小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『おれたちはブルースしか歌わない』西村京太郎

2022年12月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
デビューを夢見るアマチュアバンド「ザ・ダックスフント」の自信の曲がパクられた。
バンドの象徴だったダックスフントも姿を消し、パクられた曲の流れる静岡へ乗り込むが、滞在する武家屋敷で悪霊の起こす連続殺人事件に巻き込まれる。


~感想~
謎だけでも不可解な曲のパクリ騒動、犬の失踪、私立探偵の死、武家屋敷の連続殺人、悪霊のたたりと盛りだくさんで、それに加えて昭和の青春模様と恋の鞘当てが描かれ、とどめとばかりに「犯人と動機」を問う読者への挑戦まで付けられる。
推理と真相はやや恣意的というか我田引水というか、確かな証拠を抜きにして決めつけや印象で強引に引っ張るきらいはあるが、わずか32ページの間に目まぐるしく変幻する解決編は見事なもので、作者の仕掛けた罠とその大胆な趣向は三津田信三の刀城言耶シリーズを思わせてしまうほど。
かの双子トリックの金字塔的傑作「殺しの双曲線」で見せた本格ミステリの腕前を発揮した良作である。
時刻表をどうこうするとアリバイを崩せるトラベルミステリ一色に染まる前の西村京太郎はやはりすごい。


22.12.30
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『殺人ドライブ・ロード』井沢元彦

2022年12月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
大富豪の娘の大沢良江は、浮気症の夫との二度目のハネムーン中に非業の死を遂げた。
良江の妹の沙織はボーイフレンドの飛田雄介を相棒に、義兄の英夫のアリバイ崩しの旅に出る。


~感想~
まず冒頭から100ページ以上続く、英夫がむちゃくちゃアリバイ工作しているハネムーン旅行が笑いを誘う。
良江がヨル・フォージャーくらいアホ…騙されやすいから成立してるだけの強引さで、読者には仕掛けにだいたいの見当がつくだろう。
続く妹の沙織パートは姉のハネムーンをそのままたどる推理行で、名所めぐりもほどほどに次々とアリバイを破りつつボーイフレンドといちゃつきまくる。
そして英夫のアリバイ工作を破り、物語は解決パートへと移り…正直なところ本格ミステリファンにはその先にもだいたいの見当が付いてしまうのだが、しかしもしかしてこれはアレがああなっているのでは?と膨らませていた期待を裏切らない、予想通りながら俄然盛り上がらざるを得ない結末には、わかっていても感心しきり。
時刻表をどうこうしてのアリバイトリックこそないものの、名所めぐりをしつつ美男美女がいちゃつく典型的な昭和のトラベルミステリでこれだけのザ・本格ミステリを披露されては恐れ入るしかない。
こんな無名の作品がこんなに良くできているなら、我々が手に取ることはない昭和のトラベルミステリには、まだまだ驚嘆すべき未知の本格ミステリが眠っているのではと思わせる傑作である。


22.12.22
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『出雲3号 0713の殺意』池田雄一

2022年12月20日 | ミステリ感想
~あらすじ~
小林みさきは婚約者の片岡信一を両親に紹介するため家に招くが、その日とうとう片岡は現れず、殺人犯として指名手配される。
みさきは「罠だ。新聞を信じるな」という片岡からの電話に導かれて訪れた松江で、片岡の妻と名乗る女に出会い、さらに行く先々で殺人事件が起こる。


~感想~
ストーリーは典型的なトラベルミステリで、名所をめぐりながら温泉に入り、時刻表をどうこうするアリバイ崩しももちろんある。
しかしそれ以外の要素が軒並み本格ミステリのそれで、被害者を結ぶミッシングリンク、登場人物たちの過去の因縁、浮かび上がる強烈な動機のみならず、数々の凝ったトリックが物語を支える。
それに加えてはじめは自称婚約者と妻が愛する男のためにバディを組んで捜査をし、中盤に急展開を迎えてからは愛の力で孤軍奮闘する女に新たな相棒が現れ、それぞれの視点を合わせて推理を練り上げ、犯人との直接対決ではハッタリを利かせて極限の勝負を挑むという熱いストーリー展開。
そしてラストはもちろん…と、トラベルミステリとしては破格の構成かつ惜しげもなく仕掛けを施した豪華さで、あらすじからは思いも寄らない盛り上がりを終始見せてくれる佳作である。


22.12.19
評価:★★★ 6
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今週のキン肉マン #401 洞察の神!!

