小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『時の密室』芦辺拓

2008年05月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
明治政府の雇われ技師エッセルは、謎の館で死体を発見するが、その後火災とともに死体は消失した。
昭和45年、医大生・氷倉は河底トンネルで、そこにいるはずのない友人の刺殺体に遭遇した。
そして現代、路上の密室を追う森江春策の前に、明治・昭和の未解決事件が甦る。


~感想~
大小あわせ6つもの密室をめぐり、明治~平成の時代を超える意欲作。それだけに読みとおすだけで疲労困憊。
独特の重たい文体に、明治の空気を漂わせる作中作、そして密室の大盤ぶるまいと来ては芦辺中毒を起こす寸前。
これだけの長編ながら、数は多いが小粒な密室トリック(物理科学の応用授業あり)に、団塊世代への感情的な恨み節。そして投げっぱなしたような動機と消化不良で胸やけも起こしそう。
時代を超えて6つの密室が連関する趣向は買うが、その連関ぶりは我田引水とまでは言わないが、結びつきが脆弱なのも事実。
作者の大阪LOVEは強く強く伝わってくるが、関東人にはこれまた味がどぎつすぎる。元新聞記者らしい社会性を出しすぎてしまったのも、口に合わない原因か。
都市(大阪愛)小説としては満点。だがミステリとしては味に好みが分かれる、読む人を選ぶ作品であろう。
…………疲れた。


08.5.26
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵』歌野晶午

2008年05月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
刑事の舞田歳三は仕事帰りに兄の家に寄って、11歳になる姪のひとみのゲーム相手をし、ビールを飲むのを楽しみにしている。
難事件の捜査の合間を縫ってひとみをかわいがる歳三だが、彼女のふとした言動が事件解決のヒントにも……。

~収録作品~
黒こげおばあさん、殺したのはだあれ?
金、銀、ダイヤモンド、ザックザク
いいおじさん、わるいおじさん
いいおじさん?わるいおじさん?
トカゲは見ていた知っていた
そのひとみに映るもの


~感想~
11歳の探偵少女が血なまぐさい殺人現場で踊りまわり「えへへ、犯人わかりましたのん」と鋭い推理を見せる作品ではないので安心してほしい。
作者は「ゆるミス」「やわらか本格」とのたまうが、やわらかいのは読みやすい文体とひとみのキャラだけ。ガチガチの本格ミステリを楽しませてくれる。
これぞミステリの醍醐味と叫びたくなるような、不可解な謎と明快な解決。作者ならではのブラックな味わいもスパイスに利かせ、すばらしい短編集である。
全編負けず劣らずの良作ぞろいだが、タイトルからして照応を見せる『いいおじさん、わるいおじさん』『いいおじさん?わるいおじさん?』の2編は特に傑作。
抜群のリーダビリティから本格初心者にもおすすめ。歌野晶午ファンは臆せず読むべし。続編が待ち遠しい。


08.5.22
評価:★★★★ 8
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映画感想―『ナルニア国物語』

2008年05月19日 | 映画感想

~あらすじ~
第二次世界大戦下のイギリス。
空襲を逃れ疎開したペベンシー家の4人の子供たち。
あるとき末っ子のルーシーは大きな衣装だんすの中に入り、雪に覆われた森の中に出てしまう。
そこは、言葉を話す不思議な生き物たちが暮らす魔法の国ナルニア。
しかし偉大な王アスランが作った美しいこの国は、冷酷な白い魔女によって100年もの間冬の世界に閉じ込められていたのだった……。


~感想~
ディズニーが映画化ということで多少の不安はあったが、なんら不満のない正統派ファンタジーとして完成している。
どうしても『ロード・オブ・ザ・リング』がちらついてしまうが、短いながらにしっかりと作りこまれており、妙に理にかなった戦術(狭隘に誘いこんでの高地からの投射攻撃)など、決して子供向けではない。
実にファンタジーのカタルシスをよく解っていて、ベタな物語が好きな向きには特に薦められる。やはりファンタジーはベッタベタでなくては!
惜しむらくは時間の短さで、それでも壮大な世界観は描けているのだが、あっけなく流れてしまう場面も多く、もっともっと物語に浸っていたかった。が、そのあたりは続編に任せるべきだろう。
『ロード・オブ・ザ・リング』が楽しめた方は必見。子供向けとあなどるなかれ。


評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『サクリファイス』近藤史恵

2008年05月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ただ、あの人を勝たせるために走る。それが、僕のすべてだ。
自転車ロードレースに人生を賭ける男たち。だが夢と嫉妬の狭間で、起きてはいけない悲劇が起きた。


~感想~
このミス・文春・早ミスでベストテン入りし、日本推理作家協会賞と本屋大賞の候補にもなった、著者最大の話題作。
確かにこの短い分量に、自転車ロードレースというなじみのない競技の魅力を詰め込み、さらにミステリとしても意外な真相をきっちりと付けたのは見事だが、前評判を上回ることはない佳作であった。
試合模様自体が面白く、小説として成功しているだけに、ミステリとしても大傑作を望むのは酷というものだろう。
とはいえタイトルであるサクリファイス(犠牲)の意味が二転三転する展開など実にうまい。これ一作で終わるにはもったいない。続編は無理としても映画化はありえるだろう。
その際には主題歌はベタだがcreedの『My Sacrifice』でぜひ。


