小金沢ライブラリー

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非ミステリ感想-『イノセント・ゲリラの祝祭 下巻』海堂尊

2011年06月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
不定愁訴外来担当の田口と、厚生労働省の変人官僚・白鳥が乗り込んだ「医療事故調査委員会」。
官僚、医師、法医学者、弁護士、被害者の会など、さまざまな思惑がからむ会議。そこに医療界に革命を起こそうと暗躍する男の登場で、議論は一気に加熱する。


~感想~
これは酷い。
デビュー作の頃から「AI導入のために筆を執った」と公言している作者だが、それでも作品はエンタメ性にあふれ、読者を楽しませることは心がけていたのだが、ここにいたってそんな気持ちはどこかへ消えてなくなったようだ。
上巻はまだおなじみのメンツが厨二病気味の思わせぶりな会話を交わし、それなりに読みどころはあった。
だが下巻では、話こそ具体的に進められるものの、作者の代弁者が登場し、おそらくは作者の主張・理想論を思いのままにぶちまけ、しかも圧倒的に論破してみせるだけの「俺つえー」な無双状態、ただし話の内容は一般的な読者にはさっぱり理解できず、終始空回りしっぱなしという惨状。
白鳥も田口も置き去りなのはもちろん、期待のニューカマーだったはずのある人物は姿すら見せない噛ませ扱い、代弁者は自らをイノセント・ゲリラ(笑)と称し、最後には「理想論だとわかっているさ」とシニカルに微笑む自己陶酔ぶりで、読者も地平の彼方に置いてけぼり。
僕の個人的な職業柄、医療・福祉の現場の崖っぷちに追い込まれた危うさは、それなりに知っているつもりだ。
だが思いのたけをぶちまけたければ、他の舞台でやって欲しかったと、一ファンとしては思う。
一言で言えば、論文かブログか医学情報誌でやっとれという内容で、これをシリーズ第四弾として提出した作者は、多くのファンを失ったことであろう。


11.6.27
評価:問題外
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ミステリ感想-『イノセント・ゲリラの祝祭 上巻』海堂尊

2011年06月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
東城大学医学部付属病院。万年講師の田口公平は、いつものように高階病院長に呼ばれ、無理難題を押しつけられようとしていた。
今回の依頼人はあの火喰い鳥・白鳥圭輔。厚生労働省で行われる会議への出席依頼だった。


~感想~
巻を重ねるごとにミステリからエンタメへと大きく舵を切っているシリーズだが、この上巻での「何も起きなさっぷり」はただごとではない。
大袈裟な異名を持つ個性豊かな人物たちが、思わせぶりで意味ありげな、大半の読者には雰囲気程度しかつかめない会話を交わす、ある種、厨二病な作風は相変わらず。そこに来てここまで事件らしい事件は一つも起きず、核となる人物が誰かも読めず、そもそも今回の主要なテーマが何かさえわからないのだが、それでも前作「ジェネラル・ルージュの凱旋」ではほとんど出番のなかった白鳥が動き回っているというだけで楽しめてしまう豪腕は流石である。
下巻ではストーリーがどう動くのか、それとも動かないのか、動いたとしてそれが読者に理解できるのか。とりあえず楽しみである。


11.6.22
評価:保留
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ミステリ感想-『真夏の方程式』東野圭吾

2011年06月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
夏休みに美しい海辺の町にやってきた少年。そこで起きた事件は、事故か殺人か。少年は何をし、湯川は何に気づいてしまったのか。
※コピペ


