小金沢ライブラリー

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映画感想―『天使と悪魔』

2010年11月30日 | 映画感想

~あらすじ~
カトリック教会の新教皇を選出するコンクラーベの開催が迫るヴァチカンで、候補者の枢機卿たちが誘拐される。
宗教象徴学者のラングドン教授は、ヴァチカンより依頼を受けてこの事件の調査を開始。
秘密結社イルミナティとの関連性に気づいた彼は、謎に満ちた事件の真相を追う。


~感想~
前作は片手間に観ていたら全くストーリーを把握できなかった知的サスペンスだったが、いちおう続編と銘打った今作は「ヴァチカン市内でナショナル・トレジャー」という大変わかりやすい物語になった。
名所旧跡をめぐっては主人公が即座に暗号を解き、陰謀を暴いていく展開はテンポよく進む。冷静に考えると6時間ちょいで半径500メートルくらいを行ったり来たりしているだけというコンパクトさなのだが、物語のスケールの大きさで、そういった窮屈さや物足りなさは感じさせない。
スケールといえば、カトリック教会の猛反発にあい、ヴァチカン市内の撮影許可が下りず、サン・ピエトロ広場を再現するためCG全盛の現代に、アメフト競技場2つ分もの超巨大セットを組んだというのも豪快な話だ。
本編だけにとどまらず見どころの多い佳作である。


評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『ドゥルシネーアの休日』詠坂雄二

2010年11月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
タンポポは主張している。自分が四人を斬殺したことを。そして、凶器を変えて犯行を続けることを。
十年前の無差別殺人事件の模倣犯を追う雪見刑事。全寮制女子校の聖堂で祈り続ける山村朝里。死地をもいとわず数々の難事件と対峙してきた藍川慎司。
警察小説×学園小説×活劇小説=???


~感想~
クセモノ作家による初のシリーズ(?)作品。シリーズ(?)と言っても時系列が『遠海事件』の後で、探偵が同じというだけである。「それなら立派にシリーズ作品じゃねーの?」と思われるかも知れないが、単純にそうとは行かないのがこの作者のひねくれたところ。
かの厨二病ミステリ『リロ・グラ・シスタ』に巻き戻ったような厨二病ぎみの(流石にあれほどではないが)文体で、前半こそ刑事たちの地道な捜査を描くが、話が進むにつれ、現実離れした人物たちが、浮世離れした会話を交わし、ねじれた結末を迎える。
探偵の不在。ミッシングリンク。ワトソンの奮闘。意外な動機。盲点にいた犯人。探偵の帰還、と事象だけ追えば普通のミステリなのに、何から何まで一筋縄では行かない。
なんといっても結末のねじれ具合が最高で、「戻り川心中から彩紋家事件……ッ」と唸った。万が一見当がついたら申し訳ありません。
寡作のため年に一回のお楽しみになりつつある詠坂作品。今回もごちそうさまでした。


10.11.26
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『謎解きはディナーのあとで』東川篤哉

2010年11月27日 | ミステリ感想
~収録作品~
「失礼ながら、お嬢様の目は節穴でございますか?」令嬢刑事と毒舌執事が難事件に挑戦する。

殺人現場では靴をお脱ぎください
殺しのワインはいかがでしょう
綺麗な薔薇には殺意がございます
花嫁は密室の中でございます
二股にはお気をつけください
死者からの伝言をどうぞ


~感想~
くだらないギャグを煙幕にして、鋭いトリックを仕掛ける気鋭の作者による初の短篇集。
あれだけ滑っていたギャグも、筆がこなれたのかこちらの目が慣れたのか、寒い思いをすることはなくなった。
とはいえ身分を隠したお嬢様デカと毒舌執事のやりとりは、ズッコケ探偵トリオやお調子者高校生トリオの暴走ぶりと比べるとずいぶん控えめなのも確か。ギャグが滑ることは取り柄でもなんでもないので、控えめなのは結構なのだが、にぎやかさに欠けると思えてしまうのは、読者の身勝手な要望だろう。

作品の質は非常に高く、解決前に手がかりが出そろい、執事が毒を吐いたところで、やろうと思えば挑戦状を挟めるほどフェアプレイに徹している。その分、贅沢な物言いなのだが、フェアなゆえに地味な印象を受けてしまう。
くり返すが個々の作品の水準は高く「二股にはお気をつけください」など、ある一つの要素を軸に据えることで、謎と伏線と真相が絡みあい、不可解な事件の様相に一本の道筋を付ける、ロジックマニアにはたまらない逸品である。

