小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『各務原氏の逆説』氷川透

2005年10月26日 | ミステリ感想
~感想~
ぬっるいミステリ。というかこれ、本当に完成品なんだろうか?
なにかの手違いで完成しないうちに市場に出回ってしまい、「これで完成してるんです」と言い張っているだけにすら思えるのだが。

ほぼ存在しないトリック。明かされない動機。明かされない犯行手段。まったく意味のない読者サービス。言うほど逆説を使わない各務原氏。題名のわりに活躍しない各務原氏。よく考えると印象も薄いぞ各務原氏。
「チェスタトンへのオマージュ」? ふざけるな。チェスタトンはもっと面白い。
あ、もうひとつ。全体主義とかヴィトゲンシュタインとか一般的な高校じゃ習わないぞ氷川君。
……で、結局影はなんだったの?

そこらへんの同人ミステリの方がはるかによくできてます。
今度は完成品を出してね。


評価:論外
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ミステリ感想-『月の扉』石持浅海

2005年10月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
国際会議を控え、厳戒態勢の那覇空港で、ハイジャック事件が発生。
三人の犯行グループが、乳幼児を人質にとって乗客の自由を奪ったのだ。
彼らの要求はただひとつ、那覇警察署に留置されている彼らの「師匠」を、
空港滑走路まで「連れてくること」だった。
緊迫した状況の中、機内のトイレで乗客の死体が発見される。
被害者が入った後、トイレに近づいた者はいない。
誰が、なぜ、どのようにして?


~感想~
論理派が集まった印象を受ける、カッパノベルス版メフィスト賞こと「カッパワン登竜門」デビュー作家の第二作。

あらすじは大変に魅力的。ハイジャック犯の計画と動機も興味を引き、結末まで一気に読ませてくれる。
なのだが、期待が大きすぎたのか、トリックと結末はいまひとつ物足りなかった。
ガチガチの論理ミステリに見せて、意外にもあちらの方向に転がったのも――。
(↓以下ネタバレ↓)
概要だけ見れば正統派の論理ミステリなのだが、実は「この世界でしか通用しない論理で、この世界にしかない謎を解く」というジャンルだった。
よくできてはいるのだが、期待していなかった方向に転がったのがすこしく残念。
麦茶かと思ったら午後の紅茶かよ みたいな。
幻想を肯定したラストも賛否両論を招きそう。それまで魅力あふれる人格者だった石嶺が、本当に妖しい力を持つ教祖になってしまったのでは……。


読んで損はまったくないと思います。良作。


評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『本当は知らない』高里椎奈

2005年10月19日 | ミステリ感想
~感想~
うーん。とうとうやっちまったという感想です。
いままでギリギリの線でこらえていたのが、ついに開き直りました。

(↓以下ネタバレ↓)
犯人が妖怪です。それだけならなんの問題もありません。妖怪であることをトリックやプロットにしっかりと組み込んでくれるなら、妖怪とミステリの幸せな結婚が成就すれば、このシリーズはいつでも傑作になりえる可能性を秘めています。
しかし、その結末に至るまでの道程がいけません。
犯人は現場に内臓だけを残していた→なぜ内臓を残すのか→内臓を食べられない妖怪だったから
……なんだこれは。
なんだこの理由は。
百歩譲って、理由は許そう。内臓を食べられない。結構じゃないか。人間にも妖怪にも、好き嫌いくらいあってしかるべきです。
だけど。「内臓を食えない」という真相にまったく伏線を張っていないのはどういう了見か。
そんな妖怪がいようがいまいが知ったこっちゃない。せめて伏線くらい張ろうよ。
ともあれこの一作をもって作者はついに、ミステリに対して訣別を宣言した。

まったく意味をなすとは思えない、読者を(あるいは座木を)驚かすためだけの秋の仮病。
柚之助が化けているのに地の文で“リベザル”・“秋”と書いてしまっているアンフェア。
シリーズを通して読んでいないとまったくついていけないキャラたちの会話。
ただ顔を出すだけのサブキャラたち(そのくせ無意味に登場人物表に載っている)。
どうやって事件の真相に現実的な解釈をつけたのやら。単に迷宮入りですか?

