小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『時限絶命マンション』矢野龍王

2006年10月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「部屋対抗悪魔人形たらい回しゲーム。タイムリミットに人形を持つ部屋の住人は死刑。生き残れるのは9戸中1戸のみ」
何者かの手により始まったマンション内サバイバルゲーム。住人たちが死闘をくり広げるなか、「生きるために人を殺す」ことに戸惑う高校生・恭二。
だがその彼にも追いつめられた住人たちは牙を剥く。彼の運命は。ゲームを操る者の正体とは。


~感想~
メフィスト賞史上最低作品の誉れ高い前作『極限推理コロシアム』のスピリットを受け継いだ、サバイバル馬鹿ミステリが再び降臨!
下手な文章、安っぽい感動、矛盾だらけの心理描写、穴だらけのルール、どこにも見当たらない緊張感に駆け引きと、まさに完全無欠!
見返しの作者の言葉からして脳髄が痺れる。

「夜空に輝く打ち上げ花火のように、ど派手!!な殺人ゲームを用意しました。もう容赦しません。あなたの息の根も確実に止めて見せます。 -矢野龍王―」

あははははははははww 痛い。痛いよ龍王。狙っては出せないこの痛さ、さすがは我らが龍王。
ガッデム!(本文より抜粋)
しかし前作よりは考えて作ったらしく、どこかで見たことある真相をどこかで見たことある伏線で包み、どこかで見たことあるトリックを仕掛けてくれたのには驚いた。すごいぞ龍王! 今度はどこかで見たことないのを使ってくれ!

散々にけなしてみたが、意外と楽しく読めてしまったのも事実。とはいえ楽しみ方は、ルールの穴やトンデモ心理描写やお馬鹿な展開にツッコミを入れるという暗い楽しみ方。これは21世紀の読者参加型インタラクティブミステリなのだろうか。(違います)
矢野龍王作品だということをわきまえ、時間・お金の無駄だと割り切って読めば十分に楽しめるはずです。
猪口才な!(本文より抜粋)


06.10.28
評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『犬坊里美の冒険』島田荘司

2006年10月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
弁護士の卵・犬坊里美が初めて手がけた事件は不可能犯罪!?
雪舟祭のさなか、衆人環視の境内に、忽然と現れ、忽然と消えた腐乱死体。残された髪の毛から死体の身元が特定され、一人のホームレスが逮捕された。
しかし死体はどこに消えたのか。被告人の頑なな態度はなぜなのか。
自ら担当を名乗り出た犬坊里美が、涙を力に変え不可解な事件に挑む。


~感想~
御手洗・吉敷シリーズと比べれば、筆致は圧倒的に軽い。検察の捜査はあまりにずさんで、絵に描いたような冤罪っぷりは無理がありすぎる。だがそれらはあくまでも、物語を解りやすく見せるためのもの。
新たなるシリーズ主人公として立ち上がった犬坊里美は、なにかといえばすぐに泣くし、捜査は遅々として進まないあげく、恋に捜査に観光にと忙しい。語尾はあいかわらず間延びして、緊迫感も伝わらない。だが、読み進むうちになぜか応援してしまうのが島田マジック。
軽妙な物語に見合って(?)真相は一歩間違えばバカとしか言いようのないトンデモトリック。とはいえこれを軸に法廷ミステリをしっかりと組み上げ、隠された動機や事情にさらりと悲哀を仕込むのはあいかわらずの巧さ。
あからさますぎるハッピーエンドもご愛敬。御手洗抜きでこれだけのミステリを見せてくれたらもう脱帽するしかない。
イラッときたらはまってる証拠です。


06.10.26
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『二枚舌は極楽へ行く』蒼井上鷹

2006年10月24日 | ミステリ感想
~収録作品~
野菜ジュースにソースを二滴
値段は五千万円
青空に黒雲ひとつ
天職
世界で一つだけの
待つ男
私のお気に入り
冷たい水が背筋に
ラスト・セッション
懐かしい思い出
ミニモスは見ていた
二枚舌は極楽へ行く


~感想~
短編・掌編とりまぜた作品集。
連作というわけではないが、各編が他の物語にも顔を出し、微妙にからみ合う。
作品の質はどれも一定水準を上回り、ハズレは見当たらない。デビュー作の『九杯目には早すぎる』のいわゆる小市民テイストを残しつつも、新たな切り口を見せてくれる作品もちらほら。
なかでも傑出しているのは、小市民テイストを封印した「ラスト・セッション」。長編にしても耐えられるような題材を、短く手堅くまとめ、見事な幕引きへとつなげた秀作である。
表題作の「二枚舌は極楽へ行く」が一番の好みで、なんともいえない真相と、黒い笑いを誘う結末が逸品。
主人公の軽妙な語りだけで描く「天職」や、意外な決着に驚く「待つ男」など佳作があるわあるわ。
また「私のお気に入り」が特に顕著だが、末尾に記す参考文献がオチになっているのも面白い。どこが参考やねん。
気楽に読めて気楽に楽しめる、ミステリ読みだけに限らずあらゆる本読みを満足させるだろう、懐の深い作品集である。


