小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『ハンプティ・ダンプティは塀の中』蒼井上鷹

2006年12月30日 | ミステリ感想
~紹介~
留置室でくり広げられるおかしな謎解き合戦。いつも真相にたどり着くのは、誰よりもうさん臭いマサカさん!?
留置場版・日常の謎(?)など5編を収めた連作短編集。

~収録作品~
古書蒐集狂は罠の中
コスプレ少女は窓の外
我慢大会は継続中
アダムのママは雲の上
殺人予告日は二日前


~感想~
僕にとっては『出られない五人』につづく、これまた大ハズレ。
なんというか、連作短編集の一編として作られ、いちおうの解決は見せるのだが、最後に連作ならではの仕掛けでひっくり返る真相が、そのまま真相として提出されてしまっているという印象を受ける。こんな表現で通じるのだろうか。
一口で言えば、釈然としないのだ。提示された謎に対して、真相があまりに釈然としない。確かに状況を説明してはいるのだが、唯一無二の答えとして出されると物足りない。そんな作品ばかりがそろってしまった。
謎自体もさして魅力的に映らないし、連作としての仕掛けもいまいち。人物造型もぱっとせず、終盤でくり広げられる推理合戦も楽しめない。
つまり、僕とは全くそりの合わない作品でした。


06.12.30
評価:★★ 4
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非ミステリ感想-『実験小説ぬ』浅暮三文

2006年12月24日 | ミステリ感想
~紹介~
異才の作家・浅暮三文が「実験」と銘打ち放つ、前代未聞の誰も見たことのない小説の数々。
これはSFか? ファンタジィか? そもそも小説なのか??


~感想~
とにかく見たことない作品が目白押し。大喜利慣れした目にはオチが読めたり弱く感じたりするものも多いが、27編も並ぶと当たりはずれは気にならなくなる。
「帽子の男」と「進め進め」、「壷売り玄蔵」などが特に秀逸。面白いとかつまらない以前に、心に残る、残らざるをえない作品集である。


06.12.25
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『七十五羽の烏』都筑道夫

2006年12月20日 | ミステリ感想
~あらすじ~
父親に就職を命じられた物部太郎は、片岡直次郎の案で絶対に仕事をしなくてもいい探偵事務所を開く。
しかしそこに舞い込んできた奇怪な事件。姿を見た者は死ぬと言われる瀧夜叉姫のさまよう屋敷へと赴くことになり……。
完全なるフェアプレイに則り、作者は一つの嘘もつかない謎と論理のエンタテインメント。


~感想~
騙された。まさか本当にフェアプレイだったとは。すれっからしのミステリバカとしては事前にアレ(見当の付いた方だけネタバレ→)倉知淳『星降り山荘の殺人』 を読んでいたため、てっきりなにか仕掛けがあるのだと……。むしろアレが本書を逆手に取ったトリックだったと言うべきか。
それはともかく、嘘偽りのない完全なるフェアプレイは伊達ではないだけに、純粋論理で犯人が導かれるのは実に見事。導入部はやけに読みづらく、文意もつかみにくいが、事件が始まれば一息に読み通せる。僕のようなひねくれ者でなければ、変な小細工を想像せずに素直に楽しめるでしょう。
鬼面人を驚かす大仕掛けこそないが安心して楽しめる、額面通りの謎と論理のエンタテインメントでした。


06.12.20
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『夏季限定トロピカルパフェ事件』米澤穂信

2006年12月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「小山内スイーツコレクション」を手に、今日も今日とて甘い物めぐりに乗り出す小鳩くんと小山内さん。
しかし彼らの夢「小市民の星」をつかむ日を一気に遠ざけるような大事件が……。


~感想~
これぞ連作短編集!と快哉を叫びたくなる、いかにも連作らしい連作が現れた。
短編ミステリとして見られるのは2本きり。しかしここまで周到に仕掛けを張りめぐらされては文句は言えない。
終章を前にして、小山内さんというキャラを考え詰めれば真相に見当が付いてしまうのは惜しいが、トリックが解ったと騒ぎ立てるのは野暮というもの。これだけの本格魂を見せつけられたのだから黙って讃えよう。
それにしても、このシリーズは今後どうやって展開するのだろうか。まるっきり一ファンの視点になってしまうが『秋季限定マロングラッセ事件』が非常に待ち遠しい。
ちなみに今作、前作『春季限定いちごタルト事件』のネタバレを多数含むため、必ず春夏秋冬の順にお読みください。スイーツは季節が命。


06.12.13
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『春季限定いちごタルト事件』米澤穂信

2006年12月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
恋愛関係にも依存関係にもないが「小市民」を目指すため互恵関係となった小鳩くんと小山内さん。
しかし夢をあざ笑うように、今日もささやかな、しかし不思議な謎が彼らの周りに浮かび上がる。

