小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『≠(ノットイコール)の殺人』石崎幸二

2009年12月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
沖縄本島沖の孤島にある保養所で開かれたクリスマスパーティー。
大手企業の主催だけあって、有名スポーツ選手や俳優などの豪華な招待客が名を連ねていた。そんな宴の夜、惨劇が!
絶海の孤島に住む双子の姉妹、断崖の上の怪しげな建造物。親父ギャグを愛す女子高生トリオと冴えない中年サラリーマンが難事件に挑む。


~感想~
いつの間にかDNAトリックの専門家になってしまった感があるが、中身はいつもと同じ四人による掛け合い漫才。
漫才の中でさらりと伏線が張られるのはもちろん、他の作家が書けば重くなるようなテーマや裏事情などもさらりと語られてしまい、まったく重さを感じさせないのもいつもどおり。
今回は「お前ら何歳だよ」と言いたくなる、女子高生にあるまじき古い話題や親父ギャグは少ないものの、もはやファン垂涎のなんともいえない軽妙な味わいは健在で、いつもの四人がわいわい騒いでいるだけで満足という人種は黙って買い。
トリックに関して一切言及していないが、DNAトリックのあらゆる可能性を探るようなあんばいで、使い古された●●トリックに意表をつくDNAネタを絡め、驚かせてくれること請け合い。
前作ほどのやりすぎた(思考停止のように同じ展開がつづくので1時間足らずで読めてしまう)リーダビリティはないが、万人にすすめられる、肩のこらない作品である。


09.12.21
評価:★★☆ 5
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映画感想―『オーシャンズ11』

2009年12月27日 | 映画感想

~あらすじ~
保釈中のカリスマ窃盗犯ダニー・オーシャンは刑務所暮らしの4年間にとてつもない犯罪計画を練り上げていた。それは、ラスベガスの3大カジノの現金がすべて集まる巨大金庫から、厳重な警戒とセキュリティシステムを破って現金を盗み出すというもの。オーシャンはこの計画の遂行に不可欠な各分野のスペシャリスト11人を選りすぐり、犯罪ドリーム・チームを結成した。


~感想~
井筒カントクがけなした作品はたいてい普通に面白いという法則があるが、ご多聞にもれずこれもなかなかの良作だった。
僕のような俳優の知識に乏しく、人の顔を覚えるのが苦手な人間にはもったいないくらいの豪華キャストで、並の映画ならば主役を張る面々が一堂に会しているだけでも、絵面が映え、銀行強盗という題材として充分な意外性を備えた、安定感あふれる作品であろう。
というか、いったいどこをけなせばいいのかわからんのだが……。これを駄作と一顧だにしない人種は、どんな作品ならケッサクケッサクともてはやすんだろうか。そしてこれを楽しめない人間がどの面下げて映画評論やら映画監督やらができるのか、不思議な限りである。


評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『プールの底に眠る』白河三兎

2009年12月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
夏の終わり、僕は裏山で「セミ」に出逢った。木の上で首にロープを巻き、自殺しようとしていた少女。彼女は、それでもとても美しかった。陽炎のように儚い一週間の中で、僕は彼女に恋をする。
あれから十三年……。僕は彼女の思い出をたどっている。「殺人」の罪を背負い、留置場の中で――。
※裏表紙より抜粋


~感想~
かの『無貌伝』につづく09年メフィスト賞は……またしても小粒。
ミステリと呼称するには据わりの悪い、とりたてて大きな仕掛けのない物語だが、それなりに効果的な後出しジャンケンで「実は●●でした」を要所要所でくり出し、ほどほどに読者の興味を引きつけることには成功している。
しかし肝心の物語が練り不足で、なにかといえば語り手は会う人ごとに「君は普通じゃない何かを持っている」やら「君は愛の尊さを知っている」だの「男として完全に負けた」云々と褒めそやされるのだが、読者としてはこいつが褒められてもうれしいほどには感情移入もしていないし、こいつとの長い付き合いもないしと引き気味になるだけで、そもそもうじうじと悩んでばかりの優柔不断なこいつのどこに共感すればいいのかわかりゃしない。うじうじっぷりも石岡君や関口君やシンジ君と比べたらまるで問題にならないし。
シンジ君といえばこの物語自体も、厨二病→影羅→セカチューと来て「僕はここにいてもいいんだ!」で締める、陳腐に陳腐を重ねるようなベッタベタさで、しょうもないハッピーエンドとあいまって「おめでとう」と乾いた拍手を贈るしかないのも辛いところ。ぶっちゃけるとこれって単に「私はこうして厨二病を卒業しました。でもやっぱり厨二病っていいネ!」というだけの話なんじゃないかとも思えてしまう。
読了後、数年経っても展開を思い出せそうという点では前メフィスト賞『虫とりの歌』はかろうじて上回るものの、厨二病を題材にしておきながら(?)、その徹底ぶりではたとえば詠坂雄二『リロ・グラ・シスタ』(註:駄作だが尖りまくっている)と比べるにも値しないこれまた尖ったところのないおとなしい作品である。


