小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『気分は名探偵』徳間書店

2006年05月31日 | ミステリ感想
~収録作品~
夕刊フジで連載された懸賞付き犯人当てミステリアンソロジー。
巻末にはおまけで懸賞付きの覆面インタビューが。

ガラスの檻の殺人(有栖川有栖)
蝶番の問題(貫井徳郎)
二つの凶器(麻耶雄嵩)
十五分間の出来事(霧舎巧)
漂流者(我孫子武丸)
ヒュドラ第十の首(法月綸太郎)


~感想~
問題編と解答編が別々にされており、連載当時と同じように推理を楽しむこともできる。
が、同様の趣向を凝らした歌野晶午『放浪探偵と七つの謎』よりも難易度ははるかに上。
というのも、作者が全て異なるため、推理のポイントもトリックの種類も違い、6人がそれぞれ力を尽くしただけに質も高い。
当然のことばかり言ってもしかたないので、各編ごとに簡単な紹介をしよう。

『ガラスの檻の殺人』有栖川有栖
軽妙にしようとした描写が滑る滑る。トリック自体も同人ミステリの域を出ない。

『蝶番の問題』貫井徳郎
1つはあると思っていたあのトリック。正解率が最も低かっただけはある難問。これを見抜くのは容易ではない。

『二つの凶器』麻耶雄嵩
麻耶氏らしい、緻密でありながらトリッキイさも併せ持つ細工。

『十五分間の出来事』霧舎巧
これもトリック自体は大したことがない。というか、もっと魅力的な不可能状況にできたような。

『漂流者』我孫子武丸
どう考えてもアンフェアな伏線はあるが、奇抜なトリック。あいかわらずラストはぐだぐだ。

『ヒュドラ第十の首』法月綸太郎
犯人当てという形式を逆手に取ったようなトリック。ちょっと専門知識(たいして難解な知識ではないが)を並べすぎたのが残念。

良くも悪くも各氏が自分らしい作品をものしたと思う。傑作こそないが懸賞をかけただけはあるフェアな構成で、安心して楽しめる。


06.5.31
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『殺意は必ず三度ある』東川篤哉

2006年05月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
鯉ヶ窪学園が誇る弱小野球部のグラウンドからベースが盗まれてしまう。後日、ライバル校との練習試合で事件は起きた。バックスクリーンで監督の死体が発見され、しかもかたわらには盗まれたベースが置かれていたのだ。
オレたち探偵部の3人は事件に首をつっこみ、しょうもない推理合戦をくり広げる。


~感想~
『学ばない探偵たちの学園』につづく第二弾。くだらないギャグがちりばめられた脱力系ミステリ。
ギャグの渦にめくらましされるが、実は緻密に練られた構成が売りの著者。今回はトリック一本勝負を挑んできた。全編にまかれた伏線が収まるべきところに収まっていく印象。結末はかなりの部分が想像・推論だけで補われてしまうが、それもギャグミステリという面で救われているような。
しかし脇を固める伏線の鋭さや、そこに仕掛けるかというサブトリックは十分に唸らせてくれる。気軽に読めて気軽に感心できる、肩の凝らないミステリ。『サマー・アポカリプス』の次に読むには最適でした。


06.5.29
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『サマー・アポカリプス』笠井潔

2006年05月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
矢吹駆シリーズ第二弾。
灼熱の太陽にあえぐパリが黄昏れた頃、不意にカケルを見舞った兇弾。
その銃声に呼ばれたようにヨハネ黙示録の四騎士がさまよい始める。
聖書の言葉どおりに見立てられた屍がひとつ、またひとつと、中世カタリ派の聖地に築かれていく。
しかし矢吹駆は全ての真相が明かされるその時まで、口を閉ざしつづける。


~感想~
カケルと思想家との思想対決。中世カタリ派の歴史と秘密。まるで教科書のように膨大な知識と衒学の洪水は、それだけで拒絶反応を起こしてしまう方も多いだろう。
しかし豪奢な皮を一枚めくってみれば、これはまぎれもなく正統派の、オーソドックスに過ぎるほどの本格ミステリ。
見立て、密室、2度殺された男、不可能犯罪、鉄壁のアリバイに、カタリ派の秘宝をめぐる歴史の謎など、本格な要素がぎっしり。そこに「全てを見抜いていながら探偵はなぜ口をつぐむのか」という謎も加わり、満腹の腹にわんこそばを詰め込まれるよう。
格調高い文体ながら、なにかというと秘密組織の陰謀を持ち出すわ、「窓を開けるのは東洋の習慣だ」と地中海の乾いた気候なのに窓を全開にし40度の部屋にこもるわ(湿度が低いので、夏場は窓を閉め切り日光を遮断するのが常識)、枕元に実弾入りの拳銃を忍ばせているわと、奇人ぶりを見せつけるカケルと、警視の娘という強権を盾に強引な素人探偵(狂言回し)を務めるナディアとのピントの外れたやりとりは、ひねくれた目で見るとかなり笑える。どう考えても危険人物なカケルと、その危なさに気づかない世間知らずのお嬢様は、絶対に仲が進展しそうもないミステリ界のベストカップルのひとつかも知れない。

