小金沢ライブラリー

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早ミス

2007年11月29日 | ミステリ界隈
新たに早川が乗り出したミステリ・ベストテン。ベストテンものでは最も早く出るという意味も込めて通称「早ミス」とのこと。
海外編は自社製品が1位&表紙という、見事な楽屋オチ・内輪ウケの素敵な出足を見せてくれたそうだが、国内編はこちら。


1 楽園 宮部みゆき
2 赤朽葉家の伝説 桜庭一樹
3 首無の如き祟るもの 三津田信三
4 離れた家 山沢晴雄
5 サクリファイス 近藤史恵
6 果断 隠蔽捜査2 今野敏
7 悪人 吉田修一
7 ノーフォールト 岡井崇
9 X橋付近 高城高
9 密室キングダム 柄刀一
11 玻璃の天 北村薫
12 團十郎切腹事件 戸板康二
13 中庭の出来事 恩田陸
13 青に候 志水辰夫
13 片目の猿 道尾秀介
13 吉原手引草 松井今朝子
13 聖餐城 皆川博子
13 砲台島 三咲光郎
13 メタボラ 桐野夏生
13 インシテミル 米澤穂信


10位まではあまり目新しいところがないが、11位以下にはなかなか異色の作品がそろった。
いまさら宮部みゆき(それも続編もの)が1位というのも冴えないし、どこのランキングでも1位争いをするだろう『女王国の城』をぶった切るのは、独自色を出す手段としてはひどくありきたりだが、とりあえずは自分の色を出せたろうか。
こういう企画は継続が肝なので、来年以降も末永く続けてもらいたい。
……のだが、これだけ13位が多いと投票数が極端に少ないのではと勘繰りたくもなる。内輪のにおいがぷんぷん。
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ミステリ感想-『プリズム』貫井徳郎

2007年11月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
女性教師が自宅で死体となって発見された。ガラス切りを使って外された窓の鍵、睡眠薬が混入されたチョコレート、凶器となったアンティーク時計。彼女の同僚が容疑者として浮かび上がり、事件は容易に解決を迎えるかと思われたが……。


~感想~
こんなものに僕は一片の価値も認めはしない。
(↓以下ネタバレ↓)
さまざまな魅力的な推理が示されては崩れ、崩れては積み直され、最後の最後になにも残りはしない、ただの責任放棄。
作者はラストに示される推理を「驚かれたことでしょう」とあとがきで述べているが、読み始めて1ページ目でそれが真実ではないと明白な事実に驚くもクソもない。
こんなものはただの技術をもてあそんで煙に巻いただけのものだ。歌野晶午の某作はただの文学くずれだったが、これはただのミステリくずれ。いかに過程が面白かろうと結末が無い物語など僕は求めていない。
そもそも危ぶんではいたのだ。初めの章で示された犯人が次章では語り手を務める趣向、末尾の言葉が連環していく章題といい、これは最後に最初の語り手が犯人とされる=明確な結末はつかないのではと。予想通りの着地にうんざりした。



たとえるならば、あるマイナーなゲームやスポーツの達人が、派手な技を「素人を驚かせるだけのこけおどし、技術的にはたいしたことない」と否定し、技術的にはすごいが全く見栄えのしない地味な技を得々と演じるような、そんな薄ら寒さを感じた。


07.11.27
評価:なし 0
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ミステリ感想-『人間動物園』連城三紀彦

2007年11月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
記録的な大雪に覆われた街で、汚職疑惑の渦中にある政治家の孫娘が誘拐された。被害者宅のいたる所に仕掛けられた盗聴器に、一歩も身動きのとれない警察。追いつめられていく母親。そして前日から流される動物たちの血……。二転、三転の誘拐劇の果てにあるものとは。


~感想~
誘拐トリックの新境地。
誘拐ミステリといえばトリックが仕掛けられるのは誘拐方法や身代金の受け渡し手段、犯人の正体などが妥当なところだが、本作では全く予想だにしない部分にトリックが待ち受けており、度肝を抜かれること請け合い。
トリックだけではなくそこは連城三紀彦、圧倒的な筆力で多くの人物を書き分け、しかも誰もかれもが怪しく見える。それでいて複雑な事件も心理描写も解りづらい部分が全くないのだから流石である。
中盤やや流れが止まり冗長になるきらいもあるにはあるが、いかにもといった結末まで飽きさせることはない。誘拐ミステリの白眉。