~感想~
「容疑者Xの献身」、「聖女の救済」と本格ミステリ的においしい作品を立て続けに放ったシリーズだが、今回は本格としての旨みはほとんど無し。
だが上記二作とドラマくらいでしかガリレオシリーズを知らない僕から見ても、湯川と子供の交流という物語は珍しく、奇人・湯川といささか類型的だがこまっしゃくれた子供の会話が楽しい。
謎は多いが地味な事件、刑事の地道な捜査、湯川の科学ネタとオーソドックスな、というか観光、料理、環境問題、恋愛、子役、ドロドロした人間関係と、このまま2時間ドラマにしても全く問題のないような展開で、真相も予想の範疇を出なかったが、そこは国民的作家の筆力で、飽かせず読み進められるようにできているのは流石といったところ。
まるで「2時間ドラマの設定でどこまでガリレオシリーズを描けるか」に挑戦したような雰囲気ながら、それだけに老若男女、全方面からの支持を受けられ気楽に読める、東野圭吾らしい作品でした。


11.6.23
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『記録の中の殺人』石崎幸二

2011年06月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
5人の女子高生の遺体が産業廃棄物の投棄現場で発見された。被害者の共通点は、生年月日が全員同じだということ。
それから4ヶ月後、またも女子高生の5遺体が産廃現場で見つかる。だが今度は誕生日が一致せず――。
10人の被害者を結ぶミッシングリンクは存在するのか? 連続殺人鬼ミキサーの正体とは?
そしてミキサー事件は置いといてまたしても孤島で起こるもう一つの犯罪にいつもの四人組が巻き込まれる!


~感想~
いつもの四人組が織り成す緊張感のかけらもないやりとりは抜群の安定感。それだけでもファンは買いなのに、今回は「片手片足を切断されコンテナに入れられた同じ誕生日の五人の女子高生」に「連続殺人鬼ミキサー」という本格ミステリした事件が起こり、いつもと様子が違う。
しかし作者はこの犯人の過去やら犯行経緯やらをちゃんと書き込めば、余裕で長編がものせそうな大ネタを「でもDNAトリックじゃないし」と言わんばかりに中盤であっさりとネタを割り、その後に起こるもうひとつの事件の背景として使い捨ててしまう。もったいない!
では本命となる事件はどうかといえば、こちらはいつも通りのふわふわした雰囲気で、特に理由もなく孤島に行くわ、面白いくらい順調に事件が進行するわの投げやりっぷり。
ところが裏に潜む真相は、先の大ネタに勝るとも劣らないすさまじいもので、やはり丁寧に書き込んでいれば濃密な本格物がものせただろうが、いつもの四人組にかかればさらっと流されてしまう。だがそれがいい。
下手すりゃ年間ベスト級のネタを2つも使い捨てるという剛毅なミステリ。石崎幸二、いろんな意味で恐るべし。


11.6.20
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『まもなく電車が出現します』似鳥鶏

2011年06月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
芸術棟が封鎖され、あぶれたクラブや同好会が新たな部室を探し始めた。美術部の僕は開かずの間をめぐる鉄研と映研の争いに、否応なく巻き込まれてしまう。
しかし翌日、その開かずの間に突如として鉄道模型が出現!?

~収録作品~
まもなく電車が出現します
シチュー皿の底は平行宇宙に繋がるか?
頭上の惨劇にご注意ください
嫁と竜のどちらをとるか?
今日から彼氏


~感想~
個人的に楽しみでしかたなくなったシリーズ待望の三作目。今回は初の連作ではない短編集。
再三指摘されているトリックの弱さは相変わらずで、細かい仕掛けでどうにか事件を成立させているだけの物が、まず三編続く。
四編目は「頭の体操」に出てきそうな程度の問題ながら、鋭く切れる掌編で一息入り、そして迎える最後の一編。これが見事に掉尾を飾ってくれた。
もともと「これでよくぞ鮎川賞に挑んだ」とそれだけは感心された脆弱なトリックながら、軽妙な筆致のおかげでデビューに漕ぎ着けた作者だが、ここに来てその筆力が全開に。いーちゃん亡き今、ミステリ界で最高峰のツッコミ役かもしれない葉山君のツッコミが冴え渡り、パンチが軽いならば手数で勝負と言わんばかりの、細かい伏線とトリックの連打で驚かせ、最後はこれ以上ない綺麗な幕切れを見せてくれた。
そしていつものように、異常なほど無駄に熱のこもったあとがきで笑わせ、最初の1ページに戻らせて感心させる、という構成力の高さ(?)で、非常に後味が良い。
こんなに良い作家がどうして無名なのか。いずれブレイクすることは必至だろうが、その時には「ワシが育てた」と前二作は発売日にすら買っていない分際で図々しく言いたいものである。


