小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『神のロジック 人間のマジック』西澤保彦

2006年09月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ここはどこ? いったいなんのために?
世界中から集められ、謎の“学校”で奇妙な犯人当てクイズを課されるぼくら。
やがてひとりの新入生が“学校”にひそむ“邪悪なモノ”を目覚めさせたとき、小さな共同体を悲劇が襲う。


~感想~
どこを切り取ってもネタバレになるので非常に評しづらい。
なのでトリック以外のことを述べるなら、西澤氏の文章の読みやすさに改めて感心した。全盛期にはトンデモSFと称されたむちゃくちゃな設定を、説明臭くなく自然と説明してみせた腕は健在。
というか、最近のライフワーク(?)になっている人間そのものへの冷めた暗さや、ジェンダー論が語られないだけかもしれない。
扱ったテーマが偶然にも“アレ”とかぶったのは興趣深い。トリック一本勝負でありながら、読了後には余韻を残す佳作である。


06.9.26
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『六色金神殺人事件』藤岡真

2006年09月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
古代、世界の中心は津本にあった――。
奇書「六色金神伝紀」を基にした「六色金神祭」に保険調査員・江面直美が迷い込んだとき、山幸彦が現代に甦る。
次々と起こる不可能犯罪は神のなせる業なのか。「蘇神歌」の正体とは。


~感想~
怪作というよりもバカミス、ダメミスと噂される幻の(?)作品。
もう、むちゃくちゃです。出だしからして「百六十億二千四百万年前の宇宙開闢から大和朝廷の成立までを描いた史書」なんていうトンデモ文書が飛びだし面食らっているところに、宙を飛び壁にめり込んだ死体だの、燃えながら空から降って来た死体だの、とうてい現実的な解決を望めないようなトンデモ殺人が連発。
史書の内容も、地球侵略に来た宇宙人と人類の祖先である六色金神の戦いを描いたSFだわ、その史書を大真面目に研究するわ町おこしの祭りに使うわとやりたい放題。このままでは『コズミック』や『ジョーカー』清涼院流水 になってしまうと危ぶんだところに、脱力の真相が襲いかかる。しかしそれでも気が済まず、事件の裏で進んでいた二重三重の罠が次々と発動して――。
などと書くと大傑作の気がするが(え。しない?)読後感は祭りの後のような気だるさに見舞われること請け合い。
トリックになにひとつ不明な点やアンフェアな点はない。それどころかセリフひとつ描写ひとつ取ってみても、どこまでもフェアかつ大胆不敵。だが感心するよりも「無駄にすごい」と苦笑してしまうのが今作の特徴。たとえばアンパンマンで、バイキンマンが吹っ飛ばされるところだけ世界的CG職人が手がけた超絶リアルなCGで描かれているような。(例え失敗)
普通のミステリや伝奇ミステリだと思って取り掛かると、裏切られること間違いなし。しかしゲテモノ好きにはたまらない、正真正銘バカミステリです。


06.9.25
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『紅楼夢の殺人』芦辺拓

2006年09月21日 | ミステリ感想
~あらすじ~
絶世の美女たちが日々たわむれ遊び暮らす地上の楽園「大観園」。しかしその桃源郷に死の影が忍び寄る。
謎めいた詩をなぞるように、あるいは衆人環視下で、あるいは宙を飛び、あるいは忽然と姿を消し、殺されていく美女たち。はたして犯人は? 鬼計は? 中国の奇書「紅楼夢」を基に描かれる空前絶後の事件。


~感想~
「紅楼夢」は未読だが、中国小説の魅力を存分に味わえる。既に成立し完結した物語を本格ミステリとして組み替えるのは並大抵のことではあるまい。しかも本格ミステリとしても空前絶後の仕掛けが凝らされているのだからたまらない。
作者はこの作品を「本来の意味でのメタミステリ」として突きつけたのだが、その切っ先はただメタミステリに対してだけではなく、本格ミステリそのものの喉元に向けられている。世にはびこる勘違いしたメタミステリへの、いわゆるアンチテーゼに留まらず、本格ミステリ自体を揺るがしかねない問題をはらんだ一作なのだ。
はたしてそれがなんなのか、それは即ネタバレにつながるので明かせないが、ひとつ言うのならば、それは単に学術的な小難しい問題ではなく、本格ミステリのトリックとして、いままで見たこともない魅力的な、実に面白い問題である。


06.9.21
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『骸の爪』道尾秀介

2006年09月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
取材のため、滋賀県の仏所・瑞祥房を訪れたホラー作家の道尾は、深夜の工房で怪異に見舞われる。
笑う観音。不気味な囁き。動く仏像。そして頭から血を流す仏。
東京に戻った彼は、霊現象探求所の友人・真備の元を訪れた。そして明かされる20年前の秘密と、仏師の連続失踪事件の真相とは?


