小金沢ライブラリー

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映画感想―『96時間』

2010年10月31日 | 映画感想

~あらすじ~
18歳の少女キムが、初めての海外旅行で訪れたパリで何者かに誘拐された。偶然にもその事件のさなかにキムと携帯電話で話していた、元特殊工作員の父ブライアンは、命よりも大切な娘を助けるため、単身パリに飛ぶ。
お前が何者なのかは知らない。何が目的かもわからない。身代金を望んでいるなら、言っておくが、金はない。だが、俺は闇のキャリアで身につけた特殊な能力がある。お前らが恐れる能力だ。娘を返すなら、見逃してやる。だが返さないならお前を捜し、お前を追い詰め、そしてお前を殺す」


~感想~
ハリウッド映画の主人公の離婚率は異常。
それはともかく、拉致された娘を助けるため、元工作員の父親が制限時間内に悪の集団を壊滅させる――という要するに「コマンドー」な映画である。
「コマンドー」との大きな違いを挙げると、コメディ要素は全くなく、主人公は娘の救出のためなら手段を選ばない非情な男である。
どのくらい非情かネタバレすると、敵のアジトの情報を知る元同僚の口を割らせるため、元同僚の妻(もちろん一般人)を銃撃してしまうほどだ。い くら切羽詰まっているとはいえ、ジャック・バウアーだってこんなことしないよ。
空手チョップと手近な物への叩きつけを主体とした秒殺バトルや、追跡、カーチェイス、格闘と詰め込みながらも90分超におさえた内容のおかげで 、スピード感は充分なので、アクションだけは楽しめる。難のある脚本を演出でカバーした映画である。


評価:★★★ 6
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映画感想―『タイタンの戦い』

2010年10月20日 | 映画感想

~あらすじ~
古代ギリシャ。人間の王が横暴な神に反乱を企てるが、彼らの宣戦布告に激怒した天上の創造主・ゼウスは、冥界の王・ハデスと魔物たちを地上に解き放つ。
ハデスによって家族を殺された、ゼウスの落とし子・ペルセウスはあくまで人間として復讐を誓った。


~感想~
「古代ギリシャで神の子が神の力を借りて魔物と神と戦う」という言ってしまえば「それなんてゴッド・オブ・ウォー?」なのだが、大きな違いを挙げるなら、主人公はイケメンである。違いはそこだけなのか。
ペルセウス神話が題材だから当然なものの、メデューサの魔力や雷の力を使ったり、巨大な魔物と戦ったりとどうしてもクレイトスの影がちらついてしまう。
またポスターを車田正美が描いていることからもわかるとおり、監督は熱烈な聖闘士星矢ファンで、オリンポスの神々はすげー見覚えのある鎧をまとっているし、いちおうリメイク作品なのに、前作の監督ではなく星矢にオマージュを捧げるなどやりたい放題である。
そういえば映画の感想を書いていないが、あらすじから誰もが想像する通りの内容であるため、特筆すべき点はない。
なお3D映画として公開されたが、撮影終了後に「3Dに変換できるソフトがあるの? すけえ! それ使おうぜ!」と後から加工したものなので、「いちおう飛び出るけどあちこち不自然」「むしろ3Dじゃない方が良かった」な立体化らしいので、安心して通常版を観ていただきたい。


評価:★★★ 6
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映画感想―『キサラギ』

2010年10月19日 | 映画感想

~あらすじ~
C級アイドル如月ミキの一周忌に、彼女の思い出を語り合おうと集まった5人のファン。
「彼女は自殺じゃない。殺されたんだ」一人の発言をきっかけに、彼らの思い出話は思いもよらない方向へと転がっていく……。


~感想~
これは傑作。
一室の中で5人が話しあうだけという舞台劇のような構成だが、考えぬかれた脚本によるどんでん返しが冴えに冴え渡り、観るものを離さない。
伏線の豊富さ・的確さや、二転三転するストーリーは本格ミステリとしても優秀で、5人の演技派に支えられ(小栗旬ってこんなに上手いんだ!)瑕疵が見当たらない。
裏に隠されていた真相は、実のところ予想の範疇に留まるのだが、その見せ方、隠し方が巧みで、「この5人がこの場に集まらなければ解けなかった謎」というひねった趣向が光る。
スタッフロール後の展開は、お約束とはいえ全くの蛇足ながら、110分間にだれる隙もなく、ちりばめられたユーモアも絶妙である。
映画ファンのみならずミステリファンも必見の逸品だろう。


評価:★★★★★ 10
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マンガ感想-『Q.E.D. 証明終了 23』加藤元浩

