小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『キマイラの新しい城』殊能将之

2004年10月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「私を殺した犯人は誰だ?」
欧州の古城を移築して造られたテーマパークの社長が、古城の領主の霊に取り憑かれた?
750年前の事件を解くよう依頼された石動戯作の前に、現実の事件まで立ちふさがり……。
このミス18位、本ミス10位


~感想~
殊能将之ならではの物語。こんな(いい意味で)イカれた話を書けるのは氏くらいのもの。
人を食ったようなトリックではなく、正統派の仕掛けを期待していたのだが……。
無駄に(失敬)よくできた脇道の描写など、氏の味は健在。ネタバレを多数含むので、既刊作品は先に読んでおくべし。


04.10.25
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『φ(ファイ)は壊れたね』森博嗣

2004年10月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
おもちゃ箱のように過剰に装飾されたマンションの一室に宙吊り死体が。
現場は密室状態で、しかも死体発見の一部始終は、室内にしかけられたビデオで録画されていた。
そのタイトルは『φ(ファイ)は壊れたね』だった。


~感想~
待望の第3シリーズ開幕。……はまったくの期待はずれ。トリックに新味はなく、しかも悪いクセがぶり返した。
メインとなるだろう新キャラ3人に魅力は薄く、再登場の萌絵でなんとかつないでいる感すらある。
シリーズ序章、顔見せとしても、お世辞にもうまくいったとは言えない。『四季』をそのまま継いだ一段組で内容も浅く、森語録も控えめ。次作での挽回に望みをかけたい。
最後に……これなら犀川でいいやん。


04.10.24
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『象と耳鳴り』恩田陸

2004年10月15日 | ミステリ感想
~収録作品~
曜変天目の夜
新・D坂の殺人事件
給水塔
象と耳鳴り
海にゐるのは人魚ではない
ニューメキシコの月
誰かに聞いた話
廃園
待合室の冒険
机上の論理
往復書簡
魔術師

2000年 このミス 6位
1999年 本格ミステリ・ベスト10 5位


~感想~
『曜変天目の夜』
まさかまさかこんな着地をするとは。こういうぶっ飛び方、嫌いじゃない。

『新・D坂の殺人事件』
説教臭い。無根拠。

『給水塔』
奇妙な味わい。

『象と耳鳴り』
魅力的な謎が尻すぼみ。

『海にゐるのは人魚ではない』
こう来たか~。親子のかけ合いが「退職刑事」を思い出させる。

『ニューメキシコの月』
どういうつてで集まったんやろ。

『誰かに聞いた話』
小咄。

『廃園』
気どりすぎ。

『待合室の冒険』
これは秀作。謎の提示もなにもないうちに、あれよあれよと解決に持ち込まれる。

『机上の論理』
楽屋オチかよ。

『往復書簡』
趣向をまったく活かしきっていない。結末も余分。なによりこんな手紙ありえねえ。

『魔術師』
……いや、お地蔵は?


~総括~
退職オヤジが主人公というだけでも『退職刑事』を思い起こさせるのに、物語の描き方も意識しているよう。
これは作者の姿勢なのだろうが、筆致に温かさがまったくといっていいほどに感じられない。
無機質な、冷徹な目線で高所からすべてが見下ろされている感。普通の凡人をあざける数々の言動・描写。
好きになれない。


04.10.15
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『彼女は存在しない』浦賀和宏

2004年10月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
恋人の貴治と待ち合わせをしていた香奈子は、由子という挙動不審な若い女と出会う。
「いつの間にか知らないところにいることがあるんです」という彼女に香奈子は不信感を抱く。
一方、両親を亡くし兄妹二人で暮らしていた根本有希は、妹・亜矢子が多重人格であることを知り……。


~感想~
歪んだ序章から凄絶きわまる結末、最後に待ち受ける崩壊まで一気読み。
ワナがある、必ずあると思いながらも、このからくりは見抜けない。
読み返すだに感心する伏線。どこにも救いのない誰も救われない物語。まさに会心の一作。
決して短い作品ではないが、欲を言えばもっとじっくりと書いてほしかった……と思うのは『暗黒館の殺人』読了直後だからだろうか。なにはともあれ、そう“彼女は存在しない”。


04.10.13
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『生首に聞いてみろ』法月綸太郎

2004年10月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
著名な彫刻家・川島伊作が病死した。彼が倒れる直前に完成させた、娘の江知佳をモデルにした石膏像の首が切り取られ、持ち去られてしまう。悪質ないたずらなのか、それとも江知佳への殺人予告か。
二転三転する謎に名探偵・法月綸太郎が迫る。

本格ミステリ大賞、このミス1位、文春2位、本ミス1位


~感想~
最近の好調ぶりをうかがわせる、丁寧で一切の無駄のない純粋本格ミステリ。
その分、物語は淡々と進み、起伏に乏しいが、丹念な筆致は読者を最後まで飽かせずに読ませてくれる。
代名詞だった「迷い」をついに振り落とし、一直線に突き進む様は、読みやすくなったもののどこか物足りない。
話題作となったが、いままでどおりの、これまでとなんら変わりない、いかにも氏らしい佳作。
もう、法月綸太郎の世界は揺らがない。いい仕事してます。


評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『暗黒館の殺人』綾辻行人

2004年10月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
館シリーズ第7弾。
九州の山深く、外界から隔絶された湖の小島に建つ異形の館・暗黒館。
その館にあの中村青司が関わっていると知った江南は館へと向かうが、
その途中でなにかに導かれるように事故に遭ってしまう。
一方、その暗黒館に住む浦登家の息子・玄児に招かれた大学生の中也は、
『ダリアの日』と呼ばれる儀式めいた宴に参加することとなり……。


~感想~
本格ミステリとしては「6」。
トリック小説としては「7」。
物語としては「8」。
綾辻行人作品としては「9」。
そして……館シリーズ最新作としては「10」。
僕が綾辻行人を知ってから8年。昔からのファンには12年ぶりの館シリーズとなる本作、待たせただけのことはあった。重厚ととるか冗長ととるかは微妙な線だが、じっくり丹念に編まれた世界を、長年待たされたぶんゆっくりゆっくりと読んでいくのが正解だろう。どんなにゆっくり読んでも、12年はかからないのだし。
要のトリックは意外と細かく、大仕掛けではない(ものすごい大仕掛けだけど印象はそれほど……)。
だが、最後の最後で必ず驚かせてくれることは請け合い。
あまり言うとネタバレになるが、「そういう物語だったのかあ~」と納得・感嘆・満足至極。
装飾過多なくらい、“いかにも”な要素がぎっしり詰め込まれ、絢爛豪華な叙述の祭典を、噛みしめるように読むべし。


04.10.10
評価:★★★★☆ 9
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