~感想~
現時点での今年度最高傑作。
一部では京極夏彦を彷彿させるとささやかれるが、それも納得。しかし京極になぞらえられるのは衒学やウンチクの嵐ではなく、超常現象抜きで語られる、まぎれもない怪異と奇想。現実離れした能力や霊魂を持ち出さなくとも、怪異は描けるのだ。
次々と起こる不可解な現象はあますところなく解かれ、隠された伏線や真相は残らず回収される。しかしそれでもなお怪異は厳然として心に残る。このあたり言葉では表しづらいが、初期の京極夏彦を思いださせてくれる。だが京極と異なるのは、平易な文体と肩の力の抜けた会話で物語を進めること。中盤を過ぎても死体の一つも出てこない、それどころか「今なにが進行しているのか全く読めない」物語をここまで読ませる筆力はすばらしい。
解決にはじっくりと筆を費やし、ひとつひとつ丁寧に丹念に、からまった謎を解きほぐし、意外な犯人と望外の仕掛けを明かし、さらに全てが終わったと一息ついたところで最後の逆転。まったくどうして「ホラーサスペンス大賞」で特別賞を獲りデビューした作家が、こんな頭のてっぺんからつま先まで本格ミステリな物語を描けるのか、不思議でならない。
新進気鋭のホラー作家のシリーズ第二作、などという看板に騙されるなかれ。ここに極上のミステリがある。


06.9.17
評価:★★★★★ 10
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ブンガク感想-『世界の中心で、愛をさけぶ』片山恭一

2006年09月18日 | ミステリ感想
※この文章は交流戦敗北の罰ゲームとして書きました。『世界の中心で、愛をさけぶ』を激しくネタバレしており、また筆者は『セカチュー』が嫌いなので未読の方・ファンの方は読まないでください


第一章

ヒロインいきなり死亡。
衝撃の幕開けだ。普通ならオチに持ってくる場面を冒頭に持ってきてしまった。ずいぶんとハードルを上げたものである。

第一章では主人公の朔太郎とヒロインのアキのなれそめが描かれます。学級委員に選ばれ、たまたま一緒になった二人。なんでもない出来事を積み重ね、心を通じ合わせていく様を描きます。


「このあいだ『ニュートン』で読んだんだけど、西暦二千年ごろに小惑星が地球に激突して、生態系がめちゃくちゃになってしまうんだってさ」


朔、それ『ニュートン』やない。『ムー』や!

ある日、朔は祖父から頼まれごとをします。それはなんと墓暴き。かつての恋人の墓から、遺骨を失敬するというのです。さすが「刑務所に入っていたことがある」とさらっと話すじいちゃん、やることが大きい。


用意してきた桐の小箱に、骨壺に収められた骨を、祖父はほんの少しだけつまんで移した。せっかく苦労してここまで来たんだから、遠慮せずにがっぽり持っていこうぜ、と言いたくなるくらい慎ましい量だった。


祖父も祖父なら孫も孫だ。
じいちゃんは「俺が死んだら恋人の骨と混ぜて、どこかに撒いて欲しい」と頼みます。当然ながら朔は疑問を抱きます。


「火葬に立ち会わなきゃ、骨をちょろまかせないよ」
「そういうときは、また今夜のように墓を暴けばいい」



前科二犯・確定。

骨をちょろまかしてきた朔は翌日、アキを呼び出します。


「用ってなに?」
(中略)
「今夜は二人でUFOを見るぞ」



朔の『ムー』購読は中三になっても続いてるようです。
そして二人はファーストキスを交わします。恋愛小説は数あれど、盗んできた遺骨を持ったままというシチュエーションは空前絶後ではなかろうか。


第二章


「キスでもしませんか」

「でも、それまでは愛に生きよう」



むずがゆい言葉を交わしながら絆を深めていく二人。しかしそれだけでは読者の心はつかめません。エロ要素投入です。朔は初体験をするための策を友人から「ビッグマックとポテトのL」という報酬で授けられます。
その友人を含めた三人で無人島に出かけ、友人だけが急用で帰り、二人切りになったところでやっちまえという姑息な作戦です。恋愛小説にあるまじき不純さが感じられます。
しかし朔はおじけづき、犯行は未遂に終わります。こうして『セカチュー』はR-12指定を受けず、幅広い読者を受け入れられることとなったのです。


