小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『僕と先輩のマジカル・ライフ』はやみねかおる

2007年07月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
幽霊が現れる下宿、地縛霊による自動車事故、学校のプールに出没する河童……。大学一年生井上快人の周辺におきた奇妙な事件を、奇特な先輩・長曽我部慎太郎、幼なじみの霊能力者・川村春奈とともに解きあかす!

~収録作品~
騒霊
地縛霊
河童
木霊


~感想~
いわゆる日常の謎系列だが、主要人物がそろって奇矯なのが特色。
霊感グッズに身を包んだ先輩に、霊能力少女、しかし最も奇矯なのは真面目一徹の語り手。謎や真相はたとえば倉知淳『猫丸先輩シリーズ』と比べると小粒なのだが、この3人の強烈なキャラによって、たいへん楽しく読める。なんといっても霊能力者が最も常識人という世界観はそうそうない。
さすがはジュヴナイルの名手。鬼太郎ブックカバー目当てで買った一冊ながら、なかなかの拾いものでした。


07.7.28
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『13階段』高野和明

2007年07月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
犯行時の記憶を失った死刑囚に甦った「階段を上る記憶」。彼の冤罪を晴らすべく、刑務官の南郷は前科を背負った青年三上と共に調査を始める。
処刑までに残された時間はわずか。二人は、無実の男の命を救うことができるのか。
第47回江戸川乱歩賞。


~感想~
乱歩賞作品で最速・最多の売り上げを達成し映画化もされた作品。そのため逆に敬遠していたのだが、読んでびっくり大傑作。分量を感じさせない抜群のリーダビリティで一息に読めるあたり、脚本家、映画監督としても活躍する映画の素養をうまく生かしている……のだろうか。
惜しいのは終盤の展開。全てが引っくり返ったところで(以下ネタバレ→)あっさりと三上の視点を描いてしまい、ひょっとして三上が真犯人なのではと思わせる暇を与えなかった。(そりゃ騙される読者はまずいないだろうが)
また、トリックに関しても(以下ネタバレ→)凶器に指紋を刻むというのは無茶ではなかろうか。詳しくは解らないが、指紋は凶器に付着するものであり、刻印されたら不自然ではないのでは?
ともあれ、そうした細かい瑕疵を気にさせないだけの傑作である。いやはや乱歩賞からこんな作品が出ていたとは。


07.7.25
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『禍家』三津田信三

2007年07月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「ぼうず、おかえり……」12歳の棟像貢太郎は、越してきたばかりの町で、近所の老人に呼びかけられた。
両親を事故で亡くし、祖母と越してきた東京郊外の家。しかし貢太郎はこの町に見覚えがあった。怪異が次々と彼を襲い始め、友人の礼奈とともに探り出した、家に隠された戦慄の秘密とは?


~感想~
純正ホラー作品。
それにしても三津田信三は器用な作家である。ホラー、スプラッタ、ミステリとそれぞれ語り口を変え、ミステリでも『厭魅』『凶鳥』『首無』と全て違う雰囲気を醸成している。
ミステリ三作品と比べて読みやすさは格段。単なるホラーではなく中盤の家の秘密を探る段階では謎解きの妙、伏線の巧さも見せてくれる。
――が、終局のホラーからミステリへと踏み出しすぎた流れはちょっと期待を外した感も。あの結末もいいが、ここまでの展開からいって(以下ネタバレ→)霊を信じない愚かな真犯人を、一家総出でおもてなし を期待――するのは僕くらいの俗物だけだろうか。
ともあれ文庫書き下ろしということで気軽に手を出せるだろう佳作。三津田信三入門編としてもおすすめ。


07.7.18
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『バカミスじゃない!?』宝島社

2007年07月16日 | ミステリ感想
~概要~
世界初(?)のバカミスだらけのアンソロジー。日本が誇る(?)バカミスの雄が一堂に会した!


~収録作品・感想~
「長篇 異界活人事件」 辻眞先
先頭を切るにふさわしい怪作。完全に内輪ウケなのだが、ここまでやってくれれば。

「半熟卵(ソフトボイルド)にしてくれと探偵(デイツク)は言った」 山口雅也
下品。しかし下品さをミスディレクションにしたトリックが冴える。
その冴え方がバカミスなのだが。

「三人の剥製」 北原尚彦
ホームズパスティーシュ。ホームズ譚が終盤一気にバカミスへと転げ落ちる。
脱力の真相と無駄に重い背景がミスマッチを見せる。

「警部補・山倉浩一 あれだけの事件簿」 かくたかひろ
この程度の作品はネットにいくらでも転がっている。
1つや2つ取りだしてどうにかなるものではない。

「悪事の清算」 戸梶圭太
駄目な日本映画の見本のよう。こういうのは個人的に嫌悪しています。

「乙女的困惑(ガーリー・パズルメント)」船越百恵
3つの話が1つにつながり、そして最後にノンフィクションへ(?)
無駄に長いが一息に読ませてくれる。あまりにマンガ的な物語だが。

「失敗作」 鳥飼否宇
まさに失敗作。確信犯でバカミスを書かせるとこんなトンデモな物を出してくるとはさすが鳥飼否宇。

「大行進」 鯨統一郎
バカミスを書いてと言われたのにこんなのを出してきて。
鯨統一郎……空気読めない子!

