小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『奇偶』山口雅也

2002年11月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
アメリカを襲った同時多発テロ発生の夜、推理作家の火渡雅は、
取材のため訪れたカジノで、福助と名乗る異様なまでの強運に恵まれた男を目撃した。
翌日、火渡はダイスのかたちをした巨大な電飾看板が落下し、通行人が圧死する現場に遭遇する。
犠牲者は前夜、福助との勝負で負けつづけていた男だった。
それをきっかけに火渡の周辺で、ありえないような偶然が頻発する。

このミス3位、文春4位、本ミス8位


~感想~
(ネタバレぎみ→)「神の名は……」に収束する展開はとにかく見事。衒学づくしを退屈させないのは氏の面目躍如といったところ。しかし……。サイコロすなわち箱の物語を『匣』で締められては食い足りない。あまりにも無意味な叙述トリック。不定の結末。こんな物語は望んでいなかった。 「まさかあれかなあ」と危ぶんでいたトリックがずばり的中で物悲しい。引っぱるだけ引っぱった分量に見合う真相・結末とはとても思えない。はっきり言って期待はずれ。


02.11.30
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『吉敷竹史の肖像』島田荘司

2002年11月25日 | ミステリ感想
~収録作品~
光る鶴
吉敷竹史、十八歳の肖像


~感想~
まさに集大成。吉敷竹史の総決算。
ここまでやられては文句のつけようもない。ファンは感涙のこの一冊。ぜひとも座右におひとつ。
収録作品は……いかにも氏らしい熟練の技巧。
結末へとよどみなく流れる物語には唸るばかり『光る鶴』。
ついに登場、若き日の吉敷『肖像』。

文庫版には短編『電車最中』を書き下ろし。


02.11.25
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『パロサイホテル』島田荘司

2002年11月23日 | ミステリ感想
  


~収録作品~
二年前の選択に対する回答  ――安藤晃弘
ジョーカー  ――中川淳一
この花の咲く木の下  ――竹内玲子
消えなかった『キ』  ――松尾詩朗
空に消える/冬のオルカ  ――あさなぎ
それが怖い  ――青田歳三
忍者屋敷  ――山田
火事場の水死事件  ――菅原大樹
横浜奇談  ――北川浩二
Architect Panelize  ――庚/カスミ
トロイメライの鈴  ――極楽桜丸
時計仕掛けの密室  ――矢部 貫

動物園の密室  ――霧舎 巧
ト形館の犯罪  ――松尾詩朗
foの密室  ――高槻榛襾
小さな救いの手  ――江馬栗栖
名もなき騎士のために  ――船引良祐
呪われたカラオケ館  ――優木 麥
明晰夢  ――鍋澤純子
作家と探偵の聖夜  ――美帆・ライト
極楽食堂  ――杉永裕章
雪に吊られた男  ――小島正樹
温泉天ぷら談話  ――角田妃呂美
The Stolen Essay  ――Crystal Stevenson
幻想の塔の天使  ――香乃瀬たくみ


~感想~
(全体的にネタバレ&毒吐きのため伏せ字→)上巻:頭の体操より抜粋?『二年前』。どこかで見た気がするが巧い『ジョーカー』。長すぎ『木の下』。無茶だ『『キ』』。清掃員は真冬なのに薄着だったのか……『空に消える』。うまい!『それが怖い』。御手洗ってテレビっ子だったのか『忍者』。物理トリックは……『火事場』。まとまっただけ『横浜』。論外『Architect』。トリック丸見えもまずまず『トロイメライ』。若書き(若いのかな?)『時計』。
下巻:やはりプロは違う『動物園』。豪快。でも似てるかあ?『ト形』。上巻でほとんどネタバレされ気の毒『fo』。設定はともかく力不足『小さな』。惜しい『名もなき』。笑えるか? これ『カラオケ』、ほぼ論外『明晰』、事例をそのまま写しただけのような『聖夜』、同人誌的ノリにはついていけない『食堂』。これはすんばらしい! 奇想『雪に』。雑学のみ。御手洗いないじゃん『温泉』。ごめん読めない『Essay』。酔いすぎ『塔の天使』。

長編としての完成度は前作の比ではない。収録作品の質は前回より落ちた感。
なにより驚いたのは誤植の山。おおげさではなく、1ページに1つないか?