09.12.14
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『午前零時のサンドリヨン』相沢沙呼

2009年12月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
僕が一目惚れしたクラスメイト。不思議な雰囲気を持つ酉乃初は、実は凄腕のマジシャンだった。
放課後にレストラン・バー『サンドリヨン』でマジックを披露する彼女は、僕らが学校で巻き込まれた不思議な事件を、抜群のマジックテクニックを駆使して鮮やかに解決する。
第十九回鮎川哲也賞受賞作。


~感想~
26歳の新人によるデビュー作で、高校生の甘酸っぱい恋愛模様にマジックをからめた、ハートウォーミングな日常の謎ミステリ……などという悪い意味で鳥肌の立ちそうな外見にそぐわない、実に「達者な」筆致で、計算ずくの展開や伏線の的確さ、連作短編集として一本芯の通った物語と、初々しさよりも老練さを感じさせる、珍しい作家である。
なんでも授賞式では泡坂御大ばりにマジックを披露した(それも作中で実際に使われたマジックを作中とは違うオチでやって見せた)というエピソードも頼もしく、この作者はこの程度の作品ならばこれからいくらでも作り出せるだろうと早くも思わせてくれる。
だが、選考委員の一人・笠井潔が「作者は登場人物それぞれや、さらに主人公にもあれこれと「悩ませる」のだが、作者自身は妙に余裕ありげで、さほど悩んでいるようには感じられない。この程度に設定しておけば、悩んでいることになるだろう、悩んでいる人物として読者に通用するはずだという判断の常識性が気になる」と指摘するように、あまりに老獪すぎて、題材にとったマジックのフラリッシュ(技術を見せる曲芸的な手品)さながらに、技術や巧みさばかりが目に付き、たとえば同じ日常の謎系で前年の受賞作となった『七つの海を照らす星』と比べると、仕掛けられたトリックが小粒であったり、チャレンジ精神のようなものが見受けられないのもたしかで、新人賞の受賞作としては十全であっても、本格ミステリの新人賞である鮎川賞として、または単に面白いミステリとしては物足りない面があるのもたしかではある。
が、そんなことは瑣末事であり、(笠井の言をとるならば最近の森博嗣とか「この程度に設定」しすぎてるだろ)達者で確かな力を持った新人が現れたことを素直に喜ぶべきだろう。


~選評について~
↑でも触れた選評が実に奇妙なことになっていて、満場一致で「うまい」と認めているものの、もはや言いがかりとしか思えない文句をつけているものがちらほらあるので紹介したい。
たとえば北村薫は「あまりにもまとまり過ぎてい」て他の作品に比べて化ける可能性が低い、と言い、山田正紀は「この作品はあまりに達者すぎるし、完成されすぎていて、ここに探偵小説の未来を託すのは難しいかもしれない」などとひょっとして山田先生どうかしちゃったのかしらと思いたくなるいちゃもんを付けていて(相沢よりはるかにデビュー当時から「達者すぎる」実力を見せていた京極夏彦や宮部みゆきは大成しないと想像した人がいるだろうか)、笠井潔にいたってはあれが足りないこれが足りないと自分勝手に盛り上がり、挙句の果てに「この時代を生きることへの作者の態度に疑問がある」から棄権という「知っているがお前の態度が気に入らない」のAAを思いださせるていたらくである。

あのーなんなんですかこれ? 相沢沙呼がたとえば人生経験豊富な50代の教職経験者だったりしたら、たぶんもろ手を挙げてみんな賞賛してたと思うんですよね。
ここにははっきり言って才能と若さに対する嫉妬のようなものがかいま見えてしかたありません。
その点、選考委員の最後の一人・島田荘司御大は、さすが新本格派を勃興させ、いまもなお同人やマンガとコラボし、海外にも精力的に出向いて新人発掘に余念がない、先駆者たる貫禄を示す、実に冷静な、そして温かい選評を書いている。(無論それは受賞を逃した他の作品に対してもだ。まあなんとかして良いとこ見つけすぎのヨドチョースタイルな感もあいかわらずあるんだけども)
新人賞は有望な新人を発掘し、ミステリ界をより発展させるためにあるのだ。わけのわからないいちゃもんで新人つぶしをする場ではない、(城平京という前例を忘れてはならない)ということを御三方はわかっているのだろうかと疑問に思えてならない。


