小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『天童駒殺人事件』中町信

2006年04月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
推理作家・氏家の妻は、カラオケ教室の親睦旅行で、山形県の天童温泉に出かける。
そこで、同じ教室の女性が殺されてしまう。警察の捜査が行き詰まる中、四十九日忌の法要に、氏家を含めた一行は再び天童へ向かう。そして起こったのは第二の殺人。殺害現場に残された競馬新聞の切れ端は、いったいなにを意味するのか?


~感想~
トラベルミステリさながらの構成だが、真相は二転三転し、最後には思いもかけない犯人が浮かび上がる様は、立派に本格ミステリしている。
ダイイングメッセージはまるでパロディのように、容疑者すべてに当てはまってしまい、真の意味が明らかになってもやはり釈然としない。とはいえ単純なトリックでこれだけ意外な犯人を描く手腕は一級品である。
(↓ネタバレ↓)
ところで巨人勝利のハガキの謎は、サヨナラホームランという劇的な結末にもかかわらず、投手のふんばりにしか触れていない点から、僕は不審を覚えたのだが、作中で誰も指摘しなかったので拍子抜けした。


06.4.27
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『奥只見温泉郷殺人事件』中町信

2006年04月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
妻子をつれて泊まった大湯ホテルで、私は十年ぶりに弟の妻だった千明多美子に出会う。
翌々日のこと、ホテルのスキーバスが川に転落し、死傷者7人が出たが、その中で多美子だけは絞殺されていた。
容疑をかけられた私は、自分の手で犯人を捜すべく捜査を開始するが、行く先々で相手が殺され、容疑はますます濃くなっていき……。


~感想~
これは掘り出し物。話の流れはややもすると2時間ドラマさながらだが、終わってみればまぎれもない本格ミステリ。
意外な犯人、意外な伏線、意外な動機と大盤振る舞い。
ドラマじゃないのだからそんなに派手にしなくてもと思うほど、主人公の行く先々でバタバタと容疑者が殺されていくのは、いっそ喜劇的ですらある。
「罠がある。トリックがある」と眉にツバつけて読んでいけば、真相を見抜くのはさほど骨ではない。だがその処理の巧みさは実にすばらしい。本格魂はここにもあった。

「模倣の殺意」「天啓の殺意」の再刊行で注目される、知られざる強豪・中町信。古本屋で氏の作品を何冊か仕入れられたので、ちょっと重点的に読んでいきたいと思う。


06.4.26
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『昆虫探偵』鳥飼否宇

2006年04月25日 | ミステリ感想
~収録作品~
蝶々殺蛾事件
哲学虫の密室
昼のセミ
吸血の池
生けるアカハネの死
ジョロウグモの拘
ハチの悲劇


~感想~
昆虫の世界の昆虫の事件を昆虫の論理で昆虫が解く昆虫づくしの異色ミステリ。
各編は有名ミステリのパロディという側面も持ち、ことに『吸血の池』は原作を知っていると、真相になおさらニヤリとさせられる。
登場人物(虫)は数も種類も膨大で、名前も非常に覚えにくいが、それぞれの特徴を的確に捉えており、把握は難しくない。正統派ミステリの仕掛けを昆虫の生態にからめて描かれるため、トリックは単純ながら、一般層にはなじみの薄い、昆虫の生態を知ることもでき、一粒で二度おいしい小品である。
普通のミステリとくらべてなにより際だっているのが、その動機の特異さ。なにせ昆虫の世界。怨恨やら金銭やら恋愛のもつれなどというものはない。生きるか死ぬか、食うか食われるか、子孫を残せるか滅びるか、まさに弱肉強食の世界。昆虫ならではの動機は殺伐としてもおかしくないが、描写はあくまでも軽快。ダジャレめいた名前や、前頭部(あたま)、前脚(て)などの当て字が物語をやわらかくしてくれる。
文庫版には昆虫ならではの論理が冴える「ジョロウグモの拘」を書き下ろし。昆虫マニアは必読?


