小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『最長不倒距離』都筑道夫

2007年01月31日 | ミステリ感想
~あらすじ~
温泉宿からの「出なくなった幽霊をまた出してくれ」との珍妙な依頼に、物部太郎と片岡直次郎がしぶしぶ赴く。
すると野天風呂で女性が殺され、さらに殺されたはずの女性から電話が……!?
密室、ダイイングメッセージ、現場からなくなっていく被害者の私物。錯綜する謎と論理のエンタテインメント。


~感想~
前作『七十五羽の烏』のような、もつれた謎が解きほぐされていく爽快感はない。細かくちりばめられた謎が各個撃破で攻略されていくが、前作のように伏線に唸ることも、盲点に驚くこともなく不満足。
謎を状況証拠と推理だけで突き崩していく様は、ミステリ技巧的にはすごいのだが、一読者としてみると地味。ひょっとすると映像向きの作品なのかも知れない。名探偵 見てきたように 謎を解き とでもいうか。


07.1.31
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『使命と魂のリミット』東野圭吾

2007年01月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
心臓外科医を目指す夕紀は、誰にも言えない疑惑を胸に秘めていた。
その疑惑を晴らすべき日に、手術室を前代未聞の危機が襲う。刻々と迫るリミットに立ち向かう、医師と警察そして犯人の使命とは。


~感想~
これは本格ミステリではない。解かれるべき謎はあるものの、トリックとは縁遠く驚かされる場面は一つもなかった。
昨今ブームの病院を舞台とした物語だが、ドロドロした描写はなく、登場人物は一人残らず善人(あるいは凡人)といっていい。それだけに、展開は全てが全て予想の範疇に留まってしまい、当然の成り行きから当然の着地を見せてしまった。
一息に読ませる力はさすがで、退屈する場面は全くないのだが、面白い面白いと読み終わり、その後になにも残らない作品なのも事実。
刻々と迫るリミット、主人公・警察・犯人とテンポ良く切り替わる視点とそれぞれの思惑など、非常に単純な筋の、専門知識をほとんど必要としない作品だけに、これまた映像向き、ドラマ向きの作品だろう。
エンタテインメントとしては100点。しかし『容疑者Xの献身』で斯界を席巻した作者の最新作としては、平均点の優等生的作品である。


07.1.27
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『スロウハイツの神様』辻村深月

2007年01月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ある晴れた日。人気作家チヨダ・コーキの小説のせいで、人が死んだ。
自殺志願のファンによる、小説を模倣した大量殺人。
事件を境に筆を折ったチヨダ・コーキだったが、ある新聞記事をきっかけに見事復活を遂げる。
闇の底にいた彼を救ったもの、それは『コーキの天使』と名付けられた少女からの128通にも及ぶ手紙だった。
事件から10年――。売れっ子脚本家・赤羽環と、その友人たちとの幸せな共同生活をスタートさせたコーキ。
しかし『スロウハイツ』の日々は、謎めいた少女の出現により、思わぬ方向へゆっくりと変化を始める……。


~感想~
めんどくせー人間ばっかりだ。だがそれがいい。

正直言って特に興味の湧かない、ものすごくどうでもいい話なのだが、それを飽きさせずに上・下巻読ませる腕が素晴らしい。
登場人物たちはそれぞれに厄介なトラウマや過去を抱え、うじうじしたり衝突したり和解したり恋したり別れたりと忙しい。僕はドラマを全く見ないが、非常にドラマ向きの物語であるように思える。
しかしただの青春小説に終わらないのが氏のうまさ。そつなくさりげなく張られた伏線が最終章でまとめて回収され、真相が明かされるたびに「言ってた! 言ってた!」と久々に興奮した。
余分に思えるエピローグが存在する理由にも、事前に伏線を張ってある周到ぶり。恐れ入った。
年初にして早くも年間ベスト級の傑作。創作に取り組む方にはぜひ読んで欲しい。
思い入れ込みで10点満点。ちょっと泣いたし。


