まだ風は冷たい。ジャンパーの下に何か隠し持った息子が帰ってきた。
「この間ね、僕達の教室に卒業する6年生が来たの。その時小学校でお世話になったクラスの皆で御礼にハーモニカを吹いたの。僕の一番お世話になった6年生のお兄ちゃんは、森下君だから、僕ハーモニカ聴いてもらいたい。
だけど、何回行っても、森下君いないの」
ジャンパーの下は1年生が音楽の時間に使っているハーモニカだったのだ。
この一年間、登校のとき連れ立って通学してくれたお兄ちゃん。ドッチボールの時、あたっても外野に出なくていい「ひよこ」として、仲間に入れてくれたお兄ちゃん。
自分の家には二つ上のお姉ちゃんしかいないから、6年生は随分おおきく、たくましい人に見えたのだろう。
そして、学校で教わったお世話になったという気持ちの表し方を、近所のお兄ちゃんにも同じやり方で伝えようとしている7歳の少年。
冷たい風で赤くなったほっぺたをしながら、「森下君の家、何回もいったのだけどな…、お兄ちゃん留守な
の」と、ひとりごとのように繰り返しつぶやいている。夕暮れ時の玄関先で桜の春がすぐ近いことを思った。
もう巣立っていった巣箱に、転がっていた小さい石ころです。どこにでもある小石かもしれませんが、ちょっと、母親には光って見えたりするから不思議です。
「この間ね、僕達の教室に卒業する6年生が来たの。その時小学校でお世話になったクラスの皆で御礼にハーモニカを吹いたの。僕の一番お世話になった6年生のお兄ちゃんは、森下君だから、僕ハーモニカ聴いてもらいたい。
だけど、何回行っても、森下君いないの」
ジャンパーの下は1年生が音楽の時間に使っているハーモニカだったのだ。
この一年間、登校のとき連れ立って通学してくれたお兄ちゃん。ドッチボールの時、あたっても外野に出なくていい「ひよこ」として、仲間に入れてくれたお兄ちゃん。
自分の家には二つ上のお姉ちゃんしかいないから、6年生は随分おおきく、たくましい人に見えたのだろう。
そして、学校で教わったお世話になったという気持ちの表し方を、近所のお兄ちゃんにも同じやり方で伝えようとしている7歳の少年。
冷たい風で赤くなったほっぺたをしながら、「森下君の家、何回もいったのだけどな…、お兄ちゃん留守な
の」と、ひとりごとのように繰り返しつぶやいている。夕暮れ時の玄関先で桜の春がすぐ近いことを思った。
もう巣立っていった巣箱に、転がっていた小さい石ころです。どこにでもある小石かもしれませんが、ちょっと、母親には光って見えたりするから不思議です。