小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『密室殺人ゲーム2.0』歌野晶午

2009年08月21日 | ミステリ感想
~あらすじ~
あの「頭狂人」「044APD」「aXe」「ザンギャ君」「伴道全教授」が帰ってきた!
日夜チャット上で「とびきりのトリック」を出題しあう推理合戦。ただし、このゲームが特殊なのは各々の参加者がトリックを披露するため、殺人を実行するということ。究極の推理ゲームが行き着く衝撃の結末とは。


~感想~
密室殺人「ゲーム」でしかなしえない驚天動地のトリックを放った前作がまさかのシリーズ化。
前作で続編の作りようがない結末を迎えたにもかかわらず、しれっとくり返されるおなじみの展開にまずは驚かされるが、それでいて正統な続編として成立しているのだから二度びっくり。
今回も期待に違わないはっちゃけたトリックと、殺人鬼の集まりとは思えない軽妙なやりとりが楽しめるのは当然として、前作では個人的に大いに不満だった歌野晶午の悪癖が発動せず、やりすぎ感すらただよう「ゲーム」的な展開で、最後まで突っ走ってくれたのがうれしい。
さらには前作をふまえた、この設定では仕掛けるのは不可能と思われたアレやコレらのトリックまで炸裂するのだからたまらない。
「人間が描けているミステリ」に真正面から挑む奇想天外なトリックの祭典、堪能させてもらいました。


09.8.21
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『無縁塚』輪渡颯介

2009年08月20日 | ミステリ感想
~あらすじ~
呪われた幽霊屋敷で、剣豪たちが次々と神隠しに!
剣術道場の兄弟子・鉄之助が幽霊屋敷で消え、それを捜す甚十郎も失踪。怪異と酒を愛する浪人・左門がすべての謎を解き明かす。


~感想~
作風にあわせてレーベルを変えただけだろうが、最近の拝金講●社のやることだから単行本化して価格をつり上げただけに思える罠。
それはともかくとして、デビュー当時から安定していた腕は変わらず、ミステリファンならずとも本読みなら誰でも楽しめるだろう。しかし今回はミステリはもちろんのこと怪談味も弱めで、版型はでかくなったのに中身が薄まっているのがすこし残念。
また、怪異が現実に昇華するのはミステリとして正しい姿勢だが、どんな怪異が現れても、どうせ現実ならばこんなタネだろうと見当がついてしまうのは減点材料。
今回は怪異の量も質も少なめでやはり物足りなかった。


09.4.22
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『萩原重化学工業連続殺人事件』浦賀和宏

2009年08月17日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「脳」を失った死体が語る、密室の不可能犯罪!双子の兄弟、零と一の前に現れた、不死身の少女・祥子と、何もかもを見通す謎の家政婦。彼らが信じていた世界は、事件に巻き込まれる内に音を立てて崩壊していき…。脳のない死体の意味とは!?世界を俯瞰する謎の男女と、すべての事件の鍵を握る“萩原重化学工業”の正体とは!?
※コピペ


~感想~
思えば遠くへ来たもんだと感慨深い、久々の安藤直樹シリーズ。久々すぎてしばらく安直シリーズだと気づかなかった。
シリーズのはじめからSF要素の濃い作品ではあったが、それでももうSFという言葉ではくくりきれないような風呂敷の広げ方で、あさっての方向へと突き進んでしまっている。
その方向と来たらもう、トリックとか密室とかどうでもいい次元で、正直なところミステリとして見るには無理のある、というかミステリ的な部分はかなりめにどうでもいいものになっている気がしてならない。
中盤からはもう「あれ、これってエヴァの外伝かなんかだっけ?」とか「あ…ありのままいま起こったことを話すぜ! おれは浦賀和宏を読んでいたと思ったらいつのまにか清涼院流水を読んでいた。な…何を言ってるのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった…」といった状態でファンすらも置いてけぼりにした感。
もれ聞く評判から松浦純菜シリーズは敬遠していたのだが、この松浦シリーズ後の浦賀作品を読むと個人的にますます興味がなくなっていくな……。


09.8.6
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『空白の殺意』中町信

2009年08月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
土手で女子高生の扼殺死体が発見される。その二日後、今度は同校の女性教師が謎めいた遺書を残して自殺する。そして行方不明だった野球部監督の毒殺死体が発見されるに及び、事件の背後に甲子園を目指して熾烈な闘いをくり広げる学校同士の醜い争いがあぶり出されて……。