06.10.24
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『背の眼』道尾秀介

2006年10月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「レエ オグロアラダ ロゴ……」
河原で耳にした不気味な囁きの意味に気づいた道尾秀介は、「霊現象探究所」を営む旧友・真備庄介を訪ねる。
真備の元に寄せられていた、背中に眼の浮き出した写真との関係は?
第5回ホラーサスペンス大賞特別賞。


~感想~
いま最も注目べきミステリ作家のデビュー作。
ホラー小説の賞を獲っただけはあり、一部の怪奇現象は霊のしわざとして処理されたり、霊能力者が登場したりもする。
しかし解かれるべき謎は現実に足を着けて論理的に解かれ、ミステリとしても文句なく成立している。
「レエ オグロアラダ ロゴ……」の意味を解く導入部からして秀逸。それだけでもホラー短編として十分に成立するが、それもただの前フリにすぎない。背中に眼が浮き出た写真を撮られた者が次々と自殺していくという謎を主体に、民俗学もからみながら物語は進んでいく。
後の『骸の爪』や『シャドウ』のような、表の物語を語ることで裏で進行している物語を隠す二重構造も、まだまだぎごちないとはいえ健在。ともすれば地味な、衒学に傾きそうになる物語を最後まで飽かさず読ませてくれる。
終盤の真犯人との対決は、あの憑き物落としさながら。解決ではページを多く費やし、この物語でしか語り得ない真相を現出させるところも京極夏彦をほうふつとさせる。そしてなんといっても幕切れがいい。『骸の爪』や『シャドウ』と同じく着地が本当にうまい作家である。
シリーズ第二作の『骸の爪』では、ガチガチの本格ミステリとして没個性だった真備の内面も深く描かれ、ミステリのみならず小説としても抜群の出来。ホラーとしても申し分なく、傑作はジャンルを超えることを教えてくれる。
間違いなく10年先には大家として知られるだろう道尾秀介。本作はその第一歩として見逃してはならない。


06.10.23
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『刑事の墓場』首藤瓜於

2006年10月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
署長の右腕として活躍したエリート刑事・雨森の転任先は、一度も捜査本部が置かれたことのない動坂署。
そこは不祥事を起こした者や無能な警官を飼い殺すための“刑事の墓場”とささやかれていた。
ふてくされた雨森の初仕事は、痴話喧嘩が原因の些細な傷害事件。だが、やがて県警全体を揺るがす大事件に発展し、動坂署の危機にすね者たちがついに立ち上がる。


~感想~
無能とさげすまれていた刑事たちが、特技を活かして立ち上がる――という展開は王道ながら、軽妙なキャラとあいまって読ませてくれる。
が、ミステリとしての結構は弱い。唐突に出てきた感のある犯人や、特にないトリック、終盤でも伏線に転じることもなく空振りに終わる聞き込みが淡々と描かれたりと、ミステリと言うよりも刑事小説と呼んだ方がしっくりと来る。
しかし、せっかくの刑事たちの異能も、要所要所で絡むだけで、物語全体を支えるには物足りない。というか、何人かは動坂署に送られた理由も描かれず、手持ちの札を出し惜しみしてしまい、非常に物足りない。次作以降への伏線なのかもしれないが、単品として見る分には弱いのだ。最後に明かされる動坂署に秘められた秘密も脱力もので、乱歩章受賞以来、6年ぶりの長編にしては練り込み不足に見えてしまう。
ともあれシリーズ第一作としては及第点。登場人物たちは魅力的なだけに、次が楽しみな一作ではある。


06.10.18
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『赤い指』東野圭吾

2006年10月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
息子が幼女を殺した。
認知症の母以外に問題のなかったはずの平凡な家庭が壊れる。
「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身によって明かされなければならない」
加賀恭一郎がたどり着いた真実とは?
直木賞受賞後の第一作。


~感想~
直木賞を獲ろうが、各賞を総ナメにしようが、氏のスタンスは変わらない。
ある作家は直木賞を獲り「ミステリではなく文学として評価されうれしい」と述べ、ミステリファンからの顰蹙を買った。
しかし東野圭吾は「ミステリで受賞できてうれしい。これからもミステリを書いていきたい」と述べ、喝采を浴びた。
そして受賞第一作。氏は自分の言葉と期待を裏切らなかった。
社会問題や平凡な一家族の抱える闇を描きつつも、あくまでもトリックに奉仕した“ミステリ”を描いてくれた。
真相は「トリックがある」と身構えて臨めば、見抜きやすい。だが、受賞にも惑わず今までどおりの作品をものす、そのミステリにかける心意気がうれしくも心憎いではないか。
小説として見ても、加害者家族の心情や苦渋の選択、迷いと葛藤、そして結末で明かされる悲哀と、決して長くない分量で見事にまとめている。また、僕は初読なので解らないが、加賀恭一郎シリーズとしても見どころの多い作品らしい。
シリーズを知らなくても、刑事と加害者、2つの親子の在り方は心に残る。ミステリ好きも文学好きも安心して手に取れる佳作だろう。


06.10.14
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『ヴェサリウスの柩』麻見和史

2006年10月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
第16回鮎川哲也賞。
解剖実習中、遺体の中から教授への脅迫状が発見された。それをきっかけに次々と奇怪な事件が起きる。
ドクター・ヴェサリウスと名づけられた犯人の目的は? そして19年の時を経て甦る壮絶な計画とは?