08.5.17
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『はじまりの島』柳広司

2008年05月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
1835年9月、英国海軍船ビーグル号は本国への帰途ガラパゴス諸島に立ち寄った。
ゾウガメとイグアナの楽園に上陸したのは艦長を含む11名。翌日、宣教師の絞殺死体が発見された。犯人は捕鯨船の船長を惨殺し逃亡したスペイン人なのか?
若き博物学者ダーウィンが混沌の中からすくい上げたのは、異様な動機と事件の驚くべき全体像だった。


~感想~
歴史上の人物を主人公に本格ミステリを描き、さらにその事件が偉人の業績に多大なる影響を与えていた――という離れ業をやってのける才人が、今度はダーウィンに食指を伸ばした。
が、なにぶん「神の不在」を解き明かした偉人だけに、哲人ソクラテスを主役に据えた『饗宴』よりもさらに哲学的で、真犯人の動機の破格さはちょっと理解を超えてしまう。不可能殺人のトリックはさすがに意外なところに伏線を忍ばせてくれたが、動機と濃厚な哲学に引いてしまったのが敗因。とはいえ翻訳調の文体と変人ダーウィンの言動でぐいぐいと読ませる手腕は健在。読んで損はない。


08.5.13
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『放課後』東野圭吾

2008年05月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
密室の更衣室で生徒指導の教師が青酸中毒で死んだ。事件と私が命を狙われ続けていたことは関係があるのだろうか。
そして、運動会の仮装行列で第2の殺人が……。


~感想~
ミステリ界を牽引する才人のデビュー作だが、どうしてこれで乱歩賞を獲れたのかさっぱり解らないほどの凡作。
げんなりするような密室トリック、がっかりな犯人、あんまりな動機と見事に三拍子そろっている。後の大器をかろうじて感じさせるのは、こなれた文体くらいのもの。
相当な東野ファンか乱歩賞ファンでもなければスルーが吉だろう。こんなのが本格ミステリベスト100であの『大誘拐』らより上位だなんて……。


08.5.8
評価:★ 2
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ミステリ感想-『宵待草夜情』連城三紀彦

2008年05月03日 | ミステリ感想
~収録作品~
能師の妻
野辺の露
宵待草夜情
花虐の賦
未完の盛装


~感想~
駄作の後は連城で口直しというのが恒例になりつつあるが、恋愛小説でありながらどうしようもなく本格ミステリでもある作風を誇る氏らしい短編集。
どの作品も動機やトリックや真相の異常さが恋愛小説にあるまじきものなのに、それでもなお恋愛小説以外の何物でもなく、しかも異常な動機やトリックや真相はやはり本格ミステリならではの物であるという、連城作品でしか味わえない読書体験を約束してくれる。
短い分量ながらその「濃さ」はまるで長編を読んだよう。ダメミスの後にはやっぱり連城三紀彦です。


08.4.21
評価:★★★☆ 7
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ブンガク感想-『私の男』桜庭一樹

2008年05月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
優雅だが、どこかうらぶれた男、一見、おとなしそうな若い女、アパートの押入れから漂う、罪の異臭。家族の愛とはなにか、超えてはならない、人と獣の境はどこにあるのか?この世の裂け目に堕ちた父娘の過去に遡る―。
※コピペ


~感想~
これなんてエロゲ?

一口で言えば、義理の父娘で近親相姦かと思ったら実の父娘で近親相姦でした。というだけのお話。
物語が進むごとに時系列がさかのぼっていくという形式だけが目新しいが、そのぶん娘の年齢もどんどん若返ってしまい、エロゲからこれなんてロリゲ?へと進化を遂げる。
児童ポルノ禁止法が施行されたら真っ先に焚書坑儒されるだろうから、興味のある方はお早めに。
また時系列をさかのぼっても、大きなお友達が喜ぶだけで物語に広がりが出るわけでもない。もし過去から未来へと普通に書いたとしたら、メンヘル女がメタボ女をげしげし蹴りまくるという衝撃のラストを迎えてしまうので、むしろその方が斯界の話題を呼んだかも。(普通の時系列順ならもうちょっと考えたラストにするだろうけども)
たしかに直木賞という肩書を冠した、実父が幼女にク●ニするという小説は空前絶後だろう。見どころと言えばそれだけか。

これが「文学」であり「直木賞」であるならば、やはり僕の人生に「ブンガク」は必要ないなあという思いを深くした。もっと面白い「小説」いくらでも知ってるぜ?


~余談~
なお選考委員の一人が「こんなものを世に出してもいいのだろうか」というトンチキな発言をしたが「あんたが出版するのか」とか「とっくに世に出されてる」とか「直木賞を取らなきゃ世に出たことにならないのか」とかいうツッコミはあえてしないことにしておく。


08.3.20
評価:★ 2
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