小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『初恋ソムリエ』初野晴

2009年11月30日 | ミステリ感想
~収録作品~
スプリングラフィ
周波数は77.4MHz
アスモデウスの視線
初恋ソムリエ


~感想~
前作『退出ゲーム』と比べて本格味が薄いという評判を事前にちらほら聞いていたが、個人的にはむしろ前作よりもいやましているように思ったのだがどうか。
というのも、前作のトリックは大半がいわゆる物理化学の応用授業で、いやいや「トリックはいくらでも作れる」って豪語されても二●堂先生、一般的ではない科学知識で奇妙な現象を起こして「トリックです」って言い張られても、テレビで映像として怪奇現象を見せるでんじろう先生にはかないませんよ系の(長い、そしてわかりづらい譬え)合って無いようなトリックばかりだったので、今作『初恋ソムリエ』のほうが、謎の提示・推理というパートを意図的に薄めてはいるものの、単純にトリックの魅力としては上回るのではないか。
薄めている、といってもそれは物語の流れを邪魔しないように、自然に謎と推理を溶け込ませたためであって、決してマイナス要素ではない。
前作をふまえてのキャラたちの軽妙なやりとり、吹奏楽部してる音楽パートの面白さ、話が進むほどに増えていく仲間集めの楽しさと、手軽に読めて気楽に笑える、一般層に対するアピールもさらに増した良作である。


09.11.30
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『武家屋敷の殺人』小島正樹

2009年11月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
孤児院育ちの静内瑞希は、生家探しを川路弁護士に依頼する。手がかりは捨てられたときに持っていた日記ひとつ。そこには20年前の殺人と蘇るミイラの謎が書かれていた……。


~感想~
島田荘司の『御手洗パロディ・サイト事件』に御手洗もののオリジナル短編を投じて世に出て、『天に還る舟』にて島田荘司御大との共著という異色のデビューを飾ったこの作者。単独デビュー作の『十三回忌』は、ありとあらゆる本格ミステリな意匠とトリックを一作で出してやると言わんばかりの詰め込みすぎ、やりすぎの作品で、あまりに事件が多すぎて、ひとつひとつの謎に費やすページ数がとれず、どんな難問でも探偵がちょっと頭をひねるだけで解けてしまう――というやりすぎにも程がある過剰な内容で、実に楽しませてもらったのだが、今回はカバーと帯に書かれた宣伝からして、
「詰め込みすぎ!」「最後のどんでん返しまで、目が離せないジェットコースター新感覚ミステリー」
という自信満々のうたい文句であり、やりすぎな作者がやりすぎを自認する内容とはいったいどんなものかと期待したのだが、まさしく「やりすぎ」なミステリであった。

まずは冒頭。島田御大の『眩暈』や『ネジ式ザゼツキー』ばりの謎めいた手記が登場するのだが、この手記の謎を解くだけでも十分に一冊ものせるだろうに、ほとんどの謎をくだんの武家屋敷にたどり着くまでの過程で解いてしまう「やりすぎ」さにしびれる。長編にたえうるネタを話のとっかかりに用いるという豪腕につづけて、改めて手記に描かれた物語を別人物の視点から見直し、そこに新たな謎をこれでもかとぶち込み、さらには事件の背景となった江戸時代の事件まで持ち出し、それを即座に解決するという電光石火の早業を見せ、さらにさらに現代パートにまで人物入れ替わりやら家屋(部屋)消失やら謎の首なし死体やらが現れるわ、解決編に移ったと思いきやミイラが突然現れ、死者はよみがえり死体は消失し、合間に本筋とつながらないこれまた謎めいた断章がはさまれ、ようやく大団円を迎えたと思いきや最後の最後に……と、謎と事件とトリックと解決でひたすら話をつなげていくという、THE・本格ミステリの大盤振る舞い。まさかここまで前作を軽々と上回る「やりすぎ」っぷりを見せてくれるとは思わなんだ。
ここまで事件が錯綜し、どんでん返しがつづき多重解決が重なると、ともすれば複雑になるところだが、磐石の結末をきちんと用意し、全く軸がぶれることがないのがお見事。サービス過剰に見せかけて、計算ずくの物語である。
間違いなく今年の本格ミステリ・ベスト10入りするだろうこの作品、本格を愛する方には強くおすすめしたい。
そして誰かがそのうち言うだろうから今のうちに、作者の名字にかけて小島正樹を「やりすぎコージー」と呼んでおこう。


