小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『あきらめのよい相談者』剣持鷹士

2007年04月28日 | ミステリ感想
~収録作品~
あきらめのよい相談者
規則正しいエレベーター
詳し過ぎる陳述書
あきらめの悪い相談者


~感想~
弁護士の日常の謎(?)を描く短編集。文章が丁寧すぎて非常にくどく、ぱらぱらめくってもらえば解るとおり、尋常ではなく文字数が多い。しかし語られているのがなじみのない世界の話のため、どうにか辟易せずに読み通せた。
技巧はともかく内容はというと、こちらもとにかく丁寧。丁寧すぎて張られた伏線がバレバレで、手がかりがそろったとたん探偵役とともに真相が解ってしまうこともしばしば。実際『詳し過ぎる陳述書』以外はあっさりと答えが解ってしまい、さっぱり驚けなかった。その分『詳し過ぎる~~』は最後まで楽しめたし、弁護士ミステリならば当然期待する『逆転裁判』のような展開も面白く印象が濃い。
いろいろ欠点をあげつらってみたが、目新しい題材と丁寧な造りは大きな長所。自身も現役の弁護士という異色の作者だけに次回作が楽しみである。


07.4.28
評価:★★☆ 5
コメント

ミステリ感想-『クラムボン殺し』中島望

2007年04月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
留守中に何者かに部屋を荒らされた七浦陽子は一人暮らしの二十代女性。
世間を震撼させる「眼球抜き連続殺人」の被害者も全て一人暮らしの二十代女性。
自分が次の標的なのだと感じた陽子は探偵の新島に捜査を依頼。だが彼女が勤める学園で「校歌見立て殺人」が新たに起きてしまう。


~感想~
メフィスト賞作家の10作目にして初のミステリ。
軽くネタバレするとミステリ部分とは全く関係ない化け物が出てくるのだが、この化け物がいなくても問題なく物語は成立してしまうのが困りどころ。(あるいは見せどころ)
ただの殺人鬼でもいいはずなのに、なぜか正真正銘の化け物なのがさらに素敵。この化け物が次々と一般人を殺戮するのとは全く無関係に進むトンデモ見立て殺人は、伏線もミスディレクションも見え見えで犯人はすぐに解ってしまう。裏で進行していたもう一つの展開も予測の範囲内。化け物が跳梁跋扈してはいるが、いたって普通のミステリではある。
トンデモな外見とはうらはらに驚きのない凡作――と少々厳しめに評価しておこう。


07.4.24
評価:★★ 4
コメント

ミステリ感想-『名探偵の掟』東野圭吾

2007年04月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
密室、時刻表、バラバラ死体に童謡殺人。本格ミステリを彩る12のベタな事件に挑む名探偵・天下一大五郎と大河原警部。
ベッタベタな物語に潜む本格ミステリの、そして名探偵の掟とは?


~感想~
本格ミステリの中核を成す12の要素を徹底的にベタに描き、笑い飛ばして見せたユーモア短編集。ながらその裏に隠された鋭利な批判ときつい毒には引いてしまうことも。
徹底的なこき下ろしに笑えるか、それとも冷めてしまうかは人によりけり。残念ながら僕は後者。
それにしても、これだけ自らハードルを上げておいて、それを長年にわたり飛び越え続ける作者は恐ろしい。


07.4.22
評価:★☆ 3
コメント

ミステリ感想-『動機』横山秀夫

2007年04月21日 | ミステリ感想
~収録作品~
動機
逆転の夏
ネタ元
密室の人

『動機』は日本推理作家協会賞短編賞


~感想~
某書評サイトがこき下ろしていたので敬遠していたのだがいやはやどうしてどうして。大傑作ではないか。
濃厚な人間ドラマに意外な本格魂を注ぎ込んだ、これはまさに(作者に失礼な表現でないことを祈るが)刑事小説の連城三紀彦。
ことに『逆転の夏』は物語の深さ、予想も付かない結末と年間ベスト級の大傑作。
どうして今まで読まなかったのか悔やまれる。もう信じねーぞ。


07.4.21
評価:★★★★☆ 9
コメント

ミステリ感想-『漱石先生の事件簿』柳広司

2007年04月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
『吾輩は猫である』にはこんな真実が隠されていた!
奇矯な先生と奇矯な来客たち、そして名無しの猫と書生の私が織りなす、七転八倒抱腹絶倒の大騒ぎ。