2022年12月18日 | 今週のキン肉マン
・レスリングの攻防からカメハメ52の関節技の一つ脇固め
・さらに立て続けに複雑な関節技に移行
・そして見覚えのあるローリングソバットの撃ち方
・早くも違和感を覚えるスグルとミート
・誘いを掛けるようなムーンサルトアタック
・予想通りのバックフリップ
・我々はこの超神を知っている!
・いやこの技を知っている!
・カメハメ師匠で来年へ!
・最高の引き
・脇固めから始まり往年のファンならカメハメの気配をどこかで感じる構成
・ネメシスに続きスグルにとっては上位互換のやりづらい相手
・オメガマンを通じてカメハメ100の技を伝授され師匠超えは果たしているが…
・しかしスグルの戦った、教えを請うたカメハメは全盛期を過ぎている
・全盛期のカメハメは肉世界で最強とゆでのお墨付き
・その全盛期のカメハメに迫るだろうマグニフィセントは間違いなく強い
・調和の神よりもスグルに相応しい相手だ
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ミステリ感想-『小説家の作り方』野﨑まど

2022年12月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
駆け出し作家の物実のもとへ初めて届いたファンレター。そこには「この世で一番面白い小説のアイデア」を閃いたから、小説の書き方を教えて欲しいという依頼が書かれていた。
送り主で並外れた世間知らずの女性・紫はそのファンレターが生まれて初めて書いた文章だと言う。


~感想~
この魅力的なあらすじから、ラノベ媒体だけにどのジャンルに着地するのか読めないが、妥当ながら十分に説得力ある所に落ち着いてみせる。しかしそれだけで終わらずさらに一捻り加えたのも見事なもので、ある種のミステリとしても読める真相が楽しい。
また随一の笑いのセンスを持つ作者の軽快な筆致は流石の一言で、すいすい読めて気軽に楽しめる良作だった。


22.12.16
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『死者の学園祭』赤川次郎

2022年12月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
結城真知子は多忙な父の都合でたびたび転校するが、転校直前に転落死を目撃し、直後には殺人事件に立て続けに遭う。
はたして死者たちに共通点はあるのか? 真知子は恋に勉強に探偵にと走り回る。


~感想~
国民的作家の初長編。
クラスメイトがどかどか死んでいるのに大した危険も感じず、好奇心だけで突き進む主人公に転校生のお嬢様を設定したのがまず上手い。
読者を騙してやろう、驚かしてやろうという気はほとんどなく、冒頭から動機や犯人像があからさまに明示される親切設計で、解決編が始まる頃には真相の9割が読者にも見えているだろう。残り1割も答え合わせに過ぎないが、そのぶん納得の行く必要以上に丁寧な説明がなされる。
サプライズこそ無いもののその解決編の趣向が素晴らしく、作中でいったん(読者は一人もそう思わないが真知子にとっては)事件が幕を引いた後に意味深だったタイトル「死者の学園祭」が章題として出てくるのは実に心憎く(映画なら絶対ここで初めてタイトルが出る)、その解決方法もむちゃくちゃ不謹慎ながら面白いものだった。
青春小説らしいほろ苦い、しかし甘い結末も良く、国民的作家は初めから実に小説が上手かった。

全くの余談だが、クラスメイトが亡くなったことを告げた担任がポケットから千円出して、そのクラスメイトの親友に花を買ってきてくれと頼む下りには愕然とした。昭和ってこんなに無法だったっけ?


22.12.13
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『魔女たちのたそがれ』赤川次郎

2022年12月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「助けて……殺される」幼馴染の依子から連絡を受けた津田は、彼女の勤める寒村へ。
谷に閉じ込められ迫害される人々、隠蔽される殺人、村人たちの監視の目…。
なかば錯乱した彼女の口から語られる、恐るべき村の真実とは?


~感想~
閉鎖的な村の怪しげな雰囲気、それを仔細に語る生還者、村の外でも続く謎めいた殺人…と要素だけ取り出せばこれまで何度も書かれた作品に思えるが、これまで絶対書かれてない結末へと至り度肝を抜かれる。
この物語をこう決着させてしまう作者の大胆不敵さには唖然としてしまう、とんでもない問題作なのだが、真の意味で多様性あふれる現代ミステリならば、これも諸手を挙げて歓迎されるのではなかろうか。ちょっと飛鳥部勝則かと思った。
個人的にはよくよく考えてみれば結末はこの書き方しかなかったと思う。当時はいったいどう受け止められたのだろうか?

なお角川文庫版の小説はこれも強烈に真相を匂わせているので要注意のこと。


22.12.10
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『魔女狩り探偵春夏秋冬セツナ』赤月黎

2022年12月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
魔女に殺された姫崎クオンは魂と記憶の半分を失い、魔女狩りの卵である春夏秋冬(ひととせ)セツナの力で蘇る。
人の魂を媒介に魔法を使う魔女の資質を持つ者が集められた学園で、次々と起こる殺人事件の真相は?