07.11.24
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『終戦のローレライ』福井晴敏

2007年11月20日 | ミステリ感想
~あらすじ~
数奇な運命をたどり日本軍に接収されたナチスドイツの潜水艦「伊507」。正規に登録されない亡霊艦に乗り込むのは、枠を外れたはみだし者たち。
彼らが目指す「日本が迎えるべき終戦」とは、特殊兵器ローレライとはなにか。


~感想~
映画『ローレライ』ではあらすじからして平然とネタバレされているので今さらという気もするが、読むならばぜひとも予備知識なしで臨んでいただきたい。
がぜん盛り上がるのはローレライの正体が明かされてから。それまで脳内でファーストガンダムの頃のアムロの声に自動変換されていた折笠征人の言葉が、それを境に碇シンジの声へと変わる、そんなお話。(どないやねん)
驚くべきはその筆力。大長編だが中だるみする場面はなく、終始最高潮を維持しつづけ、2巻ラストの戦いの目的と思われる「アレ」の登場や、3巻ラストの自らの足と意志で歩みだす場面は鳥肌立ちまくり。なにぶん丸1月かけて読んでいただけに感涙こそ誘われなかったが、全く飽きることなく1月の間、日常生活の友として幸福な読書体験ができたことは、本読みとしてこのうえない喜びである。
戦記ノベルファンもミステリマニアも関係ない。本好きならば絶対読むべきの、歴史に残る大傑作。いいから読め!

Ⅰ 07.10.5
Ⅱ 07.10.20
Ⅲ 07.11.7
Ⅳ 07.11.20

評価:★★★★★ 10
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ミステリ感想-『インシテミル』米澤穂信

2007年11月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
時給11万2千円という怪しい求人に、それぞれ思惑をもった12人が集まった。
仕事の内容は、12人の「暗鬼館」での7日間を、一日中観察されるというもの。
館の中には、鍵のかからない12の客室・娯楽室等の他に、監獄・霊安室といった部屋があり、12の客室には、それぞれ1つずつ、凶器が置かれている。
館の観察者は、彼らにいったいなにをさせたいのか?


~感想~
これだけの大掛かりな舞台だけに大型のトリックを期待してしまったのが間違い。
これはタイトル通りに本格ミステリに「淫してみた」作品。本格ガジェット盛りだくさんであることを逆手に取り、想像と期待の斜め上を行き煙に巻くような仕掛けを楽しむべき。これが帯に書かれたとおりの「私たちのミステリー、私たちの時代」とは思えないが。
難点というか難癖つけると、舞台といい設定といい『極限推理コロシアム』『晩餐は「檻」のなかで』とかぶりまくっている。しかし完成度はその2作を全く問題視しないレベルで、むしろ今作こそが極限で推理なコロシアムぶりを楽しませてくれる、強化版極コロといったところ。
それにしても米澤穂信がこんなにも本格ミステリというものに造詣が深く、愛をささげているとは思わなんだ。


07.11.15
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『消失!』中西智明

2007年11月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
その街に連続して起こった殺害事件。共通するのは死体と犯人の不可解な「消失!」。そして、殺されたのがいずれも赤毛の持主であったことだ。赤毛を恨む人間の復讐行なのか。最初の「驚愕」は、名探偵新寺仁が解き明かした真相にある。だが、その奥には二重三重の途方もない真実が…。
※コピペ


~感想~
あらすじはおろか感想すらなにを書いてもネタバレの危険を含む作品。
トンデモトリックとタイトル通りに作者まで「消失!」してしまったことで長らく伝説上のミステリ、幻の傑作となっていたが、このたびめでたく復刊。たしかに伝説となるにふさわしい逸品であった。
冒頭から連発されるかけね無しに完全無欠の「消失!」っぷりに脱帽。途中で察してしまい危ぶんでいた、伝説の象徴となる一発大ネタは中盤で惜しげもなく明かされ、並のミステリならばメインを飾る大ネタを上回る、第二第三の衝撃が押し寄せる。
読み返してみればどこまでもフェアプレイ精神にのっとった作品。幻の理由は希少価値だけではない。マニアならずともぜひ手に取ってほしい、歴史に残る傑作でした。