それにしてもこんなロジックとフェアプレイにこだわったガチガチの本格ミステリを、全国の書店員サマ(笑)が帯いっぱいに偏執的に褒め称えるとは思えないんだけども。
さらに「執事が安楽椅子探偵になった日本初のミステリー」などと題材からして麻耶雄嵩の『貴族探偵』とかぶっているのにどの口が言うのか。
早くこの書店員マンセーの風潮、嘘・大げさ・まぎらわしい宣伝はやめてくれないものか出版社サマは。


10.11.25
評価:★★★ 6
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映画感想―『アルティメット2 マッスル・ネバー・ダイ』

2010年11月26日 | 映画感想

~あらすじ~
2013年、パリ郊外バンリュー13地区。そこはギャングたちの巣窟だった。
ある晩、警官が射殺された事件を機に、バンリュー13地区の一掃計画が持ち上がる。
裏に陰謀をかぎつけたレイトと潜入捜査官ダミアンは再びタッグを組み、巨悪に立ち向かう。

~感想~
期待していた鳥人アクション控えめ、しばらく経つと「ザ・ロック」と混同してしまいがちな物語に定評のあった前作から一変し、鳥人&カンフー(というかジャッキー・チェン的)アクションめじろおしの、ストーリーも「ブラザーたちが悪をしばく」という非常にわかりやすい仕上がりで、前作に期待していたものをここで用意してくれたといったところ。
ノンストップ・アクションの名にふさわしいなかなかの良作なのだが、ちょっと検索してみたところ、前作ともどもwikiのページがないのは気のせいだろうか。
前作がアレだったせいでとばっちりを受けたのなら、なんとも気の毒な話である。いや、フツーに面白い映画ですよ?


評価:★★★☆ 7
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映画感想―『マッハ!弐!!!』

2010年11月25日 | 映画感想

~あらすじ~
アユタヤ王国による侵略が進むタイ。東の王国ではクーデターで国王が殺されるが、息子のティンだけが悪名高い山賊のリーダーに救われ、彼らの住む山奥の村で生活することに。
ティンは村に住むありとあらゆる格闘技の達人たちから十数年にわたり教えを受け、やがて最強の戦士へと成長する。


~感想~
これ全然マッハじゃねえ。
主演が同じトニー・ジャーだというだけで、前作とのつながりは皆無。
というかジャンルも時代物になっていて、人間離れした鳥人アクションよりも格闘に重点が置かれ、「トムヤムクン2」と名乗っていればまだしも納得できたような。
トニー・ジャーの武術もムエタイの体系からは外れているし、対戦相手は現実離れした暗器使いばかり。だいたいなぜ中世タイに日本忍者が。
タイでなければ動物愛護協会から即座にクレームがつくだろう、象の体を利用したアクションは斬新だが、とにかく構成に無駄が多く、鑑賞にたえない。
構成が下手なだけならいいが、ヒロインとトニー・ジャーが10分間踊っているだけのシーンを出されても、タイ人ですら楽しめないような。
また壮絶なまでにバッドエンドな結末もあんまりで、「撮影中にトニー・ジャーが失踪した」という洒落にならないエピソードとあいまって、打ち切りマンガのような空気もただよってしまう。
最後のナレーションも今観ると「エルシャダイ」のゲームオーバーみたいで、まるでネタ映画である。
いちおう続編である「マッハ3」の公開も決まっているそうだが、はたして日本での上映・販売はあるのかどうかそれすら心配である。


評価:☆ 1
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ミステリ感想-『セカンド・ラブ』乾くるみ

2010年11月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
『イニシエーション・ラブ』の衝撃、ふたたび。1983年元旦、僕は春香と出会う。僕たちは幸せだった。春香とそっくりな女・美奈子が現れるまでは。良家の令嬢・春香と、パブで働く経験豊富な美奈子。うりふたつだが性格や生い立ちが違う二人。美奈子の正体は春香じゃないのか?そして、ほんとに僕が好きなのはどっちなんだろう。
※コピペ


