酪農家の経営について、牛乳生産量にだけ特化して評価する人たちがたくさんいる。高生産、高泌乳、大量生産が優秀な農家だと褒めちぎる人たち、団体、企業などなどがいるからである。酪農家は煽てられ”指導”されて、大型化に走る、高泌乳を目指すことになる。酪農家を”指導”する人たちの多くは、全く酪農を知らない人たちが少なくない。その典型が下の論文である。興味ある方はご覧になってください。乳房炎が多くなって牛乳が減ったかというのである。全く乳房炎を知らない、酪農の現場を知らない、酪農家の心情など興味置ない人の論文である。
解説するのもばかばかしいが、見なくていいように少し説明をしておく。乳房炎が最近だけで起きると信じていること、自主規制の中で酪農家は牛乳を出荷していること、年齢構成や産次数などを無視していること、乳量や乳価のことを知らないから湿度が高い夏に乳房炎が多いと結論づけている。この論文を書いた東京大学の斎藤勝宏准教授という男のことをよくは知らないが、とても分析能力が高いので、多くの周辺の研究者は、酪農家を”指導”することになるのである。
https://www.alic.go.jp/content/000132727.pdf
私の診療するまずまずの農家であるが、43頭ほどの搾乳頭数で年間300トン程度しか出荷していない。一頭当たり6000キロ程度である。日本の平均が、8300キロであるから、かなり少ない。乳房炎の治療は年間10万円にならない。廃棄する牛乳は、出荷制限内だけである。穀物給与量は年間800キロを下回っている。日本の平均が2500キロであるから相当少ない。10産以上の牛が現在3頭いる。牛乳生産価格はキロ当たり40円少々(手取り50円ほど)と思われる。北海道農政部の調査によれば大型農家は90円もかかっている。若夫婦が主体で親夫婦が手伝う形になっている。昨年度は個体販売が好調で、多分800万円程度はあると思われる。乳代と個体販売を加えると、可処分所得は2000万円ほどになる。これは相当経営内容の良い、3000トン以上の大型酪農家の手取りをも超えている。
乳房炎は、牛に輸入されたほとんど遺伝子組み換え穀物を大量に給与するための、乳牛個体への負担から起きるものである。あるいは、大量投資によるための回収に追われ、牛のことなど見ていないことが背景にある。あるいは、圧倒的に過剰となる酪農家の労働時間と、声明を持つ乳牛という家畜への配慮(家畜福祉:アニマルウェルフェア)の欠如が農家と家畜を苦しめているからである。
酪農家の減少は、1次産業の農業をまるで2、3次産業のように、生産量ばかりを追い求めさせたためである。農の原理、自然の摂理、人の営みを全く考えない農政の引き起こしたものである。その典型が、現在国が進める「クラスター事業」という、周辺産業が潤う事業なのです。