小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『むかし僕が死んだ家』東野圭吾

2007年12月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
7年前に別れた恋人・沙也加には幼いころの記憶がなかった。
私は彼女の記憶を取り戻すため、彼女の父親が密かに通っていたという謎の家を訪れた。
それは人里離れた山奥に立つ異国調の白い小さな廃屋だった。そこで沙也加を待ちうける真実とは……。


~感想~
いわゆる脱出系アドベンチャーゲームや元祖バイオハザードを思わせる廃屋探索ミステリ。
謎めいた意匠の数々とよみがえる記憶はどう結びつくのか、最後まで一息に読ませてくれる。
明かされる真相は予想の範疇を出ないが、最後の一ページまで端正に整った佳作である。
こう言えるほど数は読んでいないのだが東野圭吾の代表作に挙げられるだろう。
なお文庫版の解説はなんら予告なしに最悪のネタバレを連発しているので、くれぐれも事前に読まないようご注意あれ。
解説者も同じ作家だろうになにを考えているのやら、ささやかな悪意すら感じられてならない。


07.12.27
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『大誘拐』天藤真

2007年12月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
三度目の刑期を終えたスリ師の健次は身代金目当ての誘拐を企む。雑居房で知り合った正義、平太を仲間に、標的は日本屈指の大地主・柳川とし刀自。
しかし熟考を重ねた計画は人質のはずの刀自に振り回されはじめ……。


~感想~
柳川としというキャラ、そして誘拐団を率いる人質という設定を考えついた時点で勝利は確定。
捜査陣と誘拐団の、人質自らが知恵を絞った奇抜な作戦の対決は、刀自をただの人質と信じて疑わない捜査陣の思惑のズレとあいまって非常に楽しい。
作者ならではの笑いのセンスが最高のキャラを得て爆発し、誰も幸せになれないはずの誘拐で、心温まる結末を描いて見せた。
誘拐ミステリというジャンルに留まらない大傑作である。


07.12.26
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『冤罪者』折原一

2007年12月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ノンフィクション作家・五十嵐友也のもとに届けられた一通の手紙。それは連続暴行魔として拘置中の河原輝男が冤罪を主張し、助力を求めるものだった。
しかし自らの婚約者を殺されていた五十嵐にとって、とても素直に受け取れるものではない。はたして河原の主張は本当なのか。


~感想~
折原作品をプロレスにたとえたのは誰だったろうか。
おなじみの叙述トリックや後頭部を殴られて気絶を、往年のレスラーの得意のムーブになぞらえていたが、まさにそのとおり。
決まりきったパターンといえば聞こえは悪いが、もはや後頭部を殴られなければ折原作品ではないとすら言える。その点、今回も期待を裏切らない。
千枚を超える長編、しかも中途で真相は見抜けてしまったが、先の展開が気になり、だれさせずに最後まで読ませてくれた。
叙述の罠も鋭く決まり、壊れた人間だらけの物語もいやに楽しく、折原一の代表作のひとつだと言えるだろう。
ファンならば必読。それにしてもこんな折原節全開の作品をなんだって直木賞候補なんかにしたのだろうか。


07.12.19
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『離れた家』山沢晴雄

2007年12月18日 | ミステリ感想
~収録作品~
砧最初の事件
銀知恵の輪
死の黙劇
金知恵の輪

神技
厄日

宗歩忌
時計
離れた家


~感想~
ほぼ発売日に買っておきながら、ちまちまと読み進めようやく読了。硬質な文体が肌に合わなかった。
しかし帯に「本格の鬼」とあるとおり、掛け値なしに分刻みのアリバイトリックや、論理の超絶技巧で読者を幻惑し別世界へといざなう技術はただごとではない。
怪人を跳梁跋扈させたり嵐の山荘を舞台にしなくても、卓越した技術だけでなにげない市井の風景を異空間へと一変させてしまうのである。
数年前に表題作『離れた家』を読んだときには「なにがなんだか解らないがとにかくすごいことが起こっている」という馬鹿丸出しの感想を持ったが、再読となる今回は「とにかくすごいことが起こっていることがなんとなく解る」ようになっていた。成長に乾杯。
それはともかく山沢作品の象徴的存在であろう『離れた家』を既読だったのは痛く、あまりのめりこめなかった。
こんなことを書き連ねていると難解だと敬遠されるかもしれないが、頭からっぽで読むと意味不明、しかし考えながら読めば読むほどに味の出る、いぶし銀の作品集である。
個人的には『離れた家』なみの衝撃を受けた『電話』が次回の刊行では収録されることを願いたい。


