~収録作品とあらすじと感想~
綾辻行人の「十角館の殺人」に端を発する新本格ミステリの勃興から30周年を記念し、新本格オリジナル・セブン(??)が一堂に会し書き下ろしの短編をものしたアンソロジー。
「水曜日と金曜日が嫌い」麻耶雄嵩
山で遭難しかけた美袋三条は、洋館にたどり着き助けを求める。
しかし今は亡き脳外科医が四人の孤児とともに暮らした館では恐るべき計画が進行していた。
長編向きではない探偵を名乗るメルカトル鮎が、本来なら長編で描かれるべき本格ミステリガジェット目白押しの連続殺人事件を短編の分量で解決する。
無理くり短編に押し込んだため、大抵の伏線や謎が放置され、それでも事件自体は解決するというパロディかメルカトル鮎シリーズでしか成立しない内容には笑うやら呆れるやら。
そもそも長編として考えたものを縮めたのか、はなから短編として考えていたのか気になるところである。
「毒饅頭怖い」山口雅也
名作落語「饅頭こわい」の後日談。
友人を騙し首尾よく饅頭をせしめた鷽吉は30年後、財を成したが四人の息子はいずれも放蕩三昧で、跡を継がせられずにいた。
そして四人に勘当を言い渡そうとした直前、毒饅頭によって殺されてしまう。
落語として描き、落ちも決まっているものの、ニコリの嘘つきパズルは耳で聞いて理解できるものではない。
そんな細かいツッコミはおいとくとしても、せっかくの30周年にふさわしい題材・内容とも思えず、不満が残る。
普通にキッド・ピストルズか垂里冴子を見たかったんだけどなあ。
「プロジェクト:シャーロック」我孫子武丸
事務畑で20年歩んできた警官の木崎は、AIで事件を解決するプログラム「シャーロック」を開発。
基礎を作り匿名掲示板に上げ、世界中の有志によってブラッシュアップされたシャーロックの性能は実際の捜査にも使われるほどに向上するが、生みの親の木崎が何者かに殺されてしまう。
原稿を依頼した編集者か作者本人が21世紀本格アンソロジーと間違えたのかな? という疑問を覚える一編。以上。
「船長が死んだ夜」有栖川有栖
取材の帰り道に付近で起こった事件をかぎつけた火村英生と有栖川有栖。
元船長の男が刺殺され、彼が浮き名を流した二人の女と、その夫が容疑者に上がっていた。
そのまま2時間サスペンスに流用できそうな厳密に言えば新でも本格でもないミステリ。
すげえ普通の事件が、パロディのようなご都合主義でとんとん拍子に証拠が集まり、すげえ普通に解決される。
これが30周年記念アンソロジーへ提出する作品で本当にいいのかという疑問は残るが、少なくとも期待通りに火村英生を出してくれたことは素直に賞賛したい。
「あべこべの遺書」法月綸太郎
かつて恋敵だった二人の男が、互いの自宅で互いの遺書を持ち変死した。
憎み合っていた二人が心中するわけも無く、あべこべの事件に頭を悩ませる父に法月綸太郎が知恵を貸す。
こういうのが読みたかったんだよ!と快哉を叫びたくなる導入部からどんどんしぼんで行く期待感。
いつもなら親父さんの捜査を挟むところで、なぜか間を置かずに一夜での解決にこだわり状況証拠だけで推論を進め、最後には無理やり状況に沿うだけの空論をひねり出した印象で、とても読者を納得させられる水準には達していない。たぶん翌日の親父さんの調査で前提条件がいろいろ崩れ推理がぶち壊しになるんじゃないだろうか。
ひょっとして続きがあり、短編ではなく長編として数年内に発表する気ではなかろうかと疑いたくなる。
「天才少年の見た夢は」歌野晶午
戦争が始まり、地下シェルターに逃げ込んだハッカー、超能力者ら様々な能力に秀でた少年少女たち。
見ることのできない外の世界の状況に怯える中、シェルター内では一人また一人と死者が出てしまい……。
21世紀本格2つ目。しかも派手にかぶった挙句に上回ってしまい我孫子の面目が丸つぶれに。
「仮題・ぬえの密室」綾辻行人
新本格30周年記念イベントのため集まった綾辻、法月、我孫子ら。我孫子は学生時代に聞いたという「幻の犯人当て」の話を思い出し、小野不由美を交えた4人で「ぬえ」にまつわる……はずの犯人当てについて語り合う。
ただの楽屋落ち。落ち以外の話自体は面白かった。
~総評~
新本格ミステリ30周年を記念し「7人の名探偵」と銘打ったからにはファンが期待したのは、
メルカトル鮎! キッド・ピストルズ! 速水三兄妹! 江神二郎! 法月綸太郎! 信濃譲二! 島田潔!
