白石隆「インド太平洋戦略/ASEANとの連携カギ」(読売新聞2021年04月25日朝刊)
白石隆「インド太平洋戦略/ASEANとの連携カギ」は詩ではないし、小説でもない。映画でもない。だから、ここで取り上げる「題材」ではないのだが、読んでいて、とても我慢できない怒りを覚えたので書いておく。筆者の白石隆は熊本県立大理事長という肩書で紹介されている。
本文中に、こういう「ことば」がある。
中国はクアッドが「対中包囲網だ」と批判するが、これは誤りである。中国中心の地域秩序を作りたいのなら、ユーラシア内陸方面は広く開いている。
クアッドは「日米豪印4か国」のこと。三月に開かれた首脳会議を踏まえての「評論」である。
白石の書いていることは「地図」を見る限りは「妥当」に見えるかもしれない。たしかに、インド太平洋に出てこなくても、中国の背後(?)には広大なユーラシア大陸がある。その「中心」になればいいじゃないか。
でも、「ユーラシア内陸方面は広く開いている」という認識は、正しいか。
「内陸(陸地)」はインド太平洋と違って「公海」ではない。それぞれの国の「領土」である。中国が、たとえばモンゴルやロシアへ入って行って、そこで「軍事演習」をしたり、そういう物騒なことではなくても、たとえば「畑を耕す」「放牧をする」「猟をする」というようなことをしたら、いったいどうなるだろう。それは「侵犯」である。他国の権利の侵害である。
インド太平洋は、「陸地(領土)」ではない。どこかの国の「領海」でもない。「公海」である。「公海」とは、それこそ、どの国に対しても「広く開かれている」。そういう例があるかどうかわからないが、たとえば海に面していないモンゴルが、日本のどこかの港に入港許可をもらい、そこから「公海」へ出て、漁をして、日本の港に水揚げするということも可能である。「公海」でなら(一定のルールはあるだろうけれど)、モンゴル人も漁をしてもかまわない。
「陸地」はたいていどこでも「領土」である。でも「海」は「領海」もあれば「公海」もある。「公海」であるインド太平洋は、中国に対しても「開かれていなければならない」。中国はユーラシア内陸方面に開かれているから、インド太平洋へ進出してくるのを封じても問題はない、とは言えないのだ。
ロシア(シベリア)には広大な土地があるように見える。ロシア人が住んでいない「土地」を見つけて、そこへ日本人が入って行って、自由に農業をする、あるいは工場をつくるということができないように、中国人だって、そういうことはできない。「ユーラシア内陸方面は広く開いている」というようなことは、中国にだって、ありえない。
こんな基本的なことを無視して、「地図」だけ眺めて、中国はユーラシアの「内陸」で活動すればいい、というのは「非論理的」だ。「広さ」だけでユーラシア大陸とインド太平洋を「同一視」することはできない。
こういう「非論理」を、読者がそのまま納得するというか、こういう非論理で読者をだませると思い込んでいる感覚が、私には許せない。それをそのまま一面で紹介する読売新聞の態度も理解できない。あまりにも読者をバカにしている。
だいたいアメリカの「インド太平洋戦略」というのは、日本近海(日本に接続する公海)に関して言えば、日本、台湾、フィリピンなどをアメリカの前線基地にして、中国が太平洋へ進出する、その進出先をインド洋に広げていくということを「封じる」作戦である。日本、台湾、フィリピンへとつながる「島」を「冷戦時代」のキューバにしてしまう作戦である。バイデン、菅の日米共同声明にはフィリピンこそ登場しなかったが、中国の一部である「台湾」をあたかも日米の同盟国であるかのように取り扱っているのが、その証拠である。
さらにいえば、アメリカはわざわざ中国の近くまできて太平洋(インド洋を含む)の安全など主張しなくていいだろう。アメリカの西海岸、ハワイ、グアムとのあいだには、広大な太平洋が広がっている。その広がりだけで、十分なのではないか。なぜ太平洋全部(さらにインド洋を含む)までをアメリカの思い通りに支配しなくてはいけないのか。
あまりにも強欲な欲望というものだろう。
日米共同声明の、中国の主権侵害にのっとった戦略をそのまま鵜呑みにしたうえで、「中国中心の地域秩序を作りたいのなら、ユーラシア内陸方面は広く開いている」と、間違った論理にもとづいた意見を書くのは、傲慢である。間違っていても気づかないと思うのは、傲慢としか言いようがない。単に主観的な傲慢ではなく、客観的事実(小学生だって、太平洋は「公海」であるということを知っている、シベリアがロシアの「領土」だと知っている)を無視して、ことばのレトリックを駆使する学者の傲慢には、私は腹が立ってしようがない。
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