今年のマイペース酪農年次交流会で多くの酪農家、特に若い人が食い入るように聞き入っていた報告があった。宗谷地区に入植した酪農家(Y・I氏)で、全国を回って見つけたところに入植したというのでした。酪農に循環農法の可能性を感じたかからというのが理由だと述べています。
放牧主体に理由が、牛に直接食べてもらい糞尿も還元してもらう、究極の低コストだからというのです。今北海道、とりわけ酪農専業地帯である当地でも多分90%以上の牛が放牧されていません。閉塞された牛舎の中で、前年度収穫されたサイレージと輸入穀物を給与されていて、外の出ることは殆どありません。牧歌的な風景は失せてしまいました。つまり、北海道の牛乳も九州の牛乳と変わりがないものになっているのです。
このY・I氏は放牧中心にするだけではなく、草地への肥料の散布と、家畜への穀物の給与をほとんどしなくなったのです。もともと少量の穀物給与で、北海道平均の個体乳量の3割も少なかった(7,405キロ/年)のですが、更に4割も減らして、4,853キロまだ下げています。肥料も、放牧地にはもともと散布していませんでしたが、炭カルとヨウリンだけを3年毎に撒く程度でしたが、それも止めたということです。放牧地も一枚にして区切らず、掃除刈り(食い残した草を切る)もしなくなったとのことです。所得率も、51.5%から62.5%に向上したことが経営を支えています。因みに当地の農協では平均でも20%ですが、大型農家では一桁と言われています。
自然界には自然にめぐみがあり、常に共生の関係にある。それを徒に搾取しないという考え方が必要だと言います。上の左の図は、Y・I氏が概念として描いたもので、自分の農場で実現を目指しています。配合飼料(穀物)は殆ど3年前から親にもやっていない。塩だけは購入しているので、購入飼料がゼロではないというのです。
「無化学肥料、無配合飼料(穀物)で経営が成り立つのかと言われますが、家族が十分生活できています。」と答えています。
日本農業の中でも畜産は、アメリカの余剰穀物の多給で規模を拡大し、土地から離れ、牛家畜の生理を無視して生産量だけを追い続けてきました。外見的には規模拡大して急成長して、生産物の価格も卵のように”物価の優等生”と呼ばれたものもあります。その大きな代償として、農家戸数の減少と農地の循環や家畜の生理を大きく超えたものになって、国の援助だけで成り立つ高コストの巨大農家ばかりが残ってしまっているのです。Y・I氏の挑戦を高く評価したいものです。