上巻 07.1.20
下巻 07.1.22
評価:★★★★★ 10
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ミステリ感想-『密室殺人ゲーム王手飛車取り』歌野晶午

2007年01月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
密室、アリバイ崩し、ミッシングリンク……ネット上でさまざまな謎に挑む5人。
しかしその事件は全て、彼らが実際に起こした殺人事件だった。
犯人=出題者のくり出す難問奇問の果てに、彼らがたどり着いた地平とは――。


~感想~
「犯人当て」というミステリの肝を無くしながら、トリックだけでここまで面白く描けるものとは。
いわゆる「縛り」を自らに課したことで、「犯人当て」以外のミステリの魅力を研ぎすますことができたのだろう。
で。問題はラストである。なんだってラストがこうなるのか。これでは個人的に大不満だった『世界の終わり、あるいは始まり』の二の舞だ。読了後には思わず「里見の謎……」とつぶやいたし。(スルー推奨)
結末に関してはあるかないか解らないメッセージ性(?)なんかよりも、本格ミステリとしての結末を描いて欲しかった。
ラスト前までは本当に面白かった。ラストだけで評価が5点は下落した。
策士、策におぼれ、才人、才におぼれる。


07.1.16
評価:★☆ 3
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非ミステリ感想-『独白するユニバーサル横メルカトル』平山夢明

2007年01月14日 | ミステリ感想
~収録作品~
C10H14N2(ニコチン)と少年
Ωの聖餐
無垢の祈り
オペラントの肖像
卵男
すまじき熱帯
独白するユニバーサル横メルカトル
怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男


~感想~
「傑作ぞろい」「オススメ」「一般の方にこそぜひ手にとって欲しい」「このミス1位」「日本推理作家協会賞」とほうぼうで絶賛されているとあっては読まないわけにいかない。
で。僕の基準では「駄作」であり「糞」であり「時間の無駄」であり「このミスオワタ\(^0^)/」であり「日本推理作家協会賞オワタ\(^0^)/」であり、簡潔に一言でまとめるならば「可燃ゴミ」でした。
こんなものを「傑作」と推す審美眼が理解できないし「オススメ」できる神経も全くの謎、ましてや「手にとって欲しい」などと購買を勧めるのはもはや犯罪的ですらあると思えてならないし「このミス1位」や「日本推理作家協会賞」はオワタ\(^0^)/という念をさらに強く抱いただけである。
こんなものを「傑作」ともてはやすのならば、僕は自分の中の「傑作」という概念を捨てざるをえないし、こんなものを「ミステリ」と冠するのならば、僕はもう「ミステリ」というものを読みたくはない。
自分は優れた小説読みだと、小説というものが解ると思う向きが「ケッサクケッサク」ともてはやし、ありがたがっていればいいのだ。「納豆カレー」や「天ぷらアイス」のように僕の人生と一切関係のないところで存在していて欲しい。「オススメ」「ぜひ手にとって」「このミス1位」などと僕の人生に割り込まれるのは、正直言ってはた迷惑きわまりない。
もう一つ言うならばこんなものを「このミス1位」や「日本推理作家協会賞」に選んだお歴々は、もう二度と「このミス」や「日本推理作家協会賞」に絡んでいただきたくない。これを平山夢明ではないぽっと出の新人が書いてきても、あなたは票を投じたのですか?
久々に売りたくなった。


07.1.14
評価:問題外
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ミステリ感想-『最後から二番目の真実』氷川透

2007年01月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
女子大のゼミ室から学生が消え、代わりに警備員の死体が現れた。しかも当の女子大生は屋上から逆さ吊りに。
居合わせた氷川透はじめ目撃者は多数。建物の出入り口はビデオで見張られ、全てのドアの開閉は記録されていた。万全の管理体制を、犯人と被害者はいかにかいくぐったか? 奇抜な女子大生と氷川が推理合戦でしのぎを削る。


