小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『玻璃の家』松本寛大

2012年05月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
錯乱した当主が全てのガラスを割り、非業の死を遂げた謎めいた屋敷で、少年は殺人事件を目撃した。
だが少年は人の顔を認識できない「相貌失認」の症状を抱えていて……。


~感想~
「相貌失認症の目撃者は証人となりうるのか?」というある意味で社会派なテーマと見せかけて、その実は意外なところからのどんでん返しの連打で度肝を抜く、ある意味でド本格な意欲作。
ネタを割ってしまったような気がするが、さすがは島田荘司御大の肝入りの賞だけに、怪奇風味あり、歴史的事件の因縁あり、海外在住の日本人学者が探偵役でありの、御手洗物の雰囲気が立ち込める。
新人ながら筆力も達者で、幾分か丹念に描きすぎて読みづらい面もあるが、十分に及第点。
惜しむらくはわりと前半で「これが真犯人によるミスディレクションでなければいいなあ」と思った不自然な記述が、そのまんま真犯人によるミスディレクションで、犯人が丸わかりだったところ。
ともあれ島田荘司イズムを受け継いだ、まさに「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」にふさわしい一作である。ファンなら必読の御大の選評もあるよ。


12.
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『神様ゲーム』麻耶雄嵩

2012年05月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
芳雄の住む町で、猫の連続殺害事件が発生した。芳雄は同級生と探偵団を結成し犯人捜しを始めることに。
そんなとき、転校してきたばかりのクラスメイト鈴木君に「ぼくは神様なんだ。猫殺しの犯人も知っているよ」と告げられる。
鈴木君の「神様ゲーム」に付き合う芳雄は、犯人を教えて欲しいと頼むのだが……。


~感想~
さすが俺たちの麻耶雄嵩!

今作は「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」がコンセプトのレーベルの一つで、法月綸太郎「怪盗グリフィン、絶体絶命」や乙一「銃とチョコレート」のようなまさに子供をターゲットにしつつも大人をも楽しませる娯楽作品がある一方で、殊能将之「子どもの神様」や島田荘司「透明人間の納屋」のような、コンセプトを逆手に取ったように子供にトラウマを植え付けるのが目的のような作品もちらほらあるのだが、この「神様ゲーム」は明らかに後者。むしろ狙ってやってるんじゃないかと勘ぐりたくなるようなトラウマ製造機である。
だって、どこからどう見ても、どこをどう切り取ってもいつもの麻耶雄嵩なのだ。
容赦のない死体描写、容赦のない作中人物への扱い、容赦のない探偵役、と子供相手にも容赦のないセメントファイト。
主人公はもちろん読者も「あたしゃ神様だよ」と突き放す衝撃のラストの破壊力は、大人の読者にも十分にトラウマ物。
ミステリの定番トリックや定番ネタを一つずらすことで、見たこともない作品を仕上げる作者だが、今回のテーマは「どんなにありえないことであっても他の全ての可能性を消していって残ったものならば真実である」というミステリマニアにはおなじみの格言の「悪用」といったところか。このとんでもない結末は、昨年に話題をさらった「メルカトルかく語りき」にも通じるものがある。
10年後くらいに「子供の頃にトラウマになった本を挙げるスレ」等で名前が挙げられても不思議ではないし、その時のことが今から楽しみである。

ところで単行本版ではこちらもトラウマ必至の挿絵があったそうだが、ノベルス版では収録されていないのは、やはり「透明人間の納屋」で挿絵を白黒にしたせいで(?)子供の落書きにしか見えなかったからだろうか。


12.
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『地獄の門』法条遥

2012年05月23日 | ミステリ感想
~あらすじ~
突如、地獄に落とされた良太。当惑する彼が美しき悪魔から知らされたのは、自分が何者かによって殺されたという事実だった。
良太は復讐のため、悪魔を騙し、記憶を持ったまま転生することを誓うが……。
一方現世では、良太の恋人であり刑事の愛が、犯人への憎悪をたぎらせていた。


~感想~
ホラー小説大賞に輝き、SFミステリとしても優れていた「バイロケーション」でデビューを飾った作者の第二作。
しかしものすごい「コレジャナイ感」に襲われた。
デビュー作に続き角川ホラー文庫から出版されたのだが、今回はミステリはもちろんホラーにも針は振れず、とにかく中途半端。
書店員サマが「二度読み必至!」と煽るSFミステリ的要素は、二度読みどころか一読目の中盤あたりでモロバレ状態。
いちおうメイントリックの後にもうひとつ、多少はホラーらしい、語り手を文字通り地獄の底に叩き落とす仕掛けもなくはないのだが、少なすぎる登場人物とあからさますぎる伏線のせいか、そちらもノーガードのモロバレ状態。
「バイロケーション」のような延々と綱渡りを続けるトリックと伏線の妙を期待しすぎたところもあるが、それにしてもあまりにバレっバレの想定通りに転がる展開には、レーベルがホラーのくせに全くホラー要素がない点とあいまって、コレジャナイ感を終始受けてしまった。
まあ、次に期待したい。


12.
評価:★★☆ 5
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