小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『百蛇堂』三津田信三

2011年10月23日 | ミステリ感想
~あらすじ~
この世には、絶対人目に触れてはいけないものがある……。
作家・三津田信三に託された実話怪談の原稿。読んだ者の前に忌わしいものが現れて……。不可能状況で頻発する児童連続失踪事件と「あの原稿は世に出してはいけない」という龍巳の言葉は何を意味するのか?
葬り去られるべきものが世に出たことで謎と怪異が続発し……。


~感想~
前作『蛇棺葬』をバックボーン、あるいは事件編としてものされた、いわば解決編・完結編である。
まるまる一冊を下敷きにしただけはあり、内容は重厚かつ濃密。やりすぎ感すら漂うメタ形式で、前作を取り込み現実に侵食する、異形のホラーとなっている。
その一方でミステリらしい意匠や仕掛けも数多く、特に前作・今作と2冊の全編にわたって仕掛けられていたトリックが終盤に明かされるや、優れたホラー・ミステリとしての面も見せてくれる。
『厭魅の如き憑くもの』を筆頭に傑作を連発している刀城言耶シリーズのファンならば、開花へと続く、才能の芽吹きを感じることだろう。
ただ、やはりまるまる1冊を、それも何の注釈も無しに事件編としたのはさすがにやりすぎだったろう。重厚に描きすぎて退屈一歩手前の、事件編(前作)だけで読むのをやめてしまった向きも少なからずあるはずだ。
だがそういった反省(?)や試行錯誤の末に、刀城言耶シリーズが生まれたと想像すれば、それも興味深い。
いずれにしろ早いこと前作ともども文庫化して、多くのファンに読んで欲しいものである。いっそ上・下巻にしたらどうだろうか?


11.10.21
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『泡坂妻夫の怖い話』泡坂妻夫

2011年10月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
職人・泡坂妻夫によるショートショート集。全31編。


~感想~
「怖い話」はほとんどないため「世にも奇妙な物語」と読み替えるべし。
さすがの職人芸で10枚足らずの小品に、逆転やトリックを仕込むのは見事な手際で、ほぼハズレなしではあるのだが、泡坂妻夫の傑作を両手両足の指に余るほど知っているこちらとしては、どうしても物足りない。
泡坂妻夫はやはり短編がおすすめである。


11.10.15
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『ボトルネック』米澤穂信

2011年10月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。
ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいた。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。
ぼくが目覚めたこの世界では、ぼくは生まれず、流産だったはずの姉が生まれていた。


~感想~
これは痛い。実に痛い。
世間では「青春感動小説」としてもてはやされているらしいが、青春はともかくとして感動する場面はどこにあるのだろうか。
それはともかくSF絡みの非常に僕好みの一作で、なんでも作者は学生時代に構想を得たものの、まだ満足に描き切る力量がないと悟り、充分な経験を積んでから形にしたのだという。
長年あたためていただけはあり、決して長くない文量に無駄なく伏線や心情がちりばめられ、一息に読み終えることができる。

歴史好きなら誰しも「もしこの時代に●●が生まれていなかったら」どうなっていたか想像したことはあるだろう。
この作品で●●に当てはまるのは「自分」であり、しかも代わりに生まれていたのは「自分よりも上位互換の能力を持つ姉」なのだ。
これはもう恐ろしい結果にしかならないことは言うまでもない。
読者と語り手を突き放す結末こそ好みではないが、それでもなお米澤穂信の代表作のひとつに数え上げられるだろう。
多くの代表作を持つ、あの米澤穂信のである。まずはお試しあれ。


11.10.7
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『蛇棺葬』三津田信三

2011年10月04日 | ミステリ感想
~あらすじ~
幼いころ父に連れて行かれた百巳家。そこに無気味な空気を漂わせる“百蛇堂”がある。
私はそこで見たのだ。ずるっ…ずるっ…と暗闇を這うそれを…。
やがて旧家に伝わる葬送百儀礼の最中に、密室状態の堂内から忽然と人が消え……。


~感想~
三津田信三が『厭魅の如き憑くもの』でのブレイク前に出したホラー長編の一つ。
人気作家が大きく飛翔する前の助走といった位置づけで、三津田作品らしくホラーとミステリが融合しており、一部の事件は現実的な解釈がなされる。
だがその融合ぶりがうまいとは言い切れず、ホラーにもミステリにも針のふれない、どっちつかずの印象を受けてしまう。
中盤にかけての丹念にものされた、というか「遅々として進まない」と表現したほうが的確な描写・展開と比べ、終盤は逆に連載打ち切りにでもされたような急ぎ足で語られてしまい、それでいて多くの伏線は、ホラーらしく結末がつかないと言うには、あまりに無造作に投げっぱなしにされ、広げた風呂敷を畳めていない。
作中に出てくる百蛇堂の名を冠した続編(?)があるので、ひょっとすると残った伏線はそちらで使われるのかもしれないが、これを単体で評価するならば、厳しいところ。
とりあえず『百蛇堂』をつづけて読んでみようと思う。


11.10.4
評価:★ 2
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