中東に起きる数々の不幸な出来事は、次の三点に起因する。一つは第一次世界大戦後の、勝者の諸国が敗者の領土を割譲する過程で、中東に勝手に国境を引いたことである。
二つ目は、イスラエルの建国である。ヨーロッパ列強国の思惑から、アラブ側の意向など全く無視して強引に国家をつくったことは、永久に解決されないことであろう。三つ目は、中東に石油が産出されたことである。
この中で、ヨーロッパ的考え方の押し付けとして、国家感を強要する結果になった、国境の設定の犠牲になった民族の代表が、クルド族である。遊牧民族は、国境を時の力関係で暫定的に設けていた程度でしかない。
クルド族は勇敢で、正義真の強い民族であった。ヨーロッパ諸国 が「十字軍」を結成して、十一世紀に何度となく聖地奪還のために攻め入ったが、これを撃退した英雄"サラディン"は、クルド人であった。
高地の遊牧民族クルド人は、トルコ、シリア、イラン、イラクに分散して住んでいるが、どの国でも少数民族あるいは異端の民族として虐げられてきた。とりわけ、イラクでもっとも迫害を受けたが、フセインがアメリカの侵攻で失脚して救われた。最も政治的困難な状況にあった、トルコでは今回の選挙で党勢の拡大に成功した。
アメリカのフセイン政権打倒で、最も喜んだのがクルド族である。実質的に独立国の様相を呈している、クルド自治政府はトルコのクルド労働党(PKK)が、逃げ込ませている。EU加盟を望んでいるトルコ政府は、ヨーロッパ各国がイラク情勢を混乱させたと非難されることを恐れ、越境攻撃をできずに手詰まり状態となっている。国内のクルド強硬論が高まる中、トルコのエルドアン政府の決断が注目される。
こうした情勢の本質的問題は、宗教的背景を持つ価値観の相違からの不理解が根底にある。経済力を背景にした、価値観の押し付けと占領地としての中東への取り組んだ歴史を、根本的に反省しなければならない時期に差し掛かっている。
これらを全く無視したのが、ブッシュのイラク侵攻である。イスラム社会とキリスト教国家との溝がさらに深まる結果になった。9.11がどうして発生したかを、とりわけアメリカは検証すらせず、力の政策を強行するばかりである。