熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ジャック・アタリ著「国家債務危機」

2011年01月29日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   貧乏人が金持ちを養う、途上国が先進国をファイナンスする。
   西側主要国の主権(ソブリン)債務は、西側諸国が年間に生み出す富をまもなく上回り、西側諸国全体が破綻するというシナリオは、決して夢物語ではなくなった。
   このような逆転現象から説き起こして、国家債務を、有史以来からその歴史を詳細に分析しながら、正に、現在、文明国家が直面している最大の財政危機について、問題点とその挑戦について、大胆な提言をしているのが、この本である。

   公的債務は、政府支出と同じペースで税収を増加させられないことから起こるのだが、国家の脆弱性や社会的コンセンサスの欠如を露わにする典型的なケースで、何よりも、国家と国民生活が、最悪の事態に直面していることを社会全体が理解することが大切である。
   公的債務の危機に対する本当の解決策は、結局のところ、経済成長だが、まず、徹底的に無駄を排除して、大幅な増税や社会保障費の負担増を実施し、ある程度のインフレを放置することも視野に入れて、大きな痛みを伴いながら、少なくとも景気が急回復するのを待つ以外にはないと、ジャック・アタリは言う。

   先日、アタリは、NHKのインタビューに対して、日本の国家債務の縮小の為には、第一に経済成長、次に、人口政策で、増税と財政支出の削減だと答えていた。
   私自身は、これまで、このブログで何度も論じて来たように、解決策は、アタリの説く如く、是が非でも、イノベーションを誘発して、厚生経済的な視点を考慮しつつ地球環境や国民生活を悪化させないような抜本的ドラスティックな経済成長を図ることだと思っており、インフレを伴わなければ、これ以外に解決方法はないと思っている。成長より質の高い格差のない厚生経済だと言う議論もあるが、成長が止まれば、分配の問題となり、物理的にも、豊かな人々の生活水準を切り下げる必要が生じ、イノベーションと投資意欲を削ぐので、経済環境を益々圧搾して、等しく国民生活の質を更にダウンさせることとなり、何の解決にもならないのである。
   勿論、増税や歳出削減で辻褄を合わせることは必要かも知れないが、抜本的な解決にはならないし、人口政策と言っても、出生率を高めて人口増を図るためには時間がかかるであろうし、即効薬は、移民、特に、外国人労働の導入しかない。
   いずれにしろ、これらの問題は、経済学の理論ではなく、政治的な議論にかかっており、政治経済学への回帰である。

   議論を戻して、国家債務の解決策だが、アタリは、8つ存在すると言う。
   増税、歳出削減、経済成長、低金利、インフレ、戦争、外資導入、デフォルトである。
   最も頻繁に利用されるのは、インフレで、現実の経済活動が裏付ける以上の通貨を発行することによって公的債務を賄うと、公的債務は物価の上昇を促すと言うのだが、現実の日本では、そんなことが可能であろうか。
   日本の戦時国債は、終戦と同時に紙くずとなってしまったし、また、国債の増発で破産寸前であったヨーロッパ諸国も、やはり、戦後のデフレと、戦後の経済成長で深刻な国家財政の破綻から逃れてきたのだが、それ以外は、殆どデフォルトしている。
   日本の場合は、戦争とデフォルト以外で考えられるのは、デフレからの脱却が前提だが金利とインフレは連動するであろうし、外資導入は破綻寸前であろうから、結局、残された道は、増税と歳出削減と経済成長で、成長が望み薄である以上、何十パーセントと言う大幅でドラスティックな増税と歳出削減以外に道がなく、それも、即座に対応することが必須である。
   あるいは、一時は新円切り替えで割り引いて交換するなど考えられていたようだが、伝家の宝刀・徳政令(?)の実施であろうか。

   ところで、日本の国家債務は対GDP比200%をオーバーしており世界最悪であり、後に続くイタリアやギリシャの比ではない。
   アタリが、何度か日本の国家債務危機について触れている。
   日本の国債の95%を、日本人が保有していることについて、
   ”国家債務の財源が、国内の貯蓄で賄われている比率が高ければ高い程、資金調達は安定する。債務コストを大幅に変化させる為替の問題が発生しないからである。
   日本が大きな懸念もなく公的債務の資金調達が出来るのは、日本人が貯め込んだ資産、日本人世帯の高い貯蓄率、そして日本のゼロ金利のお蔭である。”
   この議論には、賛否両論があるのだが、私は、多少は有利かも知れないが、何かの拍子に危機的な状態が発生したりネガティブ情報が流れてパニック状態に陥れば、同じ運命を辿ると思っている。
   ちょっと気になるのは、
   ”国家予算に占める債務の償還比率によって、危機の勃発の予想は出来る。この比率が50%に達すると、挽回することは極めて困難になり、一般的に、公的債務がこのレベルに近づくと、政府と市場はパニックになる・・・”と言っていることである。
   今や、日本の国家予算は、過去2年の税収は、総支出の半分も賄えていない。今月末に国会提出予定の来年度予算案は、一般会計総額が92兆4116億円で、税収はわずか40兆9270億円だ。これでは持続は不可能だとしか言えない。

   もう一つのアタリの日本の国家債務についての指摘は、BISの予測の租公的債務の対GDP比が、2014年245%、2020年300%まで増加するとなると、いくら現在のゼロ金利が継続したとしても、自国の貯蓄によって債務をファイナンスできなくなり、資金と需要を奪われた日本企業は、イノベーションのための投資を怠り、経済成長に寄与できなくなる。15年後に、日本の公的債務の対GDP比を60%にするためには、少なくとも歳出を20%削減するか、或いは20%の増税が必要だと言う。
   いずれにしろ、日本の国家債務危機は、相撲で言えば、徳俵に足がかかってしまった状態であることは間違いなさそうである。

   余談ながら、日本国債の格付けダウンについては、S&Pの格付けそのものが、アタリが言う如く、フランス国債の危うさは、ある意味では日本以上であり、世界金融危機を引き起こした元凶でもっと悪いアメリカや金融危機で経済が暗礁に乗り上げているイギリスなどが、AAAであったり、次の財政破綻候補国であるスペインが、日本より上のAAだと言うのであるから、何を評価しているのか信用以前の問題だが、日本も良くないことは良くないので、アタリの予測が当たってどこかの国が破綻すれば、その波及効果で日本の危機が一挙に増大することも考えて置く必要はあると思う。
   早い話、実質的には、不可抗力ではないが、エジプトの革命騒ぎは、予想外の早期の地政学的リスクであり、グローバルベースでの経済的打撃は極めて大きい。

   菅総理は、この本を買って読んだようで、先日ジャック・アタリとも会って指南(?)を受けたと言う。
   今頃、菅総理は、ダボスで、「開国、開国」と鸚鵡返しに日本政府の経済政策論をぶっている頃だ思うが、少しでも、世界の潮流を実感して帰って来て欲しいと思う。
   国民が、サッカーの日本オーストラリア戦に熱狂する姿を、国づくりにも投入出来るように、と願っている。

   
コメント
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