~感想~
大著『吾輩は猫である』に描かれるエピソードの裏に潜む、意外な真実(?)を白日の下にさらす(?)稚気にあふれた佳作。
先生を筆頭に変人奇人たちのやりとりだけでも楽しいのに、スラップスティックにさりげなく伏線を張りめぐらせ、思いもしない真相を隠しているのだから一粒で何度もおいしい。
にぎやかで脳天気な表層の裏に忍び寄る戦争の足音、陰謀に暗闘……。重低音のように響く裏の物語に驚かされる。
白眉は最終話の「春風影裏に猫が家出する」。重くなりかけた雰囲気を一掃する最高の幕切れを見せてくれる。予備知識なしでも楽しめる作品集だが、こればかりは『吾輩は猫である』を読んでいればなおさら輝くことうけあい。
中高生をターゲットとしたレーベルながら、特に大人を満足させてくれるのでは。


07.4.19
評価:★★★★ 8
コメント

ミステリ感想-『新宿鮫』大沢在昌

2007年04月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
新宿で警官が射殺される事件が多発。いったい誰が、なんのために?
その頃、新宿署の鮫島は、天才的な銃の密造人を追っていた。キャリアながら孤独な捜査を強いられ犯罪者から「新宿鮫」と畏怖される男の誇り、涙、愛、友情、そして罠。捜査の果てに鮫島がたどりついた真実とは。

日本推理作家協会賞、吉川英治文学新人賞、90年このミス1位。


~感想~
『水上のパッサカリア』の次に読むにはうってつけ。刑事小説ながらはるかにハードボイルドにあふれた秀作。
簡潔ながら要領を得た文体、息もつかせぬ展開、魅力的な人物造型と文句なし。小説とはこういうものでなくては!
鮫島を単なるはみ出し者ではなく、警察機構そのものを崩壊させうる爆弾を抱えた一匹狼、として描く設定からして既に勝利を収めている。真犯人はもちろん改造銃の形が解らないという謎もあわせ、ミステリとしても充分に成立。(さすがに現代から見るとあの改造銃はちょっと難ありだが)
これからシリーズを読み進めていくのが非常に楽しみである。


07.4.14
評価:★★★☆ 7
コメント

ミステリ感想-『騙し絵の館』倉阪鬼一郎

2007年04月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
過去におびえながら館の奥でひっそりと暮らす少女。
過剰なまでに彼女を守ろうとする執事。
自作の刊行をかたくなに拒むミステリ作家。
連続少女誘拐殺人事件が勃発するなか、彼らの抱えたひそやかな秘密が少しずつ明かされていく。


~感想~
ここにあるぞ。
秘密がここにあるぞ。


俳人の顔も持つ作者の力が遺憾なく発揮された詩情にあふれた作品。――のため、正直前半はなにを言っているのかすら理解できなかった。
それが結末にいたって明白な現実の情景へと転じ、はっきりとした姿を見せてくれる。どちらかというとそれは騙し絵というより、抽象画の絵解きをされたような気がするが。
しかし伏線・トリックは容易に見抜けるものと全く見抜けないものが混在し、まさに騙し絵さながら。作者はどこまでを見抜かれるよう計算し、どこまでを見抜かれないように企んだのか興味深い。
表層に現れている事件と、既に結末を迎えていた事件、そして隠されていた事件といくつもの謎と真相が層を成し混ざり合い、不思議な色を見せてくれる。驚くことこそなかったが心に残る佳作であった。
……分量といい読了に要す時間といいちょっと値段不相応だが。


07.4.9
評価:★★☆ 5
コメント

ミステリ感想-『水上のパッサカリア』海野碧

2007年04月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
過去から逃れるように、湖畔の屋敷で愛する女と暮らしていた男。だが女は死んだ。
女が育てた愛犬とともに静かに暮らす男の前に、昔の仲間が現れる。隠された真実。過去からの誘い。
愛した女の死がもたらしたのは、哀しみだけではなかった。
第10回日本ミステリー文学大賞新人賞。


~感想~
大駄作。56歳の若書き。
選評より抜粋しよう。

田中芳樹――文章力、描写力、人物造型力等において、他の候補作を圧倒していた。
高橋克彦――間違いなく書ける力を持った人。


どこが?
とにかく文章がくどい。普通の文章は「●●は●●しようと思ったが●●と考え●●しなかった」と書く場合、実際に起こした行動だけを追い「●●は●●した」にまとめるものだ。しかしこの作者はそれら全てを執拗なまでに描いてしまう。それも(  )付けや反語、余計な付け足しを存分にまぶして描くものだから、読んでいるだけで疲れてしまう。
人物の行動だけではない。この作者はそこにあるものを全て描かなければ気が済まないらしく、たとえば部屋を描くとなると、いっそ偏執的なまでにそこに置いてある物を全て挙げていくほどの勢いだ。
物語の動かし方も実に稚拙で、後半に主人公がある家に侵入したときのこと。まず侵入する家の情景を事細かに描写し、侵入したら内部の構造を、誰かを見たら人物描写を、いざ人物に接触したら入った部屋の様子をと、緊迫感も糞もない。接触したらしたで、やっと話が進むかと思いきや数日前の準備段階を執拗に描き、物語は遅々として進まない。全体の8割くらいまで進んでも「並の小説ならここまででプロローグ部分じゃないか?」と思ってしまった。
結末も「いちおうミステリー文学賞だからとりあえず付けてみました」レベルのどんでん返しと、21世紀にもなってこんな着地かよ的な古色蒼然たる決着がすばらしい。もうなにも言えません。
人物もまるで魅力的ではない。湖の向こう岸から狙撃されることすら計算に入れた日常生活は、男の殺伐とした過去よりも、ちょうちょの羽ばたきを軍用ヘリのプロペラ音と聞き間違えるボルボ西郷を思いだすぞ。