「BAKABAKAします」 霞流一
もう「流石」と言うしかない。氏のために編まれたようなアンソロジーの掉尾を飾る、正真正銘のバカミステリ。ついでに傑作。さらについでにプロローグとは恐れ入った。


~総括~
霞・鳥飼両氏が確信的にバカミスを書いてきたというだけで読む価値十分。
多少のはずれは「だってバカミスだし」と大目に見られるのもいいところ。しかし霞氏の作品は掛け値なしの傑作である。
次回が万が一あるならば、藤岡真や蘇部健一、西澤保彦の参戦も願いたい。


07.7.16
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『未明の悪夢』谺健二

2007年07月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
1995年1月17日未明、神戸を未曽有の大震災が襲った。一瞬にして崩壊した街で、私立探偵の有希真一は多くの死を目の当たりにする。ようやく救出した友人の占い師・雪御所圭子も……。
そんな最中、バラバラ死体の消失、磔殺人、さまよう謎の自衛官と、連続猟奇殺人事件が発生する。
第8回鮎川哲也賞。


~感想~
面白い、といって不謹慎にならないことを祈るが、実に面白い小説であった。
この年の鮎川賞最終候補は『名探偵に薔薇を』城平京、『3000年の密室』柄刀一、『眠れない夜のために』氷川透と後のプロ作家がひしめく当たり年。それらを押しのけ大賞を射とめたのも納得の、重厚な作品である。
本編の半分は阪神大震災の描写にあてられ、それが実に読ませる。SF顔負けの現実は関東人の想像を絶するものがある。
ミステリとしても「震災の最中だからこそ起こった事件」を見事に描いているが、過酷な現実と比してはちょっと浮いてしまった感も。しかし圧倒的な震災パートだけでも充分に評価できる傑作であり、かつてない読書体験を約束してくれるだろう。
また終盤に(ネタバレ→)実に小説的、あるいはマンガ的な、ある種ベッタベタな生還劇があるのだが、それがベタでありながら無性に嬉しく、多くの人々が容赦なく亡くなる中、たった一人の無事が実に心に響く。ベタでも陳腐でもこれぞ見せ方の勝利だ。
それにしても実際に震災に遭われた方は本書をどう読むのだろうか。谺健二が描き続ける限り、震災は過去にならない。歴史に残る、残すべき傑作である。


07.7.13
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『四神金赤館銀青館不可能殺人』倉阪鬼一郎

2007年07月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「殺してやる。みんな殺してやる」館にこだまする女の怨言。2つの館が凄惨な連続殺人の舞台に。花輪家が所有する銀青館に招待されたミステリー作家屋形。嵐の夜、館主の部屋で起きた密室殺人、さらに連鎖する不可能殺人。対岸の四神家の金赤館では、女の「殺して!」という絶叫を合図に凄惨な連続殺人の幕が切って落される。両家の忌まわしい因縁が呼ぶ新たなる悲劇!鬼才が送る、驚天動地のトリック。
※コピペ


~感想~
袋小路と笑わば笑え。これも新本格だ!

↑は主人公のミステリ作家のセリフだが、この言葉が今作を最も良く表している。
この作家は「実は館ではなく潜水艦だった」というバカミスを書いているのだが、今作のトリックはそれをも上回るバカ……もとい大トリック。
短い分量ながらほとんど全編にわたって伏線が仕掛けられ、前述のバカ大トリックに、無意味な情熱を注いだ言葉遊び、さらに真相が明かされるや爆笑してしまったモノローグと盛りだくさんの内容。ネタとしか思えない著者近影といい、笑って読むのが正しい姿勢だろう。
いわゆる「バカミス」なのだが(だからこそか?)隅から隅まで手間をかけ、本格への愛を込めた傑作である。


07.7.11
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『首挽村の殺人』大村友貴美

2007年07月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
岩手の寒村・鷲尻村の診療所に、東京から医師の滝本がやってきた。
滝本が村に赴任してから、村では謎の連続猟奇殺人事件が起こる。
村に秘められた陰惨な過去が、事件解決の鍵を握るのか?
第27回横溝正史賞。