06.4.25
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『模倣の殺意』中町信

2006年04月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
七月七日の午後七時、坂井正夫は青酸カリによる服毒死を遂げた。
恋人の中田秋子は、彼の部屋で偶然行きあわせた謎の女の存在が気になり、独自に調査を始める。
一方、ルポライターの津久見伸助は、同人誌仲間だった坂井の死を記事にするよう依頼され、調べを進めるうちに、坂井の死に疑問を抱く。


~感想~
叙述トリック一本勝負!
話題をさらった『天啓の殺意』よりも破壊力は上。入り組んだ構造の『天啓の殺意』に対し、こちらは叙述トリック好きにはおなじみのアレで、単純明快に騙してくれる。おなじみといってもそこは叙述の名手。この罠に気づくのは容易ではない。
一読呆然、トリックが明かされた瞬間には「ああ~~これかあ」と嘆声一つ。
一気に読んで一気に騙されるべし。


06.4.22
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『本格ミステリ05』

2006年04月19日 | ミステリ感想
~収録作品~
大きな森の小さな密室――小林泰三
黄昏時に鬼たちは――山口雅也
騒がしい密室――竹本健治
覆面――伯方雪日
雲の南――柳広司
二つの鍵――三雲岳斗
光る棺の中の白骨――柄刀一
敬虔過ぎた狂信者――鳥飼否宇
木乃伊の恋――高橋葉介


~感想~
04年に発表された短編のベストセレクション。
巻を重ねるごとに安定感を増……さず、あいかわらずの迷走っぷり。ついに作品数は過去最低、取り上げられた作家も何度目かの登場(それも同じシリーズ)だったりと、どういった方向に向かいたいのか、いまいち意図が解らない。
それはともかく、作品自体はなかなか粒ぞろい。MVPは細かいロジックを張りめぐらせた三雲岳斗。
どの作品も解説がおおいにネタバレしているので、読むなら読了後にすべし。


06.4.19
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『ぼくのメジャースプーン』辻村深月

2006年04月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
小学四年生のぼくは不思議な力を持っている。忌まわしいあの事件が起きたのは、いまから三ヵ月前。小学校で飼っていたうさぎが惨殺されたのだ。ぼくの幼なじみ・ふみちゃんはそれ以来、ショックのあまりに全ての感情を封じ込めたまま、登校拒否を続けている。ぼくは、自分と同じ力を持つ先生のもとへ通い、うさぎ殺しの犯人に与える罰の重さを計りだす。


~感想~
ほぼ純文学。ミステリらしい大仕掛けや逆転のトリックはない。しかしそれでも若手随一の筆力を誇る氏のこと、最後まで一息に読ませてくれる。
物語の筋はいたって平易。ぼくが犯人に与える罰は、はたしてどうなるのか。それだけに焦点が絞られ、丹念にゆっくりと日常を描きつつ、対決の刻へと進んでいく。
かつての西澤保彦を思わせるSF的な力は、それ自体が物語の根幹をなすのではなく、主役と主眼はあくまでも、“ぼく”の成長と“ぼく”の選択である。その選択は読者にとって必ずしも納得のいくものではないだろうが、物語としては(そこしかない! と唸る完璧な着地ではなかったが)堅実な選択だったと思える。
ただ、最後のオチとでも言うべきトリック(というほどご大層なものではないが)は、すれっからしのミステリマニアには一目瞭然で、「仕掛けは見破った!」と息巻くよりも「気づかなきゃよかった…」と落胆してしまう。
傑作ではないが、長く心に残るだろう佳作であった。中高生が読むには特にいいのでは。

まったくの蛇足だが、作者は僕より若いのに、ネット掲示板の描写が一昔前のイメージなのはどうしたことかと、ネット中毒者としては遺憾に思う。


06.4.15
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー』

2006年04月11日 | ミステリ感想
~感想~
新本格派ナンバーワンの論客・法月綸太郎が日米英の傑作を編んだアンソロジー。
北村薫・有栖川有栖につづく第三弾。ごった煮のように様々な作品を集めた北村、本格物にこだわった有栖川、そして法月はいかにも氏らしい作品を集めてみせた。
正直言って、シリーズ中で最も肌に合わなかった。例えるなら、頭のいい人が小難しい哲学書を読んで爆笑しているような。単純に面白いと思えるものが少ない。また、ごく個人的な問題だが、欧米作品の翻訳文が僕の大嫌いな文体で――1:文意がなにを言っているのかすらつかみづらい 2:(  )付けで状況を説明する 3:専門用語のオンパレード――読み通すことからして辛かった。
いちいち感想を述べてみると、


