小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『九杯目には早すぎる』蒼井上鷹

2006年08月31日 | ミステリ感想
~収録作品~
大松鮨の奇妙な客
においます?
私はこうしてデビューした
清潔で明るい食卓
タン・バタン!
最後のメッセージ
見えない線
九杯目には早すぎる
キリング・タイム


~感想~
短編・掌編とり混ぜた作品集。
小市民の犯人と小市民の被害者が右往左往するのが特徴。どの作品も非常にブラックな味わいで、毒が利いている。なんでもない光景に見えて、実は裏で思いも寄らない計画が進行していた――という形式はすごく好みである。
が、デビュー作ということもあってか、作品ごとの当たりはずれは大きい。特に掌編に顕著なのだが、肝心のオチが不発で、作品全体の質も頭打ちになっている感がある。オチがこの程度では、それまでの流れがいくら面白くても、そこそこの評価に落ちついてしまう、というパターンが多いのだ。
ともあれ書き方や見せ方次第でもっと輝くだろう材料ばかりなので、腕を上げれば傑作をものしてくれそうな、注目の新鋭である。


06.8.31
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『名もなき毒』宮部みゆき

2006年08月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
散歩中、コンビニで買った烏龍茶を飲み絶命した老人。彼は連続無差別毒殺事件の4人目の犠牲者だった。
一方、財閥の娘と結婚し、幸せな家庭を育む杉村の周辺で奇妙な事件が次々と起こる。毒殺事件被害者家族との出会い。会社をクビになった元部下からの執拗な嫌がらせ。死期を間近にした元刑事……。
事件の真犯人は? 事件の真相は? 杉村が様々な事件で垣間見た「名もなき毒」の正体とは?


~感想~
宮部文学。ミステリー要素は皆無。が、とても面白く読めた。途中で気分転換(?)に「セカチュー」を読んだおかげで、宮部氏の筆力の高さを再確認できたのも収穫。
紹介したい作中の言葉がことごとくネタを割っているので、実に紹介しづらい。毒とはなにか。なぜ毒は存在するのか。読んでいる間、そんなことをずっと考えさせられる。
また、完全に私事なのだが、今回の一連の騒動の答え――とまではいかないものの、ヒントとなるものを得られたとも思う。いろいろな点ですごく身につまされた。
非常に評価しづらい作品である。騒動の渦中ではなく、平時であれば「ミステリ味のない凡作」と斬って捨てたかもしれない。読書にはめぐり合わせがある。いつ、どんなときに読んだかで同じ作品でも印象は大きく変わってしまうのだ。その点では、最高のタイミングで今作にめぐり会えたと思う。
「宮部みゆき3年ぶりの現代ミステリー」そんな軽薄な宣伝文句に騙されてはいけない。万人に読んで欲しい、隠れた名作である。


06.8.30
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『顔のない敵』石持浅海

2006年08月25日 | ミステリ感想
~収録作品~
「地雷原突破」
「利口な地雷」
「顔のない敵」
「銃声ではなく、音楽を」
「トラバサミ」
「未来へ踏み出す足」
「暗い箱の中で」


~感想~
「こんなくだらない物、ミステリの題材に使う以外に使い道がない」というわけで「対人地雷」をテーマにした異色のミステリ+処女作品「暗い箱の中で」を収録。
対人地雷とミステリを見事に融合させ04年のベスト短編にも採られた表題作「顔のない敵」がやはり出色の出来。異色のテーマを扱いつつも、ミステリの肝を外さないのはさすが。
一編のみ対人地雷を扱わない「暗い箱の中で」は氏ならではというか、地震で停止したエレベーター内で起こった殺人事件を、巧みな論理で解き明かす。
広がりのなさそうなテーマで、様々なミステリを描きあげた佳編集に仕上がった。


06.8.25
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『虹の家のアリス』加納朋子

2006年08月22日 | ミステリ感想
~収録作品~
「虹の家のアリス」
「牢の家のアリス」
「猫の家のアリス」
「幻の家のアリス」
「鏡の家のアリス」
「夢の家のアリス」


