私は、毎年、新年の世界を読み解くとするニューズウイーク日本語版の年末年始の新年合併号を読むことにしている。
今年は、「勝ち組経済のカギ ISSUES 2011」のタイトルで、国家とビジネスの未来を左右するのは軍事力でも資源でもなく「借金を克服する力」だ、とする副題のついた特集である。
冒頭の論文は、ダニエル・グロスの「借金を制する者が新世界を制する 原文のタイトルは The New Freedom "Borrowed trouble'isn't just an expression.」で、国際社会の新たな課題は巨大債務からの自由 これからは債務管理能力が経済力の指標になる」と問題提起をしている。
デカップリングと言えば先進国と新興国の成長率が連動しないと言うニュアンスであったが、今や、デカップリング状態にあるのは、膨大な借金を抱える先進国と借金が少ない新興国だとして、ギリシャを筆頭に巨大な赤字と増え続ける債務に苦しむ欧米日の現状を説く。
ギリシャの悲劇を避けるために先進国は必至であり、その苦境を成長著しい新興国が助けている形だが、問題は、世界第一の経済大国アメリカが、巨額の公的債務にどう対処するかで、世界の投資家が、これまでは驚くほど緩い条件で無条件で信用を拡大してきたが、どうなるかは、リーマン・ブラザーズやギリシャと同じで、全くあてには出来ないと言う。
また、ベルリン支局長のシュテファン・タイルが、債務危機のピンチをチャンスに変えようと財政再建と抜本的改革が高まっていると、やや、明るいヨーロッパ諸国の試みについて報じているのだが、どうであろうか。
要は、ヨーロッパ諸国の政府は、経済成長なしに借金の返済は有り得ず、市場の拡大なしに成長は望めないと言うことに気付き始めたと言うことだが、果たして、福祉国家政策を推し進め過ぎて成熟化して疲弊の極に達したヨーロッパ経済を、そう簡単に、復調させて成長軌道に乗せることなど出来るのであろうか。
EUは、単一市場を実現して5億人の巨大な消費市場を成長の基礎にすると言う戦略を掲げて進んできたのだが、リーダーであるべき筈のドイツやフランスの過剰な国内規制や保護主義が障害となって有効に機能しないと言うことでもあり、構成国家とEUとの整合性など難しい問題にも呻吟しているようである。
面白いのは、アメリカ経済を論ずるジョセフ・スティグリッツの「もっとカネを使って借金を減らそう The Way Out of DEBT? Spend, Spend, Spend」と言う論文で、国家債務、財政悪化などそっちのけで、「機能不全に陥っている現状を立て直すには公共投資に資金を注ぎ込むのが一番だ」と言う、全く、逆を行く威勢の良いケインジアン政策の提言である。
危機こそチャンスだと言う論点は、どの論文も共通している視点なのだが、既に負債が山ほどあるとしても、高い収益率が望める事業計画を実現するために借金するのは良いことで、それによって財政状態は改善する。アメリカの場合には、取り組むべき大プロジェクトの数はとりわけ多くて、インフラの老朽化が進んでいる公共部門への投資は恰好なターゲットである。
アメリカの民間部門の生産能力は大幅な過剰状態にあり、膨大な失業や遊休施設や満たされないニーズは、機能不全の証拠であり、このままでは、巨額債務の削減はさらに困難になる。FRBは、低金利政策や多額の流動性資金の注入など経済を悪化させることばかりしているが、今必要なのは、収益性の高い投資により多くのカネをつぎ込むことで、公共投資は短期的にも長期的にも、GDPと税収を間違いなく増加させ、一挙に財政収支を改善させることが出来る。この道を選択しなければ、過剰な生産能力に泣く日本経済病に、アメリカが今後何年も悩まされる可能性はどんどん増して行くとまで言うのである。
このオバマ政権の財政出動の不足・不十分さについては、NYTのコラムでクルーグマンが論じていたので、このブログでも取り上げた。
スティグリッツの説くほど、公共投資の相乗効果が高いとは思えないけれど、私自身は、実際のアメリカの耐用年数が過ぎて老朽化を極めた膨大なインフラの存在が、如何に、アメリカの経済社会にとって危機的な状態にあるかを感じて来ているので、特に、長期的には、膨大な公共投資は必須だと思っている。しかし、今回の中間選挙でねじれ現象に陥ってしまったのでオバマ政権が、スティグリッツ説を遂行出来る余地は非常に限られてしまっている。
このスティグリッツ説には、アメリカ経済が大規模なオーバーホールを必要としていることと、まだ、成長余力のある経済的若さを保持していると言う点でアメリカ政府の財政出動を肯定するのであって、日本経済への更なる財政出動を提言するリチャード・クーの見解とは、大きく異なっていると言うことを付言して置きたい。
以上は、このニューズウイーク誌の特集の走りだけだが、他に、欧米はアジアに学ぶべき時代、借金と低収入へのディフェンス、企業のカネ余りの罠、CEOの自信喪失、同族企業の好業績、ウォルマート、通貨戦争、金、アジアの膨張する消費熱、と興味深いトピックスが展開されていて非常に面白い。
さて、日本の経済は、どうなるのであろうか。
