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ミステリ感想-『何かの家』静月遠火

2024年08月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「その家に一人で入りかくれんぼをしてはいけない」
ルールを破った者はその家から出られなくなり、それまで住んでいた人物と入れ替わる。
その家を管理する大学生兼農家の息子の岸谷冬馬は、民俗学を専攻する女子大生を案内し…。


~感想~
タイトルと設定こそホラーだが、作者がTwitterで参考文献に入れなかったことを後悔している作品が西澤保彦「人格転移の殺人」であることからもわかる通り、特殊設定ミステリの秀作であった。

「人格転移の殺人」は効果範囲内の人物の人格だけが入れ替わる仕掛けだったが、本作では人間ごと入れ替わり、しかも他者はそれを認識できない。むやみに話がややこしくなりかねないところ、本作は大胆にも「○○の家」と現在その家に閉じ込められているのが誰なのかはっきりと明示してしまう。
一章の「夏の自殺」が、設定を説明しつつもほのめかすだけである事実を強烈に匂わせ、そこだけで終わっても一編のホラーとして成立する秀逸さ。
初めて読む作者だがこの小説でしかできない盤外戦術のような技法が非常に上手く、筆力やストーリーテリングだけではない小説の上手さ・面白さを味わわせてくれる。
その後も章ごとに短編ミステリ・ホラーとしてきっちり成立する区切りを設け、終盤には意外な探偵役がとんでもないサプライズとともに降臨し、謎解きとどんでん返しをし続ける。
そして最後にはこれまでの物語とはまるで正反対のようなホラーの手法で幕を閉じるのも見事だった。

ミステリとして厳密に見ると説明・描写不足な点やアンフェアな面も多々あり、特に「入れ替わった人物の記憶がある程度受け継がれる」という重要な設定はもっと早く明確にしておくべきだったが、ホラーと特殊設定ミステリを融合させた、実に面白い作品であった。


24.8.29
評価:★★★★ 8
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