~感想~
『コッペリア』に感心し、久々に加納短編を読みたくなった。こちらは『コッペリア』とはうってかわり、おとぎ話さながらに暖かく柔らかな短編集。
脱サラして探偵になった中年男性と、不思議な国のアリスと猫をこよなく愛する少女。しかし彼らを取り巻く日常の事件たちは暖かいばかりではなく、ほろ苦さもちょっぴり。
一編挙げるなら冒頭の表題作「虹の家のアリス」がさすが。これぞ日常の謎の見本品。
それにしても――やはり結末には納得がいかんよなぁ。


06.8.22
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『コッペリア』加納朋子

2006年08月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
恋をした相手は人形だった。
だが、人形はエキセントリックな天才作家自らの手で破壊されてしまう。修復を進める僕の目の前に、人形に生き写しの女優が現れた。恋した人形と女優が競演を果たすとき、僕らを待ち受ける運命とは?


~感想~
著者初の長編ミステリー。……って『いちばん初めにあった海』は?
あらすじからして、文学に傾いた作品かと思いきや、意外も意外。「加納朋子がこんなトリックを?」と驚かせ、そういえば鮎川哲也賞作家だったことを思いださせてくれる。
ややネタバレになるが際だって異色なのは、物語の2/3ほどのところで全ての仕掛けが出そろってしまうのだ。普通のミステリならばそこで終わるのだが、今作は(大げさに言えば)そこからが物語の始まり。
謎が明かされ事件が解け、ではその後は? と登場人物や物語をほっぽりだしてしまうミステリも多いなか(もちろんトリックやプロットによれば、物語を最後まで描かずに、最大の効果が上げられる場面で終えるのも、正しい手段である)、後日談というか物語の後始末をきちんと終えているのは珍しい。
さらにそれによって、バッドエンドに沈んだかと思われた物語を、ハッピーエンドに転換させてみたのが面白い。
劇に例えるならば、幕を閉じ暗転した舞台に再びスポットライトが差し、第二幕が始まるような。
暖かな優しい物語ばかりではない、氏の新境地を開拓する印象深い秀作でした。


06.8.19
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『館島』東川篤哉

2006年08月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
巨大な螺旋階段の下に倒れていた当主の死因は、転落死ではなく墜落死。しかし墜落現場はどこにも見つからない。
天才建築家・十文字和臣の突然の死から半年、未亡人の意向により、瀬戸内の孤島に建つ銀色の館に再び事件関係者が集められたとき、新たな惨劇(?)の幕が開く。嵐が警察の到着を阻むなか、館に滞在していた女探偵と刑事が謎に立ち向かう!


~感想~
シリーズを離れて挑んだのは、久々に館物らしい館ミステリ。まだこんな館ミステリらしいトリックがあった!
一見、必要性に疑問を感じる時代設定や、帯に書かれた「なぜ館に名前がないのか」は真相と密接に絡み合い、膝を打たせてくれること請け合い。もちろん実際に打つことはないが「膝を打つ」とはこういうときに使うものだと教えてくれる。
古き良き(というほど古くはないが)館ミステリを愛し、待ち望む諸君。高らかに唱えよう、ここに新たなる館が屹立したと!


06.8.17
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『美女』連城三紀彦

2006年08月15日 | ミステリ感想
~収録作品~
夜光の唇
喜劇女優
夜の肌
他人たち
夜の右側
砂遊び
夜の二乗
美女


~感想~
純文学でありながらミステリとしても一流の珠玉短編集。
泡坂妻夫と同じく、現実に根を張りながらも、ふと冷静に考えてみると「ありえねえ」ことを平然と描いている。一歩間違えば単なる虚構や、ただの馬鹿話になるところを、並はずれた平衡感覚で現実世界の情景に留めているのだ。
収録作では『喜劇女優』や『他人たち』が顕著だが、直前まで事実だと思っていた事柄が、一言で全て否定され、全く別の側面を見せるという手法を、好んで用いる。これも力のない作家がやれば、ただのしっちゃかめっちゃかな行き当たりばったりの物語になるところを、豪腕でむりやりにでも納得させてしまう。そのあたりは島田荘司や京極夏彦、泡坂妻夫と同じ作風なのかも知れない。
現実世界に足を着けながら、不思議な酩酊感をもたらしてくれる、現実的に幻想的な世界。やはりただものではない。


06.8.13
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『アインシュタイン・ゲーム』佐飛通俊

2006年08月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
すべては来日中のアインシュタインが遭遇した事件から始まった。
「あれは自殺ではない」アインシュタインの手記に残された不可解なメッセージ。謎の解明を依頼された元探偵・ザナドゥ鈴木は、手記が眠る老舗ホテルへと向かう。そこに集まるのは遺産を狙う狡猾な人間たち。
相続争いはやがて、奇妙な殺人事件へと発展。手記の真相と不可能犯罪に素人探偵が挑む!