~感想~
文章はどうしようもなく下手だ。心理描写や心理の変遷はまるで人間になってない。あまりにご都合主義で、不自然とか人間が描けてない以前に、ありえない心理である。
だが、それが腹が立つかというと逆になんだか微笑ましくなってくる。回りくどく書いてるのか、軽妙に書いてるつもりなのか、単に下手なのか解らないが、なぜか癖になりそうな文体なのだ。
「ナンセンスな表現や心理だらけ」と糾弾したとき、ナンセンスという言葉自体が既にナンセンスという自家撞着にして自家中毒な様相をていしており、つまりはこんな感じの文体である。しかも数ページごとに無駄に視点が切り替わるので、非常に読む人を選ぶかもしれない。
文章のおよそ半分は脱線か余談で、それらを省くと1/3の分量に収まるだろう。ではそれが主眼かというと、用意された謎は完全無欠の不可能状況におかれているし、ぶっ壊れた人物造型のワトスン(?)役は、それはそれで魅力的だし、意味深なタイトルの意味など見どころは多い。
ただし解決にはがっかり。伏線があまりにも解りやすい。なんせ(以下ネタバレ→)いままでずっとワンパターンの文体で「氷川は○○した」「氷川は言った」「氷川は○○と思った」と名前+動詞の文体だったのが、犯人が別人に化けている場面では「男は○○した」「相手は言った」と、明らかに名詞を避けており、犯人の変装であることが一目瞭然である。
ガチガチの論理。妙な文体。ありえない人物造型。合う人は合うがダメな人はとことんダメだろう、クサヤみたいなミステリです。
……それにしても、なんでこれを書ける人が『見えない人影』なんて書いちまうんだろう?


07.1.10
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『神曲法廷』山田正紀

2007年01月07日 | ミステリ感想
~あらすじ~
一片の金属すら持込むことができない法廷の中で弁護士が刺殺された。
法曹関係者が連続して殺されていく事件の謎を、神の烙印を押された検事・佐伯が追う。
すべての真相は異端の建築家が造った「神宮ドーム」に隠されているのか? ダンテの「神曲」が支配する世界で、佐伯が聞いた神の声とは?


~感想~
要するに僕は山田正紀と相性が悪いのだろう。
面白いつまらない以前に、むちゃくちゃ疲れた。こんな疲れた作品は『蝶たちの迷宮』以来だし、自分史上最悪作品のそれを連想してしまうぐらい、読んでいてとにかく退屈だった。
まず、全編のモチーフとなっている「神曲」に興味がないのが致命的。知らんし興味もないものを執拗なまでに見立てられても困るし、辟易してしまう。話自体が長いせいか、ところどころでおさらいのように、今までの展開をくり返すのもうんざりした。委細承知している状況を事細かに一から説明され、読み飛ばすこともしばしば。トリックや伏線も、文字で描かれるだけではイメージできないものばかり。その伏線は小説には向いてないってば。
「神の声を聞く」探偵や、最後の最後の結末など、この物語ならではの輝きを見せてくれるのだが――。小説よりも映像向きの作品なのかも知れない。


07.1.7
評価:★ 2
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ミステリ感想-『i 鏡に消えた殺人者』今邑彩

2007年01月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
刺殺された女流作家が死の直前に書いた自伝的小説は、かつて自分が殺した従妹が、鏡に宿り復讐するという内容だった。
そして刺殺現場に残された犯人の足跡は、部屋の隅にある鏡の前で忽然と途絶えていた。


~感想~
よくまとまった、それだけに小粒な印象を受けてしまう作品。
作者が「実質的なデビュー作」と位置づけるだけに、謎・背景・トリック・真相・逆転と非常に手堅いまとまりを見せてくれる。
が、その全てがどうも予測の範疇に留まってしまった。本格ミステリとしては完璧に近い構成である。謎はトリックと溶け合い、奇想はプロットと違和感なく混ざり、終局には一ひねりも加えてくれる。しかし傑作や心に残る作品となるには及ばない。なにもかも本格ミステリとして定番の展開しか見せてくれず、逆転も完全に予想できてしまったのが不満なのだ。
こんな不満は贅沢きわまりないし、作者にとっては言いがかりにも等しいだろうけども。


07.1.5
評価:★★☆ 5
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