07.12.17
評価:★★☆ 5
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文春ベスト

2007年12月15日 | ミステリ界隈
ミステリランキングでは一番の老舗『文春ベスト10』も発表された。


1 女王国の城有栖川有栖
2 楽園(上下)宮部みゆき
3 警官の血佐々木譲
4 赤朽葉家の伝説桜庭一樹
5 サクリファイス近藤史恵
6 首無の如き祟るもの三津田信三
7 インシテミル米澤穂信
8 悪人吉田修一
9 果断隠蔽操作2今野敏
10 密室キングダム柄刀一


すごく……普通です……。
一番後に発表されるのにこの有様ではなんともはや。もうこのミスと一緒でいいんじゃね?
文春ベストなのだから

2位 沈底魚曽根圭介
10位 タイムカプセル折原一


を期待してたのに。
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ミステリ感想-『ナナフシの恋』黒田研二

2007年12月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「新しい教室で待ってます」呼び出しメールの発信者は、自殺未遂で意識不明の重体に陥ったクラスメイトだった。
消えた携帯電話、移動した教卓、転がった消火器など自殺未遂現場に残された謎。はたして自分たち6人を集めたのは……?


~感想~
バカミスならバカミスだとはじめから言っていてくれれば、こちらにもそれ相応の用意があったのだ。
辻村深月ばりの青春ミステリかと思って読んでいたものだから、バカミス史上に残るような真相に唖然としてしまい、思わず「っざけんなよぉ!!」とブン投げるはめになったのだ。
これから読む方は本書がバカミスだということを念頭に置いて読んで欲しい。


(↓以下完全にネタバレ↓)
真相は簡単に言うと「消火器に擬態した女子高生が彼氏に消火器と間違われて窓から投げられる」というラーメンズのコントかなにかかと思うようなものであり、どうひいき目に見てもバカとしか言いようのないトリックである。
「キレると見境なくあたりの物を投げつける」とか「目立たないように周囲に溶け込む」といった性格づけが、性格どころかもはや特殊能力の域にまで達していて、異能バトルマンガのようになっているのだ。
遊戯王に例えると、

遊戯「俺のターン! ブラックマジシャンで野方大輝を攻撃!!」
海馬「馬鹿め!! ここで野方大輝の特殊能力が発動!! 野方大輝は攻撃を受けると暴走状態におちいり、場に置かれたアイテムを相手めがけて投げつける!!」
城之内「危ねえ! 野方大輝が教室フィールドに置かれていた消火器を遊戯に投げたぞ!!」
遊戯「かかったな海馬!! よく見ろ、そいつは消火器じゃない。消火器に擬態していたお前のクリーチャー久遠麻帆だ!!」
海馬「な、なにィッ!? ぐわあああああッ!!! お、俺のライフが0に…………」

こんな具合だろうか。

「人間が描けていないミステリ」はよく見るが「人間が遊戯王カードになっているミステリ」は本邦初であろう。
新境地を切り拓いたクロケンに乾いた拍手を送りたい。



07.12.9
評価:なし 0
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ミステリ感想-『羊の秘』霞流一

2007年12月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ミイラのように全身を覆う白い紙、口には矢印形の磁石……。土蔵に横たわった謎だらけの死体。事件の周辺で次々と見つかる羊の暗合。
絞殺された男は夢を表現するグループの一員であり、かつて会員の少女が、謎の羊男の写真を残して自殺していた……。


~感想~
ふくらむぞドリーム! 燃え尽きるほどフレーム! 響け、地底のスクリーム!