~感想~
ミステリ史に残る大傑作「イニシエーション・ラブ」を出しておきながら、あえて再び恋愛ミステリをものし、しかも「セカンド・ラブ」などと挑発的な、と言って差しつかえないタイトルを付してきただけに、いやがおうにも期待していたのだが……。
世間の良好な評判とはうらはらに、個人の感想としては酷評せざるを得ない。
これは駄作だ。

(以下ネタバレ。イニシエーション・ラブのネタも割るので要注意)
「イニシエーション・ラブ」の魅力は何かと言えば、全編に張りめぐらされた伏線は当然として、ラスト一行でのどんでん返しと、真相の説明を一切しなかったことにあると僕は思う。
それこそ「ガッカリしたミステリを挙げろ」スレで、平均的な読解力を持たない文盲どもに「最後まで何も起きなかった」などと失笑を通り越して哀れみさえ覚える感想(笑)を書かれる始末で、かくいう僕も、さすがに大ネタこそ理解したものの、解説サイトで全容を知るまでは「同時進行だった」という最大の肝はわからなかったものだ。

ひるがえって「セカンド・ラブ」を見るに、まず伏線はほとんどない。「イニラブ」を読んでいることを前提として、たとえば一昔前に設定した時代背景とか、ムショ上がりの男の謎めいた行動とか、伏線に見せかけた、怪しいだけの「実は伏線じゃありませんでした」という誤導は面白いが、それゆえに物足りなさを感じてしまう。
では数少ない伏線は何に対して張られているかというと、なんと序章だけである。
ラスト二行にはたしかに驚いたが、この伏線を活かした物語は、極論を言えば序章とラスト二行だけでも成立してしまう程度の強度しか持っていない。序章のいかにも怪しい「スキー旅行で出会い」のくだりで結末にピンと来る向きも多いだろう。

「イニラブ」のようないっそ説明放棄とも呼んでしまえる構成とは逆に、終章では黒幕二人による楽屋オチめいた会話でネタを割っているのもまずい。そんな説明はいらないというのではなく、ネタを割らないと裏がわからないところに問題があるのだ。美奈子の死因や、美奈子と再会していたという経緯など、本当に楽屋で明かすしか方法はなかったのか。

そして「セカンド・ラブ」最大の欠点は「動機がない」という点である。
「イニラブ」では、動機とトリックが密接に結びついていた。だが「セカンド・ラブ」は極論ですらなく正味なところ「根っからの魔性の女でした!!動機なんてねーよ!m9(^Д^)プギャー」というだけの話で、あそこまでの労力を払って童貞男子を陥れる理由がどこにもない。(お嬢様の気まぐれだとでも言うのか)ましてや片棒を担ぐ紀藤になんの見返りがあるというのか。(お嬢様のご機嫌取りをしただけとでも言うのか)
百歩譲って正明を陥れる策略だったとしても、正明が初めてシェリールにたどりついたのは元極道から逃げるうちに「全くの偶然」で見つけたからで、「たまたま」その日がミナの出勤日でなければ会うことすらなかったという片手落ちぶりだ。


正直な話、「イニラブ」の続編あるいは外伝のように装わなければ、ここまで酷評することはなかったろう。
ラスト二行の衝撃は評価に値するが、だからと言って他の山ほどの瑕疵に目をつぶれるほどの度量は僕にはない。
わざわざ「イニラブ」の名を掲げたことは、作者にとって(商業的な面は除き)なんら得るもののない行為だったと思うのだが……。


10.11.22
評価:★ 2
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ミステリ感想-『ジークフリートの剣』深水黎一郎

2010年11月23日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「あなたは幸せの絶頂で命を落とす」世界的テノールである藤枝和行が念願のジークフリート役を射止めた矢先、婚約者の有希子は老婆の予言どおりに列車事故で命を落とした。
ジークフリート同様に“恐れを知らず”生きてきた和行だが、愛する人を失った悲しみから、遺骨を抱いて歌うことを決意し……。


~感想~
例によってオペラの知識がない向きにも「ニーベルングの指環」の物語を理解させ、その演出にまで興味をわかせるのがさすが。
深水作品には珍しく、占い師の予言などとうさん臭いものを主題に据え、(ウルチモ・トルッコ? 何それ?)まるで予言と「ニーベルングの指環」の物語をなぞるような展開、オペラ歌手の日常の描写自体が面白く、メフィスト賞の良心、本格ミステリの申し子というだけではない、深水黎一郎の力量の高さはもっと評価されるべきだ。