09.11.24
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『Another』綾辻行人

2009年11月20日 | ミステリ感想
~あらすじ~
その「呪い」は26年前、ある「善意」から生まれた。
夜見山北中学に転校してきた榊原恒一は、なにかに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、いっそう謎は深まるばかり。そんな中、クラスメイトの一人が凄惨な死を遂げ……。


~感想~
版元も書店もホラーとして売りたいようだが、これはホラー的な意匠の特殊なルールに基づいた本格ミステリであると断言してしまいたい。
辻村深月のデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』にルール的にはかなり近く、なんでもありに陥る一歩手前で制限を設け、本格ミステリとしての解決をもたらす結末も似通っていると言えるだろう。
似ているといえば無表情・人間関係に希薄・眼帯・メイという名前の響きからあからさまに綾波レイなミサキ・メイもそうだが、だからといってオリジナリティに劣るということは全くない。
前半は思わせぶりな雰囲気だけで、事件のひとつも起こさずに200ページ近く引っ張っていく豪腕ぶりだが、すこしの無理もなく読ませてしまい、冗長さを感じさせない。
この読ませる手腕がとにかくすごく、『殺人鬼』さながらにサイコでスプラッタな描写も少なからずあるのだが、語り手の飄々とした空気とあいまって、緊張感や不穏な空気をほとんど感じさせないにもかかわらず、平易な文体でだれることなく最後まで一息に読ませる力は、さすが新本格の旗手といったところ。
終わってみれば、あらゆる伏線が綺麗に回収され、あとに腑に落ちないところが全くないという完成度の高さ、デビュー作『十角館の殺人』をほうふつとさせる、十八番の巧緻な細工で盲点に隠された「犯人」と、本格ミステリとしてはもちろんのこと、ホラーとしても完璧に物語を収束させ、どこにも破綻が見当たらない。綾辻行人の新たなる代表作、と評してかまうまい。

今年はこのミス1位にふさわしい作品がまだないと個人的に思っていたのだが、最後の最後に滑り込みでこれが現れてくれた。初版が10月30日なのでこのミス期限には本当にギリギリだが、順当に行ってくれることを願う。

09.11.20
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『Rの刻印』ふじしろやまと

2009年11月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
悠久のナイルの川底から日本人ガイドが遺体で発見された。折しもエジプトはハトシェプスト女王のミイラ特定のニュースに沸き、テレビ局と大学の発掘チームが新たな発見をめぐってしのぎを削っていた。だが、“ハトシェプストの呪い”と囁かれる不審な事件が相次ぎ、やがて第二の惨劇が…。
探偵はあなた! 「問題編」を読んで犯人を推理し、エジプト旅行ほか豪華賞品を当てよう!


~感想~
懸賞つきミステリということで、一緒に推理しようぜと友人に呼びかけようとしたのだが……一読、あまりのつまらなさと文章の下手さに断念。
謎解きイベントを手がけるライターの合作だそうだが、ありえない日常会話、大学生とは思えないほど幼い主人公、観光ガイドかなにかのような淡々とした描写と、問題外な筆力のおかげでさっぱり推理に取り組む気が起きなかった。
肝心のミステリ部分も、ヒントと題したパズルが、そりゃ解けるようにしなけりゃいけないのだから簡単にしなくてはいけないだろうが、それにしても大学教授が作ったとは思えない小学生でも解けるようなチャチな代物だったりと、総じて残念な作りになっている。
もし次があるならば、もっとちゃんとした作家にお願いしてね。


評価:なし 0
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映画感想―『ワルキューレ』

2009年11月17日 | 映画感想

~あらすじ~
ナチス・ドイツの敗色が濃くなった第二次世界大戦末期。ドイツ将校シュタウフェンベルクは、ヒトラーの思想や政策に強い疑念を抱き、ドイツの未来を憂うが故に反逆者となることを決意する。
運命の1944年7月20日。大本営<狼の巣>爆破計画。爆弾の作動から脱出まで、与えられた時間はわずか10分。戦乙女ワルキューレは果たして誰に微笑むのか。


