~あらすじ~
「N」と出会う時、悲劇は起こる。
大学一年生の秋、杉下希美は運命的な出会いをする。台風による床上浸水がきっかけで、同じアパートの安藤望・西崎真人と親しくなったのだ。
努力家の安藤と、小説家志望の西崎。それぞれにトラウマと屈折があり、夢を抱く三人は、やがてある計画に手を染めた。すべては「N」のために――。
~感想~
作品を出すごとにミステリから離れていく気がするが、それはおそらく気のせいではない。
冒頭の展開が非常に魅力的で、まったく不明な点がなく語られる事件に、いったいどんな裏があったのかと一息に引き込まれる。
が、その後はほどほどに意外な事実を要所要所で明かしていくだけで、裏の真相は物語の全てをひっくり返すためではなく、物語を最後まで牽引するために用意されているという印象。
とはいえあいかわらず驚異的なリーダビリティで、単に4回同じ話をくり返しているだけのお話を飽きずに読ませてしまうのはすごいところ。
こういった様々な視点から同じ話を語り直す形式では、読者はしばしばくどく感じたり、委細承知の話を何度も見させられるといらつくものだが、この作者は飛ばすべきところと流すべき描写をよく心得ていて、よく考えると人格破綻者たちがうだうだ自分のことを語るだけという構成は、京極夏彦『数えずの井戸』と同じなのだが、全くだれるところがないのもさすがである。
しかし平均点は超えているが合格点には届かないといった感じで、ミステリにも文学にも針がふれず、どっちつかずの作品になってしまったのもたしか。驚異のデビュー作『告白』以来のヒットがそろそろ欲しい。
10.4.23
評価:★★☆ 5
「N」と出会う時、悲劇は起こる。
大学一年生の秋、杉下希美は運命的な出会いをする。台風による床上浸水がきっかけで、同じアパートの安藤望・西崎真人と親しくなったのだ。
努力家の安藤と、小説家志望の西崎。それぞれにトラウマと屈折があり、夢を抱く三人は、やがてある計画に手を染めた。すべては「N」のために――。
~感想~
作品を出すごとにミステリから離れていく気がするが、それはおそらく気のせいではない。
冒頭の展開が非常に魅力的で、まったく不明な点がなく語られる事件に、いったいどんな裏があったのかと一息に引き込まれる。
が、その後はほどほどに意外な事実を要所要所で明かしていくだけで、裏の真相は物語の全てをひっくり返すためではなく、物語を最後まで牽引するために用意されているという印象。
とはいえあいかわらず驚異的なリーダビリティで、単に4回同じ話をくり返しているだけのお話を飽きずに読ませてしまうのはすごいところ。
こういった様々な視点から同じ話を語り直す形式では、読者はしばしばくどく感じたり、委細承知の話を何度も見させられるといらつくものだが、この作者は飛ばすべきところと流すべき描写をよく心得ていて、よく考えると人格破綻者たちがうだうだ自分のことを語るだけという構成は、京極夏彦『数えずの井戸』と同じなのだが、全くだれるところがないのもさすがである。
しかし平均点は超えているが合格点には届かないといった感じで、ミステリにも文学にも針がふれず、どっちつかずの作品になってしまったのもたしか。驚異のデビュー作『告白』以来のヒットがそろそろ欲しい。
10.4.23
評価:★★☆ 5