~感想~
まず本作はシリーズ化が叶わなかったため(それどころか作者は残念ながら以後ミステリを書いていないようだ)クオンを殺した犯人や、その失われた記憶についてはわからずじまいだったのが惜しまれる。
しかし内容に関しては驚くほど良くできたミステリで、言ってしまえば1アイデアながらそれを縦横無尽に駆使して設定・事件・真相・結末を組み上げてみせ、しかも事件の解決だけでは終わらずもう一捻り加える周到さで、見事と言う他ない傑作である。

(そもそも新人ではないので無理な話だが)たとえばメフィスト賞に投じられていれば、特殊設定ミステリの傑作として話題を呼んだかもしれず、続編が書かれないほど売れなかったのは本当に残念でならない。近年は新作すら書いていないようだがなんとかならなかったものか。


22.12.9
評価:★★★★ 8
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ミステリ私的ランキング 目次

2022年12月07日 | ミステリ私的ランキング
2024.1.12更新
・毎年の私的ランキングの目次です
・出版年ごとに作成しています
・7点以上がランキング対象のため20作品に満たない場合があります
・一部の思い入れのある作品は点数に関係なくランクインしています

2023年ランキング  1位.井上真偽 アリアドネの声

2022年ランキング  1位.夕木春央 方舟

2021年ランキング  1位.浅倉秋成 六人の嘘つきな大学生

2020年ランキング  1位.陳浩基 網内人

2019年ランキング  1位.相沢沙呼 medium 霊媒探偵 城塚翡翠

2018年ランキング  1位.宇佐美まこと 少女たちは夜歩く

2017年ランキング  1位.陳浩基 13・67

2016年ランキング  1位.芦沢央 許されようとは思いません

2015年ランキング  1位.深水黎一郎 ミステリー・アリーナ

2014年ランキング  1位.米澤穂信 満願

2013年ランキング  1位.伊坂幸太郎 死神の浮力

2012年ランキング  1位.宮部みゆき ソロモンの偽証

2011年ランキング  1位.高野和明 ジェノサイド

2010年ランキング  1位.七河迦南 アルバトロスは羽ばたかない

2009年ランキング  1位.綾辻行人 Another

2008年ランキング  1位.道尾秀介 カラスの親指

2007年ランキング  1位.有栖川有栖 女王国の城

2006年ランキング  1位.辻村深月 凍りのくじら

2005年ランキング  1位.東川篤哉 交換殺人には向かない夜

2004年ランキング  1位.乾くるみ イニシエーション・ラブ

2003年ランキング  1位.福井晴敏 終戦のローレライ

2002年ランキング  1位.倉知淳 猫丸先輩の推測

2001年ランキング  1位.宮部みゆき 模倣犯

2000年ランキング  1位.古泉迦十 火蛾

1999年ランキング  1位.島田荘司 涙流れるままに

1998年ランキング  1位.二階堂黎人 人狼城の恐怖

1997年ランキング  1位.麻耶雄嵩 鴉

1996年ランキング  1位.西澤保彦 人格転移の殺人

1995年ランキング  1位.京極夏彦 魍魎の匣・狂骨の夢
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ミステリ感想-『盗作の風景』笹沢左保

2022年12月06日 | ミステリ感想
~あらすじ~
食品会社社長の江原は詐欺で服役した過去があり、その巻き添えで一家離散した能坂に過去をバラすと脅迫される。
そんな折に企業買収で揉めていた取引先の相手が何者かに殺される。しかし動機のある江原は犯行時刻に北海道におり、そのアリバイを証言したのは他ならぬ能坂だった。


~感想~
主人公は江原の娘の麻知子で、フットワークの軽い彼女は自ら現場に足を運び、推理に尾行にロマンスに八面六臂の活躍を見せる。
一方で意味深なタイトルの意味がなかなかわからず戸惑うが、その真意が明らかにされるとともに急転直下で事件の真相も浮かび上がるのが実に素晴らしく、終わってみればタイトルはまさにこれしかない。
「さよならの値打ちもない」もミステリ史上に残る完璧なタイトルだったが、笹沢左保はタイトルを付けるのが非常に上手いようだ。
物語も多くを語らずそこで終わらせるのが大胆かつ余韻を残す上手い作りで、作者の手腕をまたしても感じさせてもらった。

なお徳間文庫版の解説は真相を大いに匂わせているので、くれぐれも読了後に読んでいただきたい。


22.12.6
評価:★★★☆ 7
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