第三章

アキ、突然ダウン。
なんの前ぶれもなく白血病にかかってしまいます。
朔は中学のころ、アキの気を引くためラジオに「白血病の友人のために曲をリクエストします」というハガキを送ったことを後悔します。あんなハガキを送ったから、神様が怒ったのだと。だから不謹慎ネタはやめとけと言ったのに。

病状が悪化していくアキの願いを叶えるため、朔は病院からアキを連れ出し、オーストラリアへと渡ることを決意します。
もちろん事は秘密裏に運ばねばなりません。しかしアキの荷物やパスポートは自宅にあります。
朔、アキ宅へ侵入。二犯目です。
主人公が二度も重犯罪に手を染める純愛小説も珍しい。

首尾よく病院を抜け、電車の中で二人は誕生日を祝います。


小さいながらも、ちゃんとしたデコレーションケーキだった。
(中略)
使い捨てライターで蝋燭に火をつけた。匂いに気づいて、近くの乗客が不審そうにこちらを振り向いた。



そりゃ電車の中だもんな。そして朔は衝撃の事実を知ります。


「朔ちゃん、わたしの名前、季節の秋だと思ってたの?」
(中略)
「わたしのアキは白亜紀の亜紀よ」



漢字すら知らないなんてどんな恋人関係だよ。
それにしても、


「白亜紀ってのはね、地質時代のなかでも、新しい動物や植物が出てきて栄えた時期なんですって。恐竜とかシダ植物とか。わたしもこれらの生物たちみたいに栄えますようにって、そういう願いを込めてつけられた名前なのよ」


そんな理由で亜紀と名づける親はたぶんお前の親くらいだ。

空港にたどりついたものの、無理がたたったアキは倒れてしまいます。「助けてください」です。どうでもいいが映画では絶叫してましたが、小説で読む限りは静かに呼びかけている気がします。「!」もついてないし。「叫んだ」じゃなくて「言った」だし。
身もフタもない言い方をすれば、この無茶な逃避行のせいでアキに限界が訪れます。


第四章

アキ、死にました。


「あの世ってあると思う? 好きな人とまた一緒になれるような世界がさ」


朔はまだ『ムー』を読んでいるようです。
朔はアキの両親とともに、遺骨を撒くためオーストラリアに向かいます。アキの父がガイドに尋ねる。


「ドリーミングってのが、わたしにはまだよくわからないんですがね」
(中略)
「ドリーミングには幾つかの意味があります」ガイドの男は答えた。
「一つはある部族の神話上の祖先のことです。この祖先が、動物のワラビーと彼らを創造したのです。彼らと動物のワラビーは、ともに始祖ワラビーの末裔となります」
(中略)
「トーテミズムってのは、そういうことなんだ」



ドリーミングってなんだ。トーテミズムってなんだ。会話が唐突すぎて意味が解りません。これはアキを亡くした朔の混沌とした心中を表しているんですね。違います。


第五章

アキの死から数年。朔は新しい恋人を伴い母校の中学校に行きます。


「ときどき自分でも、夢なのか現実なのかわからなくなることがある。過去の出来事が実際に起こったことなのかどうか。昔よく知っていた人でも、死んで長い時間が経つと、もともとそんな人はこの世にいなかったような気がしてくるんだ」


薄情だな、おい。
夢幻あつかいされたアキに合掌。
それにしても、新しい恋人というのも、


グラウンドの隅に目をやると、懸命に登り棒に挑戦している若い女の姿があった。スカートをはいた両脚で棒を挟み、左右の手を交互に手繰っては、少しずつ身体を上に持ち上げていく。