~感想~
こんなことを言えるほど読んではいないのだが、非常に「最近の乱歩賞っぽい作品」であった。
魅力的な発端は魅力的なだけで、さして意外な裏はない。やはりデビュー作だけあって人物の書き込みといい、役割分担といい洗練されていない。必要のない人物、不自然な行動を取る人物が多すぎた。
また、過去も動機も背景も伏線も真相も、すべてセリフで語られるだけで厚みが足りない。言葉として扱われるだけで、実際にあった物語だという質感が薄いのだ。現実に即しろと言うのではなく、物語の中で存在感を持ってさえいればいいのだが、物語の中でさえ、存在感を主張していないように思えるのだ。
展開も盛りあげるべきところで流し、流すべきところもしっかり流したため起伏に乏しい。
技巧的な面ばかり批判してしまったが、なにより本格魂に欠けていたのが最たる不満。歴代受賞作家に――といっても芦辺拓や加納朋子の名しか浮かばないのだが――流れていた、本格魂を受け継いだ作品ではない。それが本作の最大の欠点であり特色であろう。


06.10.12
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『シャドウ』道尾秀介

2006年10月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
闘病の末に母を亡くしたときから、鳳太の日常が歪みだす。
父が、おじさんが、おさななじみが歪んでいくなか、脳裏に浮かぶ遠い日の光景はなにを語るのか?


~感想~
傑作。
期待の俊英は『骸の爪』から一転し、日常を舞台にまたしても大傑作をものしてみせた。
裏で進行している物語を隠しながら、表の物語を語る手法が実に巧み。その表の物語だけでも十分に作品を支えうるのに、幕引きに表裏一体となったときのカタルシスは並み居るミステリ作家の中でも屈指のもの。もはや俊英などという言葉ではくくれない貫禄すら感じる。
これが氏にとって失礼な言葉ではないことを祈って言うならば、道尾秀介こそは京極夏彦以来の逸材である。それもシリーズ作品ではなく、おのおの独立した舞台で、これだけの傑作を描くのだからすごい。
物語としても一流でありながら、本格ミステリとしても一流。氏の名はもっともっと広く知られるべきだ。
話が話だけにあらすじは書きにくい。とにかく読め。読んでくれ。ここに次代の、そして稀代の天才がいる。


06.10.10
評価:★★★★★ 10
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ミステリ感想-『邪魅の雫』京極夏彦

2006年10月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「殺してやろう」「死のうかな」「殺したよ」「殺されて仕舞いました」「俺は人殺しなんだ」「死んだのか」「――自首してください」「死ねばお終いなのだ」「ひとごろしは報いを受けねばならない」
昭和28年夏。江戸川、大磯、平塚と連鎖するかのように毒殺死体が続々と。警察も手を拱く中、ついにあの男が登場する!
「邪なことをすると――死ぬよ」
※カバー裏から転載


~感想~
決して凡作ではないし退屈でもないのだが、手放しでは褒めづらい作品に仕上がった。
前作『陰摩羅鬼の瑕』は50ページでトリックが解り、以降は延々と消化試合を見せられた感覚で全く印象に残っていない。それと比べれば本作の印象は後々まで残りそうなものではある。その点カバー裏に決めゼリフ「邪なことをすると――死ぬよ」を配したのは大正解だろう。
氏の作品は妖怪小説(もしくは京極小説)であり、ミステリとして評するのは見当違いかもしれない。それでもミステリとして端的に述べるならば、これは「解りやすい絡新婦の理」であろう。解りやすいだけに「劣化」と評する向きが多いのだが。しかし作中に「操りの犯罪」というそのものズバリの言葉が出てくるとおり、昨今のミステリ界で人気の「操りの犯罪」を扱ったものではあるのだが、その扱い方が普通ではないのが氏の腕の見せ所。
タイトルでありテーマである「邪魅の雫」と密接にからみあい、今までのシリーズとはかけ離れた展開を見せてくれる。――のだが、その展開はこちらの期待するものから乖離しているのも事実。
はっきり言ってしまえば「妖怪成分が足りない」「木場成分が足りない」「榎木津成分が足りない」「ウンチク成分が足りない」つまりは「シリーズ成分」が足りないのだ。舞台を限定したことで、おなじみのメンツが必要最小限しか出なかった前作から数年ぶりの新作だけに、いくつもの都市を股に掛けた今作では、常連たちの活躍(?)を見たくなるのがファン心理である。しかし――描かれるのはなじみのメンツ以外の心理と視点ばかりで、当てが外れてしまったのだ。
起こる事件は非常に奇抜。導かれる結論も異様。しかしどうもこちらの期待するものではなかった。
蛇足になるしさんざん指摘されているが、全く必要のない評論家批判はともかくとして、澤井・澤田の名前の混同はいったいなにをやっているのだろうか。


06.10.8
評価:★★☆ 5
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