09.12.10
評価:★★★ 6
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文春結果についてなんやかや

2009年12月14日 | ミステリ界隈
01.「新参者」東野圭吾
02.「ダブル・ジョーカー」柳広司
03.「鷺と雪」北村薫
04.「Another」綾辻行人
05.「追想五断章」米澤穂信
06.「無理」奥田英朗
07.「粘膜蜥蜴」飴村行
08.「オリンピックの身代金」奥田英朗
09.「龍神の雨」道尾秀介
10.「同期」今野敏


年々、文春のランキングはいらない子になっているが、今年はそれもここに極まれりといったところ。
なんせ1位、2位はこのミスと同じで、4位、5位は上に「鷺と雪」が割り込んだだけ。他の順位もほとんどがこのミスとかぶり、唯一それ以外からランクインした「オリンピックの身代金」は僕がまったく評価していない駄作で、かえって個人的にランキングの価値を落とした感も。
毎年思うことだが、もう文春の役割は終わったと言っていいだろうなあ。
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映画感想―『アルティメット』

2009年12月13日 | 映画感想

~あらすじ~
2010年のパリ。無法地帯と化していた郊外の"バンリュー13"地区。この地区で育ったレイトは街からドラッグを一掃しようとギャングのボス、タハにたった一人で立ち向かうが…。


~感想~
ビルからビルへと身軽に飛び移り、人間離れした軽業で華麗なアクションを披露する――要するにリュック・ベッソン版『ヤマカシ』、あるいはフランス版『マッハ!!!!!』である。
しかしそのどちらと比較しても、アクション描写よりも映画としての整合性のほうを求めてしまったせいか、目の覚めるようなアクションが少なく(さすがに要所要所にここぞとばかりに取り入れたシーンには目をみはるが)後半に進むにつれ、いたってフツーのアクション映画になってしまい物足りない。お前らストーリー展開を説明しなくていいから走れ、飛べ、と。
こちらとしては映画としてどうのこうのよりも、単に超人アクションが目当てだったんですけども……。


評価:★★☆ 5
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早ミス結果についてなんやかや

2009年12月11日 | ミステリ界隈
01. 「造花の蜜」連城三紀彦
02. 「ダブル・ジョーカー」柳広司
03. 「追想五断章」米澤穂信
04. 「黒百合」多島斗志之
05. 「新参者」東野圭吾
06. 「鷺と雪」北村薫
07. 「儚い羊たちの祝宴」米澤穂信
08. 「鬼の跫音」道尾秀介
09. 「粘膜蜥蜴」飴村行
10. 「福家警部補の再訪」大倉崇裕


はい、もう早ミスはいらない子だねこりゃ。
まず肝心の1位、さらに4位におもっくそ去年の作品が入っているという始末。
せっかく各種ランキングの中で最も早く出るという意味合いも込めての(?)早ミスだろうに、去年のランキングをにぎわせた作品が入ってしまっては元も子もない。
そして他の作品もこのミスやら文春やらで見覚えのあるものばかりで、新味に乏しい限り。
奇をてらったはずがこのミスの意外な結果とかぶりまくっただけの気もするが……。例年は明らかなランクイン作品を切り飛ばして独自性を出していたが、今年はかぶらなかったものは皆無というのも悲しい限り。
また今年はレビューを省き、総合ランキングだけではなく「ストーリー部門」「サプライズ部門」などに分け、さらにジャンルまで「本格」「ハードボイルド」など細分化してランク付けしているのだが、これでは独自性は出たものの権威もへったくれもなくなり、まったく意味がなくなっている。ホラーや警察小説と本格がしのぎを削ってこそのランキングだろ常識的に考えて……。
考察するまでもなく1位をいっぱい作って売るための商法であることは疑いない。そういえば早ミスは初回の海外部門1位も自分とこの作品だったっけか。
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本ミス結果についてなんやかや

2009年12月10日 | ミステリ界隈
01. 「密室殺人ゲーム2.0」歌野晶午
02. 「身代わり」西澤保彦
03. 「Another」綾辻行人
04. 「追想五断章」米澤穂信
05. 「新参者」東野圭吾
06. 「鷺と雪」北村薫
07. 「ダブル・ジョーカー」柳広司
08. 「ここに死体を捨てないでください!」東川篤哉
09. 「後悔と真実の色」 貫井徳郎
09. 「リバース」 北國浩二
11. 「秋期限定栗きんとん事件」米澤穂信
12. 「神国崩壊」獅子宮敏彦
13. 「電気人間の虞」詠坂雄二
14. 「龍神の雨」道尾秀介
15. 「福家警部補の再訪」大倉崇裕
16. 「少女探偵は帝都を駆ける」芦辺拓
16. 「三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人」倉阪鬼一郎
18. 「密室の如き籠るもの」三津田信三
19. 「うまや怪談」愛川晶
20. 「玻璃の家」松本寛大


