熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ハリー・S・デント・ジュニア著「大恐慌」

2011年01月14日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   先の本「バブル再来」で、エコーブーマー(ベビーブーマーの子供世代)の台頭でブーム到来を予言したハリー・デントが、この新しい本「大恐慌 THE GREAT DEPRESSION AHEAD 2008年刊」で、2010年以降に、大暴落が再びやって来ると予言している。
   リーマン・ショック以降の世界的な経済不況の影響は残っているものの、多少、アメリカの経済指標が上向き、日本の財界筋の景況感もやや良くなりつつあるので、経済状態の先行き見通しは少し明るくなってきているので、また、外れるのかと言う予感がし始めており、経済悪化が継続したとしても、デントの言う大恐慌と言う程にはならない感じである。

   デントの経済トレンド予測の特徴は、人口トレンドを最も重視して、その傾向を見て支出の波を描いて、その需要曲線の推移から経済成長や循環を予測するのである。
   デントのもう一つの重要指標は、テクノロジー・サイクル、すなわち、イノベーションの波の予測で、これも、人口トレンドに基づいてはいるが、もう少し長期の産業革命的なニュー・エコノミー・サイクルなどの文化文明要因をも加味していて、デントのトレンド予測には、超長期の文明循環論的な成長予測手法も取り入れられている。
   しかし、人口トレンドとテクノロジートレンドだけでは、グローバル化した国際経済の影響を捉えられなくなったので、この本では、やはり、時代の流れか、地政学サイクルとコモディティサイクルを考慮して、トレンド予測手法を重層化している。
   日本のバブル崩壊とアメリカのITバブルは予測できたのだが、一般的な経済予測手法と大きく違っていて、多少その予測手法が荒いので、米国アマゾンのレビューを見ていても、賛否両論相半ばして賛と否に大きく分裂していて、参考としては面白いが、と言うところであろうか。

   この本で興味深いのは、「人口統計学で予測する各国の将来」と言う章で、世界各国の将来予測を行っていることである。
   先日、「中国は豊かになる前に老いる」と言う稿で、デントの予測手法などついて書いたので詳細は省くが、
   要するに、世界経済の成長を数世紀にわたって牽引してきた欧州と北米は、既に1990年からその状況にある日本の後を追って、2010年までに高齢化に突入し、経済成長も鈍化基調に入る。
   一方、人口の多い新興国では、急成長が続き、世界経済は、再びブームを迎える。
   特に注目されるのは、東アジア、東南アジア、南アジアで、これらの地域には、現在、世界人口の半分を少し上回る数の人々が住んでおり、その大半は向こう50年あまりで経済成長を遂げて行く新興国だ。と言うのである。
   カースト制度、官僚制や社会主義の行き過ぎ、外資嫌いなどの阻害要因を克服し、政府の改革、インフラ整備、民業の育成などに成功すれば、人口の多いインドは、将来最も有望な国で、世界の名主になると、インドを持ち上げている。

   この本で、デントは、先進国が、避けがたい人口トレンドの減速と社会の高齢化に対応する最善の方法は、インフラを長期的に再生・拡張させる技術、例えば代替エネルギーのような新技術に投資し、政府が民間の投資とイノベーションを促すことであり、更に、先進国が協力して、地球温暖化や地球規模の汚染、テロの勃発などグローバルな危機やグローバル化への反発を避けるために、限定的な活動しかできない国連にかわる新しい国際組織を作り、グローバルベースでの経済成長を図ることだと言う。
   富裕な先進国は、新興国や発展途上国への大規模なインフラ整備や経済発展を手助けして、環境汚染や地球温暖化の抑制を加速するとともに、雇用の創出するなどを行うことによって、テロの抑止や公正な貿易の推進、環境汚染の緩和と言った問題でこれらの国々の協力を得るべきだと言うのである。
   このあたりの議論は、デントの一種の文明史観なのであろうが、かなり、常識的で、大胆な経済トレンド予測とは違っていて興味深い。
コメント
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