07.11.14
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『左90度に黒の三角』矢野龍王

2007年11月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「館で演じられた殺人劇を、証言者と話せるモニターとPCが設置された監禁部屋で推理せよ。正解ならば最大2人を解放、不正解ならば殺害」大富豪の老女に監禁された男女10人が繰り広げる推理ゲーム。狂気を孕む老女の言動、薬物中毒少女の奇妙な証言、PCにあった「左90度に黒の三角」という言葉から真相を見抜けるのか!?究極のデスゲームミステリー開幕。
※コピペ


~感想~
『極コロ』・『絶マン』・『箱テン』とミステリ界にサバイバル馬鹿ミステリを放ってきた龍王による第四弾!
読めば読むほどよくできているミステリはざらにあるが、読むほどに雑な造りが明らかになるものはあまりない。無論、本書はそのまれな例である。
冒頭に出てくる男からして一人称が「おいら」で口癖が「じゃん」という感情移入を断固拒否するキャラだが、こいつは主人公じゃないので立ち読みされた方は安心して読み進めてほしい。
もっとも内容も序盤から超能力→落とし穴→推理ゲームと問答無用の龍王ワールドで他の追随を許さず、物語は半分ほど進んでもまだ推理するべき謎すら明かされず、明かされたら明かされたで具体的になにを解けばいいやら解らないという読者置き去りの展開。
いつもどおり見当たらない緊張感や推理味にくじけず読み進めても、待ち構える真相はいまいち釈然としない。ひょっとして龍王、設定だけ考えてミステリ部分は後付けしたんじゃあと疑いたくなるが、最後の最後に意外だけれどあまり機能していないトリックが明らかになるので、それだけを楽しみに読みとおしていただければ幸いである。
なお伏線っぽい意味深だったセリフ(ヒドリ様など)は意味深なだけで投げっぱなしなので気にしないでいただきたい。細かいことを気にしていたら龍王作品は読めません。ちなみに最大の見どころは表紙絵で、読了後に見返すと「お前らそんな美形キャラじゃないだろ!」とつっこみたくなること請け合い。
それにしても伏線(というかトリックを成立させる理由)が「語り手がヤク中だから」という潔さはただことではない。さすが龍王!
文章が多少こなれてしまったのか、前作までのように「ガッデム!」「猪口才な!」のような名言はなくなってしまったが、中身はあいかわらずの龍王ミステリだから安心していただきたい。
最後に龍王自身によるコメントを紹介し、感想を終えよう。


 いよいよ本日のメインイベントです。大変長らくお待たせしました。メフィスト賞の良心こと矢野龍王です。
 メフィスト賞作家と言うと、キワモノ揃いで有名です。おかげで私のように、ヒューマニズムに溢れる日常の謎に迫った甘酸っぱくてハートウォーミングな作風の作家にとって、お世辞にも居心地のいい環境とは言えません。郷に入れば郷に従えとでも言いましょうか。ここはひとつ自分の殻を破って、ちょっぴりアグレッシブで前衛的なミステリーに挑戦してみようと思い立ちました。『左90度に黒の三角』です。
 どうせまた地雷じゃないのかって? 私の作品がいつも素敵だからって、そんなにおだてないでください。ここだけの話ですが、今回のは世紀の大傑作です。作者本人が言うのですから、間違いありません! ……たぶん。
 さて話は変わりますが、このたびサイン会を行なう運びとなりました。私は恥ずかしがり屋さんなので、人前に出るのが苦手です。ところが編集担当のP氏にごり押し……いやいや、読者の皆様に少しでも恩返しを、とこのような場を企画してもらうことになった次第です。『左90度に黒の三角』を読んで、万が一ちょっとでもつまらないと感じた方がいらっしゃれば……そんなことはあり得ないのですが、私をハリセンで殴る絶好のチャンスです。都合のつく方はマイハリセンをご用意の上、お越しください。グーで殴るのは禁止です。



やはり龍王は偉大である。
ところで「矢野龍王は本名」という情報を仕入れたのだが本当だろうか?


