様はクロースアップマジックを見ているよう。
作中作の「エコール・ド・パリ論」は美術に興味がなくとも単体で楽しめ、地味ながら間口の広い作品であろう。
一発ネタだけではない作家だと思っていたので、この期待にたがわぬ飛躍は個人的にうれしい。


08.2.22
評価:★★★☆ 7
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映画感想―『DEATH NOTE』

2008年02月19日 | 映画感想

~あらすじ~
名門大学で法律を学ぶ天才・夜神月は、法による正義に限界を感じていた。そんな時、彼は『DEATH NOTE』と書かれた一冊のノートを手にする。それは、“名前を書かれた人間は死ぬ”という死神のノートだった。
そして自らの手で犯罪者を裁きつづける月の前に、インターポールから送り込まれた天才“L”が現れる。


~感想~
終盤までほぼ原作どおりに進み「これなら映画じゃなくてもいいんじゃね?」と思っていたところに、ラストの逆転が。
南空ナオミのファン(いるのか?)には原作よりもさらに悲しい結末かもしれないが、このアレンジはお見事。前編としての役割は過不足なく果たしたといえるだろう。


評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『暗色コメディ』連城三紀彦

2008年02月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
もう一人の自分を目撃してしまった主婦。自分をひき殺したはずのトラックが消滅した画家。妻に一週間前に死んだと告げられた葬儀屋。知らぬ間に妻が別人にすり替わっていた外科医。
4つの狂気が織りなす幻想のタペストリーから、やがて浮かび上がる真犯人の狡知。


~感想~
なにぶん「狂気」が前提のため、なんでもありな空気が漂い、物語が進むごとにミステリとして成立するのかと危ぶみたくなるような、異様な展開が待ち受けている。
しかしそこは連城三紀彦、到底ありえないような異常が、トランプを裏返していくようにぱたぱたと現実へと転じていく。
その一方で、あまりに異様で幻想的な謎の数々が、無味乾燥な現実へと落ちてしまうのも事実。たとえるなら美しい情景に目を凝らしたら、ただの無機質なドットで構成されていたような。
本来なら細緻にドットを組み合わせ、絵画を作り上げた技巧を褒めるべきだろうが、難癖をつけるようだがあまりに謎の方が美しすぎたのが玉に瑕。なんとも惜しい作品である。


08.2.15
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『消えた奇術師』鮎川哲也

2008年02月04日 | ミステリ感想
~収録作品~
赤い密室
白い密室
青い密室
黄色い悪魔
消えた奇術師
妖塔記


~感想~
「赤い密室」を読むのは5回目くらいだと思うが、読むたびに感嘆してしまう。
5回目ともなると読み進めるごとに伏線が次々と目にとまり、その的確さにうなるばかり。
毎度のようにプロレスにたとえると、職人レスラーが放つチョップ一発、ストンピング一発の全てに意味があるような、無駄のない試合展開である。
密室三部作は何度読んでもいい。特に今回、初読では印象の薄かった「青い密室」が、記憶よりもはるかに切れ味鋭かったことを付記したい。


08.2.4
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『もう誘拐なんてしない』東川篤哉

2008年02月03日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ヤクザの娘・絵里花が計画した狂言誘拐。そうとは知らず本気で妹を助けようと動くヤクザ顔負けの姉・皐月。そして殺人が……。


~感想~
ドタバタ喜劇の中にいつの間にか伏線が仕掛けられるあたりは、いつもの東川作品。
そのそつなくさりげない伏線張り技術は健在なのだが、いつもの東川作品と比べるとミステリとしての切れ味はいまいち。
その分、会話の軽妙さやテンポのよさが増しており、くだらないユーモアと魅力的なキャラに微笑がおさえられない、万人に薦められる佳作となった。


08.2.3
評価:★★★★ 8
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