小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『遠海事件』詠坂雄二

2008年10月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
佐藤誠。八十六件の殺人を自供した殺人鬼。その犯罪は、いつも完璧に計画的で、死体を含めた証拠隠滅も徹底していた。ただひとつの、例外を除いては。有能な書店員だった彼は、なぜ遺体の首を切断するに至ったのか。


~感想~
『リロ・グラ・シスタ』で厨二病ミステリを世に問うた作者が描く、ノンフィクション風の異色作。
変わった趣向というだけではなくそれがトリック、それも最後の一撃に効果的に働いている。
ネタバレにならない程度に言うと、「疑問に思って当然のこと」をうまいこと疑問に思わせず隠し通して、最後の最後に明かすことで、一級のサプライズを演出しているのだ。
それだけではなく、作中で追われる首切りの謎もなかなかに見事なもの。佐藤誠という人物の存在感、読み返したときにニヤリとさせられる、そういう意味を持っていたのかという冒頭のシーンなどなど、見所は多い。
賞レースではほとんど話題にならなかったが、08年を代表する隠れた秀作である。


08.10.30
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『聖女の救済』東野圭吾

2008年10月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
夫が自宅で毒殺されたとき、離婚を切り出されていた妻には鉄壁のアリバイがあった。
草薙刑事は美貌の妻に魅かれ、毒物混入方法は不明のまま。湯川が推理した真相は虚数解。
理論的には考えられても、現実的にはありえない。
「おそらく君たちは負ける。僕も勝てない。これは完全犯罪だ」


~感想~
これはすごい。
なんせ上記の帯のあおり文句に一片の偽りもない。
こういった大げさなあおりは見飽きているが、それがあおりどおりのものだった例はめったにない。
なんの誇張もなく虚数解にして完全犯罪の真相が明かされたとたん目が点になった。これはすごい。この手があったか。
「容疑者Xの献身」の大ヒット以来、どうにも迷走をつづけている作者が放った逆転の一手。
献身と救済、どちらが上かは字面からも明らか。失礼な話、東野圭吾の傑作を初めて読んだ。


08.10.27
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『さよなら妖精』米澤穂信

2008年10月23日 | ミステリ感想
~あらすじ~
1991年4月。雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。
ユーゴスラヴィアからやって来た少女、マーヤ。「哲学的な意味はありますか?」彼女と過ごす、謎に満ちた日常。
そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる。謎を解く鍵は記憶のなかに……?


~感想~
ボーイミーツガールの傑作。
小市民ミステリシリーズで一世を風靡した作者の出世作、にしてはミステリ味に乏しいがそんなことは問題にならない。
舞台が約20年前、そしてユーゴのその後を知っているだけに、明るくみずみずしく描かれているはずの日常に、そこはかとなく感傷と悲劇のにおいがたちこめる。
どこにでもいる少女のようでいて、なにげない平和な日本の日常に溶け込めないマーヤ。それは彼女の日々に戦争の影が落ちていたことをうかがわせる。
語り手の守屋もまた、普通の少年でありながら、普通の日常に溶け込めずにいる自分を自覚していて――などと内容に触れてはもったいない。
興味があればぜひ読んでもらいたい。特に中高生には激しくおすすめ。人生観が変わりかねない一冊となることだろう。
ただ惜しむらくは――ミステリじゃなくてよかったんじゃない?


08.10.23
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『PLAY』山口雅也

2008年10月17日 | ミステリ感想
~収録作品~
ぬいのファミリー
蛇と梯子
黄昏時に鬼たちは
ゲームの終わり/始まり


~感想~
山口雅也による世にも奇妙な物語といったところ。
冒頭の「ぬいのファミリー」からしてなんらひねりのない作品で、がっかりしたところでつづく「蛇と梯子」も映画「ジュマンジ」を思わせる新味のない小品。
本格ミステリとして出色の「黄昏時に鬼たちは」はアンソロジーで読了済み、ラストの「ゲームの終わり/始まり」もこれまた「世にきも」テイストの話にありきたりの結末をつけただけ。
15分ドラマならともかく、あの山口雅也の短編でこれでは……。


08.10.17
評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『聖フランシスコ・ザビエルの首』柳広司

2008年10月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
フランシスコ・ザビエルの遺骸は、死後も腐敗することがなかったという。
だが鹿児島で新しく「ザビエルの首」が見つかり、それを取材した修平は、ミイラと視線を交わした瞬間、過去に飛ばされ、ザビエルが遭遇した殺人事件の解決を託されることに……。