2010年10月16日 | マンガ感想
「ライアー」★★☆ 5
~あらすじ~
両親に会うため偶然想の友人・ライアンのクルーザーに乗船した燈馬兄妹と可奈。だが海上でライアンが殺害される事件が発生。
しかも乗船した全員にはアリバイがあり、皆ライアンに恨みを抱いていた。

~感想~
あらすじからして思い出すのはかの古典的名作。となれば、もちろんそれを逆手にとったトリックを仕掛けてくれるのはお約束。
……などとそんな大掛かりな所業を、お約束などと気楽に言ってしまえる、ミステリ書きとしての信頼感を持っているのだから、この作者は本当に恐ろしい。
しかしそれだけ大掛かりなだけに、筋が複雑に過ぎてややこしくなってしまったのも欠点。
ここまでのロジックを操れる作家はそうはいないのだから、贅沢な注文なのだが。


「アナザー・ワールド」★★★☆ 7
~あらすじ~
想にリーマン予想を説くと宣言した数学者が学会に現れずに失踪してしまった。
彼は自宅に四行詩を、4人の関係者には四行詩と関連する絵を残していた。4枚の絵に隠された真実とは。

~感想~
とりあえずスキューズ数に燃える。なにそれ熱すぎ。
熱いといえば、暗号に熱が入っていて、読者にはほとんど解きようもないものと、ミステリではおなじみのネタに数学を絡めたものの二つがあり、どちらも面白い。
物語としても、タイトル通り「アナザー・ワールド」に惹かれる燈馬と、彼を現実につなぎとめる可奈との関係が興味深い。
まあこの先も進展はしないんだけども。
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マンガ感想-『Q.E.D. 証明終了 22』加藤元浩

2010年10月15日 | マンガ感想
「春の小川」★★★★☆ 9
~あらすじ~
記憶をなくし絵が書けないという日本画家。そんな彼の前に彼を別人だと思い込む人が2人も現れる。彼の記憶の鍵を握る「大切な場所」の真実とは?

~感想~
これはとにかく読んで欲しい。そしてこの作品がアンフェアかどうか議論しましょう。僕は驚ければよし!


「ベネチアン迷宮」★★★☆ 7
~あらすじ~
銀行強盗に人質としてアランが誘拐された。想たちは彼を助け出すことができるか?

~感想~
天藤真の傑作『大誘拐』を想起させる展開が楽しい。
ベネチアという舞台を活かしたトリックはおいといて、シリーズの重大な転機となるあるエピソードや、意外なところに潜ませた仕掛けもまたお見事。
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マンガ感想-『Q.E.D. 証明終了 21』加藤元浩

2010年10月14日 | マンガ感想
「少しは反省してください」
「朝寝坊に反省しどころある?」



「接がれた紐」★★★ 6
~あらすじ~
雪山で見かけた浮かない表情の男女2人組。想たちの「心中」の予感は取り越し苦労だったが、彼らにはある事情があった。

~感想~
正統派本格ミステリ。物理的なトリックの部分にやや小粒なものが混じってはいるが、それが全てを支えるものではなく、多くの要素が絡み合って物語を作っているため、気にはならない。
短いながらに多くの趣向を盛り込んだ意欲作である。


「狙われた美人女優、ストーカーの恐怖絶壁の断崖にこだまする銃声燈馬と可奈はずっと見ていた」★★★☆ 7
~あらすじ~
落ち目の女優が、マネージャーと仕掛けた狂言のストーカー事件。事件担当の火サスマニア刑事・笠山によって女優の思惑通り騒ぎは大きくなるが、事件は狂言ではなくなってしまう。

~感想~
2時間サスペンスの定石をなぞりつつ、期待通りに定石を逆手にとった思わぬ展開を仕掛けてくれる。
笠山の造型の楽しさはもちろん、伏線も冴えた良作。
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マンガ感想-『Q.E.D. 証明終了 20』加藤元浩

2010年10月13日 | マンガ感想
「無限の月」★★★ 6
~あらすじ~
亡くなったはずの友人から、想にメールが届いた。そこから発生する中国マフィアのボス達による殺人の連鎖。メールに残された「φの場所」の意味とは?