ジョジョファンのはしくれとしては、この法月綸太郎の推薦文句を紹介すれば他に言うことはないのだが、いちおう蛇足を。
本書は動物をテーマに据えた「獣道ミステリ」の一作であり、どこを切っても羊の顔が出てくる金太郎飴さながらの羊ミステリである。
作者ならではの羊ウンチクの数々とバカトリックは期待通りで、お楽しみの「霞おにいさんの死体でできるかな?のコーナー」……もとい物理トリックもあいかわらずのすさまじさで、「Aerial Hit Bonus!!」とか飛びだしそうな光景はやはり刻命館を思い出させる。今回は何ヒットコンボですか?
「霞ミステリが読みたい」という禁断症状に陥った患者にはうってつけの一冊といえよう。


07.12.9
評価:★★★☆ 7
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このミス

2007年12月07日 | ミステリ界隈
年末のお楽しみ、今年のこのミスベスト20が出ました。


1.警官の血 佐々木譲
2.赤朽葉家の伝説 桜庭一樹
3.女王国の城 有栖川有栖
4.果断 今野敏
5.首無の如き祟るもの 三津田信三
6.離れた家 山沢晴雄
7.サクリファイス 近藤史恵
8.楽園 宮部みゆき
9.夕陽はかえる 霞流一
10.X橋付近 高城高
10.インシテミル 米澤穂信
12.密室殺人ゲーム王手飛車取り 歌野晶午
13.バッド・チューニング 飯野文彦
14.悪果 黒川博行
15.マルドゥック・ヴェロシティ 沖方丁
16.密室キングダム 柄刀一
17.悪人 吉田修一
18.心臓と左手 石持浅海
19.片眼の猿 道尾秀介
19.中庭の出来事 恩田陸


いやー、なんて言うかね……。
なんだってせっかくの豊作の年に広義のミステリをプッシュしまくるかなあ……。
ワガママにすぎない意見だけども、せっかく傑作がこれだけ出てきた年なのだから、もっと本格ミステリを、狭義のミステリを推して欲しかった。
本格ミステリ・ベストテンがあれだけ納得のいく作品をそろえてくれたのに、どうにもこちらは……。
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本ミス

2007年12月03日 | ミステリ界隈
注目の本格ミステリ・ベスト10はこちら。


1位:女王国の城 有栖川有栖
2位:首無の如き祟るもの 三津田信三
3位:密室キングダム 柄刀一
4位:インシテミル 米澤保信
5位:離れた家 山沢晴雄
6位:密室殺人ゲーム王手飛車取り 歌野晶午
7位:収穫祭 西澤保彦
8位:夕陽はかえる 霞流一
9位:リベルタスの寓話 島田荘司
10位:心臓と左手 石持浅海


いやこれは素晴らしい。
ベストテンにはものすごく納得のいく作品がそろい踏みした。
個人的には『首鳴き鬼』にはベストテン入りしてほしかったが、「本格ミステリ」と冠するにふさわしい作品が並んでくれてうれしい限り。
それにしても、今年『女王国の城』が出るならば、去年あんなのを(本格ミステリ大賞の候補にすらならなかったのだし)1位にしなくてもよかったのではww
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ミステリ感想-『中空』鳥飼否宇

2007年12月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
老荘思想を規範に暮らすひなびた七世帯の村に、幻の竹の花が咲き乱れていた。村に影を落とす二十年前の連続殺人事件。そして、恐れていた忌まわしい事件が再来する。


~感想~
かつての横溝賞優秀賞。それなのに今年の受賞作を完膚なきまでに上回っているとは時代の流れを嘆くべきなのか。
それはともかく、さる書評サイトで絶賛されていたため手にしたのだが、まったくもっておっしゃるとおりの傑作だった。
ラストに示される三つの真相がそれぞれに説得力を持ち、しかも後につづく真相のほうが強度に優れかつ魅力的なのだからすばらしい。多重解決をうりとしたミステリは、ひっくり返される前の真相や、嘘の解決のほうが面白いことも多いのだから、実に満足できた。
全編にわたって張り巡らされていた綱渡りのような伏線と仕掛け、どうして忘れてしまったんだろうと呆気にとられるほどあからさまな手がかり。バカミスだけではない作者の実力をまざまざと見せつけてくれた。


07.12.1
評価:★★★★ 8
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