ちなみに今回カケルと対決する思想家はシモーヌ・ヴェイユ。同名の登場人物を形代とした思想の激突は、本筋とも密接にからみ合う。
1981年の刊行ながら、後につづくミステリ群を産み出す水源となっただろう今作。とにかく読み通すのに骨が折れるめんどくせえ小説だが「重厚」という言葉のよく似合う、久々に本を読んだと思わせてくれる傑作でした。


06.5.28
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『エデンの命題』島田荘司

2006年05月17日 | ミステリ感想
~あらすじ~
アスペルガー症候群の子供たちを集めた地上の楽園、アスピー・エデン学園から少女が消えた。残されたぼくの元に届いた恐るべき文書「エデンの命題」。そこに記されていたのは、選民思想に取り憑かれた一族の野望と、学園の実態だった。生きるために学園を脱出したぼくを待ち受ける真実とは? (エデンの命題)
他に中編「ヘルター・スケルター」を収録。


~感想~
脳科学の話題を織り込みつつミステリ風味をきかせてみましたという小品が2つ。設定からしてネタが割れている「エデンの命題」は(旧約聖書との符号はあくまでも刺身のツマに過ぎないし)ちょいと物足りないが、21世紀のミステリを描こうというコンセプトで、島田荘司自ら呼びかけた『21世紀本格』に収められた「ヘルター・スケルター」は流石のできばえ。そのコンセプトそのものを逆手に取ったようなトリックがお見事。
ふんだんな衒学を煙たがるか、それともお得と捉えるかは読者によりけり。ただ、簡単に読めてしまうので文庫落ちを待つ手もアリでは。


06.5.17
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『グラン・ギニョール城』芦辺拓

2006年05月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
欧州にひっそりとたたずむ古城、通称グラン・ギニョール城に招かれた名探偵ナイジェルソープ。一癖も二癖もある客の間には緊張がただよい、嵐の夜ついに惨劇の幕が開く。一方、森江春策は、列車内で怪死事件に遭遇し、手がかりを追ううちに探偵小説『グラン・ギニョール城』を探し当てたが、その小説世界が彼の現実を浸食していく。
文庫書き下ろし掌編「レジナルド・ナイジェルソープの冒険」収録。


~感想~
古式ゆかしい本格探偵小説――と見せかけて、主題はナイジェルソープと森江春策の虚・実2つの物語の融合である。
作者自ら「バカミス?」と言及するとおり、細工は豪快というよりも強引きわまりない。しかしその豪腕でつなげられる2つの物語は、なかなかに見事な結実を見せた。
不可能興味あふれるトリックは前時代的な(?)小粒な真相でげんなりだが、森江春策の冒険譚としては十二分に楽しめる。
なお書き下ろし掌編はごく短いユーモア作品なので、単行本をお持ちの方は買い換える必要はなさそう。
ちなみに解説といい、あちこちの書評サイトといい「それを言っちゃいかんだろ」という物語の筋に平然と触れているので、予備知識無しに読むことをオススメする。


06.5.16
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『カンニング少女』黒田研二

2006年05月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
入試を四ヵ月後に控えた玲美はなんとしてでも最難関私大・馳田学院に合格しなければならなかった。不慮の事故で亡くなった姉の死の真相を探るためだ。
玲美が頼ったのは、超優等生、機械オタク、そしてスポーツマンの不良。玲美の今の成績では合格不可能。彼らが出した結論は、カンニングによる入試突破だった。


~感想~
なにもかもが未完成。ここは駄作と断じてしまおう。
物語の筋はいたって単純。起伏はあるもののゆるやかで、あっという間に終結してしまう。肝となるはずのカンニング方法は、一般的な高校生には不可能な機械トリックで、現実味に乏しく、意外性もいたって薄い。映像で見せるならまだしも、文章でさらりと流されては、ただただ平坦な印象になってしまう。
ミステリらしいトリックは仕掛けられた瞬間に見破れてしまい、とても最後まで興味を引けるものではない。では文学としてどうかといえば、明らかに力不足。登場人物たちの書き込みは浅く、深みが全くない。なぜ優等生がカンニングに力を貸すのか? なぜ大学助手は不正を憎むのか? なんにも裏がない。
だいたいイマドキの高校生がこんな一昔前の青春ドラマのように純粋だろうか? 中学生という設定にした方がまだ納得できる。
その他にも(以下ネタバレ→)ただ一人だけ意味ありげに名前の出るクラスメイトが全く筋にからまなかったり、せっかくカンニング無しで本番を乗り切ったのに合否が明かされなかったりと、物語として練り込み不足が目立つ。
最大の疑問は「なぜ黒田研二がこの作品を書かねばならなかったのか?」が腑に落ちないこと。
トリックメーカ黒田研二の力は少しも発揮されず、彼ならではの魅力はどこにも見当たらない。
言ってしまえば、こんなものは誰にでも書けるものであり、誰かがいつか書くものである。あるいはとっくに誰かが書いたものにしか過ぎないのだ。
黒田研二の新作としてハードカバーで出版したこと。それが本編にも勝る、最大の謎である。