~感想~
実話のヒトラー暗殺計画を元にした映画、ということですでにバッドエンド確定・悲劇まっしぐらなことは21世紀の我々には自明のことなのだが、だからといって盛り上がらないということは全くない。
さすがに緊張感こそ薄いものの、史実をほぼそのままなぞる展開と、実際に事件の起こった場所で撮影し、装備や兵器も当時のものを再現したというこだわりの舞台設定で、みんな英語で話し英文で通信しているという不自然さもあまり感じることなく、臨場感ある物語に仕上がっている。
謀略戦だけに戦闘シーンすらほとんどない、いたって地味な映画なのだが、個人的に興味の深いナチス・ドイツということもあり、最後までだれることなく鑑賞。
観終わった後にはwikiで実際のワルキューレ作戦を調べるのもまた楽しい。


評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『西南西に進路をとれ』鮎川哲也

2009年11月15日 | ミステリ感想
~収録作品~
ワインと版画
MF計画
濡れた花びら
猪喰った報い
地階ボイラー室
水難の相あり
西南西に進路をとれ

~感想~
鮎川御大の絶版短編集。
最後の(?)倒叙ミステリとなった『ワインと版画』をはじめとする倒叙ものと、異色の短編『猪喰った報い』、そして本格ものとバラエティ豊かなラインナップがそろっている。
ほとんどがこの文庫にしか収録されていない希少な作品ばかりなので、マニアをうらやましがらせるために(マニアはこんなブログ読まねえよ)あえて内容には触れないが、本格もの3編はトリックこそ単純ながら、いかにも鮎川短編らしい不可能状況をきっちり作り上げているのがお見事。
でも表題作は、鮎川哲也は茅ヶ崎在住だったから思いついたんだろうけど、あのトリックは地元在住の人間にはかなり無理があると思えてならないw


09.11.15
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『屋上ミサイル』山下貴光

2009年11月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
アメリカ大統領がテロ組織に拉致されるという大事件が発生していたものの、日本の高校生にとって、それは遠い国の出来事だった。
美術の課題のため、屋上にのぼった高校二年生の辻尾アカネ。そこで、リーゼント頭の不良・国重嘉人や、願掛けのため言葉を封印した沢木淳之介、自殺願望を持つ平原啓太と知り合う。屋上への愛情が共通しているということから、国重の強引な提案で“屋上部”を結成することになった四人。屋上の平和を守るため、彼らは屋上に迫る数々の脅威に立ち向かう。
このミステリーがすごい!大賞2009年受賞作。


~感想~
軽妙でテンポはいいが、笑いにはつながらず魅力的には映らないやりとり、「お前絶対そんなこと思ってなかったろ」とつっこみたくなる、感情の振り幅が0から100に動くような不自然な心理描写と、いわゆるラノベじみた様相が読む人を選ぶだろうが、とにかく勢いだけはあり、抜群のリーダビリティでぐいぐい引っ張っていく力だけは買える。
物語はミステリというよりもRPGみたいなノリで、次から次へとエンカウントバトルのように事件が降ってわいては、解決すると重要アイテムと情報を手に入れ、それが次の事件へとつながっていくというご都合主義きわまりないもので、推理や捜査ではなくフラグ立てをしているだけのように思えるのがネック。
この都合のよさが徹底していて、だいたいの「Why(なぜ)」が「偶然」で片付けられてしまい、つまり「偶然落とした」「偶然拾った」「偶然見ていた」「偶然知ってた」「偶然つながっていた」という有様で、どんだけこの世界は狭いんだよ、っていうかこれ山口雅也の『奇偶』じゃね? とつっこみたくなってしまう。
とはいえデビュー作らしい詰め込みすぎのにぎやかさ、本筋とつながらないテロ事件にもきっちり結末と理由をつける丁寧さ、ぶっ飛んだ言動も思考もないのに印象に残るキャラたちと、荒削りな輝きは随所にあり、将来性は感じられる。
ひょっとするとこの人はミステリには向いてないのかもしれないが。