~感想~
2時間ドラマで横溝正史。

横溝的な意匠をいくらぶち込んでも、素材がこれでは横溝風の2時間ドラマにしか仕上がらない。
寒村、奇妙な風習、おどろおどろしい過去、連続猟奇殺人、見立て殺人とわくわくするような要素ばかりなのに、肝心の筆力と描写力が足りない。
まず会話にオウム返しが多すぎる。もうちょっとセリフの中にオウム返しをさせない工夫をしてほしい。
いくら怪奇仕立てにしても、展開が急すぎて、怪奇味をかもし出せるだけの間がなかった。やつぎばやに事件が起きるのはいいが、それぞれの事件がたいした検討もされず、せっかく不気味な様相を呈しても淡々と語られてしまい、じっくりと味わえないのだ。いわゆる邑ミステリとしても、語られる窮状や逸話はただ語られるだけで存在感が足りない。今年は邑ミステリの傑作『厭魅の如き憑くもの』や『首無の如き祟るもの』を読んでしまっただけに比較してしまうのも痛い。
物語としても連続殺人よりも殺人熊との決闘の方が盛り上がったり、(ネタバレ→)せっかく盛り上がってるのに両者リングアウトみたいな不透明決着だったり ぜんぜん魅力的ではない主人公(?)に次々とヒロイン(?)が惚れたり、見え見えのミスディレクションから予想通りの犯人が浮かび上がったりと、ミステリとしても物足りない。見立て殺人トリックとしては、それは一番やってほしくないトリックの使い方だったのだが……。
寒村ではなく観光名所にし、残酷描写を抑えれば火曜サスペンスとして使えそうな、いまいち陳腐な作品でした。

……ところで帯に「これが21世紀の横溝正史だ」といかにも綾辻行人の言葉のように書かれているが、選評を見る限りそんなことは全く言ってないんだけど……。


07.7.10
評価:★ 2
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ミステリ感想-『空を見上げる古い歌を口ずさむ』小路幸也

2007年07月03日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「誰かがのっぺらぼうが見えると言いだしたら呼んでくれ」そう言い残し兄は家を去った。
クワガタノート、ベイジィ、タンカス山、サクラバ、サンタさん。
自分の子供がのっぺらぼうを見たとき、帰ってきた兄の口から、あのパルプの町が甦る。
第29回メフィスト賞。


~感想~
作中でも使われるプロレスの譬えを借りるなら、投げっぱなしジャーマンのような作品。
派手にネタバレしますので未読の方はご注意ください。

「周りの人間がのっぺらぼうに見える」という抜群の発端、兄の語る懐かしくも暖かな思い出――がどんどん怪しい方向に向かっていく。起こる出来事がいちいちホラー映画さながらなのだ。
牧歌的なムードと正反対に人がどんどん死んでいく。しかも死に方が怖い。のっぺらぼうの男に見守られる前で拳銃自殺を遂げた警官、ウジムシの密集した金ダライに顔を突っ込んで息絶えた男、事件の調査を依頼され「なにか解ったら伝える」としっかり死にフラグを立て、主人公の目の前で倒れる警官などなど。
その他にも原因不明の狂乱を見せる不良少年、誰も近づかない山奥に花畑を築く老婆に、「こちら側へようこそ」と謎めいた言葉を発する女性などなど枚挙にいとまがない。こうなってくると牧歌的な雰囲気がギャップを感じさせ、逆に狂気をはらんで見えてきてしまう。正直『スラッシャー 廃園の殺人』よりはるかに怖いジャパネスクホラーではなかろうか。
応募された当時のタイトルは『GESUMONO』だというあたり、B級ホラーの気配がぷんぷんするではないか。
そして終盤、さまざまな謎を置き去りにして本格ミステリ→牧歌的懐古物語→和製ホラー→SFファンタジィとジャンルの垣根を次々と飛び越え彼岸の地、ニナイカナイへと消えていく豪快な決着には別の意味で驚かされた。

未見なのだが話に聞く映画『フォーガットン』のような作品というのが第一印象。読み終わり、あまりのトンデモさに床に叩きつけるか、思わぬ拾いものしちまったとほくそ笑むか、読者の嗜好が試される問題作、かもしれない。


07.7.2
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『夕萩心中』連城三紀彦

2007年07月02日 | ミステリ感想
~収録作品~
花緋文字
夕萩心中
菊の塵
白い密告
四つ葉のクローバー
鳥は足音もなく


~感想~
文学史に残る傑作「花葬シリーズ」の3編+ユーモアミステリ「陽だまり課事件簿」3編を収録。
悲恋譚がとんでもない反転を見せる『花緋文字』、壮大な歴史ミステリ『夕萩心中』、望外の展開『菊の塵』と期待通りの傑作ぞろい。ユーモアミステリもさすがの堅実なトリック、泡坂妻夫ばりの軽妙さと、作家としての懐の深さを見せつけてくれる。
ダメミスの口直しにはうってつけの、一言一句見逃せないすばらしい文章を堪能させていただきました。


07.7.1
評価:★★★★ 8
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