『ミスター・ビッグ』――ウディ・アレン
これを笑って読む人とはあまり友達になりたくない。

『はかりごと』――小泉八雲
これ知ってる。

『動機』――ロナルド・A・ノックス
一番嫌いな部類の翻訳文。

『消えた美人スター』――C・デイリー・キング
トリックに唸る以前に現状が解りづらい。

『密室』――ジョン・スラデック
いまだにオチが解りません。

『白い殉教者』――西村京太郎
同人ミステリの域を出まい。

『ニック・ザ・ナイフ』――エラリー・クイーン
一番良かったかも。

『誰がベイカーを殺したのか?』――エドマンド・クリスピン
これも文意をつかむのに一苦労。

『ひとりじゃ死ねない』――中西智明
事前にああだこうだ言うからあっさりトリックが解ってしまった。

『脱出経路』――レジナルド・ヒル
これは面白かった。ミステリじゃないけど。

『偽善者の経歴』――大平健
これも良かった。ミステリじゃないけど。

『死とコンパス』――ホルヘ・ルイス・ボルヘス
なにがなんだか解らない。

アホ丸出しの感想になったが、いかにも評論家が「これぞミステリ!」とオススメしそうな代物ばかりで、辟易してしまったのが正直なところ。とにかく娯楽性に乏しかった。
全く関係ないが「アルファがベータをカッパらったらイプシロンした。なぜでしょう?」というクイズに爆笑するドラえもんを連想しました。


06.4.11
評価:★ 2
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ミステリ感想-『扉は閉ざされたまま』石持浅海

2006年04月07日 | ミステリ感想
~あらすじ~
洋館を改築したペンションでひさびさに開かれた同窓会。
そこで男は密室殺人を計画する。旧友を殺し、閉ざされた扉をめぐり犯人と探偵の、静かな戦いが幕を上げる。


~感想~
あらすじだけ見れば珍しくもないが、このミステリの異色なところは、終始、閉ざされた扉を前に議論が交わされるだけで物語が進んでいく点にある。
倒叙形式(刑事コロンボや古畑任三郎のように、冒頭で犯行の手段が描かれ、読者には犯人が誰なのか明白ななか、主に犯人の視点で物語が進み、犯した小さなミスから犯行が露見していく形式)ながら、読者に推理の材料を与えるわけではなく、議論を自然に誤りへと導く犯人と、謎を解こうとする探偵との静かな戦いを味わわせてくれる。
思い起こさせるのは『毒入りチョコレート事件』よりも『麦酒の家の冒険』だが、今作では探偵役はあくまでも一人であり、脇役たちも推理を述べるがそれはあくまでも狂言回しであり、焦点は常に犯人と探偵だけに絞られている。
期待どおりに探偵は安楽椅子探偵さながらに、推理だけで全ての真相に達してくれるが――それだけで終わらないラストや、純粋論理だけで構成されたプロットは、実はあまり僕の好みではない。
野球に例えるならヒットを積み重ねたような今作よりも、派手なトリック一発で逆転ホームランに心ひかれてしまい、今作が年間ベスト級の傑作という評判を聞くと、どうにも首をかしげてしまう。ラストもなんだかなぁ。
いろいろ言ってみたが、これは整いすぎるほどに整った論理の結晶体。僕のたわごとなど気にせず、ぜひお試しあれ。