こうして見ると今年はド本格というものが少なかったのだなあと気づかされる。
それにしても解せないのは『リバース』の存在であり、この作品の立ち位置は本ミスとこのミスで逆だと思うのだがどうか。最近の人は『リバース』を本格だと思ってるのかよ……。
さらに解せないのはこちらでも猛威をふるう米澤作品の中で、このミスにランクインした三作の中で最も本格として認定されたのが『追想五断章』だという事実。明らかに本格として一番下だろあれ。
世間的には米澤作品の最高傑作は『追想五断章』だということになることとあわせ、悲しい事実である。
解せないことをもうひとつ挙げると、どうして深水黎一郎『花窗玻璃』が顔を出していないのかということ。アレか。現代文学批判がいけなかったのか。
去年のミス板住人も「空気読めすぎ」と認めたランキングから一転、今年は総じて納得のいかない本ミスでした。
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このミス結果についてなんやかや

2009年12月09日 | ミステリ界隈
このミス結果

01.「新参者」東野圭吾
02.「ダブル・ジョーカー」柳広司
03.「Another」綾辻行人
04.「追想五断章」米澤穂信
05.「犬なら普通のこと」矢作俊彦+司城志朗
06.「粘膜蜥蜴」飴村行
07.「仮想儀礼」篠田節子
08.「暴雪圏」佐々木譲
09.「龍神の雨」道尾秀介
10.「秋季限定栗きんとん事件」米澤穂信
11.「鷺と雪」北村薫
12.「函館水上警察」高城高
13.「ジョニー・ザ・ラビット」東山彰良
14.「同期」今野敏
15.「鬼の跫音」道尾秀介
15.「ダイナー」平山夢明
17.「儚い羊たちの祝宴」米澤穂信
18.「密室殺人ゲーム2.0」歌野晶午
19.「無理」奥田英朗
20.「電氣人間の虞」詠坂雄二


まず1位はちょっと意外な伏兵。というか東野に興味がないので積ん読にしていた。かなり大差の1位で、『容疑者Xの献身』のときのように不作気味の年にはめっぽう強い人なのだろうか。
昨年につづいての2位をさらった『ジョーカー』シリーズは前作が全く口に合わなかったのでスルーしていた。今後もスルー。
3位に私的1位だった『Another』が入ってくれたのはうれしい限り。期限ギリギリでなければ『新参者』との差をもっと詰められたのでは。
4位、10位、17位と06年本ミスの道尾秀介のように三作ランクインを果たした米澤穂信だが、まったく理解ができなくて困る。『秋季限定栗きんとん事件』は物語として面白かったが、ミステリとしては弱めだし、他の二作は物語としても弱いだろうに。最近の傾向はつかめんなー。
その道尾は名前だけで2作ランクインしたような気も。このキャリアの浅さでもう名前だけで入れるあたりはすごいのだが。
そして今年も(読んでないのばっかりであまり言えないが)広義のミステリが多く入った印象。まあこのミスはこれでいいと思うけども。
そんな中で20位に食い込んだ『電氣人の虞』はうれしい限り。本ミスでも13位に挙がっており、プッシュした甲斐があったというもの。

明日は本ミス、明後日はあまりに酷すぎる結果に終わった早ミスについてなんやかや。
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映画感想―『ヘルボーイ ゴールデン・アーミー』

2009年12月08日 | 映画感想

~あらすじ~
超常現象捜査防衛局(BPRD)の凄腕エージェントとして魔物退治にあたる地獄生まれのヘルボーイ。目下、同僚であり恋人でもあるリズとの関係に頭を悩ませる日々。そんなある夜、マンハッタンのオークション会場が何者かに襲撃される事件が発生、すぐさまヘルボーイたちBPRDチームが駆けつけ事態は収拾したかに思われたが…。


~感想~
前作は力自慢のわりに拳銃が武器という強いんだか弱いんだかわからない主人公が、見飽きるくらい大量の同じ敵とワンパターンに戦うだけの退屈な映画だったが、反省を踏まえてさまざまな解決策(ちゃんとパワータイプな面を見せる主人公、多彩な敵キャラ、工夫をこらしたバトル)を取り入れ、ファンタジィ味あふれる痛快なアクションに仕上がった。
しかしながら制作費は前作よりも少ないそうで、節約とやりくりで数倍のボリュームを演出したというのだから、製作陣にはGJと言うしかない。
低予算を感じさせない、気軽にスカッと観られるそれなりの作品なので、前作は無視してこちらを先に観ることをおすすめする。


評価:★★☆ 5
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