~感想~
歴史上の偉人の業績と本格ミステリを強引かつ緻密に組み上げる作者だが、今回ばかりはその豪腕がふるわれず。
ザビエルを探偵でも狂言回しでもワトソンでもない単なる背景にしてしまったのが最大の弱点。せっかくの題材がただの小粒な短編の雰囲気作りにしか貢献していない。
また、ザビエルの身近な人物に乗り移るという設定もいまいち生かされず、終章にてすべての短編がつながり裏の真相も明かされるが、取ってつけたような、とは言いすぎだかどうにも食い足りないもの。
作者のこれまでの作品群と比較してあまりにも格が落ちる。なんとももったいない。


08.10.14
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『十三の呪』三津田信三

2008年10月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
幼少の頃から、人間に取り憑いた死の影が視える弦矢俊一郎。
その能力を売りにして構えた探偵事務所に、最初の依頼人がやってきた。
IT系の青年社長に見初められるも、式の直前に婚約者が急死したという女性。彼の実家では、次々と怪異も起きているという。
神妙な面持ちで語る彼女に、俊一郎は不気味なにかが蠢くのを視ていた……。


~感想~
刀城言耶シリーズで本格ミステリに新たな地平を切り拓きつづける俊英が、肩の力を抜いて(?)ものした作品。
敷居の高い刀城言耶シリーズとは逆に、平易な文体で語られるので初心者にはもってこい。
ホラーのわりに怖さはないがバカミスさながらのトリックが仕掛けられ、ミステリファンもそれなりに納得。
万人にアピールできるだろう新シリーズで、俊一郎のキャラもなかなか面白い。作者も読者も息抜きをかねて長くつづけてほしいものだ。


08.10.11
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『パズラー』西澤保彦

2008年10月09日 | ミステリ感想
~収録作品~
蓮華の花
卵が割れた後で
時計じかけの小鳥
贋作「退職刑事」
チープ・トリック
アリバイ・ジ・アンビバレンス


~感想~
石持浅海の倫理観とキャラ造型も相当におかしいが、やはり西澤保彦はすごいと再確認。
登場人物が下手に論理的な思考を装っているだけに、その歪んだ倫理観からつむがれる異常論理や、型にはめて押し込んで判を押して説明書を添付して出荷したように極端な人物像は実にきもちわるい。しかもそれが本筋とは特にからまずに執拗に描かれるものだからたまらない。石持キャラには嫌悪を感じるが西澤キャラには殺意を感じるといったところ。
そして論理の切れと飛躍においては完全に西澤保彦に軍配が上がる。不可解な状況を手際よく説明し、論理的にさばきながら、最後は飛躍して意外な地点へと着地。「謎と論理のエンタテインメント」と銘打つだけはある。が、無駄に汚い思考や下品な描写がどうしても足を引っ張ってしまい、後味は悪い。
「エンタテインメント」と名乗り、都筑道夫の看板を背負うのならば、もっと普遍的な線を狙うべきではなかろうか。
などとさんざんけなしてみたが、西澤保彦ならではのどぎつさと論理の冴えは、近年なかなか見られなかった濃さのため、西澤成分が不足している向きにはうってつけの処方箋であろう。ファンには強くおすすめ。


08.10.8
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『メドゥサ、鏡をごらん』井上夢人

2008年10月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
作家・藤井陽造は「メドゥサを見た」という言葉を遺し、コンクリートを満たした木枠の中に全身を塗り固めて絶命していた。
娘とその婚約者は、異様な死の謎を解くため、藤井が死ぬ直前に書いていた原稿を探し始める。


~感想~
結末が完全に失敗。魅力的な謎と怪異が、さんざん思わせぶりに語られ、なんらかの裏と決着をうかがわせておいて、ホラー小説らしく全てをなげうってあんまりな結末にたどりつく。
せっかくのストーリーが台無しになる、誰でも考えそうな、しかも脈絡もない終わり方を迎えてはあとに不満だけが残ってしまう。
岡嶋二人の片割れだからと期待しすぎたか。非常にいまいち。ホラー好きなら楽しめるのかも。


08.10.4
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『追憶のかけら』貫井徳郎

2008年10月04日 | ミステリ感想
~あらすじ~
交通事故で愛妻を失った大学講師が入手した、ある作家の未発表手記。
失意を乗り越え、娘を取り戻すためにも、そこに書かれていた自殺の真相に迫ろうと、隠された真実を追いかけるが、いつしか彼の身にも災厄が降りかかり……。


~感想~
全体の3分の1に近い手記は旧字体でものされているが、まったく問題なく読め、長大な分量を牽引するリーダビリティは抜群。
だがこの物語に決定的に足りないものは勧善懲悪である。ただ後味が悪いだけの真相に振り回される優柔不断の主人公は魅力に乏しく、感情移入できるかは人によることだろう。
また、個人的なことながら夫婦ものはどうしても現実を越えられない。うちの親のほうがよっぽどドラマティックで、この程度の話ではすこしも感動できなかった。
事実は小説よりも奇なり。


08.10.3
評価:★★☆ 5
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