小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『しらみつぶしの時計』法月綸太郎

2008年07月30日 | ミステリ感想
~収録作品~
使用中
ダブル・プレイ
素人芸
盗まれた手紙
イン・メモリアル
猫の巡礼
四色問題
幽霊をやとった女
しらみつぶしの時計
トゥ・オブ・アス


~感想~
法月探偵がまったく登場しないノンシリーズ短編集。がっかり。
4作品が既読だったことだけではないがっかりぶり。
とりあえず「四色問題が収録されていたら無条件で買い」と書いていた誰かはしめたい。
この作者は法月探偵が主人公でない場合には、一番の武器である論理性や煩悶を捨ててしまい、安易なところに真相を置いてしまう傾向にあり、今回もそれが顕著。
出来がいい作品はのきなみ既読で、残されていたのはどれも法月綸太郎が書くまでもないようなぬるい作品か、法月綸太郎にあんま書いてほしくない作品ばかり。
その実力はこんなものではないと解っている作者だけに、ハズレを引くと脱力することはなはだしい。もっと光を。もっと法月を。


08.7.30
評価:★ 2
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ミステリ感想-『カラスの親指』道尾秀介

2008年07月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
詐欺を生業としている中年二人組。
ある日突然、彼らの生活に一人の少女が舞い込んだ。
やがて同居人はさらに増え「他人同士」の奇妙な共同生活が始まった。
失くしてしまったものを取り戻すため、そして自らの過去と訣別するため、彼らが企てた計画とは。


~感想~
今年度1位確定。

全体を通してぬるめのコン・ゲームが描かれるが、ファンとしてはついつい「今回はなにを仕掛けているのか?」「今回もなにかを仕掛けているのか?」と二つの矛盾を抱えて、期待半分、不安半分で読み進めてしまう。
そして表の物語が決着したとき、期待をはるかに上回る裏の物語がこつ然と姿を現す。
その震えるような衝撃は、トリックと本格ミステリで人間を描ける新鋭――いやもう新鋭などという言葉は失礼にあたるだろう――道尾作品ならではのもの。
読み終え本を閉じたあと、ふとタイトルを思いだす。
真っ先に詐欺にかけられていたのは、他ならぬ読者の自分であった。


08.7.29
評価:★★★★★ 10
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ミステリ感想-『硝子のハンマー』貴志祐介

2008年07月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
日曜の昼下がり、株式上場を目前にした介護会社の役員たち。
強化ガラスと監視カメラによる厳重なセキュリティ網を破り、自室で社長は撲殺された。
凶器は? 殺害方法は? 犯人は?
日本推理作家協会賞受賞作。


~感想~
非常によくできた、実に書くのがめんどくさそうな力作。ただし確かな筆力で長大な物語を楽に読ませてくれる。
島田荘司を思わせないでもない二部構成や、なまじ鉄壁なトリックだけに突飛な推理や展開がなく、冗長に流れてしまいそうなところだが、そのあたりは実力のある作者、心配はいらない。
ただ、ひとつ苦言を呈したいのが序盤で、三人称視点なのに登場人物の一人をずっと「さん付け」で書いており、非常に違和感があった。
これは三人称に見せかけて実は現場にいた、もうひとりの人物(=犯人)の視点だった! ……などという裏はないのであしからず。


08.7.23
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『きみとぼくが壊した世界』西尾維新

2008年07月20日 | ミステリ感想
~あらすじ~
黒猫×様刻×ロンドン!
奇妙な相談を受け、謎と霧の都ロンドンへと誘われた病院坂黒猫と櫃内様刻。
そこに次々と(?)巻き起こる(?)事件(?)の数々。
きみとぼくのための世界シリーズ第三弾。


~感想~
黒猫と様刻の会話が楽しい、ただそれだけのミステリ風味ライトノベル。
トリックはとても長編を支えられる強度ではなく、短編としても厳しいくらい。
だが会話と心理描写だけで読ませてしまう筆力はあいかわらず。描写の楽しさだけなら近年の作品で上位に入るだろう。
維新ファン向けの一冊。それ以上でも以下でもない。


08.7.15
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『百物語』輪渡颯介

2008年07月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
修行中の甚十郎は、兄弟子に頼まれ和泉屋で行われる百物語会にしぶしぶ顔を出す。
明け方、百話目を話しおえた和泉屋がこつ然と姿を消し、参加者の一人が殺された。事件の手がかりは百物語の中に?
怖がりの甚十郎と、怪談と酒を愛する孤高の剣豪・左門が謎に挑む。


~感想~
待ってましたの第二作。怪談はうまさを増し、ミステリ技巧もさらに腕を上げた。
デビュー二作目にしてこの安定感はただごとではない。
怪談は謎と真相と密接にからみ合い、しかも手がかりとなる百物語を豊かな手管でいくつも語ってくれるサービスぶり。
時代小説とミステリの幸せな結婚は蜜月が続いている。


08.7.11
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『高く遠く空へ歌ううた』小路幸也

2008年07月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
港町に霧が出た夜には「赤眼の魔犬」が現れ、次の日には必ず人が死ぬ……?
高く広い空に囲まれた町で暮らす少年ギーガン。死体の第一発見者になってしまう特異体質の彼が、またまた見つけてしまった10人目の死体。
現場には、9人目だった父が自殺したときにも見かけた、不審な革ジャンの男の姿が……。