~収録作品~
羊の着ぐるみ
Your eyes only
おいしいココアの溶き方
はらふくるるわざ
狐狼の心


~感想~
次作『夏季限定トロピカルパフェ事件』から『本格ミステリ06』に収録された「シェイク・ハーフ」がいまいち口に合わないため敬遠していたが、今年の「このミス」で10位に入ったのを機に一読。……いや、恐れ入った。多くのミステリ作家が忘れかけ、あるいは失っている本格魂を、ライトノベル出身の米澤穂信は脈々と受け継いでいた。
さすがライトノベル畑というべきか、イキイキと描かれた人物たちと会話の数々は、読み進めるだけでも非常に楽しい。それでいてさりげなく伏線を忍ばせているのだからお見事。ライトノベル読みもミステリ読みも、小説読みなら残らず満足させるのではなかろうか。
道尾秀介、辻村深月、そして米澤穂信。21世紀のミステリ界は彼らが担う。


06.12.12
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『天使が消えていく』夏樹静子

2006年12月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
台風が九州を縦断した夜、ホテルで宿泊客の男が絞殺された。
その後、ホテルの経営者も青酸カリの入った牛乳を飲み、不審な死を遂げる。
一方、心臓疾患を抱えるゆみ子の母・神崎志保を母親失格と見た婦人誌の記者・砂見亜紀子は、ゆみ子の世話をかいがいしく焼くが……。


~感想~
「操り」の最高峰にして極北。
昨今、流行している「操り」を題材としたミステリだが、京極夏彦のアレと双璧を成すだろう代表作がこれである。
ネタバレにならない程度に言うならば、その「操り」の手管は作中人物のみならず、読者にまで及んでおきながら、叙述トリックではないのが目新しい。
ことにタイトルの意味するところが明らかになり、構図が反転していくのはお見事。起こる事件と謎解きこそ、地味で地道なものだけに外見で損をしているが、この構成は本当に素晴らしい。
ミステリ史的にも意義の深い作品ながら、なんと江戸川乱歩賞は落選しているのだから、その頃のレベルの高さが知れるというもの。……いや、乱歩賞ってやつぁ昔からこうだったという傍証かもしれんけど。


06.12.11
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『誰もわたしを倒せない』伯方雪日

2006年12月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
後楽園のゴミ捨て場で発見された死体は髪を切られていた。
格闘技ファンの刑事・城島の指摘で、被害者がカタナというマスクマンではないかという可能性が浮かび上がる。
プロレスも格闘技も両方こなすカタナが被害者なのか? そして第二の死体が現れ……。(覆面)

「最強とはなにか?」を問う前代未聞の格闘技ミステリ。

~収録作品~
覆面
偽りの最強
ロープ
誰もわたしを倒せない


~感想~
プロレス・格闘技を題材とした連作ミステリ。だが、題材の目新しさだけに留まらない、ミステリ書きとしての巧みさが光る。
これがデビュー作ながら心憎いばかりにミステリの肝を心得ており、格闘技ファンではなくても楽しめるだろう。もちろんファンならばよりいっそう楽しめるのは当然。
あまり触れすぎるとネタバレするが、ある一編は「ここでこのトリックを使うか!」と唸らせてくれた。ミステリバカにはもはや辟易のあのトリックで、ここまで驚かされたのは初めてかも。連作ならではの工夫を凝らした伏線も実にうまい。
この腕ならば、格闘技ネタを用いずとも傑作をものせることは間違いない。とはいえ、今後も格闘技ミステリという未開の地平を切り開いてほしいのも本音である。
それにしてもあのトリックといい、この世界でしかありえない動機といい、ミステリにはまだ金脈が眠っていたものだ。


06.12.5
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『水の迷宮』石持浅海

2006年12月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
3年前、不慮の死を遂げた同僚の命日に事件は起きた。
羽田国際環境水族館に届いた一通のメール。
大金を要求する一方で、次々と展示生物を狙った攻撃が始まる。
水族館を守るため職員が奔走するなか、事態はついに殺人事件にまで発展し――。


~感想~
傑作。
論理で全てを支え、論理で全てを語りながらも、論理だけに終わらない物語。
プロットもロジックも全て真相のために捧げられ、あらゆる伏線を一つにつなぐ真相は胸を打つ。
たった一つだけの真相に、どうしてかくもたくさんの思いが絡まり、そしてもつれるのか。心理が論理を生み、論理が心理を語る結晶体のようなミステリである。
変な話だが、この論理をいったいどこから組み始め、どういった過程で組み上げていったのか、実に不思議でならない。どうやったらこんなもん書けるんだ。
結末に賛否は分かれるだろうが、生涯忘れられない物語であった。これだからミステリはやめられない。


06.12.2
評価:★★★★☆ 9
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