~収録作品とあらすじ~
夜警
夫婦喧嘩の仲裁で、なぜ部下は殺されたのか。
いつかこうなるのではないかと、殉職させたくないと思っていたのになぜ。
上司の柳岡は遺族に話を聞き、意外な真相に気づく。
死人宿
山深い宿で失踪した恋人は働いていた。
そこは「死人宿」と呼ばれる自殺志願者の集う宿で、脱衣所の籠から遺書らしき手紙が見つかる。
柘榴
女たらしの夫との離婚を決意した妻。
だが二人の娘は母とは別の思惑を抱き、ある計画を実行に移す。
万灯
天然ガス採掘のためバングラデシュに赴いた男。
だが交渉は難航し、やがて二人の男の死に関わることになる。
男に裁きをもたらしたものとは?
関守
次々と車が転落死する都市伝説を求め、峠の茶屋を訪れたライター。
一人で店を営む老婆は犠牲者たち全員と面識があった。老婆が語り、そして都市伝説が始まる。
満願
弁護士の私が学生時代、下宿していた畳屋の妻が借金を苦に人を殺した。
彼女はなぜ減刑を拒み服役を受け入れたのか。
~感想~
以前「米澤穂信は小説力が高い」と評したように器用な作家だとは思っていた。しかしこのミス等にランクインした「追想五断章」や「儚い羊たちの祝宴」などの短編集は平均点は高いものの、個人的に突き抜けたものは感じなかった。
長編の「折れた竜骨」は年間ベストにも推した傑作だが、異世界本格というジャンルゆえに壁を乗り越えたと理由をつけていた。
だがこの「満願」の素晴らしさはどうだ。6編いずれも泡坂妻夫や連城三紀彦と並べても全くひけをとらない。それどころか彼らよりも一層「本格ミステリ」であることを意識した筆致で、描写の一つ一つに丹念に伏線を織り込み、謎と真相と解決を一本の線で貫き、しかも一編の物語としてもまるで長編ばりの濃密さの高水準で成立させている。この「満願」をもって米澤穂信は大化けしたと断言して構うまい。
各編の感想は個別に書かないが、いずれ劣らぬ極上の傑作揃い。なんといっても伏線大好き人間としては、さりげなくも周到に張られた豊富な伏線に恐れ入った。
また舞台設定や語り手の立場も様々で、結末もそれぞれ皮肉なものからホラーそのものなものまで違った味わいで、ラノベを皮切りにミステリ、SF、ファンタジーとあらゆるジャンルを網羅してきた作者の懐の深さを感じさせる。
一編ベストを挙げるなら(とベストを挙げるのにもさんざん迷わされたが)「関守」が最も好みで終盤、人の良い老婆のやわらかな語り口のそこかしこに張りめぐらされた伏線が怒涛の勢いで連鎖爆発していき、最後には怪異として全てを取り込むという出色の作品。ホラーもここまで描けるとは!
6編そろってハズレ無しどころか、6編そろって年間ベスト級。これは10点満点を付けざるをえない。
14.11.28
評価:★★★★★ 10
夜警
夫婦喧嘩の仲裁で、なぜ部下は殺されたのか。
いつかこうなるのではないかと、殉職させたくないと思っていたのになぜ。
上司の柳岡は遺族に話を聞き、意外な真相に気づく。
死人宿
山深い宿で失踪した恋人は働いていた。
そこは「死人宿」と呼ばれる自殺志願者の集う宿で、脱衣所の籠から遺書らしき手紙が見つかる。
柘榴
女たらしの夫との離婚を決意した妻。
だが二人の娘は母とは別の思惑を抱き、ある計画を実行に移す。
万灯
天然ガス採掘のためバングラデシュに赴いた男。
だが交渉は難航し、やがて二人の男の死に関わることになる。
男に裁きをもたらしたものとは?
関守
次々と車が転落死する都市伝説を求め、峠の茶屋を訪れたライター。
一人で店を営む老婆は犠牲者たち全員と面識があった。老婆が語り、そして都市伝説が始まる。
満願
弁護士の私が学生時代、下宿していた畳屋の妻が借金を苦に人を殺した。
彼女はなぜ減刑を拒み服役を受け入れたのか。
~感想~
以前「米澤穂信は小説力が高い」と評したように器用な作家だとは思っていた。しかしこのミス等にランクインした「追想五断章」や「儚い羊たちの祝宴」などの短編集は平均点は高いものの、個人的に突き抜けたものは感じなかった。
長編の「折れた竜骨」は年間ベストにも推した傑作だが、異世界本格というジャンルゆえに壁を乗り越えたと理由をつけていた。
だがこの「満願」の素晴らしさはどうだ。6編いずれも泡坂妻夫や連城三紀彦と並べても全くひけをとらない。それどころか彼らよりも一層「本格ミステリ」であることを意識した筆致で、描写の一つ一つに丹念に伏線を織り込み、謎と真相と解決を一本の線で貫き、しかも一編の物語としてもまるで長編ばりの濃密さの高水準で成立させている。この「満願」をもって米澤穂信は大化けしたと断言して構うまい。
各編の感想は個別に書かないが、いずれ劣らぬ極上の傑作揃い。なんといっても伏線大好き人間としては、さりげなくも周到に張られた豊富な伏線に恐れ入った。
また舞台設定や語り手の立場も様々で、結末もそれぞれ皮肉なものからホラーそのものなものまで違った味わいで、ラノベを皮切りにミステリ、SF、ファンタジーとあらゆるジャンルを網羅してきた作者の懐の深さを感じさせる。
一編ベストを挙げるなら(とベストを挙げるのにもさんざん迷わされたが)「関守」が最も好みで終盤、人の良い老婆のやわらかな語り口のそこかしこに張りめぐらされた伏線が怒涛の勢いで連鎖爆発していき、最後には怪異として全てを取り込むという出色の作品。ホラーもここまで描けるとは!
6編そろってハズレ無しどころか、6編そろって年間ベスト級。これは10点満点を付けざるをえない。
14.11.28
評価:★★★★★ 10