~感想~
歴史上の人物を題材にしたパロディミステリの傑作といえば第一に『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』島田荘司 が思い浮かぶところ。しかしせっかくの「アインシュタインの事件」はプロローグとエピローグだけに留まり、本筋は奇矯な探偵の物語。
なにかといえばウンチクと詩を吐き散らす横暴探偵を、冴えないギャグで描くのだが、この手のミステリでは既に霞流一・東川篤哉という偉大なる先駆者が存在している。
で、彼らと比べると佐飛氏の飛ばし具合はあまりに中途半端。マジメ一徹のサラリーマンが無理におどけているような、ぎごちないふざけっぷりで滑る滑る。
挙げ句の果てに肝心のトリックが森博嗣のアレと同じでは話にならない。しかも森博嗣のアレも歌野晶午のアレなので、結果的に孫パクリの有様。どれも同じ出版社なのだが、これでいいのか?
短いわりに読みづらく、ウンチクの多いわりにためにならない、どこまでもハンパな凡作でした。


06.8.13
評価:☆ 1
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ミステリ感想-『行方不明者』折原一

2006年08月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ある朝、一家4人が忽然と姿を消した。炊きたてのごはんやみそ汁、おかずを食卓に載せたまま……。両親と娘、その祖母はいったいどこへ消えたのか?
ライター・五十嵐みどりは、関係者の取材を通じ家族の闇を浮き彫りにしてゆく。
一方、連続通り魔事件に遭遇した売れない推理作家の「僕」は、自作のモデルにするため容疑者の尾行を開始するのだが――。


~感想~
船乗りたちの間でささやかれた海の怪談として有名な「手つかずの食事を残し消えた乗組員」を陸に揚げた趣向。
だが舞台が船ならば、沈没しても海賊に襲われてもいないのに、食事を残し乗組員はどこへ消えたのかという魅力的な謎だが、舞台が一軒の家となると、しごく当たり前な結論に落ち着いてしまう。メイントリックはここではないのだが、もう少しこの謎を中心に据えて欲しかった。
たとえば石持浅海や氷川透、全盛期の西澤保彦ならば、この謎をつついてつついてつつき回し、とんでもないロジックをひねり出してくれたろうにと思ってしまうのだ。
それでは本線はどうかといえば、折原一が仕掛けそうなトリックの範疇に留まってしまい、驚きは薄い。せっかくの素材を未整理のまま仕上げてしまったような、なんとも惜しい作品でした。


06.8.10
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『カオスコープ』山田正紀

2006年08月07日 | ミステリ感想
~あらすじ~
記憶障害に悩む作家・鳴瀬君雄は、ある朝自宅で他殺死体を発見する。ポケットには血の付いたナイフ。脳裏をよぎる女性の悲鳴と殺人の光景。自分は殺人者なのか?
「万華鏡連続殺人事件」を追う刑事・鈴木は奇妙な事件に興味を抱く。被害者の名は鳴瀬君雄。重傷を負ったまま行方不明になった彼を捜し鳴瀬宅へ向かうが……。
壊れた記憶を抱えてさまよう男と、そこにいない相棒とともに事件を追う刑事。二人を待ち受ける運命とは。


~感想~
ぶっ壊れた小説。と評するのは正しくない。これは作者自らがぶっ壊した小説。
あとがきで示唆したとおり、思いだすのはあの映画。(ネタバレ→)『メメント』クリストファー・ノーラン監督
それとは別の映画(いちおう伏せ字→)『マルホランドドライブ』デビット・リンチ監督 も喚起させる。
物語は世界もろとも一から十までぶっ壊れており、真相が明かされてもなお、全ては万華鏡の映す世界さながらに粉々に砕かれたまま。身もフタもないことを言えば、小説よりも映画向きの題材だったと思う。
幻想小説というか妄想小説。ミステリとしての結構は期待しない方が吉。


06.8.7
評価:★ 2
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