小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『電氣人閒の虞』詠坂雄二

2009年09月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
語ると現れる。人の思考を読む。導体を流れ抜ける。旧軍により作られる。電気で綺麗に人を殺す。
「電気人間」は一部の地域でのみ語られる都市伝説にしか過ぎない。
「電気人間なんていない」そう言って、彼女は死んだ。


~感想~
真相はあからさまな形で終始、目の前に転がっている。挑発的な、といってさしつかえない伏線まで提示される。だが、気づかない。
このトリックは前例が多くあるものだが(ほぼ同じものすらある)真相を知ってから読み返すと、実にフェアな、実に丁寧なもので、中二病、実録犯罪、そして都市伝説の皮をかぶって本格ミステリをものしてきた作者が、たしかな実力を持っていること、しかしながらやはり曲者であることをまたも証明した。
いわゆる「最後の一撃」となる真相開示に驚かされるのはもちろんだが、もはや悪ふざけとしか言えないラスト2行の破壊力が抜群。終章は人前で読まないことをおすすめする。
なにげに高い完成度、爆笑必至のラストで、前作『遠海事件』に勝るとも劣らない、またも年度を代表しうる傑作である。


09.9.30
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』倉阪鬼一郎

2009年09月21日 | ミステリ感想
~あらすじ~
招待状を手に芸大生の西大寺俊は黒鳥館と名づけられた壮麗な洋館に赴く。招待客は全員無作為に選ばれたという。ウェルカムドリンクを主人から受け取った西大寺は、館内の完全な密室で怪死。復讐の館を舞台とした凄惨な連続殺人の火蓋が切って落とされる。


~感想~
「やりすぎ感ただよう」という表現は、本格ミステリという「やりすぎ感」が求められる分野ではだいたいにおいて褒め言葉として使われるものだが、それも「やりすぎ感」で済まずに「明らかにやりすぎ」なところまで行ってしまうと、感心を通り越して怖くなってしまうものである。
今作のやりすぎっぷりと来たらもう、作者が倉阪鬼一郎でなかったら精神状態を心配したくなるような有様で、よくいえば偏執的、悪く言えば大馬鹿野郎なバカトリックが連鎖反応を起こして爆発する。
なんせ巻末の著作リストに自ら嬉々として(?)バカミスマークを付けてしまうような確信犯のやることだから、想像を絶する、想像するだにクソ面倒そうなバカトリックが(それも何重に!)張りめぐらされており、好きな人にはたまらない。
一方でおそらく大半の、そして常識的な読者は「可燃ゴミ」と判断するか、あるいは「ストーカーが編んだ手作りセーター」を見たような空恐ろしさを覚えることだろう。
とんでもないバカミスを読みたい方は必見、それ以外の方は委細承知の上で手にとっていただきたい、破格のバカミスである。
……それにしても、やっぱり『紙の碑に泪を』は倉阪氏にしては手を抜いていたよなあ、と思わざるを得ない。


09.9.21
評価:★★★★ 8
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映画(DVD)感想―『SAW』

2009年09月03日 | 映画感想

~あらすじ~
薄汚れた広いバスルームで目を覚ました2人の男。彼らはそれぞれ対角線上の壁に足首を鎖でつながれた状態でそこに閉じ込められていた。
2人の間には拳銃で頭を撃ち抜かれた自殺死体が。他にはレコーダー、マイクロテープ、一発の銃弾、タバコ2本、着信専用携帯電話、そして2本のノコギリ。状況がまるで呑み込めず錯乱する2人に、「6時間以内に目の前の男を殺すか、2人とも死ぬかだ」というメッセージが告げられる。


~感想~
27歳の監督によるデビュー作で、主要キャラはたった3人、しかもうち一人は脚本家、製作期間は18日の超低予算映画――これだけ聞いてどこに傑作が生まれる余地があると思うだろうか。
だが『SAW』はまぎれもない史上最高級の傑作サスペンス映画だった。
もうこの映画に関しては「観ろ」と言うしかない。もしまだこの傑作を観ていない映画ファン、ミステリファンがいるならば、すぐにDVD屋に走るべきだ。
多少のスプラッタ耐性は必要だが、残酷描写だけが売りの映画ではないので問題ないだろう。
このシリーズは続編で普通に前作のネタバレを流すので、まずはここからどうぞ。


評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『花と流れ星』道尾秀介

2009年09月02日 | ミステリ感想
~収録作品~
流れ星のつくり方
モルグ街の奇術
オディ&デコ
箱の中の隼
花と氷


~感想~
真備シリーズ初の短編集……なのだが、別にノンシリーズでもなんの差し障りもないくらい、真備シリーズらしさは感じられない。
というか、せっかくシリーズに属するのに、霊現象がろくすっぽ起きないのが納得いかない。これでは単に事件が持ち込まれやすい職業だからという理由で、真備シリーズになっただけではないか。
とりあえずそのあたりは措いといて、個々の出来はどうかといえば、目ざましい傑作こそないものの、それなりの水準は保っている。
出色といえるのは「箱の中の隼」で、題材こそいまどき新興宗教だが、大量の伏線を凝らした、鋭い一編である。
しかし他の作品は、それこそ長年このシリーズを書いてきた作者がファンサービス的に肩の力を抜いてものしました的な(初の短編集にもかかわらず)、キャラ性を前面に押し出したものまで見受けられ、いまいち物足りない。道尾(作中人物)の造型が地味な石岡和己といったところなのも目新しさがない。
ノンシリーズの「鬼の跫音」といい、この作者、実は短編はさほど得意ではないのだろうか……と個人的には思えてしまった。


09.8.30
評価:★★★ 6
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