熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国家の衰退は「ねじれ」に始まる~バリー・アイケングリーン加州大教授

2011年01月11日 | 政治・経済・社会
   この文章のタイトルは、日経ビジネス最新号のアイケングリーン教授の寄稿論文のタイトルそのままだが、悲しいかな、現在の日本の政治状態をそっくりそのまま表現した論文なので、興味を感じた。
   現在のアメリカが、低成長を余儀なくされて、かっての「英国病」に陥る寸前だと言うのだが、そもそも、その英国の衰退の原因は、新産業に移行し損ねたことでも、製造業を軽んじたことでもなく、与野党がいがみ合い、一貫した経済政策がとれなかったことだったと言うのである。
   (余談だが、この論文の原文のタイトルは、「Is America catching the " British Disease ? "」で、ニュアンスが大分違うが、訳者の意訳。)

   アイケングリーン教授が、英国衰退の端緒は、19世紀後半、自国の経済を一段高いレベルに引き上げられなかったことにあると指摘する。
   何故、英国が革新的技術に対して積極的でなかったのか。
   よく言われているのは、優秀な人材は実業界ではなく政界に進出したとか、オックスブリッジなどでは、哲学や歴史などを教えて科学やエンジニアリングと言った実学を軽視した教育に問題があると言ったことだが、これらに一理あるとしても、しかし、現在のアメリカには、当て嵌まらないと言う。

   アイケングリーン教授の結論は、国際競争力を涵養すべき経済政策の失敗が、英国衰退の根本原因だったと言う。
   1929年の大恐慌時の需要崩壊に際して、高関税障壁を設けて、外国からの競争を遮断して、国内企業を甘やかせてスポイルして弱体化させてしまった。
   また、1930年代の金融危機に対しても一貫した政策を取れなかった。
   更に、第二次世界大戦後には、労働党と保守党との間で頻繁に政権交代がなされたことによって生じた、ストップ・ゴー政策の揺り戻しのために、将来への不確実性が高まり、慢性的な金融不安を引き起こすことになった。
   長い間、各政党とも、緊急を要する経済問題でも協力せずにいがみ合い、政争に明け暮れた。国は内向きになり、政治は混乱し、財政は悪化の一途を辿って、どんどん泥沼の深みに嵌り込んで行ったのである。

   このあたりのイギリスの疲弊と凋落ぶりは、1980年代の初め頃、サッチャー首相が改革を断行する前のイギリスが如何に酷い状態にあったかを、私自身、身近に経験して知っているので、アイケングリーン教授の指摘は良く分かる。
   ロンドン市内は、収集されずに灰燼が巻き上がり、ヒースロー空港では、必ずスーツケースが壊されて盗難にあっていたし、労働組合のサボタージュやストが頻繁、家の水漏れ修理に何か月もかかっていた。

   アイケングリーン教授は、「英国の衰退原因は、経済ではなく政治の失敗であった。そして、その歴史が、今また、アメリカに降りかかろうとしている。」と結んでいる。
   しかし、この英国病に侵されて瀕死の状態にあるのは、アメリカではなく、日本ではなかろうか。

   石黒千賀子さんの解説では、「ねじれ」と言う表現であらわされているのだが、私自身は、政治主導だと厚顔にものたまった政治家の質そのものの劣化以外の何ものでもないと思っている。
   民主主義国家である筈の文明国が、20年以上も経済不況に喘ぎながらも未だにお先真っ暗にも拘わらず、カネまみれの政治一つ解決できずに迷走を続けるこのあまりにも悲しい体たらく!
   これ以上の多言は、蛇足なので止める。
コメント
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