09.11.13
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『私という名の変奏曲』連城三紀彦

2009年11月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
世界的ファッションモデルとして活躍する美織レイ子が自宅マンションで死体となって発見された。
しかし彼女を殺す動機を持つ七人の男女たちはそれぞれが「美織レイ子を殺したのは自分だ」と信じていた……。


~感想~
複雑なストーリー、誰の視点か明かされない独白で語られていく構成と、作者が連城三紀彦でなければ物語が錯綜してしまい、筋を追うことすら困難になってしまうだろうが、そこはミステリ界屈指の筆力を誇る作者。鮮やかな手並みで難解な物語を難解に見せず、「七人に殺された女」という幻想的な謎を、現実的に解体し、なおかつ現実的でありながら興ざめさせない真相を描きだしてくれる。
そしてどこまでも本格ミステリであり、しかもどこまでも恋愛小説でもあるという破格の小説で、「純文学じゃなければ小説じゃない」という層も文句を言えないことだろう。
やはり連城三紀彦がミステリを書いていることは、ミステリ界とミステリ読みにとって大きな誇りである。


09.10.23
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『無貌伝 夢境ホテルの午睡』望月守宮

2009年11月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
怪盗・無貌……それは世界が畏怖する魂と人間のヒトデナシ。探偵・秋津とその助手・望は、無貌逮捕の報を受け、「夢境ホテル」へと向かった。そこには、名だたる三探偵をはじめ、一癖も二癖もありそうな宿泊客ばかりが。やがて、探偵たちを嘲笑うかのようにホテルの一室で刺殺死体が発見される。


~感想~
期待の新人の待望の第二作は、期待にたがわぬ代物だった。
この新人はデビュー二作目にして早くも「ヒトデナシ」という異形の存在を見事に活かし、この作品でしかなしえない自分だけの物語を、安定感あふれる筆致で描ける力を身につけている。
「ヒトデナシ」の能力はなんでもありすぎて、ひとつ間違えば興ざめになってしまいかねない危険な題材だが、作者は抜群のバランス感覚で「ヒトデナシ」のいる世界の魅力だけを抽出し、物語に奉仕させることに成功しているのだ。
そう、ぶっちゃけるとこの小説は本格ミステリじゃなくても十分に楽しめる。その証拠に、本格な部分の真相は意外と早くに明かされ、探偵による謎解きが終わった後にラスボスとのバトルが始まるのだが、ここが本編よりも盛り上がり、どんどん本格からもミステリからもかけ離れた地平へと飛んでいくのだが、主眼のはずの謎解きよりもさらに読ませ、楽しめてしまうのだ。
「第三巻へつづく」と書かれてもまったく違和感のない、後を引くラストシーンといい、早くも次回作が待ち遠しい。もう次は万が一ぜんぜんミステリじゃなくなっても買うね。
メフィスト賞はひょっとすると、とんでもない逸材を手に入れたのかもしれない。


09.11.10
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『ここに死体を捨てないでください!』東川篤哉

2009年11月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
有坂香織は「見知らぬ女を殺した」という妹の一報を受けた。動揺のあまり高飛びした妹の代わりに、事件を隠蔽しようとする香織だが、死体があってはどうにもならない。どこかに捨てるには協力してくれる人と、死体を隠す入れ物がいる。考えあぐねて、窓から外を眺めた香織は、うってつけの人物を見つけたのであった……。


~感想~
待望の烏賊川市シリーズ最新作。
いつもながらの全編にちりばめたオヤジギャグとコントさながらのドタバタ劇の中にこっそりと伏線を忍ばせる手腕が冴える。
探偵トリオに加えて今回は主役(?)を務める香織と鉄男がベッタベタの喜劇をくり広げるため、リーダビリティは抜群。あれよあれよという間に事件は思いもよらない展開を見せるのだが、終わってみれば実に丹念に仕掛けられたトリックが潜んでいるのはいつもどおり。
さらに今回は意外かつ豪快なトリックが明かされたあとに、予想だにしない事件の本当の構図が姿を見せ、もうひとつ驚かせてくれる。この事件がこう転がっていって、こういうところに落ち着くのかと感心しきり。まったく、他に類を見ない奇異な才能を持った作者である。


09.9.27
評価:★★★★ 8
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