といったデビュー作の名探偵たちの競演であり、ジャンルもド本格だったはずだ。
しかし顔を出したのはメルカトル鮎と法月の2人だけに留まり、火村英生は文句無しとして、速水三兄妹や信濃譲二は流石に無理で、綾辻は最近ずっとこうだから別に構わないものの、キッド・ピストルズはどうにかならなかったものか。(結局個人攻撃になってしまった罠)
あの頃の名探偵の競演は望み過ぎとしても、そもそも本格ミステリに分類できるものが少なく、十全に期待に応えたのは、らしい変化球を放った麻耶と、質はどうあれ読者の期待する物を出した有栖川、法月の三人だけ。
それにしても綾辻が作中で我孫子に「久々に速水三兄妹が登場? 鞠小路鞠夫?」と尋ねているのは笑った。同アンソロジー内で2回も面目丸つぶれにされる我孫子ェ…。
ついでに言えば新本格オリジナル・セブン(??)とかいうパワーワードの人選も疑問が残り、オリジナルを冠するなら太田忠司や斎藤肇がいないのはおかしいし、セブンの中では後発の麻耶を含めるなら二階堂黎人や芦辺拓も絶対に欠かせないはずだ。この二人なら確実に二階堂蘭子と森江春策のド本格を出してくれただろうし。
ぶっちゃけた話、オリジナル・セブン(??)の一部の空気読めなさが浮き彫りとなった、少々がっかりな短編集である。
17.9.30
評価:★☆ 3
綾辻行人の「十角館の殺人」に端を発する新本格ミステリの勃興から30周年を記念し、新本格オリジナル・セブン(??)が一堂に会し書き下ろしの短編をものしたアンソロジー。
「水曜日と金曜日が嫌い」麻耶雄嵩
山で遭難しかけた美袋三条は、洋館にたどり着き助けを求める。
しかし今は亡き脳外科医が四人の孤児とともに暮らした館では恐るべき計画が進行していた。
長編向きではない探偵を名乗るメルカトル鮎が、本来なら長編で描かれるべき本格ミステリガジェット目白押しの連続殺人事件を短編の分量で解決する。
無理くり短編に押し込んだため、大抵の伏線や謎が放置され、それでも事件自体は解決するというパロディかメルカトル鮎シリーズでしか成立しない内容には笑うやら呆れるやら。
そもそも長編として考えたものを縮めたのか、はなから短編として考えていたのか気になるところである。
「毒饅頭怖い」山口雅也
名作落語「饅頭こわい」の後日談。
友人を騙し首尾よく饅頭をせしめた鷽吉は30年後、財を成したが四人の息子はいずれも放蕩三昧で、跡を継がせられずにいた。
そして四人に勘当を言い渡そうとした直前、毒饅頭によって殺されてしまう。
落語として描き、落ちも決まっているものの、ニコリの嘘つきパズルは耳で聞いて理解できるものではない。
そんな細かいツッコミはおいとくとしても、せっかくの30周年にふさわしい題材・内容とも思えず、不満が残る。
普通にキッド・ピストルズか垂里冴子を見たかったんだけどなあ。
「プロジェクト:シャーロック」我孫子武丸
事務畑で20年歩んできた警官の木崎は、AIで事件を解決するプログラム「シャーロック」を開発。
基礎を作り匿名掲示板に上げ、世界中の有志によってブラッシュアップされたシャーロックの性能は実際の捜査にも使われるほどに向上するが、生みの親の木崎が何者かに殺されてしまう。
原稿を依頼した編集者か作者本人が21世紀本格アンソロジーと間違えたのかな? という疑問を覚える一編。以上。
「船長が死んだ夜」有栖川有栖
取材の帰り道に付近で起こった事件をかぎつけた火村英生と有栖川有栖。
元船長の男が刺殺され、彼が浮き名を流した二人の女と、その夫が容疑者に上がっていた。