こんな女やだよ。
授業中に私語をして廊下に立たされたり、どうも作者の描写はステレオタイプである。などと批判したところで終了。



~~~感想~~~

1時間ちょいで読み終わりました。内容は外見同様に薄く、まるで目新しいところのない物語です。
中学生の初恋。プラトニックな関係。難病のヒロイン。死別。再出発。
言ってしまえば誰にでも書ける、あるいはとうの昔に誰かが書いた話に過ぎないのだ。
なんでこんなに流行ったかというと、柴咲コウが褒めたからかなあ。その柴咲からして今はどこへ消えたのか。流行ってこんなもんだよね。
アキが倒れるあたりにかけて急に筆力が上がり、作者の力のいれ具合がよく解ります。つーか前半、手を抜きすぎ。前半は上滑りしていた臭いセリフが、中盤以降は場面にぴたりぴたりとはまっていきます。
未読の方は、簡単に読めるし酷くはない出来なので、気が向いたら読んでみればいいのでは。いずれにしろ、声を大にして他人に勧められるような傑作にはほど遠い。宮部みゆきの『名もなき毒』を読んでいる最中にとりかかったのだが、あまりの筆力の差に宮部みゆきを改めて見直したくらい。読むなら『名もなき毒』の方を読むべし。あれは傑作です。
それにしても、平井堅の『瞳を閉じて』は、小説全体をそのまま圧縮して作り上げたのだなあと感心した。小説を読むのが苦手な方は、映画を観ればいいのではなかろうか。『瞳を閉じて』が流れる分、映画の方がいいかもしれない。
エアロスミスが主題歌だから『アルマゲドン』の方が『ディープインパクト』より面白い、みたいな感じで。

百姓さ~ん。こんなのでいいですか?


06.8.27
評価:★ 2
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ミステリ感想-『闇の底』薬丸岳

2006年09月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
少女殺害事件のたびに、かつて少女への性犯罪を犯した者が惨殺される連続殺人事件が起きる。
愚劣な犯罪を葬るため、愚劣な犯行に手を染め「死刑執行人サンソン」を名乗る犯人の正体は。そして彼の狙う「完全犯罪」とは。


~感想~
『アインシュタイン・ゲーム』は例外として、今年最大の駄作である。
まず、設定はどう見ても『デスノート』。犯罪抑止効果を狙った、犯罪者の粛清。そのまんまである。
それでは『デスノ』の醍醐味であった犯人と警察、追う者と追われる者との駆け引きはというと、これが皆無。警察は完全に受け身に回り、犯人は自分のシナリオ通りに全てを運んでいく。
では犯人の意外性はというと、おそらく大半の読者は中盤までに候補を2人に絞れることだろう。そうなると予想を上回る結末を期待するところだが、終わってみれば完全に予想の範疇。
それなら結末でカバーと思いきや、着地点はそれでいいのかという地点に決まった。あの結末は非常に納得がいかない。それなら、最終章は描かなかった方が良かったとすら思える。『デスノ』を気にしすぎたあまり、ぎごちない着地を決めざるを得なかったようにも思えてならない。
また、犯人の思考もいまひとつつかめない。崇高(?)な目的があるわりに、最終節での言動はそれまでの視点から逸脱して見える。いかにもページ数が足りなくなって駆け足気味なのも痛い。
蛇足だが、長瀬→村上→犯人の順で視点が移り物語は進んでいき、終盤で順番が崩れ「なにか仕掛けがあるのか」と思いきや、ただ崩れただけだったりと、いろいろな面で未成熟。
正直、新進気鋭の作家の第二作として出すには早計だったのではと思えてしまう。
『デスノ』もどきとはいえ、中盤までは面白かっただけに期待を裏切られた感は強い。


06.9.12
評価:☆ 1
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ミステリ感想-『凶鳥の如き忌むもの』三津田信三

2006年09月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
怪異譚を求め日本中を走る小説家・刀城言耶は瀬戸内に浮かぶ島に伝わる秘儀を取材に行く。
島の断崖絶壁の上に造られた拝殿で執り行われる<鳥人の儀>とはなにか?
18年前の儀式でただ一人生き残った巫女が、儀式に挑んだとき奇蹟が起きる。
これは大鳥様の力か? はたまた鳥女と呼ばれる化け物の仕業なのか?


~感想~
濃いい本である。
全体の3/5ほどを費やし、民俗学が語られる。さらに1/5で事件の検討がなされ、物語として動くのは残りの1/5程度。しかしそこで明かされるトンデモな真相を楽しむには、設定資料(?)である4/5をじっくりと読まなくてはいけない。
結論を先に言えば、ものすごく疲れるのだ。帯に「空前絶後の人間消失」とあるとおり、トンデモない仕掛けなのだが、そこに到るまでにぐったりとしてしまう。なんせ残り20ページまで進んでも謎は山積みされており、物語はそこまで地味~に鈍足で進んでいくのだ。たったひとつの真相から全ての謎が砕け散るのはお見事だが、その真相は序盤で実にあからさまな形で示されており、またあまりにも明白な伏線とあいまって「これかよ……」と脱力してしまったのも事実。