~感想~
ここに仕掛けがあると警戒しすぎて伏線を見抜けてしまい、その伏線一つから謎がするすると解けてしまった。素直に読んでおけばよかったと後悔したのはあとの祭り、伏線・誤導が次々と目にとまり、終局まで意外性のないまま読了。ものすごく損をしてしまった。
しかし一発ネタにとどまらず、それを軸に論理的な解決と展開を仕込んだ、中町作品らしからぬ(?)丁寧な作品なのは間違いない。眉につばつけず素直に読んで騙されれば評価は倍増すること請け合いである。

追記
中町氏が死去していたことをいまさら知りました。長く不遇をかこっていましたが晩年に次々と作品を再刊行され脚光を浴びられたことはファンの端くれとしてうれしく思い、また氏にとっても喜ばしいことだったでしょう。
本格冬の時代にトラベルミステリの皮をかぶりつつも、本格魂にあふれた叙述トリックを頑なに仕掛けつづけた、隠れた巨星のご冥福をお祈りします。


09.8.8
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『神国崩壊』獅子宮敏彦

2009年08月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
中原に君臨する華王朝の都・紫京。その宮城で皇帝の側近が殺された。「歴史から消された出来事」をまとめたある「禁書」が原因らしい。
そこには、とうてい人の業と思えない不可思議な出来事がつづられていた。生死を司る神の水、城壁をすり抜ける軍隊、消失した都市、誰もいなくなった島……。


~感想~
中世(ただし中国っぽい架空の国)ファンタジィ小説に本格ミステリなトリックを織り交ぜた異色の連作短編集。ファンタジィならではの、ファンタジィでしかなしえない奇想天外な大トリックが売りだが、全体の描写が軽く、中世の雰囲気をかもし出せるまでにはいたらず、また基本的な筆力の不足(失敬)から伏線の張り方が甘く、惜しいところで佳作になりそこねてしまっている。
謎はどれも魅力的で、大掛かりなものがそろっており、それぞれこの舞台、この時代でしかありえないものばかりで、独自色も濃い。
だが伏線があからさますぎて真相が見え見えだったり、説明不足で伏線がほとんど機能していなかったりともったいない。
また現代パート(現代といっても作中でもっとも新しい時間軸というだけで、中世なことに変わりはない)の間に4つの短編をはさみ、連作短編集としていながら、その現代パートがきゃぴきゃぴした少女が騒ぎ立てるラノベ風味で明らかに浮いており、さらに「それは伏線と言わねえよ」と苦言を呈したくなるあんまりな伏線のせいで、なくてもいいパートになってしまっているのも残念。
総じてなんとも惜しい作品である。

まったく個人的な話だが、僕は自分でも趣味で書いているくせに、ファンタジィ小説というものに拒絶反応が出てしまうたちなのだが、舞台が中国(っぽい)というだけでまったくアレルギーが出なかったのは、やはり三国志愛のなせるわざだろうか。


09.8.6
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『虫とりのうた』赤星香一郎

2009年08月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
小説家を目指し脱サラした赤井は、ある日河川敷で助けを求める少女と出会う。少女は知らない男に追いかけられていると訴えるが、男は父親だと言いはる。
助けようとする赤井だったが、居合わせた大人たちに少女を男に返せと言い含められ、その場をやり過ごしてしまう。
そして後日、少女が男に殺害されたことを知り罪の意識に苛まれ、彼女の葬儀に参列。そこで「虫とりのうた」という奇妙な唄にまつわる都市伝説を耳にした。
第41回メフィスト賞受賞作品。


~感想~
あのメフィスト賞から初のホラー作品だというのに実におとなしめ。
とがったところがどこにもなく、丁寧なというか平凡な作風で、破綻はないが裏切りもない物語である。
和製ホラーといえば(個人的なイメージでは)起承転結の起か結を省いて雰囲気を出すものだが、今作ではきっちり起承転結をまとめ上げ、はじめから終わりまで一切、話の展開に無理がない。
だがその分、淡々と話が転がってしまい、イヤさも怖さももちろんのこと、印象に残る場面自体がほとんどないのがネック。受賞作なしから一転して出版にいたったそうだが、わざわざメフィスト賞の名を冠して出すほどのものだったろうかと疑問に思えてならない。
とはいえメフィスト賞から出ていなければ一生手に取らなかっただろうし、そのあたりは出版社的には成功しているのかもしれない。


09.8.14
評価:★☆ 3
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