小金沢ライブラリー

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映画感想―『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』

2010年07月30日 | 映画感想

~あらすじ~
ミュータントとして生まれたローガンは、人としての幸せを捨て、幾多の戦争に身を投じて生きてきた。そんな彼が初めてつかんだささやかな幸福。
だが深い絆で結ばれていたはずの兄ビクターの手によって運命は大きく変わる。
兄を倒すため謎の巨大組織と取引したローガンは、最強の戦士となるべく、超金属アダマンチウムを全身の骨に移植する改造手術をうけ、ウルヴァリン>という名の人間兵器に生まれ変わる。


~感想~
完結した『X-MEN』シリーズのスピンオフ作品。X-MEN結成前の物語。
本編では多くのキャラを出すために描写が窮屈になってしまって(完結編では逆にそれがスピード感とボリューム増につながっていた)いたが、今作ではウルヴァリンを主役に据え、登場人物を絞ったため引き締まった印象を受ける。
しかしアクションの激しさは本編をも上回り、ウルヴァリンの爪を活かした戦いぶりが楽しい。
またついに初登場となるガンビットがとにかく素敵で、チート同然の能力のため(?)大筋には絡まないものの、空気を全く読まないキャラと相まって存在感抜群。あの能力欲しい。
映画も原作もシリーズファンは必見の一作と言えるだろう。


評価:★★★☆ 7
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映画感想―『イングロリアス・バスターズ』

2010年07月26日 | 映画感想

~あらすじ~
ナチス占領下のフランス。劇場の支配人として身分を隠しながら、ナチスを根絶やしにする復讐計画を進めるユダヤ人の女。
時を同じくして、アルド・レイン中尉率いるユダヤ系アメリカ人兵士の特殊部隊が、ナチス殲滅の極秘ミッションに参加する。
それぞれの作戦は、彼女の経営する劇場で開催される、ヒトラー総統を招いたナチのプロパガンダ映画のプレミア上映会で交錯する。


~感想~
冒頭からおっさん二人が延々と会話するだけという逆ホットスタートで、ユダヤ・ハンターの異名を取るナチ将校役のクリストフ・ヴァルツの好演が光るのだが、いかんせん地味な印象が拭えない。その後も全編にわたってほぼ会話だけで話が進み、合間合間にタランティーノらしい演出が挟まる構成で、心理的駆け引きはそこそこ楽しめるものの、こんなに文字(会話)ばっかりなら本でいいじゃんという冷めた感想を覚えるのも確か。
映画マニアには怒られるだろうが、なんせ倍速で観ていても全く支障を来さない有様で、この映画を楽しむ素質のない僕が150分超の長尺を乗り切るには、早送りはむしろ必須のものであった。
主演のブラッド・ピットも、見せ場は初登場シーンの長広舌くらいで、主演はブラピではなくヴァルツの方じゃないかと思える扱いで、生粋のタランティーノファン以外にこの映画はおすすめできないだろう。


評価:☆ 1
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ミステリ感想-『闇ツキチルドレン』天祢涼

2010年07月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
殺意の矛先は犬や猫、そして人間へ――。
小さな地方都市を震撼させる連続殺傷事件の容疑者は、県警本部長も務めた最上倉太朗。
"共感覚"探偵・音宮美夜は女子高生・城之内愛澄とともに捜査を開始する。だが最上は「私は音宮くんを殺したい」と宣戦布告。
狙われた探偵は、裏を知り尽くした男を追い詰められるか。


~感想~
メフィスト賞らしいとがったデビュー作『キョウカンカク』を放った作者による、シリーズ第二弾。
前作は前代未聞の犯行動機で度肝を抜いてくれたが、それに比べるとやはり今回はだいぶおとなしめ。
頻繁に切り替わる視点や厨二病な世界観もあいかわらずで、文章に上達の跡もうかがえないが、このシリーズでしかなしえない伏線や真相が冴える。
逆に言えば、読者には全く気づきようもない伏線と、推理のしようがない真相で、本格ミステリ的にはちょっと評価に困る代物なのだが、そもそもデビュー作であんな強烈な犯行動機を描いたこのシリーズがただの本格ではないことは明らかであり、むしろ『無貌伝』のようなファンタジィ系の作品と捉えるべきだろうか。
誤解の無いように言っておくと、この読者に気づきようのない伏線というのが、このシリーズならではの破格の伏線で、本作最大の見所でもある。
見所といえば、ちょっといい話でスイーツ(笑)も泣ける作品に落とし込めた場面で、作中ナンバーワンの毒をぶち込んでくるのも、この作者の非凡なところ。
もちろん続編を作る気も満々で、二作目にして主要キャラたちが早くも暗躍を始め、先を期待させてくれる。
『無貌伝』、『琅邪の鬼』にこのシリーズと、メフィスト賞作家の未来は明るい。


10.7.22
評価:★★★ 6
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映画感想―『ランボー4 最後の戦場』