そのまま2時間サスペンスに流用できそうな厳密に言えば新でも本格でもないミステリ。
すげえ普通の事件が、パロディのようなご都合主義でとんとん拍子に証拠が集まり、すげえ普通に解決される。
これが30周年記念アンソロジーへ提出する作品で本当にいいのかという疑問は残るが、少なくとも期待通りに火村英生を出してくれたことは素直に賞賛したい。
「あべこべの遺書」法月綸太郎
かつて恋敵だった二人の男が、互いの自宅で互いの遺書を持ち変死した。
憎み合っていた二人が心中するわけも無く、あべこべの事件に頭を悩ませる父に法月綸太郎が知恵を貸す。
こういうのが読みたかったんだよ!と快哉を叫びたくなる導入部からどんどんしぼんで行く期待感。
いつもなら親父さんの捜査を挟むところで、なぜか間を置かずに一夜での解決にこだわり状況証拠だけで推論を進め、最後には無理やり状況に沿うだけの空論をひねり出した印象で、とても読者を納得させられる水準には達していない。たぶん翌日の親父さんの調査で前提条件がいろいろ崩れ推理がぶち壊しになるんじゃないだろうか。
ひょっとして続きがあり、短編ではなく長編として数年内に発表する気ではなかろうかと疑いたくなる。
「天才少年の見た夢は」歌野晶午
戦争が始まり、地下シェルターに逃げ込んだハッカー、超能力者ら様々な能力に秀でた少年少女たち。
見ることのできない外の世界の状況に怯える中、シェルター内では一人また一人と死者が出てしまい……。
21世紀本格2つ目。しかも派手にかぶった挙句に上回ってしまい我孫子の面目が丸つぶれに。
「仮題・ぬえの密室」綾辻行人
新本格30周年記念イベントのため集まった綾辻、法月、我孫子ら。我孫子は学生時代に聞いたという「幻の犯人当て」の話を思い出し、小野不由美を交えた4人で「ぬえ」にまつわる……はずの犯人当てについて語り合う。
ただの楽屋落ち。落ち以外の話自体は面白かった。
~総評~
新本格ミステリ30周年を記念し「7人の名探偵」と銘打ったからにはファンが期待したのは、
メルカトル鮎! キッド・ピストルズ! 速水三兄妹! 江神二郎! 法月綸太郎! 信濃譲二! 島田潔!
といったデビュー作の名探偵たちの競演であり、ジャンルもド本格だったはずだ。
しかし顔を出したのはメルカトル鮎と法月の2人だけに留まり、火村英生は文句無しとして、速水三兄妹や信濃譲二は流石に無理で、綾辻は最近ずっとこうだから別に構わないものの、キッド・ピストルズはどうにかならなかったものか。(結局個人攻撃になってしまった罠)
あの頃の名探偵の競演は望み過ぎとしても、そもそも本格ミステリに分類できるものが少なく、十全に期待に応えたのは、らしい変化球を放った麻耶と、質はどうあれ読者の期待する物を出した有栖川、法月の三人だけ。
それにしても綾辻が作中で我孫子に「久々に速水三兄妹が登場? 鞠小路鞠夫?」と尋ねているのは笑った。同アンソロジー内で2回も面目丸つぶれにされる我孫子ェ…。
ついでに言えば新本格オリジナル・セブン(??)とかいうパワーワードの人選も疑問が残り、オリジナルを冠するなら太田忠司や斎藤肇がいないのはおかしいし、セブンの中では後発の麻耶を含めるなら二階堂黎人や芦辺拓も絶対に欠かせないはずだ。この二人なら確実に二階堂蘭子と森江春策のド本格を出してくれただろうし。
ぶっちゃけた話、オリジナル・セブン(??)の一部の空気読めなさが浮き彫りとなった、少々がっかりな短編集である。
17.9.30
評価:★☆ 3