02.11.22~23
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『バビロン空中庭園の殺人』小森健太朗

2002年11月21日 | ミステリ感想
~あらすじ~
世界の七不思議の一つ「バビロンの空中庭園」には不可解な謎がある。
王都陥落時に屋上に逃げた王女が、敵兵の眼前で不意に姿を消したのである。
考古学界の権威・葦沢教授はその謎に取り組んでいたが、解明直前に大学の屋上から墜落死した。
しかも犯人は屋上から忽然と消失していた。まるでバビロンの王女のように。


~感想~
小森健太朗=メタミステリ、メタミステリ=小森健太朗と言われるものだから、どんなものかと思ってみれば。
意外なくらいオーソドックスな造りで、逆に驚かされた。
いたって普通の正統派ミステリ。よくできているが、書き下ろしのためか水増しされているのが玉にきず。


02.11.21
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『スタジアム 虹の事件簿』青井夏海

2002年11月21日 | ミステリ感想
~収録作品~
幻の虹
見えない虹
破れた虹
騒々しい虹
ダイヤモンドにかかる虹


~感想~
連作ぎみ短編集。
小粒ながらもぴりりと辛い。この人野球を知らないんじゃあ? と思う不自然な描写は多々目につくが(というか校正と編集者はなにをやっている?)野球とからめた謎解きが巧い。味わい深い一冊。


02.11.21
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『ミミズクとオリーブ』芦原すなお

2002年11月20日 | ミステリ感想
~収録作品~
夫の友人の刑事が持ち込んだ難事件を、郷土料理を振る舞うかたわら、すらすら解いていく奥さん。
優れた人間観察眼と、それに勝るとも劣らない、手料理の数々。
直木賞作家が全く新しい安楽椅子探偵を生みだした!

ミミズクとオリーブ
紅い珊瑚の耳飾り
おとといのおとふ
梅見月
姫鏡台
寿留女
ずずばな


~感想~
文章は本当に巧い。描写の妙、魅力的な人物たち。目に浮かぶ手料理の数々……。
そしてそれら全てをぶち壊す、あまりにも稚拙なミステリ味。

たとえば意味ありげに奇妙な呪文が(ネタバレ→) 犬の好きな響きの言葉(What!?) だったり。
たとえば謎に包まれた足跡が(ネタバレ→) 単に奇をてらっただけ だったり。

ミステリを全く知らない人が書いたミステリになっており、目を覆わんばかりの惨状である。
ミステリの定石を(悪い意味で)とことん裏切り、ことごとく無視する様には「ありえねぇ」の一言。
素材はいいのに調理が最悪。『愛のエプロン』を思わせる短編集でした。


02.11.20
評価:問題外
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ミステリ感想-『ブラディ・ローズ』今邑彩

2002年11月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
美しい薔薇園を持つ屋敷の主人のもとに嫁いだ花梨。
主人の二番目の妻は謎の墜落死を遂げたばかりだったが、主の妹・晶はじめ屋敷の一同は新しい花嫁を歓迎する。
だが、花梨のもとに悪意をむきだしにした脅迫状が届くようになり――。

本格ミステリベスト100 69位


~感想~
今日的に見れば、やや「ありがち」なトリックではある。
しかし洗練された手並みや抑えた筆致、プロットの鋭利さには目を見はる。描写がとにかく上手い。
目新しさがないため4点としたが、佳品ではある。


02.11.19
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『凍える島』近藤史恵

2002年11月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
得意客ぐるみ慰安旅行としゃれこんだ喫茶店〈北斎屋〉の一行は、瀬戸内海の真ん中に浮かぶS島へ。
かつて新興宗教の聖地だった島に、波瀾含みのメンバー構成の男女八人が降り立つ。
退屈する間もなく起こった惨事にバカンス気分は霧消し、やがて第二の犠牲者が……。

第4回鮎川哲也賞


~感想~
どうにも好きになれない作風。
かえって読みにくい、ひらがなだらけの文。無駄・赤面の衒学の嵐。凡人をあざ笑う傲岸さ。
登場人物は一様に冷め、緊張感のカケラもここには存在しない。肝心の中身も薄く――。
こんなに退屈な孤島はかつてない。


02.11.19
評価:なし 0
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ミステリ感想-『よもつひらさか』今邑彩

2002年11月18日 | ミステリ感想
~収録作品~
見知らぬあなた
ささやく鏡
茉莉花
時を重ねて
ハーフ・アンド・ハーフ
双頭の影
家に着くまで
夢の中へ……
穴二つ
遠い窓
生まれ変わり
よもつひらさか


~感想~
ホラー短編集――などと騙されてはいけない。
これはミステリの宝石箱。色とりどりのきらめきが、氏の多彩さを物語る。
特に一編挙げるなら、導入から結末まで一分の隙も乱れもない『家に着くまで』が傑作。


02.11.18
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『密室の鍵貸します』東川篤哉

2002年11月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
世の中に、こんな不運な男がいるだろうか……。
その日、戸村流平は、二つの死への嫌疑をかけられた。大学の先輩である茂呂耕作と、元彼女の紺野由紀。
流平は、由紀の死に関しては完璧なアリバイを持つが、それを主張することはできない。なぜなら由紀が死んだ夜、流平は鍵のかかった茂呂の部屋で、彼の死体を発見していたのだから……。

カッパワン登竜門


~感想~
自ら「笑えないギャグ」と冠したおかげで、多少すべっていても大目に見られる。
トリックだけ見れば細緻にして清冽な秀作。カッパ・ワン出身組の主軸となりそうな注目株。


02.11.18
評価:★★★ 6
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