11.6.17
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『追憶のカシュガル』島田荘司

2011年06月17日 | ミステリ感想
~あらすじ~
1974年、京都大学医学部に在籍していた御手洗潔は、進々堂に現れた。放浪の長い旅から帰ったばかりの御手洗は、世界の片隅で目撃した光景を、静かに語り始める。
砂漠の都市と京都を結ぶ幻の桜、曼珠沙華に秘められた悲しき絆、閉ざされた扉の奇跡、そして、チンザノ・コークハイの甘く残酷な記憶。

~収録作品~
進々堂ブレンド 1974
シェフィールドの奇跡
戻り橋と悲願花
追憶のカシュガル


~感想~
いちおう御手洗シリーズだが、探偵役ではなく単なる語り手で、それも御手洗が当事者として遭遇した出来事は一編だけで、他の二編は伝聞として、もう一編は話の聞き手が語るだけである。
またミステリは一編もなく、事件らしい事件も起きず、世界を股にかけているという点から御手洗が起用されただけであり、御手洗シリーズというのほどのものでもない。
と、ここまで挙げた点だけでももう、よほどの島田荘司ファンでもなければ手出し無用の空気がただようし、その懸念はまったくその通りなのだが、各編もアンソロジーに収録された際には「今年度最駄作」と感じた(今回再読したらそれほど酷くは感じなかったが)『シェフィールドの奇跡』と、冒頭の書き下ろし短編を除けば、御手洗物のノンミステリ短編としては及第点を付けられる作品ばかりではある。
……って二編除いたらあと二編しか残らんけどな。
いっこうに再開する気配のない『CFWIシリーズ』が待ちきれず、島田荘司成分が枯渇している読者以外は、わざわざ読むことはないかと。


11.6.17
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『虚構推理 鋼人七瀬』城平京

2011年06月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
不遇の死を遂げたアイドルが、鉄骨を振り回す不死身の怪物「鋼人七瀬」として甦った――。
真倉坂市にささやかれる都市伝説に過ぎなかったはずの「鋼人七瀬」が現実に姿を現した?
世界の秩序を守るため「ひとつ目いっぽん足のおひいさま」岩永琴子は、虚構推理を武器に立ち向かう。


~感想~
破格のデビュー作『名探偵に薔薇を』を「ネタ被り」と批判(それも主に同業者から)されたのに嫌気が差したと噂され、漫画原作とノベライズに移り、そちらでも『スパイラル推理の絆』のヒットを放った作者が、久々にミステリ小説に帰ってきてくれた。
デビュー作の頃の難解な単語が入り交じる固く読みづらい文体はすっかりこなれて、強烈なキャラたちと軽妙な会話、突飛な世界観がそれだけで楽しい。未読の方の興趣を削がないために、あらすじは(これでも)当たり障りの無いことしか書かなかったものの、実は非常にぶっ飛んだ設定なのだが、くり出される推理は対照的に正攻法かつ緻密に組み立てられる。
しかしたどり着いた結末は予想の範疇を出ず、トンデモな世界観とはすこし不釣合い。独自のワールドに見合った破格の解決をと、こちらが期待しすぎたか。
とはいえもしシリーズ化されるならば、顔見世としては最高の出来栄え。設定に噛み合うトリックが現れる日はいつか必ず来るだろう。今後の行く末を楽しみにしたい。


11.6.8
評価:★★★☆ 7
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