BLACK SWAN

白鳥のブログ - 日々の世界を徒然と

アクセル・ワールド 10巻 感想

2012-01-22 00:12:02 | SAO/AW
短篇集でかつ時系列上は5巻より以前ということで後回しにしていたのだけど、想像していた以上に面白かった。というか、このアクセル・ワールドには、毎回いい意味で予想を裏切られて、心地よいw

エレメントの一角のアクア・カレントが登場したり、黒雪姫が活躍したり、あるいは作者の別作品の主人公キリトとハルがガチバトルしたり、・・・、というのが大方の感想なんだろうけど。

でも、一番気になったのは、この短編でそれとなくではあるけれどかなり明確に、ニューロリンカーの秘密、というか機能についてヒントとなる描写や事件が多かったところ。

で、それはいずれも「記憶」に関わる。

一つには、アクア・カレントが示した「記憶消去」の能力。
今一つは、黒雪姫の友達である若宮恵に生じた、消去されていたはずのバーストリンカーの記憶の、一時的復活、という事象。

これらに、9巻で示されたアッシュ・ローラーのエピソードを加えると、多分、加速世界での出来事の記憶は、バーストリンカー本人の脳ではなく、ニューロリンカーの記憶装置に書きこまれ、そして、おそらくはそのバックアップがシステムサーバーの方に置かれているであろう、ということ。

今風にいえば、バーストリンカーとしての記憶や経験値は、ニューロリンカーを端末にして「クラウド化」されているということ。

であれば、強制アンインストールされた後に全記憶が完全に消去されるというのも納得がいく。そもそも脳の記憶=ニューロンを操作する必要はなく、本人からすれば外部記憶にしか存在しない記憶へのアクセス権が、アンインストールによって「断線」されるだけのことだから。

そもそも、「加速世界」のあり方が、心拍数に準じた「人間の時間」のリズムを逸脱したところで成立するという説明からすれば、加速世界、つまり、1000倍の速度で行動する世界が、物理的に人間の脳=ニューロンの速度では対処しきれない、と考えるのが筋だろう。

だとすれば、加速世界での出来事は、加速世界の速度で記憶できるような「もう一つの脳」でなければ記憶することは無理、ということになるだろう。そして、その記憶装置としてあるのがニューロリンカーということになる。

もっとも、作中のニューロリンカーは、いずれも一般発売された品であるはずだから、それを物理的にバージョンアップすることは不可能なはずで、となるとむしろニューロリンカーはゲートウェイとしてだけあって、常にBrain Burst 2039のシステムサーバーの側にあてがわれたメモリの方に書きこまれている、ということになるのだろう。さらにいえば、ニューロリンカーのCPUの標準品であることを考えれば、処理の方もサーバー側で行なっている、あるいは少なくともサーバー側のCPUの支援を受けていると考えるのが妥当だろう。

裏返すと、B rain Burstの加速世界のほとんどのデータはシステムサーバー側にあり、そのための信号をバーストリンカーの脳が送っているに過ぎない、ということになる。

・・・って考えると、だんだんヘビーになるからこれくらいにしておくけど、システムがどうかはさておき、記憶については外部化されているのはほぼ明らかなのだと思う。

ついでに言えば、作中の心意技というのは、作中でもあるようにサーバー側のクロックスピードを越える速度で信号を送るということなのだろうな。なんというか、そのまんま映画のマトリックスの中でネオがシステムプログラムの存在に気づいて以後、チートな力を発揮したのに近いかな。

要するに、Brain Burst 2039で経験されたことのほとんどは外部化されている。
そうすると、この先問題になりそうなのは、では、その時、ハルユキらバーストリンカーたちのアバター時の記憶というか人格とは一体なんなのか、というような話だよね。

いまだ黒雪姫らに合流していない、エレメンツの二人(アクアとグラファイト)は、このあたりの話で絡んできそうな気がする。

ま、加速世界の話は続く11巻から本格的に探求されていくのだろう。

で、そういった物語世界の背景のことを除くと、やはり黒雪姫のキャラクターが掘り下げられたところが面白かった。

彼女の場合、物語の構造上どうしても高嶺の花として崇められてしまうから、彼女の信条、あるいは彼女の物事の捉え方/考え方を知る機会はとても限られている。そのため、9巻までの彼女の行動はいずれも常に唐突な感じが拭えなくて、なんでそんな行動をするのか、よくわからなかった。

そのうえ、1-4巻まではもっぱらハルユキ、タクミ、チエ、の幼なじみ三人の話が中で黒雪姫の関わり方は限定的。逆に、5巻以降は、レイカーをはじめとするエレメンツの面々が加わってくるため、かつてのネオ・ネビュラスの思い出話が出てはくるものの、その語りの多くはレイカーやメイだったりしてここでも黒雪姫は主要な語り手ではない。

ということで、どうも今一つ良くわからなかったのが、今回の短編の話で、だいぶわかりやすくなった。この先は、時々視点人物を変えて作中内の時間や空間をうまくコントロールしないと厳しいと思うので、今回のような短編、ないし連作短編の回は時々必要な気がする。

あとは、ロボの登場の話や、量子コンピュータ的邂逅の話とか、見た目の派手さがあって面白かった。

なんだかんだ言ってお気に入りのシリーズになりつつある。
早く11巻が出ないかな。次は3月かね。

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