06.5.10
評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『メビウス・レター』北森鴻

2006年05月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
美術室で自分の絵とともに灰になった男子高校生。数年後、幻想作家・阿坂龍一郎のもとに事件の真相を追求する手紙が送りつけられる。なぜ、そして誰が? さらに人妻のストーカーにつきまとわれ、担当編集者は殺され、阿坂の周囲に異状が頻発する。


~感想~
死んでしまった「キミ」へ呼びかける過去からの手紙と、孤高の作家の現在。手紙は“過去の現在”を描き、過去と現在が入り組んだ構成。
この「いかにも罠が仕掛けられていそうな」プロットで、仕掛けられるだけのトリックを仕掛けたのが今作。
誰もが予感するあのトリックの見本市さながらに、ありとあらゆる種類のあのトリックが出るわ出るわの大盤振る舞い。
何重にも隠された真相は、全くの意外な結末。縦横無尽につむがれた緻密さはないが、構成のわりに手堅く、解りやすくまとめた好著。
それにしても、痛い文章が実にうまい。


06.5.9
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『能登路殺人行』中町信

2006年05月04日 | ミステリ感想
~あらすじ~
酒好き女好きの、うだつの上がらない探偵・多門耕作。不倫調査の依頼を受けて、和倉温泉まで尾行調査に出かけた。ところが、宿泊先のホテルで女性客が絞殺され、犯人を目撃したと思われる男性客も断崖から落ちて重傷を負う。多門は不倫調査もそこそこに犯人追求に乗り出すのだが……。


~感想~
主人公といい軽いタッチに見せかけて、実は徹頭徹尾、推理につぐ推理で埋め尽くされたミステリ。誤解や思いこみだけの推理も多いが、これだけ仮説を立てるのはお見事。
肝心の真相も、終わってみれば納得の、そこしかない着地点についた。
ところで不可能状況・密室ともとれる状況にもかかわらず、誰も密室だと騒がないのはご時世か。


06.5.4
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『新特急「草津」の女』中町信

2006年05月03日 | ミステリ感想
~あらすじ~
三千万円を強奪した犯人が、パトカーに追われ病院の裏庭で事故死した。
奪われた現金は事故現場から消え、入院患者に疑いがかけられた。一週間後、事故の目撃者だった女医が新特急「草津3号」の車内で死体になって発見される。(「萩・津和野殺人事件」に改題)


~感想~
叙述トリック、次々と殺される容疑者、旅行、ダイイングメッセージ、どこかのんきな雰囲気と、中町作品らしい(?)要素がてんこ盛り。次々と容疑者を消していくにも関わらず、最後にはきっちりと意外な犯人を用意するのだから、さすがである。
今回はシリーズファンへのサービスも(シリーズを入手しづらい今ではあまり意味はないけど)あり、小技ながらも叙述トリックも切れ、なかなかの佳品である。
よく「映像化不可能」と言われる作品は多いが、このダイイングメッセージは、映像化してこそ効果の出そうなもの。つくづくハズレのない作家である。


06.5.2
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『慟哭』貫井徳郎

2006年05月01日 | ミステリ感想
~あらすじ~
幼女連続誘拐事件の捜査は難航していた。若手キャリアの捜査一課長をめぐり、警察内部には不協和音が生じる。そんな中、マスコミは彼の私生活をすっぱ抜く。内と外の両面から苦しめられる苦境にあって、事態は思わぬ局面を迎えるが……。


~感想~
なんにも予備知識を持たずに読んだ方がいい。僕はあらかじめ「そういう小説」だと聞いていたので、真相に驚くことはなかった。
デビュー作とは思えない確かな筆力で、堅実に丁寧に物語は描かれる。刑事の捜査さながらに物語はゆっくりと進み、警察と自暴自棄の男、二つの道が交叉するとき、初めて「慟哭」の意味が明かされる。
無理してる感の漂うコメディとはうって変わり、硬質ともいえる文体でぐいぐいと引っぱる、読ませる物語は、貫井氏のイメージをがらりと変えてくれた。アンチもファンもこれは必読。良作でした。


06.5.1
評価:★★★ 6
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