有栖川有栖――読み始めてすぐに、これが受賞するだろう、という手応えを感じた。

どこが?
なにが退屈って序盤がとにかく退屈なのだ。死んだ妻との思い出を延々と100ページに渡って描くのだが、それが伏線でもなんでもなく本当に死んだ妻との思い出を語っているだけだからたまらない。後半になって伏線として利いてくるわけでも、男の魅力を深めるわけでもないのだ。
56歳主婦の感性なのかもしれないが、僕は妻を亡くして売春婦を買う男にハードボイルドは感じないのだが。
有栖川有栖は12歳の新人の作品を「若いから」という理由で推薦した大森望とともに、いま最も信用できない推薦者になった。

要するに、こんな素人の習作程度の作品などネットで公開していればいいのだ。こんなものに賞を与えたり、作品として流通させてしまうことはもはや犯罪的である。なんでこんなのでデビューできるのかなぁ。

ふと思いつき「日本ミステリー文学大賞新人賞」歴代受賞作を調べてみた。

第1回 井谷昌喜『F』
第2回 大石直紀『パレスチナから来た少女』
第3回 高野裕美子『サイレント・ナイト』
第4回 該当作なし
第5回 岡田秀文『太閤暗殺』
第6回 三上洸『アリスの夜』
第7回 該当作なし
第8回 新井政彦『ユグノーの呪い』
第9回 該当作なし

……一人も知らねえ_| ̄|○


「や~めた」 ※本文より抜粋


07.4.8
評価:問題外
コメント (2)

ミステリ感想-『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』深水黎一郎

2007年04月07日 | ミステリ感想
~あらすじ~
新聞連載作家の私のもとに届いた一通の手紙。そこに記されていたのは、ミステリー界最後の不可能トリック「読者=犯人」の買い取りを望む取引だった。
第36回メフィスト賞。


~感想~
島田荘司推薦の時点で危ないことは解っていた。氏は将来性を見越して推薦するため、デビュー作はいまひとつの出来であることが多いのだ。そこにきて「読者=犯人」トリックである。読む前から地雷臭がぷんぷんするではないか。
で、結論はというと、肝心のトリックは(このトリックでは当然ながら)納得のいくものではなく、脱力ものの仕掛けである。たしかに「読者=犯人」は成立している。前例もない。しかし……。
トリックは実際に読んでもらうとして、では文章はどうかというと、描写といい伏線の張り方といい実にそつない。こなれた文体でもったいぶることなく書き流してくれたのも好感。一見トリックとなんらつながりのありそうもない、手紙の主の詩情にあふれた昔語り、作家の日常、超能力らが終盤に溶け合い、終わってみれば隅から隅まで無駄のない構成であった。
こういう一発ネタに頼らずとも、普通に良くできたミステリをものせるだろう力を感じさせてくれ、2作目ではなにをやってくれるのか今から楽しみである。


07.4.7
評価:★★☆ 5
コメント

ミステリ感想-『白菊』藤岡真

2007年04月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
画商兼霊能者の相良蒼司のもとに持ち込まれたのは『白菊』という謎めいた絵のオリジナルの捜索だった。
世紀の大発見につながる可能性を秘めた絵の来歴を探るうち、相良は何者かに命を狙われ、依頼人は失踪してしまう。
記憶喪失の女、骨董マニア、超能力バラエティまで絡み、事態は誰も予測しない方向へ転がっていく。


~感想~
バカミスの伝道師が放ったのは、存外まともなミステリ。しかしもちろん一筋縄ではいかない。
鍵となる短歌「心あてに折らばや折らん初霜のおきまどわせる白菊の花」そのままに、事態は初霜にまぎれ、いまなにが進行しているのかつかめない。だが真相が明かされるや「白菊」は歴然と眼前に現れる。その構成が巧い。
物語の展開は、記憶喪失という材料がからんだら、こういう方向に向かうかなという範疇ではあるが、きっちりと意外な犯人を用意し、全てが終わったと思ったところでとんでもない仕掛けをくり出すのが、この作者の真骨頂。
褒め言葉として、へんてこなミステリに仕上がった。


07.4.2
評価:★★☆ 5
コメント