07.11.12
評価:★ 2
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映画感想―『イーオン・フラックス』

2007年11月11日 | 映画感想

~あらすじ~
西暦2011年、人類は新種のウィルスにより99%が死滅、科学者トレバーが開発したワクチンのおかげでなんとか絶滅を免れる。
生き残った人々は汚染された外界から隔てられた都市ブレーニャで安全かつ平和な生活を送っていた。
しかし西暦2415年、秩序維持の名の下に圧政を敷く政府に強い疑いを抱く反政府組織"モニカン"は、最強戦士イーオン・フラックスに君主暗殺を命じ、政府の中枢である要塞へと送り込むのだった……。


~感想~
映画というかシャーリーズ・セロンの2時間プロモーションビデオ。
PVだからどんなに殴られてもセロンの顔は綺麗なまま。PVだから様々なSF仕掛けは特に説明がなく解りづらいままなのだ。
内容は簡単にいえば、綺麗なおねーちゃんがセクシーな衣装で悪人をばったばったとなぎ倒すという中学生男子の妄想みたいなものであり、取り立てて語るべきことはない。
いくら近未来とはいえスパイのくせに目立ちすぎる衣装のセロン。恋人を装い機密文書をやりとりするのだが、通りすがりにディープキスしてそのまま別れるというますます怪しさ爆発の交換方法。ものすごい勢いで軟着陸というラストまで全編つっこみどころ満載だが、これはあくまでも映画ではなくPVなので気にしてはいけない。
SFファンや映画ファンではなくシャーリーズ・セロンファンなら楽しめるのではなかろうか。


評価:★ 2
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映画感想―『トム・ヤム・クン!』

2007年11月06日 | 映画感想

~あらすじ~
「マッハ!」の監督・主演コンビが新たに手掛けた超絶アクション。
タイ東部の小さな村で象を育てながら暮らす、ムエタイ兵士の末裔たち。しかしある日、2頭の象が密輸組織によってオーストラリアへと連れ去られてしまう。
村の若者カームは象を助けだすため、単身オーストラリアへと向かう。


~感想~
「マッハ!」の正統なる続編。前回は仏像を取り戻すため、今回は象を取り戻すためというシンプルきわまりないストーリー。
漢が戦う理由なんてひとつでいい!

超人的なアクションを披露するだけではなく、4分を超える長回しでトニー・ジャーが次々と悪人を蹴散らしたり、49人もの刺客の骨をトニー・ジャーが見たこともないサブミッションで折りまくったりと見せ方も多彩。
誰か銃持ってこいよ銃!

前作よりも格闘にスポットを当て、トニー・ジャー VS カポエラ使い! トニー・ジャー VS 剣術家! トニー・ジャー VS ネイサン・ジョーンズと見どころ満載!!
飛行機が嫌いでWWEを解雇され、「トロイ」ではブラピに秒殺されたネイサンが暴れまくる!
ヒロインっぽい女やライバルっぽい男はいつの間にかいなくなってるけど気にするな! CGもワイヤーもなければストーリーもないのが「マッハ!」だ!!

トニー・ジャーと向き合ったらドアを背にするな! ドアを突き破って蹴り込まれるぞ!!

トニー・ジャーと向き合ったら壺を手にするな! 飛び膝で壺ごと壊されるぞ!!

アドレナリンだだ漏れのトニー・ジャー映画。頭からっぽで観るべし。


評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『女王国の城』有栖川有栖

2007年11月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
急成長をつづける新興宗教団体の聖地、神倉。
聖地に消えた江神二郎を追い、神倉へ向かったアリスら4人。しかし「城」と呼ばれる総本部はかたくなに入城を拒み、どうにか入ったものの思いがけず殺人事件に直面。外界との接触を阻まれ囚われの身となった一行は、必死に脱出と真相究明を試みるが、その間にも事件は続発し……。


~感想~
傑作傑作大傑作。あの歴史的傑作『双頭の悪魔』の続編として出すだけはある。15年待たせただけはある。
正直、終盤まではあまりに冗長な地道な展開に辟易し、読み進める速度も落ちていたのだが、解決にいたって一変。
まさに目から鱗が落ちる謎解きに感服。あれだけ精緻な謎がまさか(ややネタバレ→)たった3つの手がかりで砕け散るとは!
過去と現在の事件が表裏一体、有機的に結びつき、たったひとつの真相を導き出すあたりは本格ミステリならではの感動。これぞ本格の醍醐味、100%混じりっけなしの本格の中の本格。
さらにさらに終局にいたって作品世界全体を覆っていた不穏な霧が、一瞬で消えさる魔術的な真相。恐れ入りました。
気の毒なのは、これでまた 江神シリーズ>火村シリーズ という図式はより定着してしまうだろう。

『双頭の悪魔』から15年、奇蹟は2度起きた。2007年度最高傑作ここにあり。


07.11.5
評価:★★★★★ 10
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