2010年07月18日 | 映画感想

~あらすじ~
アメリカを離れ、タイ北部で暮らしていたランボー。ある日、内戦の続く隣国ミャンマーへ向かう支援団を助けた彼だったが……。


~感想~
映画としては最悪の部類に入るだろうが、激しいアクションだけは観ていて爽快。ランボーってこんなシリーズだったっけ?
とにかくストーリーのどうでもよさが芸術の域に達していて、敵は民間人をゲーム感覚で虐殺するわかりやすすぎる悪党。
ヒロインはランボーを戦場に導くための単なる案内役で、なんら行動を起こしやしない。
肝心のアクションはと言えば、ランボーとともに戦う人々は銃弾の中に身をさらして決死の戦いをくり広げるのに、ランボーは巨大な弾除けの付いたガトリングガンをあやつり、安全圏から一方的に敵を撃ち殺すだけのガンシューティングゲーム状態。
その銃弾の威力がハンパなく、貫通するどころか次々と手足を吹っ飛ばし、腹に当たれば風穴を開け、頭に当たれば消し飛ぶほどの、ほとんどレーザー兵器ばり。
大量の兵員を積んだ装甲車や船もあっという間に木っ端微塵にし、このあたりになるとボーナスゲームの雰囲気まで漂ってしまう。
並のスプラッタ映画を上回るグロい死に様と、どう考えても敵味方関係なく、動くものを片っ端から肉塊に変えていくランボーの無敵っぷりにだんだんと笑いが込み上げてくる。
90分足らずの異様に短い上映時間もあり、あっという間に観終わるので、グロ描写が大丈夫な方は観ても損はしないのでは。


評価:★★ 4
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ミステリ感想-『夜行観覧車』湊かなえ

2010年07月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
父親が被害者で母親が加害者─。高級住宅地に住むエリート一家で起きたセンセーショナルな事件。遺されたこどもたちは、どのように生きていくのか。その家族と、向かいに住む家族の視点から、事件の動機と真相が明らかになる。『告白』の著者が描く、衝撃の「家族」小説。
※コピペ


~感想~
「映画『告白』の公開にあわせて新作をお願いします。内容はなんでもいいです。そうですね、たとえば家族をテーマに泣ける小説なんかどうですか。トリック? いらないいらない。湊かなえ名義で出しさえすれば売れますから。大丈夫大丈夫」

という編集者の安請け合いが透けて見えるような、裏がありそうでなんもない事件、不自然極まりない心理の流れ、わかりやすすぎるお涙頂戴シーンと、どうしようもない展開をパッチワークしたような、どうしようもない作品である。
読んでいてむかつきを覚える、どうしようもない価値観の(しかしどうしようもなく一般人な)下衆野郎の描写は流石湊かなえなのだが、見るべきところは本当にそれだけで、オチはもちろん内容もない。
さらには帯に書かれた松たか子の感想も深刻なネタバレをかましていて、どこまでも隙がない完全無欠の駄作である。

破格のデビュー作『告白』に打ちのめされて以来、追いかけてきたが、もうこの人は見限ってもいいかな……。


10.7.7
評価:なし 0
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ホラー感想-『ホラー作家の棲む家』三津田信三

2010年07月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
奇妙な原稿がある新人賞に投稿された。
私は友人から応募者の名が「三津田信三」だと知らされるが、身に覚えがない。そのころ偶然に探しあてた洋館を舞台に、私は怪奇小説を書き始めるのだが……。

※文庫版は「忌館」と改題し「西日―『忌館』その後」を追加収録。


~感想~
ホラーとミステリの両輪で活躍を続ける作者のデビュー作で、これはタイトル通りのホラー作品。
私小説の体裁をとりつつ、作中作でホラーを連載し、予想と期待通りに怪異が虚構と現実を取り巻いていき、最終的にはいまやお家芸と呼べる締め方で、怪異を作品の内側だけでなく、外側に侵食させる手際がお見事。
長大な分量の割に意外と中身は乏しいが、しかし飽かせることはなく、最後まで読ませてくれる作品である。ちっとも怖くはないけど。

ところでまたも某道尾秀介の批判になってしまうのだが、作中の三津田信三が連城三紀彦について言及した「あれほどのミステリ作品を書いた作家が、そう安々と己がミステリスピリットを捨てるわけがない。いや、仮に本人が捨てようと思っても、それは自然と滲み出してくるのではないか――。実際、その期待は裏切られませんでした」という言葉は、某道尾の今のていたらくを思うに虚しい限りである。


10.7.2
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『琅邪の鬼』丸山天寿

2010年07月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
始皇帝時代の中国、商家の家宝盗難をきっかけに、港町・琅邪で奇妙な事件が続発する。
甦って走る死体、連続する自死、一夜にして消失する屋敷、棺の中で成長する美女……。
伝説の方士・徐福の弟子たちが、医術、易占、剣術、推理……各々の能力を駆使して真相に迫る。
第44回メフィスト賞受賞作。


~感想~
復権したメフィスト賞からまたも有望株が登場。
安定した筆力で数多くの登場人物を描き分け、デビュー作らしい盛りだくさんの事件とトリックを惜しげもなく放り込み、丁寧な解決編で一つ残らず謎を解いて見せ、最後には歴史ミステリならではの大ボラをぶち上げる――新人離れした度胸とサービス精神が実に楽しい。
実在と虚構を取り混ぜたキャラの立ち具合も良好で、剣と奥義がぶつかり合う活劇も、むしろそっちが本題とばかりに盛り上がり、読ませどころがとにかく多い。本格マニアもメフィスト賞目当ても伝奇小説ファンも残らず満足すること請け合いの、まさにエンタテインメント小説である。


10.6.27
評価:★★★☆ 7
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