通常ならば手がかりと伏線の大胆な提示に舌を巻くところだが、そこに到るまでの道のりで疲労困憊している体からは、もはやため息しか漏れない。面白い仕掛けではあるのだが……。
また、あまりに詳細に事件を検討しすぎて「天井に貼りついていた」とか「ロープでぶら下がっていた」とかの、現実的なげんなりとする真相が推理されてしまうのも、個人的には落胆ぎみ。
トンデモなのはメイントリックだけ。しかしそのトリックだけでも一見の価値はある。マニアは体力を付け覚悟を決め、ぜひ本書に挑んで欲しい。


06.9.11
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『樹霊』鳥飼否宇

2006年09月06日 | ミステリ感想
~あらすじ~
植物写真家の猫田夏海は北海道での撮影旅行中、「神の木が数十メートル移動した」という話を聞き、古冠村へ向かう。
役場の青年の案内で夏海が目にしたのは、テーマパークのために乱開発された森だった。
その建設に反対していたアイヌ代表の議員は失踪。村では、ナナカマドが謎の移動をするという怪事が多発していた。
"観察者"鳶山の眼は全ての謎を見抜けるのか。


~感想~
大木移動の謎、失踪の謎、足跡の謎、墜落の謎、謎は多種多彩にそろっている。が、それぞれのトリックは非常に小粒。メインであろう移動の謎は、ある有名なトリックの応用で、うまくさばいてはいるが目新しさは足りない。
小粒なトリックたちが連携して、ひとつの大きなトリックを形作っているわけではなく、謎が分散してしまった印象。ひとつひとつ取りだしてみれば細かいトリックが個々に散らばっており、衝撃は薄い。
濃いキャラたちや、アイヌという特異な素材は、物語を退屈させないが、トリックやプロットへの貢献度は低い。動機も弱いなあ。全体として、これまた未完成な作品といったところ。
自然派作家の面目は保ったが、あの鳥飼否宇の新作長編にしては地味に小さくまとまりすぎ、名前が足を引っぱったのかもしれない。


06.9.6
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『UFO大通り』島田荘司

2006年09月03日 | ミステリ感想
~あらすじ~
密室の中で死んでいた男。頭にはヘルメット、首にはマフラー、体にはシーツをぐるぐる巻きにし、天井からは大量のガムテープを吊り下げていた。謎だらけの彼の死と、隣家の老婆が目撃した「宇宙人の戦争」に関係はあるのか?(表題作)
土砂降りの中、傘を車に轢かせて折っていた白いワンピースの女。いったいなぜ?
この謎から御手洗潔はとんでもない真相を導き出す。(傘を折る女)
馬車道時代の御手洗シリーズ中編を2作収録。


~感想~
表題作では自ら現場に赴き、行動する御手洗を。「傘を折る女」ではラジオと電話だけで推理する、安楽椅子の御手洗を描いてみせた。
島田御大ならではの奇想が冴える「UFO大通り」もさすがだが、圧巻は「傘を折る女」。
並の作家ならそこで幕を閉じるところで、さらにもう一ひねりを加えたのが見事。ラジオのネタから思いも寄らない方向に話は飛び、さらっと簡潔な描写で悲哀を描くのはまさにお家芸。ファンは黙って買って良し。


06.9.3
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『出られない五人』蒼井上鷹

2006年09月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
異才の作家をしのぶため、今は廃墟となった、彼の愛したバーへと忍び込んだ五人。
それぞれに事情を抱えた訳ありの五人は、宴の最中にとんでもないものを発見してしまう。
「警察に連絡しよう」「厭だ!」五人はそれぞれの事情から、出られない密室の中で酒臭い丁々発止のやりとりをくり広げる。


~感想~
酒盛りさながらに雑然とした、未整理の物語。もっと明確に話の筋を示し、的確に伏線を張っていれば大化けしたろうに。
初長編とあってか、とにかく話に収拾がつかない。物語の着地も、収まるべきところには収まったのだが、大あわてでおもちゃ箱にガラクタを投げ込み、むりやり詰め込んだような印象。洗練すれば傑作に成り得たろうにと思わせる。
だが、この雑然とした雰囲気は、場末のバー(行ったことないけど)のから騒ぎを紙に移したような感も。ケガの功名とまではいかないが、これはこれで楽しめる。
個人的には、序盤をにぎわせた異才作家の掌編が、中盤以降は全く出てこなくなったのが残念。なんとも惜しい作品である。
ともあれ今後も作者の動向には注目していきたい。
She never eat nanny!!


06.9.2
評価:★★ 4
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