(追記)写真は、新年最初に、わが庭を訪れたジョウビタキ。
今年は、「勝ち組経済のカギ ISSUES 2011」のタイトルで、国家とビジネスの未来を左右するのは軍事力でも資源でもなく「借金を克服する力」だ、とする副題のついた特集である。
冒頭の論文は、ダニエル・グロスの「借金を制する者が新世界を制する 原文のタイトルは The New Freedom "Borrowed trouble'isn't just an expression.」で、国際社会の新たな課題は巨大債務からの自由 これからは債務管理能力が経済力の指標になる」と問題提起をしている。
デカップリングと言えば先進国と新興国の成長率が連動しないと言うニュアンスであったが、今や、デカップリング状態にあるのは、膨大な借金を抱える先進国と借金が少ない新興国だとして、ギリシャを筆頭に巨大な赤字と増え続ける債務に苦しむ欧米日の現状を説く。
ギリシャの悲劇を避けるために先進国は必至であり、その苦境を成長著しい新興国が助けている形だが、問題は、世界第一の経済大国アメリカが、巨額の公的債務にどう対処するかで、世界の投資家が、これまでは驚くほど緩い条件で無条件で信用を拡大してきたが、どうなるかは、リーマン・ブラザーズやギリシャと同じで、全くあてには出来ないと言う。
また、ベルリン支局長のシュテファン・タイルが、債務危機のピンチをチャンスに変えようと財政再建と抜本的改革が高まっていると、やや、明るいヨーロッパ諸国の試みについて報じているのだが、どうであろうか。
要は、ヨーロッパ諸国の政府は、経済成長なしに借金の返済は有り得ず、市場の拡大なしに成長は望めないと言うことに気付き始めたと言うことだが、果たして、福祉国家政策を推し進め過ぎて成熟化して疲弊の極に達したヨーロッパ経済を、そう簡単に、復調させて成長軌道に乗せることなど出来るのであろうか。
EUは、単一市場を実現して5億人の巨大な消費市場を成長の基礎にすると言う戦略を掲げて進んできたのだが、リーダーであるべき筈のドイツやフランスの過剰な国内規制や保護主義が障害となって有効に機能しないと言うことでもあり、構成国家とEUとの整合性など難しい問題にも呻吟しているようである。
面白いのは、アメリカ経済を論ずるジョセフ・スティグリッツの「もっとカネを使って借金を減らそう The Way Out of DEBT? Spend, Spend, Spend」と言う論文で、国家債務、財政悪化などそっちのけで、「機能不全に陥っている現状を立て直すには公共投資に資金を注ぎ込むのが一番だ」と言う、全く、逆を行く威勢の良いケインジアン政策の提言である。
危機こそチャンスだと言う論点は、どの論文も共通している視点なのだが、既に負債が山ほどあるとしても、高い収益率が望める事業計画を実現するために借金するのは良いことで、それによって財政状態は改善する。アメリカの場合には、取り組むべき大プロジェクトの数はとりわけ多くて、インフラの老朽化が進んでいる公共部門への投資は恰好なターゲットである。
アメリカの民間部門の生産能力は大幅な過剰状態にあり、膨大な失業や遊休施設や満たされないニーズは、機能不全の証拠であり、このままでは、巨額債務の削減はさらに困難になる。FRBは、低金利政策や多額の流動性資金の注入など経済を悪化させることばかりしているが、今必要なのは、収益性の高い投資により多くのカネをつぎ込むことで、公共投資は短期的にも長期的にも、GDPと税収を間違いなく増加させ、一挙に財政収支を改善させることが出来る。この道を選択しなければ、過剰な生産能力に泣く日本経済病に、アメリカが今後何年も悩まされる可能性はどんどん増して行くとまで言うのである。
このオバマ政権の財政出動の不足・不十分さについては、NYTのコラムでクルーグマンが論じていたので、このブログでも取り上げた。
スティグリッツの説くほど、公共投資の相乗効果が高いとは思えないけれど、私自身は、実際のアメリカの耐用年数が過ぎて老朽化を極めた膨大なインフラの存在が、如何に、アメリカの経済社会にとって危機的な状態にあるかを感じて来ているので、特に、長期的には、膨大な公共投資は必須だと思っている。しかし、今回の中間選挙でねじれ現象に陥ってしまったのでオバマ政権が、スティグリッツ説を遂行出来る余地は非常に限られてしまっている。
このスティグリッツ説には、アメリカ経済が大規模なオーバーホールを必要としていることと、まだ、成長余力のある経済的若さを保持していると言う点でアメリカ政府の財政出動を肯定するのであって、日本経済への更なる財政出動を提言するリチャード・クーの見解とは、大きく異なっていると言うことを付言して置きたい。
以上は、このニューズウイーク誌の特集の走りだけだが、他に、欧米はアジアに学ぶべき時代、借金と低収入へのディフェンス、企業のカネ余りの罠、CEOの自信喪失、同族企業の好業績、ウォルマート、通貨戦争、金、アジアの膨張する消費熱、と興味深いトピックスが展開されていて非常に面白い。
さて、日本の経済は、どうなるのであろうか。
(追記)写真は、新年最初に、わが庭を訪れたジョウビタキ。