~感想~
ノスタルジックに壊れた世界。

デビュー作『空を見上げる古い歌を口ずさむ』の続編であり、もちろんあの壊れた世界が展開される。
のだが、前作と比べると内容は薄く、シリーズ番外編といった雰囲気が漂う。
もちろん郷愁をさそう物語は楽しくなつかしく、あたたかみにあふれ、並列してなんともいえない薄気味悪さも感じさせてくれる。
だが肝心の(?)ホラー味も弱く、ミステリ味はもはや言うまでもない。
さくさく読めるが中身も読後感も薄い、物足りない作品でした。


08.7.8
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『チーム・バチスタの栄光』海堂尊

2008年07月07日 | ミステリ感想
~あらすじ~
東城大学医学部付属病院の"チーム・バチスタ"は、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術専門の天才外科チーム。
ところが原因不明の術中死が連続で発生。高階病院長は万年講師で通称「愚痴外来」の田口医師に内部調査を依頼する。
医療ミスかそれとも殺人か。聞き取り調査の先に待つものとは。


~感想~
ベストセラーを量産し話題をさらっただけはある、新人離れした筆力で長文をぐいぐい読ませてくれる。
というか新人でこれだけ読ませる作家がかつて何人いただろうか?
とにかく人物が魅力的。静の田口に動の白鳥の探偵コンビはもちろんのこと、脇を固める面々もかたっぱしからキャラが立っている。
物語は専門用語のオンパレードだがまったく問題なく読み進められ、正直トリックとかわけわかんねーし密室とかどうでもいいが、そんなことは瑣末事になってしまうくらい面白い。
展開も考え抜かれており、前半は田口の静の調査で事件の状況と人間関係をまとめ、後半は白鳥の動の調査で一気に物語が動きだす。この展開の緩急もまた魅力だが、前半の地味な静の調査を、まったく飽かせることなく読ませてしまう手腕はやはり驚異。
ミステリではなく医療を題材にしたエンタテインメント小説ととらえるべきだろうが、とにかく楽しい小説。ベストセラーだからと甘く見るなかれ。


上巻 08.7.2
下巻 08.7.7
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『凍りのくじら』辻村深月

2008年07月03日 | ミステリ感想
~あらすじ~
藤子・F・不二雄をこよなく愛した、カメラマンの父が失踪してから5年。
残された病気の母と二人で静かな日々を送る理帆子の前に、「写真のモデルになってほしい」と現れた別所。
彼の優しさが孤独だった理帆子の心を少しずつ癒していくが、昔の恋人の存在によって事態は思わぬ方向へ進んでいき……。


~感想~
傑作。自分史上1位。

出だしが鍵。とにかく主人公・理帆子が痛くてむかつく。
理帆子は他人より多く本を読んでいるというだけで自分以外の全ての人間を馬鹿にしており、さらに自分は謙遜しても嫌味にならないくらいの美人で、そんな自分を受け入れてくれるのはみんなが自分が好きだからだと無条件に信じているのだ。
開始20ページで感情移入を完全拒否である。この時点で首を振って本棚に戻してしまう人も少なからずいるだろう。
さらに母の入院費や自分の生活費をすべて知り合いに負担してもらっているのだが、自分はバイトをするでもなく「お金と時間を天秤にかけたら私は時間をとる」などと得意げに発言したり(おまえ個室の入院費がどんだけ高いかわかってんのか)、見舞いでもらった花を「枯れてしまうからもったいない」と嫌がる母を「心が貧しい」とこけにしてしまう。
もう読み進めるほどに「そんなに現実にリアルを感じないなら舞城ワールドに叩き込んで嫌と言うほどリアルを感じさせたろか」とか「A先生だったらそろそろ喪黒福造が出てきて最終的にこいつ破滅するのに」とか「大パンチはどのボタンを押せば出るんですか?」とか創作上の人物なのに真剣に殺意を覚え、逆の意味で感情移入してしまう始末。
さらに昔の恋人が輪をかけて痛すぎるキャラで、精神科に処方された錠剤を噛み砕いてワル気取り(どうして精神科にかかってる人間は精神科にかかってることを自慢したがるのだろう)な「とんでもねえ俺様は神様だよ」キャラで、それを身の程知らずに痛がりながらも内心でかわいそごっこを楽しんでいる理帆子とあいまって、痛さと痛さの競演はもう、ページを閉じてあやうく押入れの奥にしまいたくなってしまうレベル。

それなのにそれなのに。終盤にいたってどうして感動するんですか。どうしてこんな予想もしていないところにトリックが仕掛けられているのですか。どうしてそのトリックがこんなにも涙を誘うのですか。
さらに中学時代に友人と「古今東西ドラえもんの秘密道具」を2時間やって引き分けたドラえもんフリークにとってはたまらない、あの秘密道具の使い方ときたらもう。
どうか序盤の痛さやむかつきにめげず、特にドラえもんファンには最後まで読み通してもらいたい。ミステリというよりも理帆子とF先生にならえば「すこし・不思議」な泣けて驚けて一生忘れられない物語です。


08.7.3
評価:★★★★★ 10
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