06.4.6
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『戻り川心中』連城三紀彦

2006年04月05日 | ミステリ感想
~収録作品~
藤の香
桔梗の宿
桐の棺
白蓮の寺
戻り川心中


~感想~
『戻り川心中』は傑作である。とは方々で聞いていたが、それは一片の誇張も交えない真実であった。
とにかく美文である。作家志望としてはヨダレが出るような比喩や描写の巧さ。あまりに美文すぎて時々なにを描いているのか解らないこともあるが、とにかくすごい。
そしてなによりミステリとしても超一流なのが本書の特色である。全5編にわたり、真相やトリックが明かされたとき、口をあんぐりと開けて呆然としたくなる瞬間が必ず訪れるだろう。

『藤の香』少ない登場人物。限定された舞台。トリックもプロットも目新しいことができなそうな状況で、しかし意外な真相を放ってくれる。反転をつづける物語に圧倒されること請け合い。

『桔梗の宿』真相にあ然。2006年の今ではこの種のトリックもあるにはあるが、本書の発表は1981年。前例が全くない。

『桐の柩』これも幻想が現実へと姿を変えるような、あまりにも明白な動機に唸る。

『白蓮の寺』幼少時のおぼろげな記憶が思いもかけない方向へ飛んでしまう。ちょっと「記憶多っ!」とも思うが、全ての記憶が指し示すたった一つの真相には愕然とする。

『戻り川心中』表題作にしてダントツの大技。あまりにすごすぎて若干「引いてしまった」のも事実。日本推理作家協会賞の短編部門を受賞。この頃はこの賞もちゃんとしてたんだなぁ。

以上、トリックにだけ言及してみたが、氏の真骨頂は物語を描く才にある。
「花」と「恋愛」をテーマに、縦横無尽の筆致で描かれた世界は、思い返したとき映像として脳裏に再生される。「抒情的な」とか、「瀟洒な」とか、「清冽たる」とか、「馥郁たる」という普段使わないような表現のよく似合う作品である。
ミステリを純文学よりも下に見る輩も多いが、ぜひこれを読んでもらいたい。こういう傑作にめぐり会うと僕のようなミステリ狂は「純文学なんてオチもトリックも真相もない泡坂妻夫や京極夏彦じゃないか」と言いたくなる。
これからは泡坂・京極に加えて連城の名も用いていくこととしたい。
僕が読んだのは1981年発行の刊だが、先ごろ光文社文庫でも再刊されたので、本好きは迷わず手にとって欲しい。


06.4.5
評価:★★★★★ 10
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ミステリ感想-『いつもの朝に』今邑彩

2006年04月01日 | ミステリ感想
~あらすじ~
スポーツ万能・成績優秀・容姿端麗と非の打ち所のない兄と、なにをやらせてもダメな弟。
どこにでもいる兄弟だったはずが、ぬいぐるみの中から発見された謎めいた手紙が、二人の運命の歯車を大きく狂わせていく。


~感想~
純文学作品と言ってさしつかえあるまい。
※プロットに関して大きくネタバレしていますのでご注意ください。

浮世離れした画家の母親と、なにもかも正反対だが仲の良い兄弟。平凡な家庭が一通の手紙から、大きく揺らいでいく序盤~中盤にかけての展開は読ませる。しかし、隠された真相は中盤で全て出そろってしまい、後半は解かれるべき謎すらも無くなってしまい、起伏に乏しい。
物語は「隠された真相をあばく」のではなく「明かされた真相にどう折り合いを付けるか」に筆を費やされるので、あっと驚きヒザを打たせるトリックや、目を疑うどんでん返しといったものは存在しない。肝心の物語も言ってしまえばありがちな筋で、結末も予想の範疇を出ず食い足りない。全ての真相を知る母親が物語に関わるのが終盤で、それまでに明かされた真相の"答え合わせ"をするだけに過ぎず、新たな展開を見せることがないのも悲しい。
丁寧な筆致で飽かせず最後まで読ませてくれるが、本格ミステリ書きとしての今邑彩の実力を知っているだけに、逆転もトリックもない物語にどうしても物足りなさを感じてしまうのも確かである。
画廊で始まり画廊で終わる、発端と結末が見事に物語を引き締めたのは大きな救いか。


06.4.1
評価:★★☆ 5
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