だが藤岡真氏が指摘するとおり、たしかにこれは短編でやるネタだ。
極論すれば序章と終章だけでも成立してしまう話で、中盤に長々と描かれたラブロマンスだの、おそらく意図的にあらすじでは触れられていないが、実は瞬一郎シリーズであることや、名探偵による本格ミステリらしい謎解きだのは、ごっそり省いてもなんら問題がない。むしろそんなミステリミステリした裏は無いほうが良かったのではないかとまで思わせる。
しかしそんな疑問は抱いてしまっても、さらには大半の読者にとっては予想通りだろう結末を迎えても、それでも胸に迫る感慨と、一大オペラを観終えたような充足感はすばらしい。
深水ファンなら迷わず買い、深水初心者にもおすすめ。


10.11.18
評価:★★★★ 8
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映画感想―『REC 2』

2010年11月17日 | 映画感想

~あらすじ~
物語は、あのアパートでの惨劇の直後から始まる。
完全隔離されたアパートに、ある特命を受けた医師と武装した警官隊が突入する。
"感染"の深層部であろう最上階の部屋で彼らが見たものとは……。


~感想~
第二弾は簡単に言うと入れる部屋が3つくらいしかないバイオハザードになった。
いきなりわっと出てくるお化け屋敷な怖がらせ方なのに、心拍数が上がらないのは当然として、例によって悪魔が黒幕なのはしかたないが、悪魔に十字架とお祈りでダメージが入るのは、せっかくビデオ撮影という形式をとりながら(日本人にはどうしても)現実味に欠けるように思えてしまうし、乗り移りまで披露されては、もはやエクソシスト番外編といった雰囲気が感じられてならない。
しかし前作のラスト直後から始まる、前作をふまえた続編ながら、きわめてわかりやすいストーリーや、90分足らずのスピード感ある展開は良いので、それなりには楽しめるかも。


評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『舞田ひとみ14歳、ダンスときどき探偵』歌野晶午

2010年11月16日 | ミステリ感想
~収録作品~
白+赤=シロ
警備員は見た!
幽霊は先生
電卓男
誘拐ポリリズム



~感想~
「やわらか本格」とうたいながらも、やわらかいのは文体だけで、骨太のミステリを楽しめる好シリーズ、待望の第二弾。
が、今回は成長した舞田ひとみが探偵役を務め、さらに友人たちともども14歳らしい悩みにさいなまれるため、描写はそちらに裂かれ、前作と比べて本格味はほんのり薄味。
とはいえそこは歌野晶午、伏線の妙や思わぬトリックで驚かせ、物語とミステリ要素の両面で楽しませてくれる。
それにしても、ひとみの探偵としてのスペックは、歌野作品のかつてのシリーズ探偵・信濃譲二をはるかに上回っているのではなかろうか?


10.11.11
評価:★★★ 6
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映画感想―『アイアンマン2』

2010年11月11日 | 映画感想

~あらすじ~
自らアイアンマンであることを告白した大企業スターク・インダストリーのCEO、トニー・スターク。
そんな彼に新たな危機が迫っていた。米国政府はパワードスーツの没収を命令。彼に恨みを抱く謎の男"ウィップラッシュ"が現れ、ライバルの武器商人ハマーも独自のパワードスーツを開発する。
そんな中、胸に埋め込んだエネルギー源"リアクター"の影響でトニーの体は蝕まれていき……。


~感想~
前作でのパワースーツ手作りや、体を張った人体実験、正体を隠すための悪戦苦闘など、愉快な描写が鳴りを潜め、トニー・スタークがあまり暴れないこと。
バトルシーンがクライマックス一本に絞られて少ない(しかも圧勝)こと。
アメコミヒーローたちが一堂に会する『アベンジャーズ』に向けての伏線を張ることに忙しく、本編の内容が薄くなっていること、などなど不満が多く、ほうぼうで酷評されるのもむべなるかな、というところ。
とはいえスタークのキャラとしゃべりの面白さ、もう40近いのに下手すりゃ24のスカーレット・ヨハンソンよりかわいいグウィネス・パルトロウ演じる秘書との仲の進展などなど、ストーリー的な部分に見どころは多い。
もうすこしアクション面に力を注いでいれば……。


評価:★★★ 6
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