~感想~
お得意の数学ネタ。犯人が消えてしまう連続殺人という趣向がまず面白い。
トリックはそこから考えうる範疇からは外れなかったが、その稚気だけでも買うべきだろう。


「多忙な江成さん」★★★★★ 10
~あらすじ~
資産家である江成姫子の祖母が命を狙われているという。探偵同好会と可奈がその危機を防ごうとするが、その周辺で奇妙な出来事が起こり始める。

~感想~
これは傑作。日常の謎に連なる系譜でありながら、思わぬところから裏の真相が降って湧く。
メインの物語を追いながら、そのところどころに張られた伏線と、最後の逆転劇。年間ベスト級の一作である。
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ミステリ感想-『写楽 閉じた国の幻』島田荘司

2010年10月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
わずか十ヶ月間の活躍。突然の消息不明。写楽を知る同時代の絵師たちの不可解な沈黙。錯綜する諸説、乱立する矛盾。
歴史の点と線をつなぎ史実と虚構のモザイクが完成する時、美術史上最大の迷宮事件の真犯人「写楽」が姿を現す。


~感想~
こ れ は す げ え !!!

要するに写楽の正体に迫ったただそれだけの作品なのだが、その真相たるや、これが事実だとしか思えない圧倒的な説得力と、学術的興奮に支えられ、写楽研究にさして興味のない読者でも引きずり込むこと間違い無し。
一介の浮世絵研究家が写楽の正体を追っていくだけの構成なのに、この面白さはなんだ。写楽なんて名前くらいしか知らないのになぜここまで熱中させてしまうのか。
読み終え、写楽の正体に関してあまりにもそろいすぎた状況証拠に驚き、どこまで本当だよと疑いつつ後書き(物語の大筋と写楽の正体が書かれているので最初に読まないように)を見ると明らかになる「全部本当」というさらなる衝撃の事実。
すごいぞ島田荘司! 写楽研究家じゃないのに! 死ぬほど作家業で働いてるのに!

写楽の謎を解くだけで成立する物語なのに、必要以上に悲惨すぎる主人公の行く末とか、謎めいたままの教授の秘密とか、冒頭で大々的に出てきて究明の鍵となるかと思ったら全然そんなことはなかったぜ!な浮世絵とか、意味不明の手紙とか、ゴッド・オブ・ミステリ島田荘司をして「まるで新人のような目論見違い」と言わしめた、構想20年の名に恥じない情熱を傾けたがゆえにかえって置き去りにされた謎は山ほどあるが、それでも「すげーもん読んだ」と読者を満足させてしまうのだから恐れ入る。
これは島田荘司の新たなる代表作、いやミステリ史に残る大傑作(未完成なのに!)と呼んで構うまい。
歴史ファン、ミステリファンを問わず本好きは必読!


10.10.9
評価:★★★★★ 10
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ミステリ感想-『新世界崩壊』倉阪鬼一郎

2010年10月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
美女・シンディはある組織に属し、ニューヨークを拠点として特殊な任務を遂行している。あるとき彼女は組織の命でターゲットである男をニューヨークの密室で殺害後、瞬時にロンドンに移動。またあるときはアメリカの東海岸から西海岸へ瞬間移動し殺人を繰り返す!彼女は何者!?そして世界崩壊を企む謎の組織の実態とは。
※コピペ


~感想~
「紅白のステージに立っているつもりで、年に一冊、バカミスのパフォーマンスを披露したいと念願しています。目指すは、バカミス界の小林幸子」
と高らかに宣言した本作。今回も期待を裏切らないすごさである。
『四神金赤館銀青館不可能殺人』や『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』を読んだ方ならご想像通りのアレである。
本作の真相が明らかにされた時に感じる、くっだらなさとバカバカしさは屈指のもので、事細かに伏線が示されるごとにほほが緩んでしまう。いやーくだらねえ。
これから年に一度、くだらなくてすごいバカミスが読めるなんて楽しみな限りである。


10.9.30
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『六とん4』蘇部健一

2010年10月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ある日曜日、六人が殺された。死体は岐阜・明智鉄道の六つの各停車駅の近所で発見され、犯人は電車を利用して犯行に及んだとみられる。最有力の容疑者には犯行時刻に鉄板のアリバイがあり、事件は迷宮入りする─「一枚のとんかつ」。他、全11編を収録。伝説のアホバカミステリが、さらにパワーアップして帰ってきたぞ。
※コピペ


~感想~
酷い酷いやっぱり酷い。
「ダメミステリ」「クズミステリ」「トホホミステリ」など様々な肩書きを冠せられるシリーズだが、とうとうミステリですらなくなってきた感が強い。
大半が『動かぬ証拠』でお家芸とした「一コママンガでオチを付ける」方式ながらも、そのオチにいたるまでの過程がもはや強引という言葉で片付けられる範疇を超えていて、ミステリどころか小説の体すらなしていないこともしばしば。
たまに(比較的)出来の良い作品が混じっていたりすると、逆にガッカリしてしまうのも不思議なところ。
なお本書で一番気合が入っているのは、あんまりな著者近影と後書きなので、くれぐれも先にそちらを読まないように。


10.9.27
評価:★★ 4
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