薬屋さんシリーズはもはやミステリではない。
ただのキャラ萌えライトノベルだ。

(↑ここまで↑)

細かいことだが、冒頭で理不尽な(理不尽としか思えない)暴力にさらされた高校生たちは、なんら反省などせず、さらなる暴力に走ると思うがどうか。

もういいです。
僕は傑作ミステリを読みたいんです。
ミステリのふりをしたキャラ萌えノベルに興味はありません。
薬屋さんシリーズの読破は、これにて中座させていただきます。


評価:なし 0
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ミステリ感想-『白兎が歌った蜃気楼』高里椎奈

2005年10月18日 | ミステリ感想
~感想~
設定こそいわゆる「お屋敷もの」だが定石をはずれ、血縁関係のドロドロや隠された出生の秘密なんてものはない。
展開はやや唐突ながら意外性に富み、偉そうに言えば作者がミステリ作法を身につけてきたように思える。
ミステリとして文句はないが、疑問をひとつ。

(↓以下ネタバレ↓)
リベザルが例によって悩むのだが、今回のテーマは「ひとを殺すのは悪か? 殺される側にも殺されるだけの理由があるのではないか? 生きる理由よりも殺す理由が勝るなら殺されるべきではないか?」そんな内容である。
ところが彼が悩んだ時点で、犯人が行った(と思われていた)ことといえば、子供3人惨殺ですよ。極悪非道です。言語道断です。
「殺されるだけの理由」なんて、就学前のガキにあるものですか。あるとすればそれは全て親や血縁の問題であり、ガキ自身には罪なんてありゃしません。
犯人の視点に立って論じるにしても、あまりにタイミングがおかしすぎます。子供殺しなんて犯罪の中でも最下層の事件に立ち会った時に悩む題材ではありません。
大げさに言えば、作家としてというよりも、作者の良識そのものを疑いたくなりました。もちろん、これにGOサインを出した編集にも。
なんでこんなときにこんなこと書くかなあ。

あと、天才児だからこそなしえた犯罪だったのに、結果的にフツーのガキだったことになってるが、フツーの10才のガキにあんな計画を立てるのは無理だと思うがどうか。

(↑ここまで↑)


評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『緑陰の雨 灼けた月』高里 椎奈

2005年10月06日 | ミステリ感想
~感想~
シリーズ中ではいちばん楽しめた。
状況設定が解りやすく、展開に裏切りがあり、物語に起伏があった。
捨てキャラがほとんどいず、造型ができていたことも大きい。
例によって疑問符はたくさんつくものの
(以下ネタバレ↓)
1:どうして道長は先回りして記録を消せたの?
2:前日は流血するくらいブン殴ったのに、翌日は枝でぺちぺちって、結局なにがしたかったの?
3:んで、柚之助は結局どうなったの?
4:田中の妹のその後はまったく描写しなくていいの? 無駄に手遅れになってるし。
5:柚之助の変化は軽く見破れるくせに、毎晩抜けだしてたことにどうして気づかないの?

(↑ここまで↑)
まあ、いつものことか。

今回は氏の描写の浅さを島田荘司と比べて検証してみたい。
島田氏のものす御手洗潔は、ファンクラブが結成されてしまうほどに人気のある名探偵である。
彼の魅力は、推理力はもちろんのこと、女性ファンが多い理由は、その優しさにある。
なにげない行動や言葉の端々からただよう、温かな心。
ただの面白いミステリでは、御手洗シリーズはあそこまで発展しなかっただろう。
御手洗が魅力的だからこそ、ものすごく面白いミステリになったのだ。

んで、深山木秋である。
彼もさりげない優しさが魅力らしい。
しかし大きな問題点がひとつ。彼の優しさはちっともさりげなくないのだ。
たしかに物語中で示される彼の優しさはさりげなく、一見冷淡にも見える言動の裏に、そこはかとなく流れているのだが…。
困ったことに作者は、そのすべてを描写してしまっているのだ。それも執拗なまでに。

「秋は●●と冷たく言った。しかしその裏には●●という思惑があり、本当はリベザルを思いやる言葉だったのである」
などと、なにもかも書いてしまっている。しかもその後に
「リベザルはこれこれこういうわけで感心した。いつかは秋のようになりたいと思った」
と、読者の感想まで書いてしまうサービス(?)ぶり。
優しさが押しつけがましく、そこに読者の介在する余地は少なすぎる。

御手洗が見せる優しさに対する、石岡君の感想は実に簡潔なものである。
読者は個々人で御手洗の魅力にふれ、人柄を味わうことができる。
深山木秋にはそれがない。僕がどうしても好きになれない理由のひとつである。

まあそもそも、島田荘司と比べるのが酷だがな。


評価:★★☆ 5
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